《銀海総合掲示板》 作:にわか太郎
銀水聖海。深層五十層付近。
そこは銀の光がさんざめく海の中、辺りには途方もない数の銀泡が浮かんでいる。それらの光景は壮観で、壮大。そして、如何なるものにも喩えることのできない美しさを兼ね備えていた。
しかしその一方で、それに匹敵するだけの恐ろしさも含んでいる大海原でもあった。
生命の存在を許さないこの海には、根源に訴えかける危険極まりない
そこを一隻の巨大な
次元境界穿孔艦ストーム・ボーダー。
かつては
「いや〜、皆で旅行しに行くなんて聞いた時はどうなることかと思ったけど……今のところは楽しい旅になっているな」
乗員の一人が愉しげな表情で言う。
中性的な顔立ちに、蒼銀の髪と金色の瞳をした存在──リムル=テンペストだ。
「まだパブロへタラは表立っていないし、どこかの小世界に捕まる心配も今は皆無だ。とはいえ、ここは秩序が支配する海──銀水聖海。この先、どんな横暴が
それに続き、小柄な少年──キャプテン・ネモが言葉を発する。
「そりゃそうだ」
うんうんと、リムルは首肯する。
「ねぇねぇキャプテン、お堅い話は一旦忘れようよ!それより、次はどこに向かうの?吟遊世界ウィスプウェンズ?有翼世界アリファーバ?」
すると廊下から走ってきた少年の声が、ストーム・ボーダーの司令室に賑やかに響き渡る。
ネモ・マリーンだ。
「どうだろうね。ウィスプウェンズは現在、入界できるか分からないけど一考の価値はある。……だけど、アリファーバは深層十二界だ。そこに君臨する不可侵領海や、大魔王を敵には回せない」
「えぇ〜?つまんないのー」
このストーム・ボーダーの船長、キャプテン・ネモは、己の分身たるマリーンに深層十二界に侵入する危険性を滾々と説く。
だが、そんな話を聞かされた当のマリーンは、つまらなさそうに口を尖らせていた。
マリーンの気持ちは己の分身故、ネモにも理解できる。しかし深層十二界に侵入してしまえば、待っているのは銀海の絶対強者──不可侵領海だ。
ネモは、司令室にいる
だがこの海においては不可侵領海と呼ばれる別格が、決して触れてはならない禁忌が在る。
それらの存在が居る以上、彼らは深層世界級の強者だとしても、この果てしない海における絶対強者として君臨することは叶わないのだ。
深層世界に君臨する彼らは、一部の例外を除いて、深層十二界にある各々の小世界に座する。特にその代表格──「魔王」などは大魔王の継承者となるべく日夜、己が力の研鑽に勤しんでいる。
今のままでは間違いなく、こちらが返り討ちにあうだろう。たとえ
それほどまでなのだ。
この海における、深さという
それでも……それでも尚、彼らの
「大魔王ジニア・シーヴァヘルドと交渉するしかない、か……」
「えっ?」
幾人かがネモの呟きに反応した。
まるで興味が湧いたといったばかりに、彼らは耳を研ぎ澄ませている。そして、それ以外の面子は極端にその顔を青褪めさせていた。
それに何より──
「……気が変わったよ。マリーン、取り舵いっぱい!」
「え、え?キャプテン、いきなりどったの???」
「いいから、アッチに舵を切るんだ」
「分かったけど……って、え?キャプテン、こっちの方角って!?」
マリーンは自分達が向かう方角に、何があるのか察しがついたようで、あたふたと慌てている。
「ああ、僕達は今から深層十二界に向かう」
乗員の内、数名は漸く自身の置かれている状況に気づいたようで、頭を抱えている者さえ居た。
「本当にどったのさ、キャプテン!?普段のキャプテンなら、こんなこと言わないのに〜!!!」
「
ネモは少し俯いたが、すぐに顔を上げた。その顔はどこか、晴れやかなものになっている。
「今の僕は『転生者』だ。ネモであり、トリトンであり──そしてそれらとは異なる存在。要するに、僕は
思いの丈をひとしきり述べた後、恥ずかしそうに頭を掻きながらネモはぽつりと言葉を発した。
「……とは言ってみたけど、実際は
そこから先は何を言おうとしたのか、ネモは言葉を詰まらせ結局、話そうとはしなかった。
そうして頭を振り、キャプテン・ネモは前方を見つめ直す。さて、今度こそ出発だ──!
「皆、次の僕達が向かうべき先が見つかった。目的地は深層十二界、大魔王ジニアの領海だ!」
そうしてネモは再度、マリーンに指示を出した。彼らが行き先を間違えぬよう、声高らかに。
「マリーン。深層十二界に向けて、全速前進!」
※ストーム・ボーダーは銀海を渡れるように、幾人かの転生者の手によって魔改造されています。