《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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魔弾は混沌に蝕まれ

 

魔弾世界テルネス。火山要塞デネブ。

 

「さてさて、大提督はどこに居るのかなーっと」

 

邪神は魔弾世界の大空を飛び続け、やがてある火口の深部へと潜り始めた。そこは魔弾世界を保有する深淵総軍の本拠地、火山要塞デネブである。

 

そこは不可侵領海でさえ迂闊に攻め入ることはせぬ、難攻不落にして堅牢鉄壁の大要塞。

 

火口を降りていくと、途中で複数の格納庫が見えた。外敵の見えない平時であれば、そこは深淵総軍の各隊が待機しているはずの場所であった。

 

だが、本来であれば邪神を撃墜せんと動くはずの兵士達が、そこには一人も居なかったのだ。

 

それは何故か。答えは酷く単純なものだった。

 

「おー、やってるやってる」

 

火口から離れた各エリアにて、けたたましい爆音が響き渡る。その正体は数多無数の銃声、そしてそれらの侵攻を阻む化身達の攻撃によるものだ。

 

邪神はその神眼()を駆使し、化身達の視界に神眼を合わせ、各々が置かれている状況を確認する。

 

「……ぐぅ、っ……!?貴様らはっ……!?」

 

ごめんね、兵士さん達。悪いんだけど、少しだけ僕達の相手をしてもらえるかな?

 

「なに、殺しはせんよ魔弾世界の。だが、俺達を相手する以上は軽く手傷を負ってもらわんと困る。早々にリタイアしてもらえると助かるが?」

 

「……そう易々と、お前達の思惑通りに事が運ぶと思うかっ!!!」

 

そうして共有した神眼()の前に広がっていたのは抵抗を続ける指揮官と、既に満身創痍といった様子で地に横たわる兵士達。それを囲い込み、睥睨するように化身達は兵士達を見下ろしている。

 

だが、邪神はその様子にさしたる興味を見せず、また別の場所へと視界を合わせると──

 

『どうも、物騒極まりない魔弾世界のみなさん!週刊少年ジャンプから転校してきました。這い寄る混沌じゃないけど、混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)。球磨川禊です。どうか名前は覚えずに気絶してもらえると助かるかなっ!』

 

「……が、ぐぁっ……!?ガウス隊長が不在とはいえ、我々三番隊の精鋭がこうも容易く……!それに、我らを貫くこの螺子は……ぐぅっ……!!」

 

それは巨大な螺子らしきものによって貫かれ、基地内のあらゆる地面や壁面に身体ごと螺子(ねじ)込まれている三番隊の兵士達──その中でも、とりわけ精鋭とされる選りすぐりの猛者達の姿である。

 

『──ははっ。君達さ、深層世界の精鋭(エリート)だからって油断し過ぎだぜ?そんなに油断してるから……ほら。こんなに簡単に螺子伏せることができた』

 

「馬鹿なっ……!?」

 

そう語る彼、(みそぎ)の背には精鋭だけではない。夥しい数の兵士達が、三番隊に属する兵士全員が螺子によってその身体ごと貫かれている姿だった。

 

しかし──

 

「…………」

 

彼によって磔にされた兵士の一人がぴくりと動く。それは俯きながらニヤリと笑みを浮かべ、禊に魔弾を撃ち込もうと静かにその魔力を収束させていた。まるで機を見計らっていたかのように。

 

「……馬鹿めっ、油断しているのは貴様だ!!」

 

瞬間、その照準を彼の方に合わせる。

 

その言葉を皮切りに、兵士は魔弾を発射した。

 

「喰らえっ、<魔波貫通刃弾砲(シュゼルツ・ゼイン)>──!!!」

 

それは反魔法を封じる刃状の魔弾。

 

先程、(みそぎ)(はりつけ)にされた時とは違う。次元違いの魔力の発生に、しかし禊は全く気付いていない。

 

