《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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次回はもっと頑張ります……


銀の海に吹く風は

 

巨影と歯車が、幾度となくぶつかり合っていた。

 

「<正車輪弾雨断滅絶砲(バロッゼオ・アビス)>」

 

「<聖域礼賛(ザンクト・ツヴィンガー)>ッ!!」

 

深き車輪が要塞を縦横無尽に飛び交い、攻防一体の極大結界が侵入した車輪を阻む。その攻撃と防御の応酬だけで、この火山要塞が震撼し、そして深層世界である魔弾世界が軋みさえ上げていた。

 

「滅びなさい、滅却師(クインシー)の王」

 

だが、そこで拮抗を破ったのはエルガンデだ。

 

彼女は即座に歯車を正車輪剣ベルテクスバロッゼオの形へと戻し、それを手に取る。そして、正車輪剣でユーハバッハを袈裟斬りにせんと迫った。

 

「<外殻静血装(ブルート・ヴェーネ・アンハーベン)>──!!」

 

「……!」

 

しかし、それに対するユーハバッハは体外へと<静血装(ブルート・ヴェーネ)>を伸ばし、ドーム状にバリアを張る。

 

そして、その防御壁に阻まれた正車輪剣は、いとも容易く弾き返されたのだ。エルガンデは神眼(め)を鋭く細め、ユーハバッハを静かに見つめている。

 

「見えていると言ったぞ、魔戦絡繰エルガンデ」

 

刹那、ユーハバッハがエルガンデの腕を掴む。そして歯車の身体には青い紋様が浮かび上がった。

 

「……っ……!?」

 

身体が思うように動かない。

 

だが、それだけではない。

 

それどころか、身体の支配権までもがユーハバッハに奪われかねない事態になる。そう直感したエルガンデは、己の腕を切り離した上で後退した。

 

その瞬間、ユーハバッハが語りかけてくる。

 

「──賢明な判断だ。だが、同時に温い。お前はこれを予測できていたか?」

 

彼は指先に青白い光球を発生させた。

 

それを迎撃せんと絡繰は正車輪剣を振るうが──

 

「<神聖征滅矢(ハイリッヒ・プファイル・エアオーバァン)>」

 

その場にある一切を無視するかのように、<神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)>がエルガンデへ雨のように振り注いだ。

 

普通ならば灰も残らぬが、流石は絡繰世界の魔戦絡繰といったところか。エルガンデは何食わぬ顔でこちらを見つめ、その魔力を噴出させている。

 

「……それはこちらの台詞です、滅却師(クインシー)の王。貴方は──」

 

「致命的に判断を誤った、か。笑わせてくれる。お前が手勢を駆使して奇襲する未来を、私が認識していないとでも思ったか?」

 

そしてユーハバッハは自身の頭上に<大聖弓(ザンクト・ボーゲン)>を展開する。そこから弓矢を放つようにして大剣が要塞の地を射抜き、ズドンッと突き刺さった。

 

それを手に取り、彼は言うのだ。

 

「そして、そんな貴様に私が返す言葉は決まっている──お前は致命的に判断を誤ったのだ(・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

「第九──SS装甲師団(ホーエンシュタウフェン)」

 

刹那、凄まじい轟音が要塞を満たした。

 

「……ぅ、ぐ……!」

 

それは示し合わせたかのようなタイミングで、至高天(グラズヘイム)の装甲師団による怒涛の火砲が、エルガンデの身体や根源の全てを徹底的に蹂躙していく。

 

やがて濛々と立ち込める煙の奥から歩を進め、現れたのはラインハルトだ。彼は片手に聖槍を携え、火山要塞の地に泰然と立ち尽くして言った。

 

「さて、お気に召したかな。我が愛し子ら(エインフェリア)による火砲の味は。彼らの武威、そして猛々しいまでの奮闘は、卿から見ても実に見事なものだろう?」

 

「……貴方、は……!」

 

そしてエルガンデは黄金を睨めつけるが、彼は微笑み、それを無視するかのように言葉を紡いだ。

 

「ああ、無論……これで芝居は終わりだ(アクタ・エスト・ファーブラ)、とはならぬよ。早々に劇終を迎えるなど、それこそ後に控える彼らを冒涜するに等しい。そのような結末は私とて不本意だとも。ならばこそ──」

 

