《銀海総合掲示板》 作:にわか太郎
二律僭主という予想外の闖入者。それに第三魔王ヒースは驚愕を隠せないでいた。
他の転生者達も皆、同様の反応を見せている。
そうして暫くの沈黙を続けた後、最初に口を開いたのはヒースの方だった。
「……停滞世界ザガロを奪った二律僭主か。なぜ、我の邪魔をする?答え次第では、汝は深層十二界の全てを敵に回すことになる。早急に答えたまえ」
ヒースはその眼光を鋭くし、異常なまでの殺気をノアに叩きつける。だが、ノアはその殺気にも臆さず、堂々と第三魔王に言葉を返した。
「言ったはずだ。尋常ではない魔力を感じ、訪れてみれば第三魔王に襲われている者が居た。襲われている彼らを私は助けようとしただけだ。魔王の国盗りに介入したつもりはない」
「……ふん。まあいい」
第三魔王の強大な威圧に、ノアは眉一つ動かさずに応対した。その事実が面白くなかったのか、ヒースは鼻を鳴らし、貫いていたミカを地に放る。
それをおじさんはキャッチし、<
「だが、故意に深層十二界へ足を踏み入れたことは、到底許されることではない。
ヒースは己が力を誇示するが如く、魔力を滾らせ、全身に<
その様子を見るに、奴は初めから戦う気だったのだろう。これでは説得も意味はあるまい──ノアはそう考えを巡らせ、頭上の第三魔王を見上げる。その極光の聖川は眩く煌めき、世界は第三魔王の魔力に怯えるように、激しく震撼していた。
「お前は……」
「よい」
リムルは何かを言いかけるが、ノアがそれを制止する。まるで先の言葉が分かっているかのように。リムルは一瞬、ビクッと肩を震わせた。
「
「…………分かった。頼む」
真っ直ぐな瞳で見つめてくるノア。その瞳と言葉に対し、リムルは了承せざるを得なかった。
刹那、第三魔王は声を挙げた。まるでノアの罪を宣告するかのように、奴は口上を述べていく。
「大魔王様の支配する停滞世界を奪い、あまつさえ侵入者達を庇わんとしている汝の罪──」
声を出していくごとに、彼の力が桁違いなまでに増幅していく。その魔力でヒースは眼前の仇敵、二律僭主ノアを討ち滅ぼさんとしているのだ。
「我が汝を裁こう。覚悟しろ、二律僭主っ!!」
今にも突っ込んできそうなヒースに対して、ノアはその魔力を少しだけ解放した。するとノアの影はぬうっと起き上がり、彼の背後を大きく覆う。
二人の不可侵領海が拮抗を破り、激突せんとしたその瞬間──
「やめよ」
威厳のある声が響いた。
どこからともなく聞こえてきたその声は、厳かさゆえか、彼らの動きを止めるには十分だった。
その声に一番反応したのは第三魔王ヒースだ。
「大魔王様……!?」
空から降りてくる、白装束を纏った老人。
それは魔王ならば誰もが見間違いようのない姿。
深層十二界の主にして、銀水聖海の覇者。
大魔王ジニア・シーヴァヘルドだ。
ヒースはその
「ヒース」
大魔王は一言だけ発し、第三魔王を一瞥する。
だが、奴は大魔王のその視線だけで、何の言葉も発せないでいた。それだけヒースにとって、大魔王ジニアという存在は絶対的なのだろう。
「国盗りに励んでいたお前には悪いがのう、こやつらは侵入者ではなく儂の客人じゃ。魔王の国盗りを邪魔しに来たわけではない。ゆえに手出しは無用」
「はっ……」
第三魔王はやや不服そうにしながらも、即座に引き下がり、大魔王ジニアに謝意を示す。
そしてヒースは転生者達に再度、向き直った。
「……悪かったな」
バツの悪そうな表情で、ヒースは彼らに一応の謝罪の弁を述べる。そうして奴はゴンドラに乗り、光を超える速度で有翼世界から離脱していった。
「さて、お前達」
第三魔王を見送った後、一瞬の間を置いて、大魔王ジニアは口を開いた。彼は眉を下げ、申し訳なさそうな表情でこちらを見つめている。
「本当にすまんのう。此度は誤った判断で、お前達を魔王の国盗りに巻き込んでしもうた。これでは儂の面目が立たん」
「いや、別にいいよ。別行動にするって判断も、最終的には俺達が下した訳だし、何もあんただけのせいってわけじゃないだろ?ならお互い様だ」
「……ふむ」
大魔王は彼らに謝罪するが、リムルはそれを制止し、互いに非があったことをジニアに伝えた。それを受け、彼は何かを考え詰めているようだ。
「少しいいか?」
「ん?」
そんな中、この状況を俯瞰していたノアが何を思ったのか、唐突に口を開く。
「ノアや。いきなりどうしたのじゃ?」
大魔王も僅かながらに目を丸くし、今まで沈黙を保っていたノアに語りかける。
「卿らと大魔王は一体、どういう関係だ?」
ノアから飛び出してきた一つの疑問。それは銀海に住まう者ならば誰もが抱く、真っ当なものだ。
確かに、至極当然の疑問だろう。
なぜ浅層に住まう彼らが、大魔王と親しげに話せているのか。なにより、銀水聖海の覇者たる彼と親しい人物など、ノアは聞いたことがなかった。
そんなノアの疑問にジニアは笑声をこぼす。
「なに、こやつらとは偶然知り合ってのう。ある種の奇縁によって結ばれたのだ。……数奇な運命と言い換えてもよい」
「そうそう。特殊っちゃ特殊な知り合い方だったが……まあ、旅の途中で知り合った友人みたいなもんだ」
ジニアとリムルの二人は言う。
「……そうか。であれば、私からは何も言うまい」
二人の言葉を聞き、ノアは静かに納得を示すと、その
「大魔王、卿にもう一つだけ問おう」
数瞬の間を置き、ノアは再び口を開く。
「なんじゃ?」
「先の様子を見るに、彼らが第三魔王から受けた被害に対して、卿は何か思うところがあったのではないか?」
「……ほう。なぜ、そう思ったのじゃ?」
「卿の表情だ」
ノアは言う。
その平坦な声とは裏腹に、彼は非常に興味深そうな面持ちで大魔王を見上げていた。
「先程から彼らに向ける卿の視線。それにはどこか、悲痛なものが含まれているように私は感じた。まるで愛しい者が傷つけられた時のような、しかしやり場のない、なんとも形容し難い感情だ」
辺りには再び静寂が満ちる。
「ゆえに聞こう。卿は彼らに何をするつもりだ?」
……いったい、幾らかの時間が流れただろうか。永遠にも思える刹那の一時。二律僭主は何を言うでもなく、大魔王ジニアを静かに見つめている。
そうした深い沈黙の後、大魔王は語り始めた。
「……うむ。実はのう──」