《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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お待たせしました、後半戦です。
次回から魔弾世界と古書世界の話になります!


【番外編】この刹那に未知をも超越()えて

 

同時刻。開戦と同時に水銀の詠唱が始まった。

 

「『Ira furor brevis est.(怒りは短い狂気である)』」

 

水銀は自我なき魂を生み出し、蓮を先制する。

 

そうして鳴動する既知世界の総軍が凝縮され、掌の上に極小の恒星が形成された。それは──

 

「『Sequere naturam.(自然に従え)』」

 

──超新星爆発。

 

凝縮された恒星が一瞬にして爆ぜ、大熱波が深淵世界をかき乱していく。一つの宇宙を滅ぼす破神の業火が蓮を直撃し、(ちり)にせんと力を発揮した。

 

「おおおおおおおッ!!!」

 

だが、彼も負けじと業火に処刑刀を叩き込む。

 

それは超新星爆発を容易く裁断し、泰然とした態度で(そら)に坐す水銀へ届かせんと唸りを上げた。

 

無間の太極(ソラ)が回転し、蛇の総軍が凍てつく。

 

しかし、すぐさま停滞の嵐は打ち破られ、メルクリウスは嘲笑を浮かべながら己が総軍を操る。

 

瞬く双蛇(カドゥケウス)が鳴動し、そこから光とさえ認識できない意志の波を放ちながら繰り出されたのは──

 

「『Sic itur ad astr.(このようにして星に行く)』」

 

「『Sequere naturam.(自然に従え)』」

 

赤き空には億の根源(たましい)が現れ、それが百の塊に凝縮されていく。そして瞬く流星が永遠の刹那たる彼に降り注ぎ、その宇宙(からだ)を容赦なく蹂躙したのだ。

 

「ぐッ、がああァァアッ!!」

 

その流星群は凍てつく神威を突っ切り、次々と蓮に着弾していった。凝縮された星々の軍勢は、一発一発が正史における黄金の総軍に匹敵する。

 

だが、そこで思わぬ攻撃が横から飛んできた。

 

「──ファイアーボールッ!」

 

「……ッ……」

 

星々を押し退けて強襲。迫りくる超規模の爆裂。

 

先の超新星爆発さえも上回る、それこそ並の小世界を数度は滅ぼせる力がメルクリウスを襲った。

 

水銀は咄嗟に神眼()を細める。

 

「……ああ、全くもって見事という他ない。我が同種(さかしま)、ハイドリヒの慧眼も流石というべきか。多少の横槍があったとはいえ、自己愛(それ)の汚濁に呑まれず己が力にさえ変えてみせるとは。いやはや、所詮は匹夫と馬鹿にできん」

 

「そりゃ二千年以上も稽古と称したトラブルに巻き込まれ続けてりゃ、誰でも少しくらいは成長するだろ……って危なァっ!?」

 

赤き空に隠された流星の一つが、カズマに急降下してくる。しかし、彼は直前でそれを避けた。

 

メルクリウスは嗤い、カズマに言う。

 

「ふふふ……ああ。だからこそ。徹底的に叩いて潰し、絶望させたくなるぞ。私のように──」

 

そうして蛇が眼下を見下ろしていると、

 

「──余所見してるんじゃねェッ!」

 

その場の時間が凍りつき始めた。

 

あらゆるものを刹那に留め、永遠のものとする無間大紅蓮地獄。刹那の宇宙が深淵世界に流れ出そうとする。しかし、そこで蓮は眉を顰めた。

 

「……チッ」

 

流出しようとした理が薄くなり、霧散していく。それは不完全な停滞を余儀なくされていたのだ。

 

彼は即座に後退し、メルクリウスから距離をとるが、当の本人は変わらず嗤いながら蓮を見る。

 

そう。さしもの神格とて、この深淵世界では己が太極(ソラ)で既存秩序を塗り潰すことなどできぬ。そして、それは無量大数たる(まんじ)(まん)荼羅(だら)の神威を宿した波旬とて同じ結果に終わることだろう。たとえ指一本で「座」を圧し潰せる力を発揮できたとしても、力に深さが伴っていない以上は蟷螂の斧だ。

 

ゆえに、その覇道流出が世界に及ぼす影響は非常に限定的なものとなっている。そして、それを好機と見た水銀は双蛇(カドゥケウス)の口に神威を集中させた。

 

「カズマッ、危な──!?」

 

それに気づいた蓮がカズマに伝えようとした途端、別方向から破壊の光が割って入ってきた。

 

それはラインハルトによる奇襲の一手──

 

「ほう、敵手を前に他所へ気を回せるだけの余裕があると?ならばよし。では、諸共に(アイ)してやろうッ!」

 

