《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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正義の使者

 

時は進み──

 

深層九十九層。銀水世界リステリア。

 

ガラガラガラガラ、ドオオオオオオオオンッ!!

 

パブロヘタラ宮殿、知識の水槽にて。

 

そこでは普段、聞くことのないような轟音が鳴り響いていた。水路がへし折れ、水が溢れ出す。

 

石造りの天井からはパラパラと破片が落ちていき、それが次々と床に落ちてくる。

 

「これは……?」

 

突然のことに彼も驚いているのだろう。

 

長い金髪の青年、この銀水世界リステリアの元首である隠者エルミデは表情を険しくしていた。

 

「元首エルミデ」

 

すると、目の前に転移の魔法陣が現れる。

 

現れたのは裁定神オットルルーだ。

 

「なにがありました?」

 

「銀水世界が攻撃を受けています。敵の数は不明。どの世界の者かも不明ですが、リステリアよりも深層に位置するとオットルルーは考えます」

 

エルミデの表情が険しさを増す。

 

「皆を避難させましょう」

 

「ちょっと待った」

 

エルミデが言葉を発した途端、その後方から声が聞こえてきた。

 

エルミデとオットルルーが振り返る。

 

すると、そこにいたのは一人の少年だった。

 

カズマである。

 

「貴方は……?」

 

オットルルーが疑問の声を漏らす。

 

「俺は……そうだな。端的に言えば、アンタ達の味方ってことになるのかな。……あと一応弁明しておくが、外でリステリアを攻撃している連中と俺達は関係ないからな?」

 

すると頭を掻きむしり、カズマは答える。

 

だが、突然現れた少年(カズマ)に未だ不信感を拭いきれないオットルルーは、彼にこう問うた。

 

「……オットルルーは質問します。貴方は、この騒動と自身は無関係だと言いました。ですが、オットルルーは突然現れた貴方のことを信用しきれていません。ですので、貴方がオットルルー達の味方である証拠を提示してください」

 

オットルルーの質問に、カズマは困ったような表情を見せる。だが、エルミデは考え込み、やがて思い出したかのようにオットルルーに話した。

 

「……!いえ、オットルルー。彼と僕は以前、出会ったことがあります」

 

「本当ですか?」

 

オットルルーはエルミデに問う。

 

「ええ。確か貴方はノアが深淵世界へと赴く際に、その旅に同行していましたね?」

 

「ああ、覚えていてくれたのか?」

 

「であれば、貴方を信用しましょう。……ですが、このまま放置すればリステリアの民達は滅びてしまいます。どうするつもりなのでしょうか?」

 

エルミデは真剣な表情でカズマに問うた。

 

「……あー、すまん。言い方が悪かったな。勝手な行動で悪いんだが、もうリステリアの住人は無神大陸の方に避難させといたんだよ」

 

「事実ですか?」

 

「だから、俺達が援軍に駆けつけたんだが……まあ、リステリアの被害に関しては……その、なんだ。ちょっとばかり……いや、かなり大変なことになってるが……はい」

 

カズマが渋い顔でそう言うと、エルミデは彼を安心させるように言葉をかけた。

 

「問題ありません。民達が無事であるのなら、リステリアは幾らでも再興することができる。ともかく、援軍として貴方達が来てくれたおかげで希望が見えてきました。ありがとうございます」

 

「あーもう、気にするなって! 礼なんて後でいいから、とにかく一秒でも早くここからズラかるぞ」

 

「ええ、僕達も向かいましょう。オットルルー」

 

「はい」

 

彼はオットルルーに呼びかけ、転移の魔法陣を描かせる。そうしてカズマ、エルミデ、オットルルーの三人はパブロヘタラ宮殿の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤く、燃えていた。

 

銀水世界リステリアの全てが炎に包まれている。

 

空からは流星のように魔法砲撃の嵐が飛び交い、リステリアを侵略する無数の絡繰神が縦横無尽に動き回っている。無論、それを抑えるように動く者達の影も見える。戦況は混沌としていた。

 

魔法砲撃を続ける絡繰神達。

 

