《銀海総合掲示板》   作:にわか太郎

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※この話だけのオリ魔法が登場します。


無理解の彼方

 

全てが歪んでいく。総てが侵食されていく。

 

「……これは」

 

それは奈落を超えた彼方からの気配。

 

それは全ての要素を滅茶苦茶にした何か。

 

あらゆる仮説、あらゆる神話、あらゆる希望、あらゆる絶望、その全てが交わった異形のナニカ。

 

その鉱石化の影響で時間が、空間が、魔弾世界のあらゆるものが異形なる気配へと侵されていく。

 

そして人々も完全ではないが、その身体に色彩が混ざり合った鉱石の侵食を許しつつある。そうして侵食を許す度に、根源(たましい)が砕け散りかけるほどの衝撃で、自己を喪失しそうになっているのだ。

 

不味い、あまりにも不味すぎる──

 

「……っ……!」

 

そこで動いたのは*1刹那だ。

 

彼は即座に状況を把握して、その総身を発光させる。そして白光の先に現れたのは赤髪に褐色肌の刹那だ。しかし、それは存在縮小(スケールダウン)した際の姿ではなく、その総体からは凍結の神威が溢れている。

 

それは第六神座の住人が観測した極大の神格にして、夜都賀波岐(ヤツカハギ)が主柱──*2(てん)()夜刀(やと)である。

 

「ラインハルト、メルクリウスッ──!」

 

見ると蓮の表情からは余裕が一切消え、その神威を全開にしている。渇望力だけで波旬を除く全神格と*3座の総軍を凌駕する彼が焦っているのだ。

 

つまり、それほどまでに重い事態なのだろう。

 

ゆえに状況を察した黄金は聖槍を横に構えて、水銀は詠唱するかのような体勢へと移り変わった。

 

そして刹那は、己が覇道を世界へ流出させる──

 

 

海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの 水底の輝きこそが永久不変

Es schaeumt das Meer in breiten Fluessen Am tiefen Grund der Felsen auf,

 

永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう

Und Fels und Meer wird fortgerissen In ewig schnellem Sphaerenlauf.

 

どうか聞き届けてほしい

Doch deine Boten,

 

世界は穏やかに安らげる日々を願っている

Herr, verehren Das sanfte Wandeln deines Tags.

 

自由な民と自由な世界で

Auf freiem Grund mit freiem Volke stehn.

 

どうかこの瞬間に言わせてほしい

Zum Augenblicke duerft ich sagen

 

時よ止まれ 君は誰よりも美しいから

Verweile doch du bist so schön──

 

永遠の君に願う 俺を高みへと導いてくれ

Das Ewig-Weibliche Zieht uns hinan.

 

 

時間が、空間が、銀泡が問答無用で凍りつく。

 

無間の太極(ソラ)が小世界を覆っていく。

 

そうして既存秩序が塗り替えられていくが、抵抗する者は一人もいない。そして、それは主神たるオードゥスを乗っ取った絡繰神も同じだ。奴はその場から微動だにしない──否、動けないのだ(・・・・・・)

 

「──、────」

 

何も見えない。何も聞こえない。

 

何も認識することができない。

 

それは星天はおろか、宇宙すら凍てつく地獄の奔流。過去も現在も未来も、その外さえ例外なく。

 

ゆえに時を超越していようと、あらゆる因果から逸脱しようとも関係はなく、刹那(かれ)は等しく万象を停滞させる。そして、全ては刹那に留められた。

 

 

Atziluth(流出)──

 

 

「<新世界へ(レースノウァエ ・ アルゾ) 語 れ 超 越(・シュプラーハ・) の物語(ツァラトゥストラ)>!!」

 

 

これこそ疑いようもない地獄の神威。

 

深き停滞の嵐が魔弾世界に吹き荒び、あらゆる事象と存在を凍結していく。そうして刹那は無間地獄の理を魔力で補強し、深化させ、強固にする。

 

そも、相手が相手だ。

 

まともな手段では太刀打ちできぬからこそ、彼は己が流れ出している法則の深化に専念する。まさか正帝がアレ(・・)と結託しているとは夢にも思わなかった。否、結託とは異なる可能性も存在するが。

