《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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※【注意】オリジナル魔法が登場します。苦手な方は読み飛ばすか、ブラウザバックを推奨します


混沌と災禍

 

「ジァァアアアッ!!」

 

その凍土の上で膝を折っていた災人は、すぐさま中腰となって二律僭主に襲いかかる。

 

そして奴は手掌を蒼く凍てつかせた。

 

対する二律僭主は掌を漆黒に染め上げる。

 

「<災牙氷掌(ガルムンク)>」

 

「<深源死殺(ベブズド)>」

 

氷が砕ける音が響いた。

 

黒き滅びの力を纏った<深源死殺(ベブズド)>の指先が、イザークの<災牙氷掌(ガルムンク)>の手掌を抑え込んだのだ。

 

「──食らいな」

 

だが、そこで災人はニヤリと笑う。

 

奴は二律僭主の攻撃を見通していたとばかりに、凍てつく氷掌でノアの左腕を鷲掴みにする。そして、ギチギチとありったけの力を込めていった。

 

イザークが獰猛に牙を覗かせて笑うと、その<災牙氷掌(ガルムンク)>とは反対の手で魔法陣を描く。

 

それは幾度目か、イザークは爪を蒼く凍らせていく。そして災淵世界もまた、その魔力に共鳴するように鳴動した。界殺災爪ジズエンズベイズだ。

 

「ジャッ!!」

 

至近距離で放たれる災爪。

 

しかし、二律僭主も泰然とした様子を崩さずに、掴まれている手と反対の手で魔法陣を描いた。

 

瞬間──

 

「……っ……!?」

 

ノアの右手が悍ましい黒に染まる。

 

それは先程の<深源死殺(ベブズド)>以上に深く、そして混沌とした滅びに染まっており、界殺災爪ジズエンズベイズを超える未曾有の力で満たされている。

 

そうして目前に迫る災爪を握り潰すかのように、その滅びの魔法は発動された。

 

「<混滅死手(ヴェレト)>」

 

混沌とした滅びの手掌が災爪に触れる。

 

その瞬間、災人は掴んでいた腕を離して全力で後方に退避した。さしもの奴も、この圧倒的な混沌の滅びには想像以上の危険を感じたのだろう。

 

獣の勘かどうかは知らぬが、よい判断力だ。

 

「てめえ……」

 

「見事だ。私が災爪に触れる前に危険を察知し、これを避けるとは。流石に不可侵領海と呼ばれるだけのことはある」

 

ノアは魔法を発動したまま、災人を見つめる。

 

「……で?どうなってやがんだ、そりゃ」

 

そして災人は珍しく相手の魔法に興味が湧いたのか、その蒼い魔眼()を煌々と光らせて深淵を覗く。

 

だが、深淵が一向に見えてこない。あまりにも混沌としすぎて、覗いているのが浅い領域なのか、それとも深い領域なのかさえ判別がつかない。

 

こんな魔法は悠久の時を生き、銀水聖海の名だたる強者達と渡り合ってきた災人をして見たことがない。それほどに強大で、異質なものなのだ。

 

「カラクリを見せな、二律僭主っ!!」

 

「暴いてみよ」

 

先程まで感じていた危険など知らぬとばかりに、災人イザークは二律僭主に襲いかかった。

 

そうして災人は拳を固く握り込み、先の<氷獄災禍凛令終天凍土(シヴィラ・エビオン・バルムアーデ)>により更に冷たく、強大に深化した<災牙氷掌(ガルムンク)>の拳を二律僭主に叩き込む。

 

しかし──

 

「……(かて)え」

 

二律僭主の身体を凍傷に侵さんと、その力を発揮する<災牙氷掌(ガルムンク)>は全くもって通用しなかった。

 

混沌を征した身体が<災牙氷掌(ガルムンク)>を阻んだのだ。

 

その一瞬の隙を見据え、二律僭主は<混滅死手(ヴェレト)>の魔法を解除し、すかさず別の魔法陣を描く。

 

「<界滅死手(ヴェレト)>」

 

発動したのは先の魔法と同じ、滅びの魔法。

 

しかし、それは先程のものより滅びの力が弱く、圧倒的なまでの混沌に満ちているわけでもない。

 

それを災人の魔眼()は瞬時に見抜いた。

 

イザークは<災牙氷掌(ガルムンク)>と<氷獄災禍凛令終天凍土(シヴィラ・エビオン・バルムアーデ)>を解除せず、それに複数の魔法を重ね掛けるようにして合わせ、その魔法を深化させていく。

 

「シャッ、シャッ──ジアァァァシャッ!!」

 

奴は(あめ)(あられ)のごとく、界殺災爪ジズエンズベイズを乱れ撃った。それは深層世界を十並べようとも、余さず八つ裂きにできるだろう災爪の連撃だ。

 

避ける術はない。

 

「……!!」

 

ガ、ガガ、ガガガ、ガギィイイイイイイイ!!!

