《銀海総合掲示板》 作:にわか太郎
ガギィイイイイイイイイイイイイイイン!!!
けたたましい音が戦場に木霊している。
「……クソッ……!」
そこに響き渡るのは幾千もの剣戟、そして幾万もの激突による余波であった。秩序を歪め、世界を揺らし、火露をかき混ぜる強大な衝撃の数々。
「「「「「<
赤き斬撃が四方八方から迫りくる。
「──月牙……天衝ッッ!!!」
大剣を振りかぶり、放たれたのは巨大な斬撃の形をした
しかし──
「甘い」
聞こえてきた声とともに、相殺しきれなかった斬撃が眼前に飛んできた。これでは相殺することも、ましてや回避することも叶わないだろう。
「……しま、っ……!?」
戦況は絶望的かに思われた。だが、
「<
ズガンッ、と斬撃の影が踏まれる。
すると斬撃は踏み砕かれ、跡形もなく四散した。同時に無数の絡繰神さえもが砕け散る。
「……!?これは……」
「間に合ったか」
どこからともなく聞こえた声が安堵を漏らす。
現れたのは一つの影だ。それは幼い子供の姿を象っており、全身が真っ黒に染め上げられている。
二律僭主ノアの影だ。
「ありがとよ、助かったぜ」
「よい。卿が無事で何よりだ」
二律僭主の影は青年──黒崎一護からの感謝を素直に受け取った。すると、
『二人とも』
思念が届く。発信源は後方からだ。
そうして二人が後ろを振り向くと、そこには巨大な体躯を誇る大蜘蛛の姿があった。聳え立つ巨体は軽く百メートルを超えている。
「……ん?って何だ、ORTか。ビビらせんなよ」
『ハハハ、ごめんよ。このデカさだからか、余計に驚かせてしまうのは難点だよねぇ……っと、危ない危ない。戦況を報告しに来たんだった』
「戦況……」
一護は眉を顰め、今から伝えられる情報が芳しくないことが容易に予見できた。なにせ、ここは正帝や絡繰神の本土──絡繰世界デボロスタだ。
そして転生者達は現在、深層世界である絡繰世界デボロスタに対して侵攻しているのである。
その目的とは秩序機構たる正帝、そして<絡繰の淵槽>の《淵》としての機能の弱体化。これにより、先の未来に訪れるであろう<絶渦>による被害を未然に防止するというのが狙いであった。
人々の想いにより<絶渦>に集められる願望──それ即ち、悪意を吸い寄せる力の軽減だ。目的が達成されれば、<絶渦>は銀水聖海を呑み込むほどの大災厄へと転じることは無くなるだろう。
しかし──
『その様子だと薄々、気づいているみたいだね。そう、こちらが徐々に劣勢を強いられてきている。そして《淵》の七割がこの本土にある以上、生み出される絡繰神の多さが問題でね。……正直、このまま当初の目的が達成できるかは怪しい』
はっきりとORTは口にした。
そう、この世界は正常な本来の歴史とは異なる。<絡繰の淵槽>は
ゆえに何の因果か、一万七千年も前から偽りのパブロへタラが存在した。記憶が曖昧な一部の転生者は、盛大な思い違いを起こしていたのだ。
「じゃあ、撤退も視野に入れろってか……?」
『──死傷者が一人もいないのは不幸中の幸いだけど、思っていた以上に正帝側が強大すぎたんだよ。……だけど、正帝の目論見をどうにかする方法が無いわけじゃないんだ』
「……?それは、いったいどういう……」
ちらりとORTはノアの影体を見やる。
「よい」
そんなノアの言葉を契機に、ORTは絡繰世界にいる全ての転生者に<
『──皆、僕の声が聞こえたならば心して聴いてほしい。……現時点をもって、僕達の侵攻計画は失敗に終わった。再度、繰り返す。現時点をもって、僕達の侵攻計画は失敗に終わった。正帝側の戦力が、想定以上のものだったからだ』
転生者達は驚きながらも静かに、ORTの話に耳を傾けている。この先に何かがあると踏んで。
『……だが、正帝の奸計を阻止するためにも、何の成果もなしに帰還するわけにはいかない。ゆえに、最終手段を取らざるを得ないと判断した。……シロコ君、住民の避難は済んだかい?』
『ん、バッチリ』
『──うん、ありがとう。そしてアムル君、少し酷な話かもしれないけど、どうかよろしく頼むよ。……<絶渦>にいる君の子は、転生者達の総力を挙げて、何としてでも救い出すことを誓おう』
『……ああ、お前達には感謝してもしきれん。では、
アムルは憎悪の力に身を焦がし、魔法陣を描く。
そうした次の瞬間、絡繰世界デボロスタの空が真っ青に染まりきった。
「……こ、れは、まさかっ……!!」
周囲にいた
空も海も大地も、全てが青に染まっている。
ゆらゆらと立ち上り、轟音を立てているのは魔力の粒子だ。それが地上から上空へと流れていく。
絡繰世界が揺れていた──否、動いているのだ。
地上から上空へと流れる粒子の速度が増す。それは世界がみるみる速度を増している証明だ。ゴォォッと大地がめくれ上がり、上空へと吹き飛ぶ。
自らの速度に耐えきれぬとばかりに、大地という大地がボロボロと剥がれ、上空に舞う。
それを
「……<
「ようやく気づいたか。だが、もう遅い」
アムルはその身を紅蓮の炎で滾らせ、こちらを睨み殺さんがばかりの
「……ぐぅっ、<
正帝は苦し紛れに赤き斬撃を無数に飛ばす。それが第一魔王の根源に届くことを期待して。
だが──
「<
「……っ……!?」
ぐしゃり、と<
その赤い斬撃は紅蓮の右手とともに、あっさりと消え去ったのだ。何の抵抗もできず、一方的に。
それを忌々しげに、ありったけの憎悪を込めた表情で、
だが、その憎悪を見逃す彼ではなかった。
「もらっていくぞ」
どろりとした水銀の神体から炎が溢れ出す。
それは轟々と燃え盛っており、やがてその炎はアムルに向かって吸い寄せられた。
「!?……それ、は……」
瞬間、アムルの力が爆発的に増幅される。
その力は先程よりも更に強大に、それこそ桁の違いが数え切れないほどに深淵へと沈んだのだ。
「貴様っ、第一魔お──っ!?!?」
彼は正帝の土手っ腹に紅蓮の掌を突っ込み、発動しようとした権能を無理やり抑え込む。
「壊滅しろ、正義を標榜せし絡繰よ」
「……わかって、いるのか……?お前の行動は、いつしかこの海を破滅へと導く……その身の行き着く先は、憎悪の化身だっ……!!」
正帝の絡繰神はアムルにそう言う。
だが、その言葉を意にも介していないのか、アムルは冷ややかな視線で滅びゆくそれを見つめた。
「そんなものはとうの昔から理解している。他者の悪意を吸い続け、憎悪を蓄え続けたこの身が行き着くは、憎悪の化身にして悪意の怪物。壊滅の暴君だろう。だが──」
土手っ腹の奥にある正帝の根源を握り、やがてそれを潰すようにして彼は言い放った。
「──未来に待つ我が子のためならば、この程度の憎悪などに飲まれてやる義理はない。さらばだ、正帝ドミエル。銀水聖海の超越者よ」
そうして正帝の根源を完全に握り潰す。
すると奴はその水銀の神体を維持できなくなったのか、身体はどろりと溶け、液体になったまま滅びゆく絡繰世界の大地へと落ちていった。