「……ぐぁぉっ、っぐ……!?!?」

 

「クソっ、蓮っ!!」

 

黄金の破壊(ゴルデネ・ハガラス)

 

黄金の聖槍が与える劫罰であり、かつて既知世界の闇を体現する存在を消し飛ばした神火そのもの。そんな神ですら躱せぬ一撃が蓮に直撃し、カズマは天狗道の神威を発揮しようと黄金に迫る。

 

しかし、そこで更に水銀の双蛇(カドゥケウス)が鳴動した。

 

「『Deum colit qui novit.(神を知る者は、神を敬う)』」

 

彼は総軍を震わせ、励起させる。

 

そして辺りの様子が一変した。そこは星々の光に満ちた空間であり、暗く静寂で満ちている。それは地上の生命が決して立ち入れぬ空域、黒穹だ。

 

この一瞬で蛇は小宇宙を創り出したのだろう。

 

刹那、メルクリウスの総軍が収縮していく。率いられし魂の数々は凝縮され、限界まで収束していくと、それは膨張して無数の天体へと変わった。

 

そして──

 

「『Aurea mediocritas.(黄金の中庸)』」

 

星々が十字に整列し、闇の世界に光が満ちる。

 

それは極大威力のグランドクロス。凝縮された総軍は星となり、深化したことで規模が縮小して、それは途方もない深さの強大無比な術と化した。

 

それでいて他の存在には一切影響を与えず、指定した対象にのみ多元宇宙規模以上の殺傷力による被害をもたらす。それは小世界さえも内部沸騰させ、潮汐力の激変によって総てを砕けるだろう。

 

「……がぁっ、ぎっ……!?」

 

当然、その威力に耐えられる者などいない。

 

カズマの身体は容易く砕かれ、崩壊の一途を辿っていく。彼は直前で大技の到来を予見し、根源を魔力で覆うことで外界からの影響を遮断したものの、全身には言語に絶する激痛が走っている。

 

そこで舞台が赤い空へと戻った瞬間──

 

「──なるほど、流石と称賛すべきでしょうか。あの副首領閣下の大技をまともに喰らい、即座に防衛へと切り替えられる瞬発力。手数の多さ、経験から来る判断力……この二千年で培った経験、伊達ではありませんね。()(トウ)(カズ)()殿」

 

更に追い討ちをかけるように声が響いた。

 

「……お、前は……」

 

崩壊した身体を蘇生させながら、二人は声の発生源へと目を向ける。そして、そこに居たのは──

 

「ですが。今回、私はハイドリヒ卿からお二人の相手をせよとの大任を仰せ付かっているのですよ。ですので、手加減の類は期待しないで頂きたい。この聖槍十三騎士団黒円卓第十位──紅蜘蛛(ロート・シュピーネ)が全身全霊で(もっ)て、お二人の相手を務めさせていただきましょう」

 

「シュピーネ……!!」

 

「え、シュピーネさん???」

 

それは理知的な表情を浮かべ、眼下にいる二人を見下ろす黒円卓の紅蜘蛛(ロート・シュピーネ )。現れた存在の人選にカズマは困惑し、蓮は青褪めて名を口にする。

 

「よりにもよって一番厄介な奴が……」

 

「お、おい。どうしたんだ?アイツって確か、お前に倒された黒円卓の中じゃ弱い方だろ。何がそんなに──」

 

カズマは蓮の横顔を見て、慌てた様子で問うた。

 

「……本来なら、な。だが、俺達の世界におけるアイツは転生者だ。小者なんかじゃなかったし、弱いなんてことはそれこそあり得なかった。永劫破壊(エイヴィヒカイト)の位階こそ形成止まりだが、純粋な実力で言えば大隊長をさえ凌ぐ既知世界の特異点。肩を並び得るのはそれこそ、首領であるラインハルト。あとはマリィと神父さん(トリファ)くらいだな」

 

「おや、そんなにも私のことを評価してくださっていたのですか。これは光栄ですね、親愛なるツァラトゥストラよ」

 

「そりゃあ──なッ!」

 

呆然とするカズマを尻目に、蓮は動く。

 

彼は光速を超える理の回転をもって、黄金を守るように座すシュピーネをも斬断しようとした。

 

しかしシュピーネは指の先からワイヤーを出し、位階による格差など知らぬと、刹那の太極を切り刻まんとしている。これこそが彼の誇る形成──

 

Yetzirah(形成)──

 

「<我に勝利を与えたまえ(ジーク・ハイル・ヴィクトーリア)>ッ!!!」

 

──逃れられぬ「絶対(きょうふ)」から逃げ出したい。

 