 

奈落迦(ナラカ)

 

それは神座と呼ばれる機構(システム)の深奥にある存在。

 

神格よりも異質で、何よりも異形な概念(もの)。神座の機構(システム)が誕生するよりも以前、零の時代に存在し、いずれ神座世界を呑み込むはずだったナニカ。

 

つまりは神座世界(こちら側)とは明確に異なる、零の時代(向こう側)に君臨する絶対的存在だ。神座という機構(システム)も、元は零の時代に存在した「始まりの地」と呼ばれる森羅万象の根源──その座標の対抗策に過ぎない。

 

そして、その始まりの地にて「不死の呪い(アムリタ)」を流れ出させていた存在こそがナラカだった。ナラカは何もかもが異形の概念であり、どういうわけか想いや感情の力が通用しないという特性がある。

 

ゆえに始まりの神は敗北し、そこから壮大な巻き返しを図った。それこそが神座流転による万神軍(パンテオン)の結成であり、神座世界はナラカという根源を討ち倒すために創造された楔に過ぎなかったのだ。

 

しかし(・・・)その前提は奇しくも破綻を迎えた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

真我はおろか、根源たる奈落迦(ナラカ)をして予想だにしていなかった事態。それこそが銀水聖海(・・・・)という、神座世界(こちら側)とも零の時代(向こう側)とも異なる「外」の領域。

 

その発覚に他ならない。

 

「……!」

 

外からの接触、知られざる未知の領域。

 

それは神座世界(こちら側)、ひいては(ナラカ)にさえ衝撃を与えた。ゆえに既存の強弱は意味を失い、外から流れてくる秩序が無常なる現実を突きつけてくる。

 

この海では深さこそが絶対の秩序(ルール)だと。

 

それは神座世界(こちら側)の理解から逸脱した異形の地平(ナラカ)をして、決して逃れることのできぬ絶対的な秩序。

 

ゆえに──

 

「今だ、波旬ッ──!!」

 

深さを伴った力を前に、(ナラカ)は避けられない。

 

瞬間、異形に侵された天を汚泥の波濤が襲った。

 

そして世界を満たし、侵食する(くろ)(くろ)(くろ)

 

世界の外より顕現した異形の片鱗を前に、狂える三眼がそれ以上の深さでもって万象を制圧する。ゆえに無間地獄の宇宙でさえ、その狂える太極(てん)の気配を前にしては、それに圧し潰される他ない。

 

本来であれば、ナラカを相手に力押しは不可能。強弱で測れる相手ではないがゆえに、神座世界(こちら側)の攻撃は「翻訳」を通さなければ意味がないのだ。

 

だからこそ(・・・・・)波旬は己が神威を深化させた(・・・・・・・・・・・・・)

 

「……!」

 

深層十二界が一つ、個別世界グラウヴェノア。

 

それは存在が単一に近ければ近いほど強大に、そして相応に深化していく秩序を有した深層世界だ。半身とはいえ、唯我の渇望を抱く波旬にとって、これほど都合の良い小世界など他にない。

 

そして彼の「(からだ)」は現在、そこに在る。

 

──滅尽滅相ォォッ!──

 

ゆえにこそ、深層十二界の秩序によって深化を果たした今の波旬は正しく無敵。最強格を除けば、上位の不可侵領海にさえ打ち勝てる強度だろう。

 

そして規格外の圧力で天が(ひしゃ)げ、潰れた。

 

凍結された時間が、全てが砕かれていく。

 

異形の天も、汚泥の波濤も、銀滅魔法も。一度、発動すれば永遠に流れ出し続ける覇道の流出でさえ。問答無用で全てが砕かれ、消え去ったのだ。

 

*4ゆえに、刹那の太極も自然に閉じていく。

 

「……な、にガ……」

 

オードゥスの絡繰神が声を発した。

 

つまりは時間が正常に動作し始めたのだろう。そして、そんな時間停止の理が砕かれた瞬間──

 

「──死ねェッ!!