そして彼は神殺しの聖槍を輝かせ、その場に立ち込めていた煙の類を一切吹き飛ばした。すると、

 

「──さあ、今こそ卿らを魅せつけるがいい」

 

その背後から夥しい攻撃の嵐が飛んできた。

 

「──月牙天衝ォォッ!!!」

 

「スカーヴァティー・ヘブンズホール」

 

「光よ──!!」

 

「AMEN(エェェエエイメン)ッッッ!!!!」

 

「<死世界・凶獣変生(ニブルヘイム・フェンリスヴォルフ)>ッ!!」

 

「レムリア・インパクトッ──!!」

 

「ロッズ・フロム・ゴォォォォォッド!!」

 

そこには魔力(れいあつ)による一閃を放つ青年がいた。そこには兵士達を己が宇宙(たいない)へと取り込む聖女(けもの)がいた。

 

そこには巨大なレールガンで敵を薙ぎ払う少女がいた。そこには形(なり)振(ふ)り構わず敵陣へ突っ込む神父がいた。そこには最速の殺意を宿す凶獣がいた。

 

そこには別宇宙の無限熱量を叩き込む旧神がいた。そして、神の杖による裁きを下す光(まおう)がいた。

 

彼が、彼女が、この場にいる全員がその総力で深淵総軍を、眼前の魔戦絡繰を滅ぼさんとしている。そして再び、ラインハルトが目配せをした。

 

「……何をするつもりダ」

 

遠くにいた正帝は神眼(め)を細め、先を見据える。

 

その目線の先にいたのは、今まで待機していた水銀の蛇だ。そんな水銀は口元を薄く歪ませ──

 

「……!!まっ、不味イ──」

 

その意図を察した正帝は神眼(め)を見開く。

 

そして彼らによる無謬の連携に思わず、正帝が叫び──瞬間、この世の全てが一点へと収縮した。

 

「『Spem metus sequitur.(恐れは望みの後ろからついてくる)』」

 

空間が、次元が、全てが断裂していく。

 

空と海と大地が、星々が、万象が圧縮される。

 

そして神界を含めた全次元までもが巻き込まれ、銀泡に含まれる内界全てが潰れ、集まり──

 

「『Disce libens.(喜んで学べ)』」

 

全てが収束した。

 

──暗黒天体創造。

 

既知世界総ての星を凝集させ、規格外の暗黒天体(ブラックホール)を創造する占星術。それは既存世界を犠牲にして発動するという性質上、銀泡の内にある世界が滅びるのは至極当然の理。誰も生き残れはしない。

 

本来であれば、秩序を失った銀泡に待ち受けているのは厳然たる滅びのみ。泡のように弾けて消え、残った火露は銀水聖海の流れを揺蕩う。

 

そのはずだった。

 

──時よ止まれ(・・・・・)、君は誰よりも美しい(・・・・・・・・・)──

 

しかし、ここには複数の規格外が存在した。

 

事実、転生者達は蓮の軍勢変生による時の鎧と偽神化で生き残っていたのだ。そうして滅び去った世界の中心、もはや虚無以外が残されていない場所に男が一人、浮かんでいた。それは見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の皇帝にして滅却師(クインシー)の始祖、ユーハバッハだ。

 

彼はマントの内側を弄り、物を取り出す。それは二律僭主の魔力が込められた影珠だ。ユーハバッハはそれを握り潰し、影により魔法陣を描いた。

 

「<背反影体(ダヴエル)>」

 

発動した魔法が、秩序に反する影を生み出す。

 

その黒き影は滅びゆく銀泡を覆い、第一テルネスを黒い銀泡へと変貌させた。そして深き影が分離し、魔法陣を描く。描かれた二つ目の魔法は──

 

「<至高魔力(デクス)>」

 

描かれた魔法は<至高魔力(デクス)>だ。

 

あらゆるものを魔力で形成し、万物万象を再現する創造魔法。それを駆使してユーハバッハは銀泡の形を歪め、操り、元の姿と秩序に戻していく。

 

だが、全てを元に戻したわけではなかった。

 

「……!」

 

刹那、はっと正帝が意識を取り戻した。そして奴は徐ろに辺りを見渡して、状況確認を行う。

 

それは、かつての魔弾世界テルネスそのもの。規律と規則を何よりも遵守し、それらに従うことで合理的に生命(いのち)や秩序を運用する強大な深層世界。

 

