《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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遭遇戦

 

一万五千年前──

 

魔弾世界テルネス。第一テルネス領海。

 

そこは果てしなく広がる海の中だった。

 

目の前に浮かぶのは砲塔型の銀泡であり、そこが魔弾世界テルネスの本土、第一テルネスである。

 

「……馬鹿、なっ……!」

 

そんな第一テルネスへの侵入を防ぐように、近海に配置されていたのは深淵総軍の最精鋭だ。それは規律に則った完璧な警備体制であり、万が一にも銀泡へ侵入される可能性は皆無に等しかった。

 

事実、彼らには油断など微塵も無かったのだ。

 

たったの数人だけとはいえ、彼らは魔弾世界の精鋭中の精鋭。それゆえ並の小世界であれば、容易に陥落させられる深さと強大さを兼ね備えている。深淵総軍の隊長格にさえ見劣りはしまい。

 

だというのに──

 

「我々が展開した<魔弾索敵(ケッセル)>による感知を掻い潜り、この第一テルネスの懐に潜り込むなどっ……!?貴様、貴様はいったい──」

 

「囀るな。臭いんだよ、屑め」

 

精鋭達が放つ魔弾は(ことごと)くが躱される。

 

そして返礼とばかりに、目の前で怨念と殺意を漏らす紫髪の凶戦士が精鋭に凶剣を叩き込んだ。

 

隙間なく魔弾を放とうとも、僅かに生まれた隙を見出されては躱される。その凶剣による攻撃を逸らし、魔法で力を殺そうとも、その剣は存在するはずのない隙を生み出して敵へと喰らいつく。

 

そう、全ては目の前に男が現れてから変わった。

 

「「「<魔波貫通刃断砲(シュゼルツ・ゼイン)>っ!!」」」

 

精鋭達は凶戦士に銃口を向け、そのマスケット銃で魔法陣を描くと同時に刃弾を放った。しかし、

 

ジュッ、ザンッッッッッッ!!!!

 

「……っ……!」

 

それは容易く斬り伏せられ、粉微塵に砕ける。

 

しかし、その光景を見ると同時に精鋭達の脳裏にはある疑問が(よぎ)った。なぜ、あの剣技とも呼べぬ力技で自分達の魔法が打ち破られるのか、と。

 

剣を扱わず、銃を武器とする彼らでさえ理解できた一つの事実。それは目の前で凶剣を振るう男には、根本的に武才の類が欠けているということ。

 

振るわれる剣に冴えなどは一切無く、むしろ子供が無造作に木の棒を振り回しているに等しいレベル。これは剣技ですらない。たとえ凡人であろうと理解できることだ。なのに、だというのに──

 

「なぜ、何故だっ……!?」

 

「貴様の知りたがりに俺を巻き込むなよ。第一、己の在り方も定かにできん屑の分際で、不変ではない貴様らが俺の征く道を阻む?何の冗談だ。そもそも貴様らは己の在り方にさえ、芯の部分では疑問を抱いているだろう。その点だけは秩序に盲従する他の塵芥とは違う。褒めてやるよ。だが、所詮はそれ止まりでしかない──」

 

瞬間、その神剣から黒い凶気が立ち昇る。

 

「規律だ何だと抜かしてはいるが、貴様らが真に求めるものは規律(それ)とは別のところにあるのだろう?だが、そこで抗う気概を見せん。それを見出そうと足掻くことを諦めている。だから半端なんだよ。己が奉ずる不変さえ見つけられん塵が。貴様らに価値などあるものかよ。汚泥のように拭えぬ慙愧を抱いたまま、惨めに、泣き叫んで、今すぐに死ねぇッッ──!!!」

 

凶戦士は跳躍し、上段から凶剣を叩き込んだ。

 

そうして振り下ろされた凶剣からは昏く、深く、そして何よりも黒き剣閃が迸る。それは不変に呑み込む滅尽の刃。誰であろうと等しく向き合い、相手を理解し尽くして鏖殺する冥府魔道の剣だ。

 

「……ぐぅ、おおおおおっ……!?!?」

 

それは先の攻撃が児戯だったのかと疑うほどに重く、鋭く、強大で、そして何よりも深い一撃。

 

それが意味する事実とは(すなわ)ち一つ。

 

「……ぐっ、うぐぅっ……!なんだ、先程までの攻撃とは明らかに力の桁が違──がぁっ……!?」

 