 

「<神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)>」

 

霊子の矢と奇跡を蒐める神剣が迫った。そして、それは見事なまでに正帝の神体へと直撃する。

 

「……ゴハッ……!?」

 

時間にして刹那にも満たぬ一瞬の出来事。

 

それは声も、合図すら無く、凶戦士と滅却師(クインシー)はその無謬の連携によって正帝を挟撃したのである。

 

何が起こったのかも分からぬまま、しかし一つだけ正帝にも理解できたことがあるとすれば──

 

「ぐ、うッ、███(ナラカ)の気配ガ……!?」

 

奈落迦(ナラカ)の気配が消えている。

 

零の時代(向こう側)との繋がりが断たれている。

 

「やられたカ……」

 

想定はしていた。そも、奈落迦(ナラカ)正帝(・・)だ。

 

それゆえ、転生者との相性も最悪と言っていい。だからこそ、正帝ヴラドは思い返す。外による知識を伝い、零の時代(向こう側)へと侵攻した時のことを。

 

「<外殻静血装(ブルート・ヴェーネ・アンハーベン)>」

 

「<魔波貫通刃弾砲(シュゼルツ・ゼイン)>」

 

あれ(・・)は何もかもが理解不能な存在だった。単純な強弱では太刀打ちできず、既存の概念は意味をなさない。そもそもが本質的に異なる存在なのだ。

 

対応しようにも、絡繰神は次々と異形(ナラカ)に堕とされていく。しかし、手段が無いわけではなかった。

 

唯一の例外として銀海(みち)秩序(がいねん)には弱かったのだ。

 

それを起点とし、正帝は一気に攻勢へと出た。

 

攻撃強化(サーム)>、<攻撃強化(サーム)>、<攻撃強化(サーム)>、<攻撃強化(サーム)>、<瞬間移動(シェバーティール)

 

あの異形の五人(・・・・・)を写し取るのには骨が折れたが、こちらの型に嵌めれば後は容易い。しかし、今回の戦場に奈落迦(ナラカ)の力を投入したのは正解だった。

 

これが仮に「本体」での顕現であれば──

 

「<覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ)>」

 

「<覇弾雷魔電重砲(ドグダ・ベドモンド)>」

 

そこで奴は思考を切り、尾銃で魔法陣を描く。

 

そこから現れたのは<覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ)>と<覇弾雷魔電重砲(ドグダ・ベドモンド)>だ。それを九つの尾銃から連射し、避ける隙間を与えぬように常に放ち続けている。

 

消し飛ばせ(アラストール)

 

しかし、そこで凶剣による黒閃が飛んできた。

 

それは転移してきたかのように一瞬で、直線上にある全てのものを消し飛ばしながら迫ったのだ。

 

覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ)>と<覇弾雷魔電重砲(ドグダ・ベドモンド)>による弾幕を突っ切り、正帝の眼前へと迫る無慙無愧(マグサリオン)

 

そうしてオードゥスの絡繰神は溜め息を吐く。

 

「……仕方あるまイ」

 

見ると、奴は既に魔法陣を描いていた。

 

そして緩慢な動作で描かれたそれは、凶剣が迫った頃合いを見計らい、ごく自然に発動された。

 

「<万象崩界撹拌(サムドラマンタン)>」

 

凶剣が目前に迫る──しかし、その瞬間。

 

「…………」

 

無慙が消え去った。

 

何の前触れもなく、呆れるほど唐突に。

 

それを見ていた者達の大半は、目の前で起きた事象について理解など及んでいなかっただろう。しかし、無慙の横で共に戦っていた滅却師(クインシー)の王は、その不可思議な事象の詳細を既に見通している。

 

「……空間そのものを撹拌させ、この次元から無慙を強制的に弾き出したか。小賢しい真似を」

 

「この場における最大の脅威は、あの凶戦士だっタ。ゆえに使える手を使い、己の手札を切ることに何の躊躇いがあル?」

 

当然といった様子で、正帝は滅却師(クインシー)に言う。

 

それにユーハバッハは泰然と言い返した。

 

「ああ、貴様ならばそうするだろう。ゆえに、こうなることも既に私は見通して──」

 

ユーハバッハの瞳の数が三つに変化する。それは<全知全能(ジ・オールマイティ)>による力の行使を意味するものだ。

 

だが──

 

「……っ、くっ……!?」

 

