《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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諸事情により投稿が遅れました……
今回は神座勢の視点からお届けいたします。


深奥にて

 

「──よし、集まったな?」

 

空間に声が響いた。

 

そこで聞こえたのは青年の声だ。

 

しかし、それは落ち着きつつも老成したかのような雰囲気を纏い、厳かに言葉を紡いでいる。

 

「正確には全員ではないがね」

 

また一人、何の気無しに男が声を上げる。

 

だが、それだけで黄金に輝く天が落ちてくるような強烈な錯覚を覚えた。そうして発された声は、一音一音が絶対的な王気を纏った魔性の言霊。

 

聞くだけで諸人を跪かせるに足る神威だ。

 

それは第四天の自滅因子。黄金の獣、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒのもの。

 

そんな声を皮切りに辺りへ意識を向けると、そこかしこから今にも溢れ出しそうな六つの神威を感じた。そこから感じる感情も多様であり、殺意や執着、慈愛といった想いが空間を満たしている。

 

「波旬は防衛上の観点から仕方ないとして……この面子の中に真我殿だけが居られないのは何故(なにゆえ)か。何よりもナラカと正帝を脅威として定め、動かれていた彼女(初代)が逃げるという選択を取るとは考え難い。そこについては、どうお考えかな?二代目殿よ」

 

疑問を呈しつつもニヤリと笑みを浮かべ、二代目と呼ばれた男に問いを投げかけるのは──第四神座、カール・クラフト=メルクリウスである。

 

彼は己の対角線上にある「座」に坐り、今も不機嫌そうな表情を浮かべている男へと問うたのだ。

 

「──知らん。あの女がいないことについては心底、どうでもいい。俺に聞いてくれるなよ」

 

そこで問われた男もまた、神と呼ぶに相応しい実力を携えている。その男の名は()(ざん)。神座の初代である真我(アヴェスター)を倒し、二代目の神として王冠たる「座」に就いた冥府魔導の凶戦士だ。

 

しかし問いかけられた無慙は仏頂面で、それ以上に夥しい殺意と怨念を辺りに振り撒いている。

 

だが、そこでまた別の男が声を発した。

 

「埒が明かんな。このまま無駄に時間を費やし、駄弁を述べ続けるというのなら私は去るが……そうではないのだろう。刹那よ、お前が続けるといい」

 

泰然と腕を組む男の名は明星(ネロス・サタナイル)

 

無慙の子として第二神座に生まれ、全ての生命に埋め込まれる「原罪(つみ)」を憎み、原罪浄化せんと天に戦いを挑んで神の座に坐った神座の三代目だ。

 

そんな明星も呆れたような雰囲気を出しつつ、この場の纏め役を蓮に押しつけるように振る舞う。

 

「……分かったよ。その前にラインハルト、波旬は今どこにいる?」

 

「異なことを聞く。卿は知っているはずだが?」

 

「情報を擦り合わせておきたいんだよ」

 

呆れたように溜め息をつき、永遠の刹那──藤井蓮は言った。その言葉にラインハルトは一先ず納得を示し、王気を漂わせながら情報を口にする。

 

「ふむ。であれば現在、波旬は個別世界グラウヴェノアにいるが?」

 

「……やっぱりか。まあ波旬(アイツ)の性質上、個別世界よりも居心地の良い場所なんてのは存在しないからな。ただでさえ強大な天狗道が、個別世界の秩序によって更に深化しているんだ──いや。元より()形嚢腫(けいのうしゅ)も何もない状態で、あの無量大数の神威を発揮できている状況自体が異常ではあるんだが……」

 

「特異なものが特異である理由についてなど、それこそ疑問を挟む余地もない。元より理由などないのだから、考えるだけ徒爾以外の何物でもない。元の波旬はともかく、こちらの波旬はそういうものだと割り切れ。なあ、我が息子よ」

 

「……悪い。話が逸れた」

 

蓮は間を置き、再び言葉を紡いでいく。

 

「さて、俺達が集まったのは他でもない。件の万神軍(パンテオン)についてもそうだが、何より世界の外に坐す正帝という明確な脅威について──各々が果たすべき役割についてを決めていこうと思っている」

 

「役割……って、どういうこと?」

 

そこで、この場で唯一の少女が口を挟む。

 

それは神座の五代目にして、擬似秩序という形で小世界に輪廻転生の法を流れ出させた神格。かつての第四天に永劫、無窮、不滅なるもの、神性、無限、死後の生などと評された偉大なる女神。

