《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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戦闘の時間②

 

日車とカズマによる、魔と呪いが廻る戦いが始まってしばらく。彼らから遠く離れた別の決闘空間においても激しい戦いが繰り広げられていた。

 

そこでは軍服を纏う影絵の如き男と、巨大竜による激しい激突が万回にも渡って行われている。

 

Ira furor brevis est.(怒りは短い狂気である)

 

瞬間、軍服を着た男が詠唱し、それに応えるように無数の星々が彼の掌大まで凝縮されていく。

 

そうして相対する巨大な古き竜に放たれたのは、彼の最も得意とするところの占星術の一つ。

 

Sequere naturam.(自然に従え)

 

──超新星爆発。

 

音も振動もなく、偽りの宇宙がかき混ぜられる。

 

それは『座』に君臨していた旧神であり、存在そのものが一つの宇宙でもあった第三天(先代の主神)を一撃で滅却した破神の業火。宇宙規模の大熱波である。

 

通常であれば、疑似宇宙はそこで終わっていただろう。しかし、深淵世界の理と混ざり合ったこの疑似宇宙は、物理的秩序的にも強度の桁が違う。

 

それこそ、並の深層世界さえ上回るだろう。

 

「……流石は第四天の御業だ。通常、それが宇宙規模の攻撃であろうと私には傷一つつかないが……ご覧の通り、君の攻撃は私の鱗を砕き、肉体にさえ損傷を与えている。見事なものだ。世界の深さとは、隔絶していれば、こうも結果が変わるものなのだな」

 

しかし、目の前の古き神なる竜には、さしてダメージを与えられていないように感じる。

 

そうして超新星の残滓が星塵となって散る中、軍服の男──水銀の王(メルクリウス)は、静かに吐息をついた。

 

「なるほど、実に興味深い。自らの深さでもって、私の占星術を真っ向から受け止めたか。ああ、確かに単純極まるが……それゆえ、実に完成された防御という訳だ。称賛に値する。しかし、これはどうかな」

 

続けざまにメルクリウスは詠唱する。

 

すると次に、超空間に重力異常が発生し始めた。そうして引き起こされた現象は、俗にグレート・アトラクターと呼ばれる銀河面吸収帯の大激突。

 

これに呑まれて無事な存在など、それこそ両の手で数える程度の数しかいないだろう。

 

だが、それを黙って見ている古神竜ではない。

 

彼は自らに衝突してくるそれに向けて、あらん限りの力を込めた爪撃を振るう。それは既知世界の如何なるものであろうと斬り裂く必滅の一撃。

 

そうして彼──古神竜ドラゴンは、発生した重力異常諸共、それらの現象を一撃の下に破った。

 

その刹那──

 

Deum colit qui novit.(神を知る者は、神を敬う)

 

疑似宇宙の遍く星々が十字の形に整列した。

 

Aurea mediocritas.(黄金の中庸)

 

「むっ!?」

 

それは本来、多元的平行宇宙の天体配列に干渉して極大規模のグランドクロスを引き起こす御業。

 

しかし、今回の戦場は『座』が支配するような多次元的な領域ではない。ゆえに、本来発揮できる最大の威力からは大幅に減衰している筈だが──

 

「……まさか」

 

それは、古神竜の根源に損傷を与えていた。

 

潮汐力の激変による大津波は、それこそ神格の肉体でさえ内部沸騰させて粉砕するほどの超威力を誇るのだろう。だが、それでも古神竜にダメージを与えるほどかと問われれば、そうではない。

 

では、なぜダメージを与えられたのか。

 

それは、込められていた魔力量にあった。

 

「……あの一瞬で疑似宇宙に存在する星々に、小世界と同等の魔力を込めるとは。確かに、それによって発生するエネルギーならば、私の根源(たましい)にダメージを与えられるのも頷ける」

 

「驚かれたようで何よりだよ。……さて。このまま戦い続けてもいいが、それでは些か面白みに欠ける。ゆえに──」

 

「ああ、だから──」

 

二人は相対する形で息を合わせ、言い放つ。

 

 

 

 

──ここで君を倒す!

 

──Acta est fabula(芝居は終わりだ)

 

 

 

 

徐ろに古神竜は顎を開け、そこにエネルギーを収束し始める。喉奥に集められた力は、もはや宇宙一つを粉砕する程度には収まらない。少なくとも多元宇宙を破壊し尽くす程の威力があるだろう。

 

それは数多の神性やその眷属達を滅ぼしたがゆえに、単に「滅び」と称される白光のブレスだ。

 

それに対する神格、既知を司る蛇(メルクリウス)は生半可なやり方では痛打を与えられぬと判断したか、彼は自らの誇る至高の深層大魔法の発動を決断した。

 

その深層大魔法(ほうそく)()は、永劫回帰。即ち──

 

武器も言葉も人を傷つける

Et arma et verba vulnerant, et arma

 

順境は友を与え、欠乏は友を試す

Fortuna amicos conciliat, inopia amicos probat exempla.

 

運命は軽薄である。与えたものをすぐに返すよう求めるから

Levis est fortuna: id cito reposcit quod dedit.

 

運命は、それ自身が盲目であるだけでなく、常に助ける者たちを盲目にする

Non solum fortuna ipsa est caeca sed etiam eos caecos facit quos semper adjuvat.

 

僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、時に理性を失うことも好ましい

Misce stultitiam consiliis brevem, dulce est desipere in loco.

 

食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽はなし

Ede, bibe, lude, post mortem nulla voluptas.

 

 

Atziluth(流出)──

 

 

未知の結末を見る(アクタ・エスト・ファーブラ)

 

──世界秩序の流出である。そうして回帰の理が疑似宇宙に溢れ出ようとした瞬間、それを見計らっていたのか、古神竜は滅びのブレスを放った。

 

広がるように流れ出す新世界に対抗するように、絶対必滅の白光がそれを押し潰していく。そんな激突による余波だけで星々は灰へと変わり、遠方にある銀河団でさえ一瞬の内に消滅していった。

 

だが、そんな拮抗状態も次の瞬間──

 

「……やはり、か」

 

弱々しくドラゴンの声が響く。

 

そうして古神竜の身体には幾筋もの亀裂が走り、膝から下の部位がボロボロと砂のように崩れ落ちていってるのが分かる。勝者は一目瞭然だった。

 

「いいのかね?」

 

そうメルクリウスが問うと、古神竜ドラゴンは愉快そうに笑いながら言った。

 

「ああ、今回は君に勝ちを譲るとも。とはいえ、私も君と同じく多次元宇宙において全能たる力を行使できるのだがな……いやはや、既知世界の総軍とは恐ろしい。どれだけ質を極めようと対抗できない、数の暴威というものを改めて思い知らされた。どうして中々、海は広い」

 

そうして笑声を静かなものに変え、彼は楽しげな表情で自らの掌を見つめた。

 

「つまり、私にもまだ成長の余地があったということだ。ならば、次に備えて力を蓄え、更なる深さを求めていくだけのこと」

 

滅びていく自身の身体に頓着せず、ドラゴンは勝者たる水銀の蛇(メルクリウス)へと笑いかける。それは、今度は負けぬとばかりの力強い笑みだった。

 

「ああ、水銀の王。既知を司る蛇、あらゆる宇宙と時空を覆いし双頭の白蛇(カドゥケウス)よ。此度は私の負けだが……次も勝ちを譲るわけにはいかんぞ?」

 

「抜かせよ。女神の声援がある限り、私に敗北など万に一つもありえん。ゆえに、次の戦においても──勝つのは私だ」

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