《銀海総合掲示板》 作:にわか太郎
「我は第三魔王ヒース・トニア──」
男は眉間にしわを寄せ、転生者達を睨みつける。
「──深層を知らず、己が分を弁えない浅き弱者ども。我らが君臨する深き世界に足を踏み入れた汝らの罪、我が下せし罰を以て後悔するがいい」
瞬間、ヒースの前に無数の水滴が出現する。
現れた水滴の一粒一粒は絶大な魔力を内包しており、それ自体が深層世界に匹敵する魔力の塊だ。
そして水滴が弾け、そこからは無数の
それらがヒースの下に降り注ぎ、彼のあらゆる力を底上げしていく。
「まあ、来るとは思ったが──」
「いきなりかよ……っ!」
改めて武器を構え直し、二人は頭上のヒースに視線を向ける。だが、次の瞬間──
「……っ……ぐっ!?」
リムルの眼前に櫂が迫っていた。
「リムル──!」
《
「……ぐっ、う……大、丈夫だ。それよりもヒースは……!」
リムルが自身に張り巡らせている
これまで深層世界の強者と互角以上に渡り合ってきたリムルだが、それ以上に魔王が強大すぎた。
勝てないのは分かっていたが、彼我の力量にここまでの差があろうとは思いもしなかったのだ。リムルは己の見通しの甘さに若干、後悔していた。
「流水魔法では、汝の持つ神の権能は操れない。しかし単純な力押しであれば、その権能による守勢を崩すことは容易い」
「どんな理屈だよ、そりゃ……!」
あまりに理不尽すぎる力に、リムルは思わずぼやいた。
『──それでだ、シエルさん。さっき頼んだヒースの解析についてだが、結果はどうだ?』
リムルは心の中で自身の
《申し訳ありません、
シエルは申し訳なさそうに結果を伝える。
『マジか。何かしらの妨害って線はないのか?』
《少なくとも、そのような気配は確認できません。こちら側の干渉も不完全ではない以上、本人が元から有している強大さに由来するものだと推測されます。ですが──》
リムルは相棒の言葉に意識を傾ける。
それは刹那にも満たぬ一瞬であったが、聞き終えたリムルはその顔に笑みを浮かべていた。
『──なるほど、なっ……と!』
迫りくるヒースの攻撃を間一髪で躱し、リムルはミカとおじさんの側へと後退する。
「……ピンチだな」
リムルは出るはずもない脂汗を滲ませ、言った。
「──お前はそう思うのか?」
「少なくとも俺はな。おじさんは違うのか?」
「……確かにピンチだな。だが──」
二人は数瞬の間だけ沈黙する。
おじさんはヒースを視界に捉え続け、その口角をほんの少しだけ上げた。
「大
その言葉を聞き、リムルは微笑む。
「──分かったよ。あとは頼むぞ」
「ああ」
「おっけー、任せてよ☆」
二人は肯定し、返事を返す。だが──
「お喋りはそこまでだ。最早、まともな攻撃手段も持ち合わせない汝らに、この世界の秩序が微笑むことはない。その身は滅びの道を辿り、運命は灰の如く燃え尽きる」
ヒースは櫂によって魔法陣を描き、そこから水滴を出現させていく。
「汝らには過ぎた代物だが、ここは深層十二界。偉大なる大魔王ジニア様の後継と目される我らが舐められることは許されないのだ。ゆえに──」
それは先程のように絶大な魔力を有した水滴だ。
しかし水滴一粒に含有される魔力の量と質、それが明らかに先のものとは桁違いだった。
そこに現れたのは無数の聖川──永遠に涸れることなき極光の聖川だ。
「<
水滴が破裂し、そこから夥しい量の水が溢れ出す。そうして無数の聖川が生まれ、その度にヒースの魔力が爆発的に増幅していくのが分かった。
生み出された聖川は眼前の三人を対象とし、その膨大な力を発揮せんと強く、強く輝きを増した。
だが、それが致命的な仇となったのだ。
「──神威解封。奪え、王神剣」
瞬間、この世界を覆わんとしていた聖なる川が突如として消失した。
「……は?」
さしものヒースも、この異常事態には驚愕したのだろう。理解が追いついてないのか、発する言葉は酷く単純なものだった。
「まさか成功するとは思わなかったが……好機だ」
そう言うと、おじさんは何時の間にか剣に集っていた光に目をやった。
「分与しろ」
言葉を発すると同時に、王神剣に集っていた光が輝きを増し、その光は剣から離れた。
「…………っ……!?」
ヒースは息を呑んでいる。
離れた光は空へと舞い、それは一時的に広がりを見せたが一瞬のことだった。
光は突如として途方もない魔力を発し、それがその場に居た三人に極光として降り注ぐ。
「……よし、これくらいで良いか。どうやら成功したみたいだ」
おじさんが言う。
「一時はどうなることかと、少し焦ったけどな」
リムルが微笑む。
「もー、まったくだよ。それに私、今の今までほぼ空気だったでしょ?だから、ここからの活躍の機会は私に譲ってよね、おじさん?」
ミカが笑う。
そうして三人が笑みを見せ、改めて眼前の敵──第三魔王ヒース・トニアに向き直った。
「これから先、アイツとの決着がつくかは分からない。だが──」
頭上にて驚愕の表情を隠さないヒースに目を向け、おじさん──そしてミカは言い放つ。
「『スタートボタンを押さなきゃ、始まるものも始まらない』……でしょ?」
おじさんはミカに言葉を奪われる。だが──
「……ああ、そうだな」
──だが心なしか、おじさんの口角がほんの少しだけ吊り上がったような、そんな気配がした。