《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

29 / 73
化身達の会合

 

「さて……」

 

ガウスとその場にいた兵士達の意識を権能で刈り取り、ナイアルラトホテップは一息つく。

 

「にしても、本当に権能の効きが悪いなぁ。魔弾世界の秩序が特殊なのは知ってたけど、まさかここまで能力面が制限されるとは……この隊長さんも、あと小一時間もすれば起きるだろうし。あー、やだやだ」

 

邪神は意識を失い、身を横たえているガウスを尻目に、この状況に対する小言を漏らす。

 

ボク達(・・・)も、そう思わないかい?」

 

邪神が誰かへと語り掛けるように言葉を発する。本来であれば、返ってくる言葉など無いだろう。

 

しかし──

 

「──思わぬ。それは我らの関知するところではなかろう」

 

それに答えるように後方から声が聞こえた。

 

やがて、倒れ伏す兵士達の奥から何かが厳かな気配を伴って現れる。それは豪奢な装飾で着飾り、まるで黄金の王(ファラオ)が如き姿をした絶対者──

 

「目的はあくまで大提督。それを我らが化身とし、計謀を張り巡らせ、暗躍を続けることで、この海に秩序の軛から解き放たれた混沌(じゆう)(もたら)す。それこそが今の我らが為すべき至上の命題だろう」

 

「……そうですね」

 

黄金の王(ファラオ)がそう言葉を発した後、その後ろからは更に無数の人影が現れる。その人影の内の一人、真紅の衣装を纏った美女が静かに言葉を発した。

 

「一つの秩序に支配され、誰もが不自由を強制され続ける状況など本来あってはなりません。確定した未来や運命、正義も時には救いとなりましょうが……行き過ぎた結果、それがどのような結果をもたらすかは──分かりきってるでしょう?」

 

真紅の美女は目を細め、すらすらと言葉を紡ぐ。

 

そして彼女の言葉に深い同意を示すかのように、現れた無数の人影はうんうんと首を縦に振った。

 

だが、真紅の美女の言葉を面白くなさそうに、片っ端から聞き流している者も幾人か見える。

 

「ちぇっ、ボクの愚痴は結局無視かい。……いいよいいよ、じゃあボクは勝手に大提督を相手してるから。その代わり、君らには他の隊長と兵士達の無力化を頼むよーだ」

 

貴方(ワタシ)ねぇ……」

 

拗ねた邪神の様子に美女は呆れを見せるが、そんなことは邪神の知ったことではない。

 

そうして彼女の語るそれをことごとくスルーし、地面に落ちてる小石を適当に蹴っ飛ばすと、彼は勝手に何処かへと飛び去っていった。

 

「……何というか、自分の興味が惹かれるもの以外はどうでも良いっていう、割と典型的な邪神的感性を有してるのよね。あの化身(ワタシ)は」

 

真紅の美女は力が抜けたといった具合に、飛び去る邪神をただただ呆れた目で見送る。

 

「然り。矛盾し、相反する無貌の在り方こそが我らナイアルラトホテップなれば。千の貌を従え、外なる狂気にて遍く全てを混迷へと誘う摂理。我も彼奴も、お前とてその源を同じくする同胞(はらから)にして己自身。なれば()の在り方も、またナイアルラトホテップなり。時の外に在りし『本体()』は無論、万物たる『副王』とて彼奴()を容認しておる」

 

「そうですね。()は未だ化身としては浅き領域に在るかも知れませんが、その未熟さ故の情緒や奔放さもまた、彼をNyarlathotep()たらしめる要素なのかも知れませんね。成長が楽しみですよ」

 

目を閉ざした黄金の王(ファラオ)は厳かに、されど温和に彼の在り方を肯定する。そして、それに賛同するかのように、神父の男もまた言葉を口にした。

 

「……そういうものかしら?」

 

「そういうものですよ」

 

首を傾げる美女に、黒きカソックを纏った神父は穏やかな笑みを浮かべる。

 

「さて。()の言う通り、私達は私達で動きましょうか。各々方の動きは、当初の予定通りに。ファラオは一番隊から三番隊を、女王は四番隊から六番隊の相手をお願いします」

 

「ええ、貴方は七番隊から十番隊までよね?」

 

真紅の美女──ナイアルラトホテップの化身である「赤の女王」は再度、神父に確認を取る。

 

「はい。ですが各々方、決して油断はなさらぬように。……この世界の秩序がとりわけ特異なのもありますが、魔弾世界は深層世界の中でもかなりの強大さを誇ります。いかに私達が全能に等しき権能を持とうと、ここは秩序に支配された正帝の海。己が属する世界の外側では、どう足掻こうと本領を発揮することは叶いません。それを念頭に置いてくださいね」

 

「承知している」

 

黄金の王(ファラオ)は神父の忠告に対し、首肯する。

 

だが、

 

「……思ったのだけど」

 

「どうした?」

 

赤の女王がぽつり、と言葉を漏らす。そして漏れた言葉を黄金の王(ファラオ)──暗黒のファラオが拾った。

 

「これ、暗躍じゃなくて普通に特攻よね?今回の私達、かなり脳まで筋肉に染まってないかしら……」

 

女王の言葉に一瞬、辺りが静まり返る。

 

「あ、あはは……」

 

「……うむ」

 

その一瞬の静寂の後、返ってきたのは王が漏らす渋い肯定の返事。そして神父の苦笑だけだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。