物が、秩序が、全てが元の状態に回帰している。

 

そこで、ようやく正帝は確信に至ったのだ。

 

「……ガ、グゥッ。ハァ、ゴハッ……キサマ、は。やはり二律僭主から力(ちから)、ヲ──」

 

*1息も絶え絶えに、奴は言葉を紡ぐ。

 

これまでの戦いで、なぜユーハバッハが魔戦絡繰エルガンデと戦えていたのか。それは影を通じ、二律僭主の助力を受けていたからに他ならない。

 

そうでなくば戦うことはおろか、足止めをすることさえ満足にできていなかっただろう。戦闘が成立するのかも怪しい、そんな深さによる絶対的な差があった。だが、そこで思わぬ事態が起きる。

 

「消し飛ばせ(アラストール)」

 

突如、聞こえた殺意と怨嗟に塗れた咆哮。同時に、血塗れの神剣が正帝ヴラドの間近へ迫った。

 

「……!!」

 

「死ね、死ね、死ねェッ!!臭いんだよ塵が。走狗の分際で、俺の前で息をするんじゃない」

 

夥しい血の匂い、凄絶なまでの死の気配。

 

それを感じ取った正帝は咄嗟に躱し、左腕を犠牲にする。そして神剣が左腕に直撃した瞬間──

 

「……っ……!!」

 

それは盛大に爆散した。

 

正帝は驚愕するも、無情にも凶剣は更に迫る。

 

続けざまに神剣が胴へと迫るが、それを正帝は難なく回避し、魔弾を撃ち込む──はずだった。

 

「……ぐぅっ!馬鹿ナ、何故っ……!?」

 

隙は存在しないはずだった。

 

しかし、現実として剣は正帝の胴を貫き、神体を串刺しにしている。その結果が意味するものとは、すなわち彼(・)が設けた第二戒律による見返り。常軌を逸した誓約の果てに生まれた異形の理。

 

第二戒律<絶し不変なる凶剣の冷徹(サオシュヤント・マーフ)>

 

その縛りは「常態として常在戦場の精神を維持し続ける」というもの。つまりは睡眠や瞬き、飲食、排泄、非武装状態、殺しに関わらない思考の禁止という正気の沙汰とは思えない縛りだ。しかし、縛りに対する見返りの恩恵も想像を絶する。

 

それは戦闘における第六感の向上。

 

つまりは己の生存を掴み分ける直感であり、敵の隙を看破し、隙が無ければ世界へ強引に隙を創り出して捩じ込むことすらできる能力。そして第四戒律の力によって相手への理解が深くなるほど、その分だけ対象への特攻性能を発揮していく。

 

この戒律による恩恵を骸装によって再現した者はいるが、本家本元たる彼の第二戒律による恩恵は、骸装によって再現された模倣戒律とは違う。

 

「……グギッ、ガッ……!」

 

*2今でこそ戒律による縛りを無視できるようになったものの、それに意味などなく。されど、その状態によって齎(もたら)される恩恵にも翳りは見えない。

 

しかし、そんなことなど知らぬとばかりに、凶戦士・無慙はひたすらにその神剣を振るい続ける。

 

そして彼は忌々しげに言った。

 

「屑め、貴様の底など見え透いているんだよ」

 

──底は見え透いている。

 

つまり、既に凶戦士は正帝を己が理解の型に嵌めているのだろう。要するに、似ているのだ。

 

かつて凶戦士が所属していた善の陣営にありがちだった、吐き気のする本能(アヴェスター)とも呼べる法則。

 

我らは善で、奴らは悪。ゆえに対立する陣営には本能で嫌悪を感じるし、自らの本能が悪(てき)を討てと叫んでいる。だからこそ己が本能に従い、動く。

 

それが気持ち悪くて仕方なかった。

 

嬉々としてそれに従う善も悪も、そんな連中(善側)を同胞だと認識する己の本能にさえ。そして、それは世界の外で暗躍し続ける正帝(ガラクタ)でさえ同じだった。

 

何も変わらない。真我(アヴェスター)の時代と。

 

何も変わらない。神座の宇宙が存在する世界と。

 