 

黄昏の女神、マルグリット・ブルイユである。

 

そんな彼女が抱く疑問に蓮は答えた。

 

「要は『内』からの脅威であるナラカへ対抗するために万神軍(パンテオン)として動く陣営と、『外』からの脅威である正帝に対処するために動く陣営を決めようってことだよ。幾ら、外で波旬が陣取っているとはいえ……」

 

そう言いかけた刹那──

 

『──気になるのか?』

 

虚空に言葉が木霊する。

 

「……!」

 

「ほう?」

 

蓮が天眼()を見張り、水銀が神眼()を細める。

 

瞬間、桁違いの神威が空間を満たした。

 

それは一音に有らん限りの邪性を詰め込み、この特異点を規格外の圧力で圧し潰さんとしている。

 

それは善悪二元真我(アフラマズダ)でも、堕天無慙楽土(パラダイスロスト)でも、明星悲想天(ツォアル)でも、永劫水銀回帰(オメガ・エイヴィヒカイト)でも、修羅道黄金至高天(ドゥゾルスト・ディエスイレ)でも、黄昏輪廻転生(アニマ・エンテレケイア)でも、無間刹那大紅蓮地獄(アルゾ・シュプラーハ・ツァラトゥストラ)でも──どの神座から溢れ出たものでもない。

 

しかし、それ自体に悪意はないのだろう。

 

何せ、それにとってはごく普通に。いっそ気軽なまでに言葉を投げかけただけに過ぎず、何かを廃絶しようなどという渇望は微塵も持っていない。

 

だというのに。

 

「……お前」

 

あらゆる次元から切り離された特異点にすら影響を与え、たった一言で各々の「座」の総体をさえ震撼させるほどの狂える総体総量神威の強さ。

 

その()は──()(じゅん)

 

神座の六代目、第六天波旬(マーラ・パーピーヤス)

 

神座世界最強の存在であり、正史において神座流転の歴史を終焉させるために産み落とされた猛毒の爆弾。徹頭徹尾最強無敵、森羅万象滅尽滅相。

 

彼に特殊な能力などは無く、ただひたすらに強大無比な地力(ちから)でもって己以外の他者を粉砕する邪神。それが第六神座──波旬大欲界天狗道(マハーマーラ)だ。

 

『──だが。あぁ、おまえ達は()らん。あんな腕で払っただけで纏めて消し飛ぶような(くそ)の群れ。天狗道(おれ)だけで事足りるんだよ、阿呆が』

 

「馬鹿が。貴様の意思や許可など、俺の知ったことではない。俺は俺の意思で剣を研ぎ、あの何もかもが曖昧な正義とやらを詐称する狂った屑共を絶滅させる」

 

しかし、顔を顰めて無慙は波旬に反発する。

 

「完全なる正義──そんな御大層な目標を掲げておきながら、実際はそれを達成する手段も意識も何もかもが曖昧。連中は己ですら理解できていない概念(それ)に、勝手な思想と理想を抱き、あまつさえ正義(それ)を俺達に押し付けようとさえしている。屑め。だから、ぶれているんだよ。不変ではない(・・・・・・)

 

「つまり?」

 

水銀は興味深そうに薄く笑い、問うた。

 

すると無慙は神剣を強く握り、力を滾らせる。

 

「我が屍山血河の冥府魔道。俺の人生には一片の恥などなく、また悔いもない。しかし、俺の認識していなかった檻の外では、更なる痴愚蒙昧の群れで横溢していたのだ。そいつらは己が世界の秩序(ルール)に一沫の疑問さえ抱かず、今ある世界が絶対のものであると信じて疑わない。むしろ秩序(ルール)に反発するものを嗤い、黙して従えと不適合者(ハミダシモノ)の粛清に走る始末。おいおい、これでは真我(アヴェスター)の時代と──この狂った(そら)と何も変わらないではないか。道化にも劣る人形の群れ、操られていることに気付こうとさえしない(カス)の巣窟。許せん、死に絶えろ、痴れた言葉を吐くな。ゆえに──」

 

そして彼は凶眼()を光らせ、この銀海(うみ)に宣戦を告げた。だからこそ、俺は()(ざん)を続けねばならない。

 

奈落迦(ナラカ)も、正帝も、銀水聖海の衆愚をも。

 

我が不変に纏めて呑み込んでくれる、と。

 

鏖殺(おうさつ)




次はもう少し早く投稿すると思います……
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