《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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侵してはならぬ禁忌

 

狂喜の笑みで災人イザークが魔法を発動する。すると、彼の身体から夥しい冷気が発せられた。

 

「<災冷寒獄(ペイズ)>」

 

おそらくは挨拶代わりの攻撃だろう。そして、みるみると周辺一帯が瞬く間に凍りついていく。

 

それをアムル達は危なげなく対処した。

 

しかし、

 

「がら空きだぜ」

 

ダンカンの後方からイザークの声がする。

 

一瞬でダンカンは振り返るが、その隙とも言えぬ刹那の間を狙って災人が片手で魔法陣を描いた。

 

その爪が凍りつき、蒼き魔力が集中していく。あたかも主神と共鳴するかのように、災淵世界イーヴェゼイノが揺れに揺れ、暴風が渦を巻いた。

 

「界殺災爪ジズエンズベイズ」

 

狂喜の笑みを浮かべ、災人はその五爪を振るう。

 

「シャッ!」

 

その災爪は空間を引き裂き、その先にいる第十魔王へ狙いを定めて攻撃をしかけた。まともに食らえば、並の深層世界とて八つ裂きにする爪撃だ。

 

「<降魔轟絶(ジーズ・ゼイズ)──」

 

ダンカンは咄嗟に深層大魔法を発動しようとする。しかし、災人の方が僅かに早かったのだ。

 

空には地平線の彼方まで続く爪痕が残された。

 

その五爪はダンカンの身体をズタズタに裂くが、根源は僅かに抉れるに留まる。

 

「……災淵世界の猛獣が。だが、その慢心が致命的だったな」

 

「あ?」

 

しかし、ダンカンは笑みを浮かべる。

 

その言葉に災人は眉を顰め、蒼い魔眼()を光らせるが瞬間──第十魔王の背後の輪郭がブレた。

 

そこから出てきたのは第六魔王エルヴィナだ。

 

彼は跨っていた愛馬とともに、更に上空の方へと飛んでいく。そこは星々が瞬く黒穹だ。

 

そしてエルヴィナは魔法陣を描き、愛馬と一体化していく。それはまさしく人馬一体といった様子で、半人半馬となったのだ。左に闇の翼が、右に光の翼が生えて、彼はふわりと浮かび上がる。

 

光と闇。

 

相反する二つの力がバチバチと鬩ぎ合いながら、エルヴィナは周囲に球状の結界を構築した。

 

「<深人馬合一魔翼光聖(オルゼオ・フォル・バリドン)>」

 

その状態のまま、第六魔王エルヴィナは災人イザークに向かって急降下していく。それは光よりもなお速く、強大な力を纏って突貫しているのだ。

 

(おせ)え」

 

だが、もう一方の手で災人は魔法陣を描く。

 

そして爪が凍りつき、蒼き魔力が再び集中し始めた。それは界殺災爪ジズエンズベイズだ。

 

「ジアァァァシャッ!!」

 

空間が裂かれ、災淵世界が壊滅していく。

 

そして第六魔王エルヴィナの鼻先に災爪が迫るが、彼はそれを無視して災人へと直進した。

 

「へーえ」

 

流石は不可侵領海といったところか。

 

彼は身に迫る災爪をものともせず、逆に攻撃を跡形もなく破壊しながら突き進んでいるのだ。

 

それを見たイザークは歓喜に沸き立つ。

 

「オレの災爪を逆に壊すたあ、やるじゃねえの。だが──」

 

そしてエルヴィナが目前に迫り、その相反する力でもって災人イザークに突撃した瞬間──

 

「……なに?」

 

彼の身体が凍りつく。

 

「まだ足りねえな。この程度じゃ、オレの身体に傷をつけることなんざ出来ねえ。出直してきな、第六魔王」

 

第六魔王に対して、災人は鼻を鳴らして言った。

 

まるで最初から攻撃など受けていないとばかりに、災人は泰然とした姿を保っているのだ。そうして災淵世界の空に悠然と君臨する様は、まさしく彼が不可侵領海であることを物語っている。

 

「さて──」

 

災人は向きを変え、徐ろに違う方向を見据えた。

 

それは別のものに興味が移ったかのように、イザークは獰猛な笑みを浮かべて視線の先の人物を見つめていた。そこにいるのは第六魔王エルヴィナでも、ましてや第十魔王ダンカンですらない。

 

「──次はてめえの番だぜ。第一魔王」

 

口角を吊り上げ、災人は周囲に魔法陣を描く。

 

「<狂牙氷柱滅多刺(ガーズ・ヴォイド)>」

 

刹那、第一魔王アムルの周囲から鋭く尖った蒼き氷柱(つらら)がぬっと出現した。その氷柱は全方位から避ける隙間もなく、怒涛の勢いで発射されたのだ。

 

しかし、

 

「<極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア)>」

 

アムルの指先から放たれた終末の火が、迫りくる無数の蒼き氷柱を問答無用で溶かし尽くした。

 

それだけに飽き足らず、終末の火は災淵世界イーヴェゼイノの一切を滅ぼさんと荒れ狂うが──

 

「ハッ、流石に(つえ)え。だが、まだ本気じゃねえな」

 

瞬間、世界の一切が凍りついた。

 

イザークは再び、狂喜の笑みを浮かべる。

 