その遥か黒穹にて、影絵のような雰囲気を纏った軍服の男が在った。彼は詠唱もなく、百の根源を出現させては、魔法砲撃にそれを振り注がせる。

 

それはまるで流星群のように。

 

そして、その遥か下方の大地では──

 

「第九──SS装甲師団(ホーエンシュタウフェン)

 

上から降り注いでくる流星群に対し、挟撃するかのように怒涛の火砲が絡繰神達に襲いかかる。

 

そこにいたのは修羅道(グラズヘイム)の主にして聖槍十三騎士団、黒円卓の首領。

 

ラインハルト・ハイドリヒである

 

彼は黒穹にいる双頭の蛇、友であるメルクリウスとともに、この戦に参戦していた。

 

参戦している理由は単純。

 

そこに未知の戦があったから。

 

彼は己が半身の渇望に従い、管理人からの要請で此度の戦に駆り出されることにした。友もまた未知を求めるがゆえ、似たような理由なのだろう。

 

かつて女神ばかりを求めていただけの彼と今の彼は同一の存在で、同時に全くの別物なのだから。

 

……いや、さして変わらないか?

 

そう考えながらも、不朽の黄金(ラインハルト)は不足のない相手に対して超絶の威力をもった火砲を浴びせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、空と海が繋がる<追憶の廃淵>では絡繰神と別の存在が同じく激しい戦闘を行っていた。

 

「クス」

 

その者は黒い帽子にラテックスの手袋、黒衣に身を包み、その手には赤い剣を携え、涼しげな表情で絡繰神の攻撃をいなしている。

 

そうして反撃とばかりに、水銀で構成されているはずの絡繰神を容易くバラバラに切り裂いた。

 

そこから再生する様子は見えない。

 

「<断罪刃弾(ゲゼルデ)>」

 

そうして痺れを切らした絡繰神、正帝ヴラドが赤い斬撃を飛ばしてくる。しかし、それを黒衣の男はつまらなさそうな表情で相殺した。

 

「ワンパターン……いえ、失礼。あまりに代わり映えがしないので少々、退屈してしまいましたよ……」

 

更に別の方向から迫る攻撃があったが、黒衣の男──赤屍蔵人の前にメスが円状に幾つも並ぶ。

 

「<赤い盾(ブラッディ・シールド)>」

 

魔法砲撃がメスの盾に直撃するも、その魔砲は何の影響も与えることなく消え去った。

 

「……ふぅ。名残惜しいですが、もうそろそろ終わりにしましょうか。期待していたほどではなかった。もっと私を楽しませてくれるかと思ったのですが……どうやら私の買いかぶりだったようですね」

 

すると、赤屍は赤い槍を手元に出現させる。

 

「これ以上、この『遊び』を続けても……無味乾燥な時間が過ぎるだけ。あなたの(水銀)も、これでは冷たく凍えてしまいそうだ。……それでは、さようなら。あまりにも、退屈な幕切れでしたよ」

 

もう幕引きだと言い、彼は槍を突き刺した。

 

「<赤い槍(ブラッディ・ランス)>」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それらの様子を魔眼で観察していたカズマとオットルルーは思わず閉口した。

 

絡繰神による、リステリアへの侵略が終わりそうになっていたからだ。世界に被害こそ出ているものの、このままいけばリステリアは救われる。

 

カズマ達はそう思ったらしいが、元首たる隠者エルミデは変わらず険しい表情を崩さない。

 

それは何故か──

 

「……来ましたか」

 

「え?」

 

オットルルーが疑問の声を上げる。

 

瞬間、空から妙な光と魔力がちらついた。

 

ゴオオッという轟音とともに、現れたのは空一面を埋め尽くす絡繰神の大軍勢。それは数百万や数千万などという、生易しい数の規模ではない。

 

想像を絶する軍勢が太陽光を遮り、まるで夜と見紛うばかりの光景を作り出していた。おそらく正帝は、かつての絡繰世界に存在した殆どの絡繰神を、このリステリアに動員したのだろう。

 

それが意味するもの。

 

すなわち──

 

「……長い夜になりそうですね」

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