《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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死闘

 

「……馬鹿……な……なぜ……」

 

第三魔王はその魔眼()を光らせ、眼前にいる三人の深淵を覗く。

 

「なぜ汝らにそれほどの力が……っ!」

 

目が眩むほどの極光を纏った三人。

 

各々から感じる力は、先程までのそれとは明らかに別次元のものだ。

 

不可侵領海の中でも、とりわけ上位の実力を持つヒースをして、ここまで尋常ではない深化の仕方は見たことがない。それほどまでの異常事態。

 

自身の全力には到底及ばずとも、一瞬で己が立つ領域に近しいところまで踏み込んでくるなど、ヒースは極一部の例外を除いて他に知らなかった。

 

「なぜ汝らにそれが出来るっ!!ましてや浅き海に住まう不適合者如きにっ……!?」

 

ヒースが櫂を片手に凄まじい速度で突っ込んでくる。今の彼に先程までの侮りはない。

 

第三魔王は一瞬で間合いを詰め、この異常事態の元凶と思しき(おじさん)に狙いを定めた。しかし──

 

「えい☆」

 

「……っ!がっ、ぐぁ……っっ……!?」

 

割り込むようにして、何かが視界に入り込んだ次の瞬間、ヒースは上空に吹き飛ばされていた。

 

遥か彼方の大空へ吹っ飛んだ彼は、魔力を放出し、かろうじて空中にて押しとどまる。

 

そうして遥か下の大地を見下ろすと、ピンク髪の少女が二人の男の前に立ち塞がっていたのだ。

 

「ここから先は通らせないよ」

 

「……貴様……っ……!!」

 

するとミカは魔法陣を描き、聖歌を歌い始めた。

 

聞くだけで相手を感じ入らせるような、神聖さを内に秘めた彼女の歌。

 

その歌声は次第に魔力を帯び、この世界の遍く秩序を深淵へと導いていく。

 

そうして展開された、彼女の大魔法──

 

「<天主神憐秩序讃歌(キリエ・エレイソン)>!」

 

神の憐れみを意味するミカの大魔法。

 

それは相手の体力や存在格に応じ、こちら側のあらゆる力を著しく増加させていく深化魔法だ。

 

多少の存在格差など物ともしない、彼女の強大さをそのまま体現したかのような秘技。

 

これによりミカは本来、どうやっても勝ち得るはずのない格上にさえ、勝利する可能性があるのだ。とはいえ、その深化にも限度は存在する。

 

ミカの属する小世界(キヴォトス)は中層世界。その大魔法によって覆せる力量差も、本来はどれだけ甘く見積もったとて、深層三十層程度のものに過ぎぬ。

 

ゆえに、深層十二界に君臨する不可侵領海(魔王)を相手に、彼女の力が及ぶ道理は本来存在しないはずだった。しかしヒースの力を取り込んだ今、彼女の根源は深層十二界と同等の深さを持っている。

 

他の二人もまた同様だ。

 

「まだまだ行くよー!」

 

ミカは空へと駆け、ヒースの元に急接近する。

 

「図に乗るな……!!我は偉大なる大魔王ジニア様の継承者となる者。貴様如きの力が、魔王たる我に及ぶ道理などないっ!!!」

 

ヒースも負けじとミカに接近し、その櫂を振りかぶっては、ミカの胴体に叩き込んだ。

 

「…………!?」

 

ミカの拳は確かに、第三魔王に命中したかに見えた。しかしその瞬間、ヒースは己の身体を水に変え、強大な神秘を纏った拳を防ぎきったのだ。

 

「……やっぱり一筋縄じゃいかないかぁ」

 

流石は第三魔王といったところか。攻撃は防がれ、彼女は流星のように大地へと落ちていく。

 

「だけどね──」

 

地へと落ちゆくミカは口を開き、こう言った。

 

「私は一人じゃないから」

 

その様子をヒースは冷たく見下ろし、吐き捨てる。

 

「──ふん。この期に及んで、戯言とは。まだ己が立場を理解してな……っ!!」

 

後方から接近する強い気配を感じた。

 

奴はすぐさま迎撃できるように櫂を構え、周囲に無数の聖川を展開する。

 

そうして向かってきたのはリムルだ。彼は希望(エルピス)を手に、こちらへ突っ込んできた。

 

「悪いが、こっちにも時間が無いんでね。早々に決着をつけさせてもらおうか」

 

そう言うと、彼は自身の権能を発動する。

 

今回、希望(エルピス)に乗せられるエネルギーは、先の<虚無の剣撃(イマジナリーブレード)>を遥かに凌駕する力──

 

「<()崩朧(ほうろう)千変万(せんぺんばん)()>」

 

究極的な破壊の力を乗せて、その刀から放たれるのは幾千、幾万にも展開される剣の軌跡。

 

捉えようのない変化をもって、相手を微塵切りにし、全てを打ち砕かんとするリムルの奥義だ。

 

「……っ……舐めるなぁっ!!!」

 

ヒースも自身の櫂に<聖川流水深極光界船(レヴィラ・ラヴログネイロ)>の力を纏わせ、それを攻撃に転じさせていく。

 

リムルの剣撃は幾千、幾万、幾億という軌跡を生み出し、有翼世界そのものを激しく揺らす。だが、第三魔王もそれに負けてはいない。

 

奴もまた切り傷を負いながら、破壊の力を纏った幾万の剣撃へ徐々に、徐々に適応しているのだ。

 

「…………はっ!!!」

 

「!!……ぐ、あああぁぁっっ……!?」

 

ヒースは弱まっていく破壊エネルギーの急所を見つけ、そこを突く。最早、リムルは虫の息だ。

 

「──残念だったな。だが、汝は誇っていい。我をここまで追い詰めた相手は、同じ不可侵領海とてそうは居なかった。……その名誉を胸に抱き、あの世に逝くがいいっ!!」

 

そうして奴はリムルの根源に櫂を突き刺し、完全に滅ぼした。蘇ることも不可能だろう。

 

「……さて。あとは汝らが……っっ!?!?」

 

ぽた、とヒースの口から血が流れた。

 

ヒースの胸からは一本の腕が突き出ていた。何者かが後方から間合いを詰め、油断した彼の虚を突き、奇襲をしかけたのだ。

 

「……馬鹿、な。我は確かに……貴様を滅ぼした、はず……。それが、なぜ……!?」

 

間近に接近するまで何の魔力も、何の気配も感じなかった。それに違和感を覚えつつも今、自身の胸を貫いている腕にヒースは心当たりがあった。

 

「さっきも言ったと思うけど──悪いな。こっちも必死なもんで……せめて一撃くらいは、デカいのを喰らってほしくてな」

 

第三魔王に奇襲をしかけた謎の存在。それは滅びたはずのリムルだった。

 

彼はヒースの根源めがけて、有無も言わさず、ありったけのエネルギーを収束させていく。

 

「貴さっ……!!!」

 

何かを言いかけたヒースの言葉を遮り、彼は第三魔王の根源にて力を解放した。

 

「じゃあな、第三魔王──」

 

解き放たれたのは、純然たる破滅の力──

 

「<(きょ)()崩壊(ほうかい)>」

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