《銀海総合掲示板》 作:にわか太郎
【番外編】
一万五千年前──
深淵世界。願望世界ラーヴァシュネイク。
ズドオオオンッ、ガギイイイイイイイイッ!!!
凄まじい爆音が赤く染まった世界を劈く。
空には亀裂が走り、海は激しく波打っていた。
中空では四つの光の矢が幾重にも交差し、激しく衝突し合っているのが、かろうじて見える。
「さあ、どうした!ここで落ちるか、ならば
「……ぐぁぉっ、ぐっ……!?」
交わっているのは*1刀、黄金の聖槍だ。
ラインハルトは聖槍に力を込め、それを正面から受け止めようとしたカズマを遥か後方に弾く。
「……っ……!?」
弾かれたカズマは全身に魔力を回し、ありったけの力で防御を固めた。そうして彼は光速を超える勢いで<
瞬間──
「────」
「……!」
沈みゆく島の奥から確かに、ラインハルトはカズマと思しき声を聞いた。それは微かに響く声量であったが、それでも明確に意思の伴ったものだ。
気の所為と片付けるべきではない。そう判断した彼は聖槍を構え、追撃するように詠唱する。
「ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界。夜に無敵となる魔人になりたい。この畜生に染まる血を絞り出し、我を新生させる耽美と暴虐と殺戮の化身──闇の不死鳥。枯れ落ちろ恋人」
天を裂き、彼方から「城」が顕現する。
そして辺りは月の浮かぶ夜へと変わった。
「<
それは紛うことなき異界であり、吸精月光と薔薇の杭が内界の生命を喰らわんと猛威を振るう。
だが──
「
「……!」
生命力を貪らんとした途端、彼が愛刀を片手に沈みゆく小島から勢いよく飛び出してきた。
見ると刀からは黒い凶気が立ち上っており、黄金を見つめる
「<
それは戦闘における第六感の向上。
つまり自身の生存を掴み分ける直感であり、敵の隙を看破し、隙が無ければ世界へ強引に隙を創り出して捩じ込むことすらできる能力。つまり対象の強弱や精神状態に関わらず問答無用で隙を晒させるため、攻撃は全てが相手への致命打となるのだ。そして相手への理解が深くなるほど、その分だけ対象への特攻能力を発揮する滅尽滅相の刃。
単純に武才に恵まれないカズマだからこそ、その点においては同類とも言える*2マグサリオンの力の一部を身に降ろしたのである。だが──
「……骸装か。しかし、それゆえ解せんな。見たところ、卿は
それは本来、第五神座にある
その名を──
それゆえ、神座核を内臓する
それを生身であるはずのカズマが使用し、一部とはいえ『神威』を骸装して使いこなすという事実にラインハルトは多少なりとも驚愕していた。
しかし当の彼は焦りもせず、時間軸を超えた速度で迫る黄金の聖槍を
「根源を
「む……!」
ラインハルトは総軍を乗せた槍を振るい、不可避かつ絶対死の一撃をカズマに叩き込まんとした。
しかし、カズマは黄金に存在しない隙を捩じ込み、直撃を回避する。そして同時に存在強度を上げ、特攻能力の乗った刀を上段から打ち込んだ。
凶刃と聖槍が激突し、夥しい火花が散る。
ギ、ギギギ、ギギ、ギギギイイイイッッ!!!
「……これでも、届かないの、かよ……!」
苦々しげな顔でカズマは凶刃を押し込んでいく。
しかし、それでも彼我の力量差に開きがあるゆえか、ラインハルトには軽々と止められてしまう。
「正真正銘、我が総軍を乗せた槍だ。そう安々と破られては面目が立たん」
「……ッ!だけど、今ので師団規模の軍勢は削れた気が…………ハイ。全然何とも、全くもって減ってないですね。チキショウッ!」
「否、減っているとも。だが──」
ラインハルトの総体を
すると数万単位で削られた軍勢が、即座に復活してラインハルトの総体に空いた穴を埋めていた。しかも彼の軍勢は更に数を増し、その総数は際限なく膨張していく。いったい、どういうことだ?