 

しかし、災人が界殺災爪ジズエンズベイズを振るったように、二律僭主も<界滅死手(ヴェレト)>の力に染まった滅びの指先を爪に見立てて手掌を振るった。

 

刹那──イーヴェゼイノの空が割れる。

 

それはイザークの災爪と同じく、空には地平線の彼方まで続くほど巨大な爪痕が残されたのだ。

 

そうして災爪と滅爪はぶつかり合う。

 

互いが互いを削り、その爪撃は鋭さを増していった。界殺災爪ジズエンズベイズは<界滅死手(ヴェレト)>の滅びを削り、<界滅死手(ヴェレト)>は蒼き魔力を纏った無数の災爪を引き裂き、瞬く間に滅ぼしていく。

 

そんな鬩ぎ合いの中で突如──

 

「…………」

 

「うぜえ」

 

遥か上空から強大な魔力が発せられた。

 

二律僭主ノアは目を細め、災人イザークは忌々しげに言葉を発しながらも彼方の空を見上げる。

 

空が、海が、大地が揺れていた──否、それだけではない。あらゆる時間が、あらゆる空間が、あらゆる秩序が恐怖するかのように震動している。

 

それは、この世界の《淵》である馬鹿でかい水(たま)り──銀水聖海のあらゆる渇望が集まり、水底で渦巻く<渇望(かつぼう)災淵(さいえん)>でさえも例外ではない。

 

この世の一切が激しく揺れ、動いているのだ。

 

そんなイーヴェゼイノの空には、ゆらゆらと揺らめく闇の粒子が立ち上っていた。それこそが災淵世界の有形無形、天地万物の一切に影響を与えているものの正体──それは第十魔王ダンカンだ。

 

彼の背後には強大な力を有した闇の粒子が漂っており、それはまるで邪悪な亡霊のように見えた。

 

「残念だったな。今度こそ終わりだ──」

 

ダンカンの背後に控える邪悪な亡霊は、世界の一切を滅ぼさんと闇に塗れた魔力を解放していく。

 

第十魔王は災人の権能たる<凍獄の災禍>を含め、その深層大魔法でイーヴェゼイノごと全てを消し飛ばすつもりなのだろう。確かに、ダンカンほどの実力者であればそれも不可能ではない。

 

事実、今のイザークは<凍獄の災禍>が正常に機能していない。それは如何なる魔法か、不可侵領海にして主神たる奴の権能さえ封じているのだ。

 

それが生半可な魔法でないことは確かだろう。

 

深層十二界を支配し、銀海史上初めて深淵魔法に到達した魔導の覇者──大魔王ジニア・シーヴァヘルド。その継承者候補たる魔王の実力は、あらゆる存在を超越するほどに強大なものなのだ。

 

そして彼は魔法陣を描き、発動した。

 

「<降魔轟絶深王宝華(ジーズ・ゼイズ・エベロディオ)>!!」

 

深き闇の亡霊を身に纏い、遥か下方にいる二人の不可侵領海を纏めて討たんと力を荒れ狂わせる。あらゆる魔力を励起させ、災人イザークと二律僭主ノアに迫らんと力を発揮した次の瞬間──

 

その背後から紅蓮が奔った。

 

「……!?!?き、さまっ……!!!」

 

「悪いが、お前の出番はない」

 

それは掌に夥しい憎悪の力を込め、手刀でダンカンの胸を貫く第一魔王アムルだ。彼は()えて手掌をダンカンの根源から逸らし、上手く第十魔王の胸を貫くに留めている。それを深層大魔法の発動から刹那にも満たぬ一瞬を狙い、実行に移した。

 

流石は第一魔王といったところか。

 

そうして第十魔王ダンカンによる深層大魔法の魔力が霧散していき、深き闇の亡霊は形を保てずに音を立てて崩壊していく。その影響もあってか、震撼していた万物も次第にその震えを止めた。

 

「第一魔王アムル……!」

 

第十魔王はギリッと歯噛みをし、アムルを睨もうとする。背後にいる相手が憎くて堪らないといった表情だ。しかし、その憎悪に染まったダンカンの想いを<心火の魔眼>は見逃さなかった。

 

瞬間、第十魔王の身体から赤黒い炎が溢れた。それは天を突くように更なる空へ上昇し、やがて荒れ狂う炎が天から落ちてきてアムルに降り注ぐ。

 

「……!?」

 

「お前が他者を憎む心を持つ限り、俺を滅ぼすことはできん」

 

アムルは掌に先程以上の憎悪の炎を滾らせ、その魔力を解放していくごとに深淵へと沈んでいく。

 

その深き魔力に魔眼()を見張る第十魔王ダンカン、助力するかのようにダンカンの側に寄った第六魔王エルヴィナの両名が額に脂汗を滲ませている。

 

そしてアムルは宣言するかのように言った。

 

「──来い。纏めて相手をしてやる」




次回は(多分)掲示板回です。
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