《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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闖入者

 

「<(きょ)()崩壊(ほうかい)>」

 

リムルはヒースの根源に手を突っ込み、その内側にて力を解放する。

 

刹那、ヒースの根源の内側で爆発的な力が荒れ狂った。それは並の小世界ですら、幾度かの崩壊は免れぬ究極的な破壊の奔流。

 

「じゃあな。お前のことは好きでも嫌いでもなかったが……出来れば二度目は遠慮願いたいな」

 

そう言うと、リムルは根源を掴む手に力を入れた。そうして今まで流し込んだエネルギーとともに、第三魔王の根源を完全に握り潰したのだ。

 

「──よし。皆、終わったぞ」

 

一瞬の静寂の後、気の抜けた声とともにリムルは終戦を告げる。

 

その声を聞き、一同はどっと歓喜の声を挙げた。

 

驚異が去ったことに喜び抱き合う者、安堵とともに脱力感で地にへたり込む者。様々な転生者が、その脅威から逃れられた事実に安堵している。

 

そんな彼らを尻目に、一息ついたリムルは、ミカ達の方へ視線を移す。そうして彼女達も視線に気づいたのか、こちらへと手を振ってきた。

 

ミカ達はその場から<飛行(フレス)>で飛び上がり、リムルの前に立つ。

 

「……はぁ、本当に終わったんだね。一時はどうなることかと私、かなり焦ったんだよ?貴方が滅ぼされたと勘違いした時は私とおじさん含め、残りの全員で飛び出すところだったんだからね?」

 

「ははは、すまんすまん」

 

ミカは呆れた顔でリムルを見つめるが、それを気にしていないようかのように彼は流す。

 

「…………」

 

「ところで、さっきから気になってたんだが……おじさん。ずっと黙ってどうしたんだよ。どこか具合でも?」

 

先程から物静かなおじさんに疑問を抱いたリムルは、彼に話しかけた。

 

「いや……」

 

一拍置き、おじさんは答える。

 

「この手のボスは基本、第二形態や第三形態なんかがあるだろ?だから、これで本当に終わりなのかと思ってな」

 

おじさんは不安そうに顔を歪め、ミカがそれを笑い飛ばそうとした──その時だった。

 

「あはっ、おじさん。ゲームの中の話じゃないんだから、それは気にしすぎだよ☆今はとりあ──っっ!?」

 

つー、とミカの口から血が滴り落ちる。

 

「……え?」

 

胸に違和感を感じ、視線を移すと、それは一本の手だった。見覚えのある手が、自身の胸を大きく突き破っているのだ。

 

「──結局のところ、汝らは己が力を過信しすぎたのだ」

 

声が聞こえる。

 

「本来は浅きにあるはずだった自らの力が、不可侵領海たる魔王に届き得るまでに至った。そんな、ありもしない虚構を盲信し──」

 

別の場所から声が聞こえる。

 

「我を討ち滅ぼした──そんな、ありもしない幻想に縋ってしまった」

 

更に別の場所から声が聞こえる。

 

「そうして希望を、平穏をこの手に掴んだ。そう思い込んでしまった。だが、やっとの思いで滅ぼしたそれが単なる分身でしかないとしたら?それが幾度、死に至らしめようとも意味のない偽り(支流)だとしたら?ゆえに汝らが我をどう滅ぼそうと、幾度滅ぼそうとも──そこに意味はないのだ」

 

ありとあらゆる方向から全く同じ声が、全くの同時に聞こえてきたのだ。

 

「ゆえに今一度(ひとたび)、名乗ろう。我は第三魔王ヒース・トニア」

 

それは滅びたはずの第三魔王の声──

 

「我は無数に流れる支流にして、その大元たる源流そのもの。それ(すなわ)ち──」

 

周囲にある全ての空間から声が響き、出現した幾千もの水滴が、第三魔王ヒースの姿を象った。

 

「「「「「──この大河の水滴一粒一粒が我だ」」」」」

 

「………………マジかよ」

 

リムルは渋々といった様子で、武器を構える。

 

それもそうだろう。

 

先の戦いですら、彼らは常に綱渡りにも等しい、命懸けの攻防を強いられてきた。それにも関わらず、追い討ちをかけるように出現したのは無数の聖川と、幾千もの第三魔王ヒースの軍勢。

 

それに対抗するだけの戦力、それに食らいつくだけの意欲は、今の彼らには残されていない。

 

もはや彼らには、数千の第三魔王と事を構えるだけの余力はなく、結果は火を見るより明らかだ。

 

すなわち敗北は必至。

 

「……やるしかない、か」

 

誰もが脳裏に敗北の二文字を浮かべ、絶望とともに諦めかけていた。だが──

 

「<二律影踏(ダグダラ)>」

 

「………………!?」

 

ズガンッと地を踏み抜く音が聞こえた。

 

その音とともに、周囲に展開されていた無数の聖川は、突如として跡形もなく滅び去ったのだ。

 

今のリムル達に第三魔王へ抵抗するだけの力は残されていない。では、一体誰が──?

 

そんな疑問と同時に聞こえたのは幼い声だった。

 

「なるほど。銀泡の外から強大な魔力を感じたと思い、来てみれば……そういうことか」

 

幼い声は言う。

 

転生者達が振り返り、その声の正体を確認した瞬間──彼らは絶句した。それは長い銀の長髪に、夕闇を具象化したかのような外套を纏っている。

 

そして何より特徴的なのはその容貌だ。この場には不釣り合いな、あまりにも幼い姿をしている。

 

だが、その姿を見て侮る者は、この場に誰一人として存在しなかった。それは在りし日の……秩序に支配された銀海に吹く、自由なる風の象徴──

 

「私の名は()律僭主(りつせんしゅ)ノア、人助けの旅をしている。何か困っていることはないか?」

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