《銀海総合掲示板》 作:にわか太郎
壇上にて、蛸型の生物が自己紹介をしている。
それを呆然としながら見つめている生徒、特に無神大陸の子供達はその様子に目を丸くしていた。
「私の名前は……そうですね。親しみを込めて『殺せんせー』とでも呼んでいただければ。皆さん、よろしくお願いしますよ。ヌルフフフ」
「……マジか」
ぽつり、と誰かの声が漏れる。
「さて、先生についても紹介し終えたことですし……早速、授業を──と言いたいところですが。今日が開校初日ということもありますし、今回はレクリエーションを行いたいと思っています」
殺せんせーは壇上から降り、扉の方へと進む。
「さあ、皆さん!別教室に移動するので、先生に着いてきてください」
殺せんせーはそう言い、その後ろにはぞろぞろと生徒達が一列に並んで着いていく。そうして彼へ着いていき、廊下に出ると、その場には魔法陣が描かれた。それは次第に発光し、生徒達の視界を奪っていくと、目の前を真っ白に染め上げる。
「着きました、ここが別教室です」
殺せんせーの声が聞こえ、ゆっくりと目を開く。すると、その場は暗黒に満ちたような空間へと姿を変えていた。それは、まるで黒穹のようで──
「ここが?」
カズマが疑問の声を漏らす。
無理もないだろう。
「ええ、皆さんが戦闘を行っても大丈夫なように設計された教室……もとい疑似宇宙です。製作者の方曰く、本来なら多次元的な広がりを持つ宇宙構造にしたかったらしいのですが、世界としての強度の面も鑑みて単一の宇宙構造にしたそうです。その分、世界としての堅牢さは並の小世界を遥かに凌ぐそうですよ」
「……何だそりゃ。その言い分だと、まるで俺達を戦わせようとしているような──」
「正解!その通りです、カズマ君」
「は?」
言い切る前に殺せんせーが答えた。
生徒全員が目を点にして殺せんせーの方を見る。
「今回、君達にはレクリエーションとしてペアを組み、互いに戦ってもらいます。そして、無神大陸から来た生徒の皆さんは──」
「はぁ、レクリエーションで戦闘……レクリエーションで戦闘!?」
カズマがテンパり、思わず声を上げた。
「いや、待て待て待て!レクリエーションで戦うって何だよ!?」
「ヌルフフフ、良い反応ですねぇ。ひとまず、これから行うレクリエーションの意味について説明しましょうか」
殺せんせーは一息つき、話し始める。
「まず初めに、この授業は単なる思いつきで行っているのではありません。ここ、赤星学府ラーヴェラルオズマは深淵世界における新たな学びの場です。特に、転生という特異な経歴を持つ皆さんは、その力も在り方も千差万別。……ここまでは良いですね?」
「お、おう」
カズマの返事を聞いた後、殺せんせーは続ける。
「にもかかわらず、これまで転生者の体系的な戦力測定などは行われていませんでした。これは由々しき事態です。……改めて言いますが、皆さんは転生者です。異なる秩序、異なる世界、そして異なる能力を持つ存在。にもかかわらず、今こうして同じ学び舎に集っている。ならば、まずは互いの力量を知ること。それが集団として活動する上で、何よりも重要なことでしょう」
「……要は現状における、俺達の戦力や適性を把握するための特別授業ということか?」
ダブラが言った。
「ええ。戦闘技術は勿論、思考速度、状況判断力、協調性、精神の安定性……君達のあらゆる適性を先生は把握しようと思っています」
ヌルフフフ、と彼は控えめに笑った。
「今まで皆さんの実力は断片的にしか把握できていませんでしたからねぇ。本来なら段階的に測定するところですが……せっかくです。開校記念、ここは派手にいきましょう!」
「えぇ……?」
カズマがジト目で殺せんせーの方を見やる。
「それに、仮にこの戦力測定で、誰かが命を落とすようなことがあったとしても心配は無用。この疑似宇宙には、あらかじめ蘇生術式が組み込まれています。ゆえに肉体が滅び、根源が崩壊に至ったとしても問題はありません」
「どういう原理なんだ?」
ダブラが問うと、彼は徐ろに答えた。
「それはですね……時間と位相を固定し、死が確定した瞬間に直前の因果へと巻き戻すんですよ。要は存在そのものを復元する仕組みだと思ってください。まあ、他にも術式は組み込まれていますが……主な効果としては、そんなところですね」
「……なるほど」
「理解していただけたようで何よりです。……では、早速ですがペアを決めていきたいと思います。皆さん、先生の方に注目してください!」
全員が殺せんせーの方を見る。
すると彼は自らの触手を掲げ、魔法陣を描いた。
空中には光の文字が無数に浮かんでおり、そこには転生者達の名前が書かれていた。それが蠢き、他の文字と交わるかのようにその位置が変わる。
そうして、そこに示されたのは──
「……なあ。これ、マジでランダムなのか?」
カズマが眉をひそめる。そうしている内に一組、また一組と名が対となって固定されていった。
「ヌルフフフ、完全な無作為というわけではありませんよ?ある程度は、こちらの定めた基準に則って決めています」
「本当かよ……」
げっそりとした様子でカズマは言った。
そうして、遂にメンバーが固定され終わる。
「さあ、皆さん!それぞれの対戦相手を見つけ、ペアになり、用意された転移魔法陣の上に乗ってください」
殺せんせーがそう言うと、各々はペアを見つけ、設置されている転移魔法陣へと向かう。
「では、君達の健闘を期待していますよ」
◇
疑似宇宙。決闘用空間。
「……ったって、どう健闘すればいいんだよ。俺だって、そんなに切り札レベルの手札があるわけでもないんだぞ?」
「あまり気にするようなことでもないだろう。何より、これはレクリエーションだ。気楽にやればいい」
「いや、そうは言ってもだな……」
二人の男が星々の瞬く空間の中、話している。
足元には透明な足場が存在し、しかしその下には果てなき闇の空間が広がっていた。近くには無数の星が灯火のように瞬き、幾筋もの銀河の群れが渦を巻きながら悠然と回転していた。
星々はあまりに近く、しかしあまりに鮮明で、まるで手を伸ばせば掴めるかのようだ。
そんな只中で話している二人の男──
一方は、かつて異世界にて魔王を討伐した英雄。冒険者、佐藤カズマである。
そして、もう一方は三白眼にオールバック。黒いスーツを纏った生真面目そうな男だった。
「アンタとやり合ってタダで済むとは思えないんだよ、
──天才、日車寛見。
かつて史上最悪の呪詛師、
羂索によって術式を覚醒させられた後は完全な独学かつ、たったの十二日間で術式の解明から呪力による身体強化を会得して戦闘スタイルを確立した──のみならず、銀水聖海へと進出した後にも飛躍的な成長を遂げ続けた。生粋の天才──
「成長の度合いで言ったら君も相当なものだが」
「それでもだっつーの」
「そうか」
彼らは他愛もない会話をしつつ、互いに距離を取り合う。徐々に始まりの時間が近づいている。
カズマは脂汗を滲ませ、日車はガベルを構える。
互いに魔力と呪力を肉体に通し、自身のあらゆる能力を底上げしていく。そうして、
「領域展開──」
偽りの宇宙にて魔と呪いが廻る──