正帝という思考原理(ほんのう)に支配され、正義の代行者という役割に振り回されているこいつも。やはり所詮は汚濁の一匹に過ぎないし、だからこそ理解に至るのは一瞬で、ゆえに型に嵌めるのも容易い。

 

そうして無慙が更に攻めを加えんとした時──

 

「…………」

 

背後の影がぐにゃりと動く。

 

そして影が立体化し、やがてそれは剥がれ落ちていった。その末に現れたのはユーハバッハだ。彼は眼前に立つ凶戦士の背を見て、鷹揚に問うた。

 

「──助力は必要か、マグサリオン(・・・・・・)」

 

その言葉に無慙は顔を顰める。しかし不機嫌そうにしながらも、彼は律儀に肯定の言葉を返した。

 

「間抜けが、俺の邪魔だけはしてくれるなよ」

 

ユーハバッハは歩を進める。

 

そして無慙の横へ向かい、そこに並び立った。

 

「……!」

 

どこからか、息を呑む音が辺りに響く。

 

それは凶戦士を知る者であれば、誰もが口を揃えて「あり得ない」と驚愕に顔を染めるであろう事態。己以外に存在する全ては須(すべか)らく敵か、敵の敵でしかないと言って憚らない冥府魔道の凶戦士。

 

そんな孤高の凶戦士が味方(・・)を認めたという事実。それは言葉が持つ意味以上に、凶戦士が発した言葉であるという事実の方が大きく、凄まじい。

 

それを不味いと、正帝はそう判断した。

 

ゆえに奴は即座に魔法陣を描き、発動する。

 

「<銀界魔弾(ゾネイド)>」

 

ズガアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!

 

瞬間、正帝は不可視の魔弾を撃ち放った。

 

それは火山要塞デネヴだけでなく、魔弾世界テルネスをも激しく震撼させている。そして鳴動する銀泡に次元が軋みを上げ、銀滅魔法が氾濫した。

 

「……何をするつもりだ」

 

ユーハバッハは目を鋭くし、正帝へ問う。

 

そして彼は僅かに口を開き、こう呟いた。

 

「古書世界ゼオルム」

 

「……っ……!」

 

要塞に凍りつくような気配が充満する。

 

そして、オードゥスの絡繰神は淡々と言った。

 

「あの銀泡には元々、キサマ達を誘導する囮以上の用途は存在しなかっタ。しかし、今となっては話が変わル。キサマ達の動きを封じる人質としてならバ、その使い道は十分にあると見タ」

 

そして奴は尾銃たる銀魔銃砲を蠢動させ、そこに光を収束する。それは根源が放つ淡い光である。

 

だが、そこで更に変化が起きた。

 

「そして……もはや手遅れだ、滅却師(クインシー)の王ヨ。キサマの力で未来を覗いてみるがいイ。そこには、もはやキサマ達が生存する未来など無イ」

 

「……っ、一護──!」

 

「手遅れだと言ったはずダ」

 

天に異形の地平が広がっている。

 

人々が、世界が鉱石のような何かに侵食されていく。それは異形の理が溢れ出すかの如く、まるで神座世界における流出を彷彿とさせる力だ。しかし、そこで彼らは直感で即座に気配(それ)を感じ取る。

 

これは「覇道」の原型になった力だ、と。

 

「……なん、だ。こ、れは……?」

 

そして、こちら側へと侵食してくる鉱石の色味もまた尋常ではない。虹のようだと表現するのは簡単だが、七色どころか数十以上の色彩が層に分かれて複雑怪奇に絡み合ってる。更に形状自体が物理法則を無視しており、解析も理解も不可能。

 

それを見て、正帝はニヤリと笑い──

 

「──無理解の天(ソラ)に呑み込まれるがいイ、転生者。さあ、ここに現出せヨ。奈落の先、幾千億の果て、神座深奥の彼方から顕現せし███(ナラカ)ヨ」

*1:
先程の占星術による世界崩壊に巻き込まれ、その消耗だけを戻されることなく、正帝達は瀕死の重傷を負っている。

*2:
実は本人の性質上、戒律による縛りを踏み倒しにいくということを基本しなかったり。それゆえ、縛りの類を無視・破戒できる意味がほぼ無くなってしまっている。主に、当の本人から溢れ出す殺意や怨念的な意味で。他にも理由はあるのだが、それも今や無慙のみが知る話となっている。




ヤバい(ヤバい)
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