つまりは凶戦士の存在強度が跳ね上がっているのだろう。そして不完全ながらも、相手を理解したことによる特攻能力が凶剣に上乗せされている。

 

隙を見出し、隙を生み出し、相手を知り尽くすことで特攻能力にも似た切れ味を刃に宿らせる──これらは凶戦士が己に課した戒律による産物だ。

 

そして凶戦士は精鋭達に対して嘲笑を浮かべ、奴らのプライドを逆撫でるかのように挑発する。

 

「──無様だな、負け犬。そんなザマで、俺に(かな)うなどと本気で思っていたのかよ」

 

「……貴様っ!!」

 

無論、プライドを傷つけられた精鋭達も黙ってはいない。奴らは即座に銃口へ魔力を収束させ、魔法陣を描く。そうして発動された魔法は──

 

「「「<魔深流矢波濤砲(ベレニツィア・ノイン)>──!!!」」」

 

銃口から波濤の如く魔弾が撃ち放たれる。

 

それは光の矢の如く飛翔し、凶戦士・無慙へと向かった。そんな途方もない魔力を宿した魔弾は、たとえ小世界だろうと撃ち落とせるだけの力を秘めている。しかし、当の無慙が取った行動は──

 

「────」

 

何もしない。

 

無慙は泰然と立ち尽くし、いっそ無防備とも思える姿を敵に晒している。そして己に向かってくる魔弾を他所に、凶剣は目の前の精兵達を睨んだ。

 

ゆえに当然、その魔弾は容赦なく命中する。

 

「……っ……」

 

それは無慙の身体を突き破り、のみならず根源(たましい)までも蹂躙せんと魔力を荒れ狂わせた。それを確認した精兵達は無論動揺するも、しかし奴らは銃身に更なる魔力を込め、収束し、その冷徹なまでの判断力でもって無慙を滅ぼさんと銃口を向ける。

 

一瞬で動揺を隠し、即座に行動へと移す。

 

なるほど。なかなかどうして、深層世界に名だたる強者としては相応しい振る舞いと言っていい。

 

だが、まだ足りぬ──

 

「……なに?」

 

銀泡の前に果てしなく広がる銀の海。

 

そこでは何かが蠢き、凄まじい音を立てている。それはバキバキと骨を鳴らし、血を滴らせ、それでもなお殺意を滾らせる最凶の神格。()無慙(■■■■■■)

 

冥府魔道の体現者は未だ死せず──

 

全身は夥しいほどの血に塗れ、内臓は外に飛び出そうになり、五体は残らず千切れかけ、その根源(たましい)に至っては形さえ保てずに崩壊しかかっている。

 

神格としての不死性さえ殺されかけているのだろう。だが、それでも無慙は凄絶に言葉を紡いだ。

 

「──虫螻(むしけら)が、呼吸をしていいと誰が言った?

 

瞬間、無慙の殺意が桁違いに膨れ上がる。

 

それは苦悶の海から這い出たように暗く、低く、深い声色だ。そうして無慙が千切れかけた右腕で神剣を構え、精兵達が身を震わせると同時──

 

ありったけの魔力と神威が場を満たした。

 

「……!?構え──」

 

■し■ばせ(■ラ■■ール)

 

刹那、反応する間もなく黒い剣閃が炸裂する。

 

それは銀に輝く海を問答無用で削り取り、その場に存在するものを跡形もなく滅尽させていった。

 

「…………」

 

拭われた慙愧、絶対不変の無慙無愧。

 

それを体現する凶戦士だからこそ、彼が擁する「不変」は何であろうと呑み込み、受け入れる。

 

求める「不変(こたえ)」を見つけられないものも、既に己が「不変(いのり)」を見出したものも、何であろうと。彼は等しく解き明かし、殺し尽くして、救済する。

 

もう兄者の心臓の音は聞こえない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

無慙は言葉も発さず、銀泡へと接近する。

 

そうして静かに銀泡(せかい)へと凶眼()を向け、その内に座している主神(かみ)へと狙いを定めた。そして告げる。

 

次は貴様だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やはりお前はそう動くか」

 

「どうしたんだよ、オッサン」

 

魔弾世界の大地にて、ぽつりと声が漏れる。

 

その地には二人の男が立っており、初めに声を上げた男の方は重厚なまでの威圧感を放っていた。

 