それが本来の紅蜘蛛(ロート・シュピーネ)が双首領へと抱いたもので、このシュピーネを神に至らせぬまま神域に等しい究極へと到達させた原初の██(イノリ)そのもの。

 

ある意味でマグサリオンとも似通った、徹底して秩序(ルール)というものから逃避(反発)する世界の不適合者(ハミダシモノ)だ。

 

「チクショウ、癖のある面白い声で叫びやがって……!」

 

「それは私ではなく、私の声を当ててくださっている方に言って──失礼、口が滑りました。では、参りますよッ!」

 

「いや、今の思いっきりメタ発げ──んッ!?」

 

瞬間、辺獄の糸縄が唯我の魔刃と鬩ぎ合った。

 

「……っ……!」

 

「お見事です、これを受け切るとは。やはり地力の面でこそ天狗道による恩恵を受けていますが、言ってしまえばそれだけ。それ以外は己の勘と手数の多さを駆使し、状況を俯瞰しながらも戦力分析に努めている。なるほど。貴方自身は前線で戦士や兵士として立つよりも、将や参謀として動く方に長けていますね──ですが、ハァッ!!」

 

「<触奪魔手(ドレインタッチ)>!!」

 

凄まじい勢いで糸縄が振るわれ、それに対抗するようにカズマはシュピーネに対して<触奪魔手(ドレインタッチ)>を使用した。そうして発動した途端、カズマの根源に途方もなく強大な魔力が迸り、満たされる。

 

「……やっ、べえ……!?」

 

一瞬の間に雪崩れこんでくる魔力でさえ、途方もない密度を有しており、単純な量として換算すればラインハルトの総軍に迫るほど。質こそ遠く及ばないものの、それでも異常の一言に尽きよう。

 

このままでは自壊しかねない──そう判断したカズマは<触奪魔手(ドレインタッチ)>の対象に黄金と水銀を加えた上で魔法陣を描く。当然、カズマの身には至高天の不死英雄(エインフェリア)と既知世界の総軍が雪崩れ込んでくるが、しかし彼は何の痛痒も感じぬとばかりに、途方もない密度の魔力と魂の総軍を吸収していく。

 

「……よっ、し。何とか成功したな……!」

 

その様子に黄金は神眼()を細め、水銀に問うた。

 

「……ふむ。カールよ」

 

「ええ、獣殿。あれは恐らく、我々の特性を真似て創られた(・・・・・・・・・・・・・)魔法でしょうな。永劫破壊(エイヴィヒカイト)ないし魂を率いる覇道神としての特性を模倣し、術式に組み込んで形にしたもの。まるで魂を周囲に纏うかのように、しかも自壊衝動や自滅因子が発生し得ない形へと改良さえしている。恐らくですが、取り込んだ力や魂を何らかの作用で、疑似根源へと新生させ続けて(・・・・・・・)いるのでしょう。さて、このまま総軍を取り込ませ続けるのも一興ではありますが──」

 

「それではつまらんだろう。それに、彼は強者であるより挑戦者であることの方が好ましい。さあ、卿の輝きを再び私に魅せてくれ──!」

 

彼らは笑みを浮かべ、神威を収束させた。

 

だが、そこで衝撃が空気を伝う。

 

「──させるかよォッ!!」

 

ガギイイイイイイイイイイッ!!!

 

瞬間、突き出された処刑刃を聖槍が受け止める。それは復帰した刹那、蓮による不意の一撃だ。

 

「……存在規模(スケール)を落とした状態では、流石の卿も動き難い思っていたが?」

 

「時間が経てば多少は、ッ!?!?」

 

そう言った途端、彼の背筋に怖気が伝う。

 

「それは重畳。では、卿にも再び我が愛を示そう──聖餐杯(せいさんはい)

 

「──承知しました、我が主よ(ヤヴォール・マインヘル)

 

それはグラズヘイムから響く忠誠の声。

 

その場に魂が形成され、それは実像を結んでいく。これより顕現するのは獣皇、紅蜘蛛と並び永劫回帰の果てに誕生した究極と冠される者の一。

 

黄金の代行者にして、究極の器に君臨する者。

 

第五宇宙(ヴェルトール)を感得した至高の聖餐杯(うつわ)

 

Briah(創造)──

 

「<神世界へ翔けよ(ヴァナヘイム)──

 

発声と同時──詠唱もなく顕れた黄金の聖槍。

 

それは黄金と同じ姿をした神父服の男(・・・・・・・・・・・・・・)の胸元から、ジジジジという雷鳴を響かせたと同時に──

 

──黄金化する白鳥の騎士(ゴルデネ・シュヴァーン・ローエングリーン)>!!!」

 

刹那の宇宙(ソラ)へ向かって射出された。

 

だが、彼もまた負けじと聖槍を迎撃する。

 

