《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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残された者

 

時は経ち──

 

深層十二界。無神大陸。

 

闇の魔力に覆われし深層十二界。そこに浮かぶ剥き出しの大陸の上に、大勢の人集りが見えた。

 

「……それで。そいつが潜入してきた正帝ってことで間違いないんだな?」

 

「おそらくは」

 

その人集りの内の数十人は転生者であり、眼前の存在と対話している彼もまたその内の一人である。それは、永遠の刹那こと藤井蓮だ。そして、

 

隠者エルミデ(・・・・・・)、そいつに不可解なところは本当に何もなかったんだな?」

 

藤井蓮の対話相手──それは滅びたはずの銀水世界リステリアの元首、隠者エルミデである。そう。エルミデは絡繰神に首を奪われ、確かに滅びたはずだ。しかし今、彼は目の前に存在する。

 

それは、あまりに奇妙な光景だった。

 

「ええ、彼は学院同盟の創立当初からいたメンバーの一人です。しかし、銀水学院の成立にあたって、リステリアにあるパブロヘタラ宮殿を使おうとした際に、彼はこう言いました」

 

一拍の間を置き、エルミデは語る。

 

「『万が一ということもある。このパブロヘタラは予備のものとし、新しい宮殿と浮遊大陸を用意しよう。それに、我らを目の敵とする世界や勢力がないとも限らない。本命は残しておくべきだ』と。今思えば奇妙な話ですが……当時の僕は彼の意見に賛同し、本物と寸分違わぬそれを複製しました。そうした上で僕は銀水学院とその理念のみを提供し、学院自体の運営は彼と同盟世界の方々に任せることにしたのです」

 

「それにしたって妙な話だが……そいつは今、どこにいる」

 

蓮が聞くと、エルミデは首を左右に振った。

 

「残念ながら、彼はもうこの世にいません。乱心したのかどうかは分かりませんが……ある時期を境に彼は突如、自害したのです」

 

「自害だと?」

 

彼は目を細め、訝しむようにエルミデを見る。

 

「ええ、おそらくは足取りを追わせないためでしょう。今までの話も、彼が正帝であるのならば辻褄が合います」

 

「厄介なことになったな」

 

彼は溜息をつき、呟くように言った。

 

その時、

 

「──珍しいな」

 

一歩、また一歩と足音が聞こえた。

 

蓮が徐ろに後方を振り返ると、そこには黄金の獣──ラインハルト・ハイドリヒの姿があった。

 

蓮は明らかに嫌そうな顔を彼に向ける。

 

「……いったい何の用だ。ラインハルト」

 

「なに、大した用向きではない。ただ、あのツァラトゥストラがらしからぬ動きを見せたのだ。なれば、興味の一つも湧こうというもの。他意はない」

 

「……何の話だ?お前が気になるようなことは何も──」

 

蓮は訝しむような態度を崩さず、彼に問う。

 

「少し前、エルミデ殿と話していたことだよ。話を聞くに、卿はあの裁定神を蘇らせるつもりなのだろう?如何なる手段を用いるのかは皆目、見当などつかんが……どの道、それは卿の思想に反する行為ではないのかね?」

 

「少し前って……ああ。そういうことか」

 

彼は納得したように呟いた。

 

「確かに、お前の言う通りだ。だが──」

 

蓮は言葉の続きを口にはせず、思念を送る。

その意図を察したのか、黄金は何も言わない。

 

そして数瞬の後、ラインハルトは答えた。

 

「……なるほど。あくまで■を分けるか」

 

「お前だってそうだろ」

 

「否定はせん」

 

ラインハルトは静かに肯定を示す。

 

「まあ、そんなわけで俺のことはいい。それにラインハルト、お前には聞きたいことがある」

 

「何かな?」

 

しばらくの間を置いた後、蓮は言った。

 

「今朝、願望世界に向かった連中の状況を教えてくれ。お前なら彼らに魔法線を繋いで、現状を把握することぐらいはしているだろ」

 

「……ふむ。それならば──」

 

 

 

 

 

願望世界ラーヴァシュネイク。

 

混沌とした深紅の空が世界を覆っている。

 

ここは銀水聖海の深淵に位置する銀泡、願望世界ラーヴァシュネイク。水上都市リプロアーニ。

 

その世界に大地は殆どなく、代わりにあるのは星々が渦巻く広大な赤き大海──<絶渦>だ。

 

そこには数多の船が浮かんでおり、赤き海に浮かぶ船同士は連結し、その船上には様々な建築物などが建てられている。かつては願望世界に住まう種族、星雲族の楽園だった場所がここだ。

 

そして、その楽園には現在──

 

「こんな場所に学校が建つってんだから、世の中何が起きるか分からねぇよな……」

 

宮殿を模した巨大な学院が建っていた。

 

その土台には新しく創造された巨船があり、その上には立派な学院が聳え立っている。それはリプロアーニにある、どの建造物よりも巨大だった。

 

*1赤星学府ラーヴェラルオズマである。

 

「えーっと、確か教室は……ここか」

 

現在、その学院内にある教室の扉の前に佐藤カズマは立っていた。彼は静かに扉に手を掛け、ガラガラガラとそれを横にスライドする。

 

扉を開けると、そこは広い教室だった。

 

見ると内装は銀水学院パブロヘタラを模しているようで、教室の中央には円形の教壇が見えた。席は全方位に設けられており、教壇をぐるりと取り囲むように、椅子と机が整然と並べられている。

 

そして椅子に座って待機している生徒達──もとい、転生者達や無神大陸から来たであろう子供達の姿もまばらに見えた。そこで、数人の転生者がカズマの存在に気づいたのか、彼らはカズマに向かって手を振り、声を掛けた。

 

「おーい、カズマさん!こっち、空いてますよ」

 

そうして声を掛けてきた内の一人、藤丸立香はカズマに自分の席の隣へと座るように促す。

 

「お、サンキューな。何だよ、藤丸も管理人に呼ばれて来たのか?」

 

「あはは、まあそんな感じです」

 

苦笑いを浮かべ、藤丸は答える。すると、

 

「それにしても連絡が急だったから驚いたよ。いったい、今日は何をするのか……」

 

右隣から声が聞こえた。

 

そう話題を振ってきたのは額に目を宿し、大きな二本の角と長い耳朶が特徴的な大男の姿。

 

それはシムリア星人、ダブラ・カラバである。

 

そして──

 

『ま、そんなに身構えなくてもいいんじゃない?どうせ管理人ちゃんの気まぐれだろうしさ』

 

更に続くように後方から声がした。そこから自然な流れで会話に参加してきたのは球磨川禊だ。

 

彼もまた、管理人に呼ばれたのだろう。

 

「そうだと良いんだけどな……ん?」

 

瞬間、扉がガラガラと開く。

 

そこから出てきたのは黄色いタコのような生物だ。彼はヌルヌルと動き、やがて教壇に立つ。

 

「──皆さん、揃っているようですね。それでは授業を始めましょう……と言いたいところですが、中には私を知らない方もいるでしょう。ですので、まずは自己紹介から始めましょうか」

 

その異形の姿に若干数名が驚くが、その他の生徒はさして気にしていないらしい。

 

だが、それとは別に目を丸くする者もいた。

 

その姿は、まさしく──

 

「私の名前は……そうですね。親しみを込めて『殺せんせー』とでも呼んでいただければ。コテハン名は『音速蛸』、特技は『超音速巡航』、座右の銘は『学殺一体』です。皆さん、よろしくお願いしますよ。ヌルフフフ」

*1
※第42話『深淵の学び舎』より、117レス目を参照

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