磔にした兵士の不意打ち。

 

それに気付けなかった彼は、あっさりとその凶弾に撃たれ、倒されてしまった。

 

『……ぐはっ!!そ、んな……まさか。この僕が、やられるなん……て……!?!?』

 

あまりに呆気ない敵の最期に、その兵士は一瞬呆然としてしまったが──

 

「や、やっt……ごばぁっ──!?!?」

 

『なんてね──大嘘憑き(オールフィクション)

 

その背から巨大な螺子が無数に生え、不意打ちに成功したはずの兵士をいとも容易く貫いた。

 

『……僕の絶命をなかったことにした!』

 

まるで攻撃を受けていないとばかりに、彼はすくりと立ち上がり、両手を大きく広げる。そして禊が言葉を締めくくる同時に、辺りは再び静寂を取り戻した。その場に夥しい数の兵士を残して。

 

その様子を俯瞰していた邪神は、何をするでもなく更に別の空間に視界を合わせる。中でも一際騒ぎが大きそうな、火口の深部に近い場所(エリア)へと。

 

視界を空間に繋ぐ。すると──

 

「──私は(すべ)てを愛している」

 

そこには想像を絶する規模の軍勢が在った。

 

だが、何より目を引くのはそこではない。それは軍勢の先頭に立つ、光輝を放つ獣の如き一人の男の姿にあった。その男は聖槍十三騎士団序列第一位にして、黒円卓を統べる首領。破壊公(ハガル・ヘルツォーク)愛すべからざる光(メフィストフェレス)、黄金の獣と呼ばれる神族の一人。

 

数多の魔名を有した修羅道を支配する覇道神にして、第四神座「永劫水銀回帰(オメガ・エイヴィヒカイト)」の自滅因子(アポトーシス)

 

──ラインハルト・ハイドリヒ。

 

「さあ、我が爪牙達よ。これより卿らが立ち向かいしは、我らが既知を踏み超えし未知なる世界だ。……しかし、恐れることはない。我らは既に回帰という名の牢獄(ゲットー)から解き放たれし獣。最早、私達を縛る枷や法則など、何処にもありはしないのだ。ゆえに、我が不死の英雄(エインフェリア)達よ。卿らの愛を、卿らの全霊をこの戦にて示すといい。さあ、始めよう。我らが怒りの日(Dies irae)を今一度──」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!Sieg Heil(ジークハイル)Sieg Heil(ジークハイル)Sieg Heil(ジークハイル)Sieg Heil(ジークハイル)!!!!!」」」」」」」」」」

 

ラインハルトはその手に握りし聖槍を横に持ち、黄金の光輝を放ちながら詠唱を開始する。それはまるで世界が混沌に蝕まれるが如く──

 

 

怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し

Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla.

 

ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る

Teste David cum Sybilla.

 

たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも 審判者が来たり

Quantus tremor est futurus, Quando judex est venturus,

 

厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える

Cuncta stricte discussurus.

 

我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ

Tuba, mirum spargens sonum Per sepulcra regionum,

 

皆すべからく 玉座の下に集うべし

Coget omnes ante thronum.

 

彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん

Lacrimosa dies illa, Qua resurget ex favilla

 

されば天主よ その時彼らを許したまえ

Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus.

 

慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エィメン

Pie Jesu Domine, dona eis requiem. Amen.

 

 

黄金(ラインハルト)の身体から溢れ出る魔力は、やがて魔弾世界の秩序を侵食し始める。それは旧世界の法を打ち倒し、新世界の秩序を流出させるための儀式。そうして「城」の秩序(法則)は小世界を覆い──

 

それは為された。

 

 

Atziluth(流出)──

 

 

「<混沌より溢れよ怒りの日(ドゥゾルスト・ディエスイレ)>」




至高天(グラズヘイム)はここに完成する。
さあ、主神にまで届け。開戦の号砲よ──。
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