突如として、それは苦しげな表情に変わる。

 

オードゥスの絡繰神はそれに真顔で答えた。

 

「無駄ダ。いかにキサマといえど、全ての未来を撹拌されれば変えようもあるまイ。そして、もはや次の手を打たせるつもりもなイ」

 

その瞬間、夥しい魔力が要塞を震撼させる。

 

そして九つの尾銃が蒼き魔力を装填した。

 

それは<覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ)>と<魔深流矢波濤砲(ベレニツィア・ノイン)>である。だが、その魔法には<万象崩界撹拌(サムドラマンタン)>による万物を撹拌するための力が加えられていた。

 

今度こそ、この戦いを終わらせるために。

 

「さらばダ、滅却師(クインシー)の祖ヨ」

 

「……変えようとしたのではない。後ろをよく見るがいい、神魔射手オードゥス」

 

だが、ユーハバッハは正帝の言葉を否定した。

 

そして言葉と同時、正帝ヴラドの背後で膨大な魔力が噴出する。それは正帝にとっても酷く馴染みのある魔力で、あまりに強大な力の奔流だった。

 

「<魔深根源穿孔凶弾(ベリアリウス)>」

 

「……っ……!」

 

慮外の領域から刺滅の凶弾が飛んでくる。

 

正帝は寸前でそれを躱すが、凶弾は横を掠めた。

 

そして頬からは血が流れ、滴り落ちる。ゆえに奴は神眼()を細め、徐ろに背後の方へと振り返った。

 

「大提督……」

 

「勝利を確信して油断するとは感心せんよ、神魔射手オードゥス」

 

そこにいたのは魔弾世界テルネスの元首、大提督ジジ・ジェーンズだ。しかし、今の彼は目の前の正帝と同じく本人ではない。外神の化身だった。

 

そして大提督が言葉を口にした次の瞬間──

 

ズドオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!

 

「……ぐっ、ガ、アアアッ……!?!?」

 

轟音とともに、正帝の胸に剣が刺さった。

 

それは深々と突き刺されており、それを握る何者かは更に押し込み、根源へと狙いを定めていた。

 

天から落ちてきた凶影が、剣で正帝(しゅしん)を貫く。

 

魔弾世界の秩序を鑑みれば、まずあり得ない光景に正帝は驚愕するが、その驚愕も一瞬で散った。

 

「────」

 

「……や、はり……キサ、マか……」

 

あらゆるものを押し退け、次元の壁を突き破り、虚を突いて強襲してきたのは第二天・堕天奈落。

 

すなわち、それは無慙(マグサリオン)によるものだった。

 

彼は凶剣を握る手を緩めず、その根源を貫いている。そして感情の籠もらぬ表情で、内心は怨念を滾らせ、オードゥスの絡繰神を見下ろしていた。

 

正帝によって次元の外へと弾き飛ばされた無慙だが、どういうわけか彼はここに帰還を果たしている。恐らくは悪を絶滅させるという凄絶なまでの一念だけで、この次元へと戻ってきたのだろう。

 

相変わらず、途方もなく強大な怨念だ。

 

そうして無慙は正帝の胸から神剣を引き抜き──

 

 

 

 

 

死ね

 

 

 

 

 

オードゥスの絡繰神の首を刎ね飛ばした。

*1
藤井蓮

*2
※この世界の練炭は夜刀の姿にもなれる。

*3
天地開闢以来、「座」の支配下にある領域(せかい)で発生した総ての魂のこと。神格が率いる魂の軍勢を神座世界では「総軍」と呼称する。ちなみに第三天以前は「単一宇宙(+現行の時間軸)で発生した総ての魂」が(かみ)の総軍だった。だが、第四天から座の機構(システム)が改変されて「多元宇宙(+多元的平行時間軸)で発生した総ての魂」が(かみ)の総軍となった。

*4
本来は覇道神が流出/太極を発動すると、己の法則が永遠に世界へ流れ出して拡大を続ける。ゆえに軍勢変生による擬似的な流出でもなければ、自らの理を閉じることはできない。しかし、ここの彼らに関してはその限りではない。




次回は(恐らく)エルガンデ戦、決着──!
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