《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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大混戦

 

災淵世界イーヴェゼイノ。氷雪地帯上空。

 

「<獅子災淵滅水刃(アッロ・ゼスタット)>」

 

「<獅子災淵追滅壊黒球(べセラ・エヌド・アンゼオス)>っっ!!!」

 

災淵世界の空に滅びの魔法が顕現する。

 

ナーガとボボンガの二人によって放たれた水刃と黒球は、目の前の不可侵領海に接近していく。だが、そこで水刃と黒球の軌道が大きく変化した。

 

それは互いの魔法が衝突するかのような軌道へと変わったのだ。そして滅びと滅びがぶつかり合い、強大な魔力同士が交わった瞬間──

 

黒き魔力を纏った大水刃へと変貌した。

 

それは並の小世界に掠りでもすれば、それだけで滅亡しかねない絶滅の大水刃。アムル達は迫りくる大魔法の危険性を見抜き、即座に回避する。

 

しかし、

 

「無駄だ!」

 

ボボンガがニヤリと笑う。

 

次の瞬間、通り過ぎていったはずの滅びの水刃が向きを変え、再びアムル達のもとへと迫っていく。二人はそれを更に回避するが、結果は同じ。その大水刃は執拗にアムル達を追尾していく。

 

おそらくはナーガの<獅子災淵滅水刃(アッロ・ゼスタット)>を攻撃の主軸とし、それに内包される形でボボンガの<獅子災淵追滅壊黒球(べセラ・エヌド・アンゼオス)>の対象を追尾するという、その特性のみが水刃に反映されているのだろう。

 

そうして絶滅の水刃は二人の鼻先に迫り、対処を急ごうとアムルは掌を紅蓮に染め上げるが──

 

「──そんな大きな隙を、私が見逃すと思っているのかしら?」

 

いつの間にかボボンガの後ろに控えていたナーガが、突如として軸足を入れ替え、描かれていた黒き水の魔法陣を獅子の脚で真っ直ぐ蹴り抜く。

 

「<獅子災淵滅水衝黒渦(アッロ・レーネ・アロボロス)>」

 

鼻先に迫る大水刃とともに、溢れ出したのは黒緑の水。それにより発生した黒渦は、眼下に広がる空間や氷雪地帯をみるみると溶滅(ようめつ)させていく。

 

飛び散る黒緑の水飛沫は災淵世界イーヴェゼイノの万物万象を溶かし、やがて第一魔王アムルの身体を侵食せんと力を発揮した──その時だった。

 

「……!」

 

突如、彼の身体が紅蓮に染まる。

 

その紅蓮の炎はアムルの全身を覆い、根源を含めた彼の全てを極めて強固に固め上げているのだ。

 

「……恐ろしいわね。そんな途方もない力を持って、貴方達はイーヴェゼイノで何をするつもりだったのかしら?」

 

ナーガは魔眼()を光らせ、深淵を覗く。

 

それは相手の真意を覗き、測らんとしているかのような鋭い視線だ。それにアムルは答える。

 

「さて。理由は説明したはずだが?」

 

「ただの通りすがり、だったかしら。そんな都合の良い理由を本気で信じると思っているの?」

 

ナーガの視線が更に鋭くなる。

 

それに比例してボボンガの殺意も膨れ上がり、対する二者の魔眼もその輝きを増していった。

 

しばし、静寂の時が流れる。

 

そんな四者間での静かな睨み合いが続き、戦闘が更に激化の一途を辿ろうとした時だった。

 

ダガアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!

 

突如、けたたましい爆音が大空を支配した。

 

「……なんだ?」

 

ボボンガが苛ついた表情で空を見つめる。

 

そして爆音の方向に魔眼()を向け、己が視界を遠くの方へと飛ばす。そこで視界に入ってきたのは、黒穹から墜落していく見覚えのない船だった。

 

災淵世界のものではない。

 

それに続き、アムル達も魔眼を向ける。

 

「……あれは」

 

「次元境界穿孔艦ストーム・ボーダー」

 

眉を顰める第一魔王の言葉に続くようにして、二律僭主は答えた。しかし、ノアもまた疑問を浮かべるかのような表情で、その魔眼()を細めている。

 

なぜ、普段は無神大陸に置かれているはずの船が、イーヴェゼイノの空で墜落しているのか。

 

ノアが思考を巡らせ、深く考え込もうとした時。

 

通信が入った。<思念通信(リークス)>である。

 

『──大変だ、二律僭主っ……!』

 

『ネモ、何があった?』

 

ノアは即座に聞き返し、状況確認を行った。

 

『深層十二界から逃れる形で現在、災淵世界イーヴェゼイノに入界した。理由は定かではないが、突如として四人の魔王が無神大陸を襲撃し始めた……!第八魔王と第九魔王は、無神大陸に残ったラインハルト達が対応しているが……すまない。こちらには第六魔王と第十魔王が──』

 

『分かった。あとは任せるがいい』

 

思念通信(リークス)>の通信を切り、二律僭主は堕ちゆくストーム・ボーダーに魔法陣を描いた。

 