「気遣いのつもりなら、遠慮はいらねえぜ。てめえの本気を見せてみな」

 

「出させてみろ」

 

アムルはすぐさま紅蓮の炎を身体に纏い、災人もまた蒼く冷たい魔力を発している。両者は上空から降下し、やがて凍土の上にそっと降りた。

 

そうして視線が交わった瞬間──

 

「……ジャッ!!」

 

アムルとイザークは互いに地面を蹴り出した。

 

先に魔法陣を描いたのはイザークだ。奴は遠慮なく、界殺災爪ジズエンズベイズを発動する。そして蒼き魔力にて災淵世界が鳴動し、凍てつく五爪が第一魔王アムルの根源を抉らんと迫った刹那。

 

アムルが腕を組み、魔法陣を描いた。

 

「<双魔紅蓮滅掌極炎砲(ディオマ・ゼオン・ガデイオス)>」

 

「……!」

 

それは迫りくる爪撃に対し、双頭の炎となって一直線に直撃する。そうして<双魔紅蓮滅掌極炎砲(ディオマ・ゼオン・ガデイオス)>は世界殺しの災爪を燃やし、界殺災爪ジズエンズベイズは双頭の炎をジリジリと削っていく。

 

その勢いのままにアムルはイザークへと突っ込んでいき、奴の根源を握り潰さんと迫るが──

 

(ぬり)い」

 

イザークはなおも、凶悪な笑みを浮かべていた。

 

奴の胸板は紅蓮の手掌により貫かれ、その強壮なる根源はアムルの手に握られている。だが、その根源は握り潰そうと力を入れた瞬間に凍結した。

 

「これが<凍獄(とうごく)(さい)()>か」

 

「……はっ」

 

アムルがそう呟くと、イザークは目を細める。

 

「なんで、てめえがそれを知ってる?」

 

「さて、な。気になるというのなら、お前の流儀で聞き出せばいい」

 

すると、アムルは終末の火を使って魔法陣を描いた。黒灰を用いて描かれたそれは、第一魔王アムルが誇る至高の深層大魔法。すなわち──

 

「<極獄界滅壊陣魔砲(エギルズ・グロア・アウヴスハーデ)>」

 

左手から至近距離で放たれた終極の黒炎は、深層世界である災淵世界イーヴェゼイノの一切を滅ぼし尽くさんと荒れに荒れ狂っている。それは先の<極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア)>を遥かに超える威力だ。

 

だが、そこで──

 

奴の全身から、かつてないほど冷たい魔力が発せられた。これまで災人イザークの力によって凍結された全てのものが氷の結晶と化し、それにより魔法陣を描きながら、この場へ舞い降りてくる。

 

奴はニヤリと笑い、言った。

 

「<氷獄災禍凛令終天凍土(シヴィラ・エビオン・バルムアーデ)>」

 

災人の周囲に、蒼き氷晶が吹雪の如く吹き荒ぶ。

 

そして終極の黒炎さえもが一部、凍りついた。

 

その災禍の氷晶に触れたものは物体のみならず、魔力や時間、秩序、根源さえも凍らせ、万物余さず、あらゆる全ての活動を停止させていく。災人イザークの主神としての権能──すなわち<凍獄の災禍>を魔法術式に組み込んだ深層大魔法。

 

その権能自体はイザーク自身の根源、もしくは災淵世界イーヴェゼイノの秩序に触れる可能性のある全ての未来を凍結させるという強大なものだ。

 

その結果、万物の一切が凍りついていった。

 

第六魔王も、第十魔王も、そしてアーツェノンの滅びの獅子達でさえも。銀泡自体を凍結せんと、深層大魔法は強くその真価を発揮していく。

 

だが、その中で氷晶に侵されない者達がいた。

 

「くっくっく。てめえ、どうなってやがる?」

 

獰猛な笑みを隠しきれず、目を見張らせ、牙を覗かせながら災人は笑っている。それは第一魔王アムルが災禍の氷晶による影響を一切受けず、自身の目の前で泰然と立ち尽くしているからである。

 

しかし、その問いにアムルは答えようとせず、彼は再び最大最強の深層大魔法を放とうとした。

 

その瞬間だった。

 

「<背反影体(ダヴエル)>」

 

それは秩序に反するかのような挙動で、災人の影が別の方向へぐんと伸びていく。そして影は一点に収束していき、とある人物の足下で止まった。

 

二律僭主ノアである。

 

「<二律影踏(ダグダラ)>」

 

「……が………………!」

 

ノアはズガンッと地を踏み抜いた。

 

すると、イザークの根源に凄まじい力が突き刺さり、権能を無視して滅びの衝撃が叩き込まれる。

 

ノアは既に<背反影体(ダヴエル)>と<涅槃七歩征服(ギリエリアム・ナヴィエム)>を発動しており、それによって深化した<二律影踏(ダグダラ)>は奴の権能を無視して、根源を貫通したのだ。

 

奴は膝を折り、睨みながらも狂喜を浮かべる。

 

「……てめ、え…………!」

 

横から割り込んだというのに、それでも災人は満足そうな顔をして二律僭主を睨めつけていた。

 

奴は自身が受けたダメージに比例するように、夥しいほどに冷たく強大な魔力を放出していく。

 

そして、二律僭主は災人に近づいて言った。

 

「次は私の番だ。卿の力を見せてみよ、イザーク」

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