「見ての通り、我が
「……マジかよ」
カズマが目を見開き、後退すると同時に呟く。
まさに、その時だった。
「然り。その推察は大凡、正しいでしょうな」
上空で身に絡みつくような声が響く。
そうして上を見やると、水銀の蛇──メルクリウスが不敵な笑みを浮かべて降下してきたのだ。
そんな水銀を見て、彼は思わず顔を顰める。
「うわ出た」
「その反応は普通に傷つくので
「なんて???」
カズマは疑わしげな表情で水銀を見るが、奴は依然として飄々とした態度を崩さずにいる。そうして彼は徐ろにラインハルトの横へ移動し、目線だけを横にいる唯一にして無二の盟友へと向けた。
「……さて、獣殿。そろそろ私も戦に加わって
「無論だとも。では共に参ろう、友よ」
「え、マジで???」
彼らのやり取りにカズマは思わず呆然とするが、そんな彼の反応に気づいた水銀は加えて告げる。
「だが、それだけでは些か面白みに欠ける。ゆえに、もう一人。お前にも参加してもらおう、我が息子よ」
メルクリウスが言葉を口にした刹那、その場に途轍もない神威と凍てつく魔力が充満した。空間が歪み、顕現したのは呆れた表情の青年だった。
それは藤井蓮である。
「まったく。いきなり外に連れ出されて何の騒ぎかと思えば、ただ退屈紛れに付き合わされるだけとは……しかもカズマまで連れてきたのか。仕方ない、どうせ終わるまでは帰れないんだろう?なら、さっさと終わらせ──」
「ああ、だが待て」
面倒臭そうにしながらも蓮は神威を滾らせ、その星天をも凍てつかせる覇道太極を発動しようとした。しかし、そこで待ったをかけたのは水銀だ。
「お前が今の
「…………」
それを聞いた蓮は更に疲れた表情になる。
そしてカズマの方に顔を向け、彼に対して労りと同情の目線を送った。事実、この稽古はカズマが彼らに望んでつけてもらっていたのではない。
要はメルクリウスとラインハルトの退屈を紛らわせる、彼らの無聊を慰めるためのもの。稽古とは名ばかりの、上位者の単なる無茶振りである。
「……はあ、しょうがない」
そして蓮の身体が
その光が空間を満たし、それが徐々に収まっていく。すると、その光の先にいたのは赤髪に褐色の肌、両手に針の如き処刑の刃を携えた藤井蓮だ。
背後には針を抜かれ、時の止まった巨大な機械仕掛けの時計がある。これこそ、正史において水銀による支配から脱却した彼の真なる流出の姿。悠久の時を経て、神格として力を極めた彼とも別の純粋な姿に他ならない。ゆえに、だからこそ──
「──かかって来い、糞親父。この後、俺はマリィと街でデートの約束をしているんだ。それに、マリィは最近のお前の行動に辟易しているんだよ。不審な行動が、これまで以上にエスカレートしてるってな……これ以上、その悪質なストーキングを許してたまるかってんだよッ!」
「抜かせよ。女神からの
そして、残る二者も神威と魔力に身を滾らせ、互いに握り慣れた武器を構えて言葉を交わした。
「……なあ」
「卿の言いたいことは容易に察せるが、あれでも唯一無二の盟友だ。それにカールの女神に対する
──刹那、胎動するかのような音が響く。
「<
最初に動いたのはラインハルトだ。
こと、この四者にあって最も凄まじい攻撃性と絶対的な破壊特性を有した黄金の獣皇。そんな彼は獰猛なまでの笑みを隠そうともせず、開戦の号砲とばかりに全身全霊で彼らを
<絶渦>に浮かぶ島々は悉くが鳴動し、いつの日か万物を呑み込む大海は水面を揺らしている。まるで、これから始まる大戦に
そして「城」と同時に顕現した獣の背後には、無尽蔵に形成される
「──
流れ出す理が総軍を染め上げ、偽神と化した大軍が波濤の如く、眼下にいる二者へと突っ込む。
あわや必殺と思われたが──
「「──喰らうかよッ!!」」
蓮は無間の法を回転させ、カズマは隙を捩じ込むことで回避を成功させる。そして反撃とばかりに総軍を凍てつかせ、もう一者は先の神威と比してなお、桁違いで悍ましい力を身に降ろしていく。
そして彼の背に三眼が現れ、ぎょろりと蠢いた。
「『下劣畜生、邪見即正の道ォォ理──
カズマの声と重なるように、遥か遠くに在る何者かの声が世界を震撼させる。それを見て、思わずといった様子で黄金は己が身を存分に震わせた。
「……はは、はははっ、はははははははははははっ!!!素晴らしい……!これほどの甘美、これほどの充足、これほどの恐怖……かつて味わったそれと比して遜色ない。そして、この戦が正しく未知であると我が魂が歓喜に震えている──ああ、私は今──生きている!!」
崩れていく身体にさえ頓着せず、ラインハルトは黄金の聖槍を即座に構え直し、それを全力で投擲する。何よりも速く、絶対に命中し、当たれば諸共に総てを粉砕する。そんな疑う余地もない神威、神殺しの聖槍がカズマに向かっていくが──
「……!!!」
瞬間、黄金が動きを止めた。
彼は眼下に広がる光景を見て、信じられぬとばかりに
「なるほど、波旬による横槍か。道理で、力を降ろしても自己愛に汚染されぬはずだ」
そこで彼は事態を把握し、言葉で納得を示した。
そして黄金は不敵に微笑み、両手を広げる。
「だが、赦そう。これを余計な横槍とは言うまい。私も
多分、今章は全体を通して一番短い章かもしれません。ですが、代わりに次章は本当に長期戦になります。見応えは凄いと思うので乞うご期待。