すると、どこからともなく顕現した影が巨艦を覆っていく。やがて巨影が船を覆い尽くすと、ストーム・ボーダーはその場からスッと消えた。まるで最初から存在した痕跡がなかったかのように。

 

「──アムル、聞いていたな」

 

ノアがそう問うと、アムルは頷く。

 

「ああ。しかし、奴らは厄介事を持ってくるのが上手い。なかなかどうして、お前と同じく飽きん」

 

「──おい」

 

くつくつと喉を鳴らし、笑うアムル。だが、目の前にいたボボンガは、その殺気を大きく増す。

 

その苛つきが限界に達したのだろう。

 

「さっきからゴチャゴチャと何を言っている。貴様らの相手は──(おれ)だっ!!!」

 

そう言うと、ボボンガはアムルに飛びかかる。

 

その時だった。

 

「……っ……!?」

 

アムルとボボンガの間に紫炎が現れた。

 

それは強大な魔力を発しており、掠るだけでも根源が致命的な傷を負ってもおかしくない。

 

その危険性を見抜いたボボンガは、紫炎が飛来する直前にその場から飛び退いた。対するアムルは泰然とした様子で、その場から動かない。

 

瞬間──

 

「久しいな、第一魔王。五百年ぶりか?」

 

上から声が聞こえた。

 

そこで上空を見上げる。そこからゆるりと降下してきたのは、(こう)()()(かい)の第十魔王ダンカンだ。その横には(じん)()()(かい)の第六魔王エルヴィナを伴っており、ダンカンは不敵な笑みを浮かべている。

 

「それに──二律僭主もいるとは。ならば尚更、都合が良いというものだ」

 

「何の話だ?」

 

ノアが第十魔王に問うた瞬間、彼らはイーヴェゼイノで莫大な魔力を解放する。そして第十魔王ダンカンは両手に魔力を集中させ、そこから立ち上る粒子が、災淵世界の空を真っ白に染め上げた。

 

「魔王……!?」

 

「……やっぱり。途中からおかしいとは思っていたのよ。私達の攻撃が容易く()なされている時点で気づくべきだったわ。そんなことをやれるのは災人さんくらいなのに……でも、彼らの正体が不可侵領海だというのなら納得」

 

ボボンガ達は目を見張り、驚愕する。

 

だが、話は二人を置き去りにして進んでいった。

 

「お前達の行動は、兼ねてより見過ごせんものがあった。我らが深層十二界に得体の知れない異物を招き入れたこともそうだが……」

 

一拍置き、ダンカンは言う。

 

「奴らの行動は些か、目に余るものがある。いくら大魔王様が深層十二界における居住と行動を許しているとはいえ、限度というものがあるだろう。ゆえに──」

 

横にいる第六魔王エルヴィナとともに、ダンカンはその強大な魔力を隠そうともせずに顕現させる。その刹那、災淵世界が割れようとしていた。

 

暗雲は消し飛び、氷山は崩れ、大地という大地が木っ端微塵に吹き飛ぶ。さながら、それは古今未曾有の天変地異といっても差し支えないだろう。

 

「貴様らに真の魔王の恐ろしさを教えてやる。かかって来い、ひよっこが」

 

ダンカンは目を鋭くし、臨戦態勢に入った。エルヴィナも同様に、愛馬に跨って魔力を滾らせる。

 

銀水聖海における屈指の強者として、畏怖されている不可侵領海。その内の四人が災淵世界に集まり、前代未聞の戦いを繰り広げようとしている。

 

「話が早い」

 

アムルが鼻を鳴らし、己が身に宿る憎悪の炎を燃やす。そしてノアもまた、秩序に反する影を纏って力を著しく高めた上で自身を深化させていく。

 

そんな四者が激突しようとした刹那──

 

災淵世界イーヴェゼイノが凍りついた。

 

「──面白(おもしれ)え」

 

声が聞こえたのは遥か下方からだ。睨み合っていた四人は声が聞こえた方向に視線を向ける。

 

そして、もはや蚊帳の外にいたはずのナーガ達でさえも、その光景に目を見開いて絶句した。

 

そこにいたのは蒼い魔眼()を持ち、同じく(たてがみ)のような蒼い髪の獣が如き巨漢だった。それは(まさ)しく、先程までノア達に運ばれていた氷柱の中にいたはずの不可侵領海。災淵世界の主神にして元首。

 

「災人イザーク……」

 

「何の騒ぎかと思えば、こいつは傑作じゃねえの」

 

くつくつと喉を鳴らし、災人は笑う。

 

「深層十二界に引き篭もっているはずの魔王どもが寝蔵から出てきた挙句、うちで戦争をおっ始めようたぁ面白(おもしれ)え。なあ、おい──」

 

その獣のような巨体に夥しい冷気を纏い、上空にいる魔王達のもとへと飛び上がっていく。

 

そしてイザークは不敵な笑みを湛えて言った。

 

「──オレとも遊んでいけや」




カオスだなぁ……
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