《銀海総合掲示板》 作:にわか太郎
「さて……」
ガウスとその場にいた兵士達の意識を権能で刈り取り、ナイアルラトホテップは一息つく。
「にしても、本当に権能の効きが悪いなぁ。魔弾世界の秩序が特殊なのは知ってたけど、まさかここまで能力面が制限されるとは……この隊長さんも、あと小一時間もすれば起きるだろうし。あー、やだやだ」
邪神は意識を失い、身を横たえているガウスを尻目に、この状況に対する小言を漏らす。
「
邪神が誰かへと語り掛けるように言葉を発する。本来であれば、返ってくる言葉など無いだろう。
しかし──
「──思わぬ。それは我らの関知するところではなかろう」
それに答えるように後方から声が聞こえた。
やがて、倒れ伏す兵士達の奥から何かが厳かな気配を伴って現れる。それは豪奢な装飾で着飾り、まるで
「目的はあくまで大提督。それを我らが化身とし、計謀を張り巡らせ、暗躍を続けることで、この海に秩序の軛から解き放たれた
「……そうですね」
「一つの秩序に支配され、誰もが不自由を強制され続ける状況など本来あってはなりません。確定した未来や運命、正義も時には救いとなりましょうが……行き過ぎた結果、それがどのような結果をもたらすかは──分かりきってるでしょう?」
真紅の美女は目を細め、すらすらと言葉を紡ぐ。
そして彼女の言葉に深い同意を示すかのように、現れた無数の人影はうんうんと首を縦に振った。
だが、真紅の美女の言葉を面白くなさそうに、片っ端から聞き流している者も幾人か見える。
「ちぇっ、ボクの愚痴は結局無視かい。……いいよいいよ、じゃあボクは勝手に大提督を相手してるから。その代わり、君らには他の隊長と兵士達の無力化を頼むよーだ」
「
拗ねた邪神の様子に美女は呆れを見せるが、そんなことは邪神の知ったことではない。
そうして彼女の語るそれをことごとくスルーし、地面に落ちてる小石を適当に蹴っ飛ばすと、彼は勝手に何処かへと飛び去っていった。
「……何というか、自分の興味が惹かれるもの以外はどうでも良いっていう、割と典型的な邪神的感性を有してるのよね。あの
真紅の美女は力が抜けたといった具合に、飛び去る邪神をただただ呆れた目で見送る。
「然り。矛盾し、相反する無貌の在り方こそが我らナイアルラトホテップなれば。千の貌を従え、外なる狂気にて遍く全てを混迷へと誘う摂理。我も彼奴も、お前とてその源を同じくする
「そうですね。
目を閉ざした
「……そういうものかしら?」
「そういうものですよ」
首を傾げる美女に、黒きカソックを纏った神父は穏やかな笑みを浮かべる。
「さて。
「ええ、貴方は七番隊から十番隊までよね?」
真紅の美女──ナイアルラトホテップの化身である「赤の女王」は再度、神父に確認を取る。
「はい。ですが各々方、決して油断はなさらぬように。……この世界の秩序がとりわけ特異なのもありますが、魔弾世界は深層世界の中でもかなりの強大さを誇ります。いかに私達が全能に等しき権能を持とうと、ここは秩序に支配された正帝の海。己が属する世界の外側では、どう足掻こうと本領を発揮することは叶いません。それを念頭に置いてくださいね」
「承知している」
だが、
「……思ったのだけど」
「どうした?」
赤の女王がぽつり、と言葉を漏らす。そして漏れた言葉を
「これ、暗躍じゃなくて普通に特攻よね?今回の私達、かなり脳まで筋肉に染まってないかしら……」
女王の言葉に一瞬、辺りが静まり返る。
「あ、あはは……」
「……うむ」
その一瞬の静寂の後、返ってきたのは王が漏らす渋い肯定の返事。そして神父の苦笑だけだった。