それは滅却師(クインシー)の王、ユーハバッハである。

 

彼は隣に並ぶ青年へと向き直った。

 

「感じぬか、一護。この世界の外で渦巻く激情を、あの凶戦士が放つ殺意と怨嗟の声を──」

 

「……いや、全く。てか、凶戦士って……もしかしなくても無慙さんのことか?」

 

「そうだ」

 

そして傍らに立つ彼もまた、その隣に在る滅却師(クインシー)の王にも似た強大な魔力(れいあつ)を身に秘めている。それは死神代行にして尸魂界(ソウルソサエティ)の英雄、黒崎一護だ。

 

そんな一護を横目に、ユーハバッハは言う。

 

「奴は既に凶眼にて狙いを定め、主神の首を獲るために己が剣を研ぎ上げている頃だろう……急ぐぞ、一護。どうやら思っていたよりも、我々には時間が残されていないようだ」

 

「あ、オイ!待てって──」

 

ゆるりと歩を進めるユーハバッハに対し、一護は少し遅れて小走りになりながら彼を追いかける。

 

そして足並みが揃った頃、一護が徐ろに呟いた。

 

「にしても、あいつらは何処にいるんだ?もう基地も近くだってのに、一向に姿が見えな──」

 

「一護」

 

瞬間、ユーハバッハが立ち止まった。

 

そして彼は一言、鷹揚に一護の名を呼ぶ。

 

「……?どうしたんだよ、何かあったのか?」

 

彼処(あそこ)だ」

 

それに一護が返事をすると、ユーハバッハはマントの内から手を出し、前の方向を指差した。

 

「──ようやく来られましたか」

 

そこで別の声が場を満たす。少女の声だ。

 

「……ああ、済まんな。随分と待たせた」

 

そしてユーハバッハは前を見下ろし、謝意を口にする。そんな滅却師(クインシー)の王たる彼が親しげに話す謎の人物──それは紛れもない「魔女(せいじょ)」だった。

 

「……!」

 

一護はごくりと息を呑む。

 

それは、あどけない少女の姿をしていた。しかし、それだけではない。その少女は絶世の美貌を備えており、揺らめく白金の髪からは少女の神秘性が垣間見える。それは魔眼()を焼くほどの美貌で、浮かべている微笑は凄絶なまでに美々しい。

 

そんな聖女然とした神秘的な少女だ。

 

一護は間を置き、ぽつりと言葉を漏らす。

 

「あんたを見る度に思うんだが、やっぱ慣れねーな。美人の類は結構、見てきたはずなんだが……」

 

「……おや。一護くんでしたか、お久しぶりです。見ない内に随分と大きくなりましたね。そういえば、風の噂で織姫さんと結婚されたと聞き及びましたが……結婚生活の方は順調ですか?あとは息子さんも産まれたとか。確か、名前は──」

 

(かず)()だ。夫婦仲もあんたに心配されない程度には良好だよ。にしても、パンドラさんは驚くほど変わらねェな。ま、元気そうで何よりだ」

 

その少女の名は、パンドラ。

 

とある可能性においては虚飾の魔女とも称され、「虚飾」の権能を身に宿す正真正銘の魔女だ。

 

そして彼らは互いに和やかな雰囲気で世間話に興じており、その会話だけで関係性の良さが伺える。そうして一護とパンドラは互いに笑みを浮かべ、しばらくは言葉を交わしていた。だが──

 

「……さて。そろそろ良いかな?」

 

そこで、また別の声が場に上がった。

 

それは黄金の長髪に軍服を纏った獣の如き男。黄金の獣、ラインハルト・ハイドリヒのものだ。その横には水銀の蛇──メルクリウスの姿もある。

 

パンドラは話を切り、黄金へと向き直った。

 

「……ええ、大丈夫です。では、そろそろ時間が迫っているので私達も──」

 

そして、彼女はちらりと一護を見やる。

 

「ああ。案内、頼むぜ」

 

一護がそう返事を返し、それを機に黄金や水銀を筆頭とした幾人かの転生者が迷わず歩を進める。

 

そして一護達は敵の本拠地へと足を踏み入れ──瞬間、夥しい数の兵がこちらに銃を向けていた。

 

「久しいナ、侵入者。キサマ達を待っていタ」




そろそろノアやアムルにも出番を与えたいなぁ
でも、次の章では大活躍するし……うむむ
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