「『Sic itur ad astr.(このようにして星に行く)』」

 

「『Sequere naturam.(自然に従え)』」

 

彼は上空へと跳躍し、先のメルクリウスと同じ文言を詠唱した。すると、蓮の背で機械仕掛けの時計が崩れ、やがて破片が聖槍へと降り注いだ。

 

その崩れた時計の破片は神の欠片であり、つまりは藤井蓮という名の宇宙の欠片。その一つ一つが有する質量は並の天体を凌駕するほどで、それら総てが聖槍へと着弾してダメージを与えていく。

 

無論、機械仕掛けの時計は崩れた端から再生していき、消耗という概念は欠片も見当たらない。

 

しかし──

 

「……!」

 

「シィッ!!」

 

ギギ、ギ、ギギギギ、ギイイイイイイィッ!!!

 

聖槍と処刑刃が交わり、夥しい火花が散った。

 

射出された聖槍は勢いを落とさず標的を狙い、それを叩き切らんと刃は聖槍と鬩ぎ合う。どちらも一進一退といった様子で、互いに表情を険しくするが、そこで神父──トリファが口を開いた。

 

「久しぶりに戦いましたが……ッ、強い。やはり私では些か以上に荷が重すぎる気が──」

 

「ならば、私が手伝いましょうか?聖餐杯猊下」

 

「「…………!!」」

 

その聖槍を受け止めていた蓮が動きを止め、トリファは射出した黄金の聖槍を『城』へと戻す。そして二人は赤く深い空へと即座に神眼()を向けた。

 

「シュピーネさん」

 

「……!お前、カズマは」

 

彼らは呟くようにその名を口にした。

 

降りてきたのはカズマの相手をしていたはずの紅蜘蛛(ロート・シュピーネ)。しかし、カズマの姿が見当たらない。

 

だが、その問いを返すように彼は言った。

 

「ああ、彼なら──」

 

「……うぐ、ッ……」

 

少し離れた赤い空から呻き声が聞こえる。

 

そこでカズマは宙に身を浮かせ、気を失っていた。それを発見した蓮は即座に彼の傍へと寄る。

 

「ご安心を、ただ気絶させただけですよ。それに、その方が彼にとっても好都合なので」

 

「……この馬鹿は、余計な心配させやがって。それなら、こっちにも考えがある」

 

「ふむ」

 

「……!」

 

瞬間、辺りに深き停滞の嵐が吹き荒れる。

 

刹那(れん)は停滞の力を身に纏い、紅蜘蛛、聖餐杯、そして黄金と水銀の背後へと回り、処刑刃を構えた。そうして彼は甚大な神威を発し、眼前の四人を凍結させんと刃を振るおうとした刹那──

 

突如、その場に深き魔力を発した炎が現れる。

 

「……!?」

 

そして刃は紅蓮の掌に掴まれ、どろりと溶けた。

 

その場にいる全員の動きが止まり、視線が一点に集中する。それは燃え盛る炎であり、そこから感じるのは深く、巨大で、何よりも強大な魔力だ。

 

「そこまでだ」

 

「……ほう?」

 

炎から声がする。

 

そこから出てきたのは、赤く逆立った髪をした魔族の青年。不可侵領海、第一魔王アムルである。

 

彼は真剣な表情で全員を見つめるが、そんな中で真っ先にアムルへ問うたのはラインハルトだ。

 

「このような場に卿が介入するとは珍しい。して、何用かな。わざわざ、卿が無粋な介入をするとも考え難い。となれば、外で余程の事態でも起きたか?」

 

そう黄金が問うと、アムルは鷹揚に頷く。

 

「魔弾世界で動きがあった」

 

その言葉に水銀が神眼()を細める。そして一拍の間を置き、アムルはカズマを除く五人へ告げた。

 

「──神魔射手オードゥスが古書世界ゼオルムへの侵攻を画策している。魔弾世界の凶行を阻止するために、お前達にも協力してもらうぞ」




タグに「Dies irae」を加えようか検討中……


Q.ここのカズマさんって、何でこんなに強いの?

A.ウチのカズマさんですが、ここ数千年で二律僭主から色々な知識や技術を叩き込まれています。あとは他の転生者の悪ノリもあり、能力や属性が盛られに盛られてますね。なので今までと同じく司令塔として動けるのは勿論、魔王の全力戦闘に放り込まれてもギリ戦えるレベルにはなっていたり。ですが、ここまで異常に強化されたのは第三魔王のせいですね。アイツが全部悪いんじゃ。ちなみにカズマと同じく深化したミカですが、彼女はマジでカズマ以上の化け物です。大怪物です。普通に殴打で神格の総体を損傷させられます。
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