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午前のトレーニングが終わり、整備棟のシャワー室に水音が響く。
「ふぃ〜っ……今日も全力でがんばりましたっ!」
シャワーから出たハルウララが、勢いよくバスタオルで髪を拭く。
前回、プロトタイプのギアを装着してから、ウララのフォームは目に見えて改善していた。直線での速度維持、無駄なスタミナの消耗抑制。そして、何よりも――
「昨日のビギナー走で、最下位じゃなかったんだよ〜! ウララ、抜いたんだよ〜っ!! うっらら〜っ!」
誰にともなく、そう叫びながら廊下を駆けていく彼女に、整備士たちは思わず吹き出す。
「……あれが、あの“負け続け”のハルウララか」
「ちょっと前まで、涙ぐんで走ってたってのに……」
遊星は、その後ろ姿を見つめていた。
(まだ、変わりきったわけじゃない。だが――確かに“兆し”はある)
端末に走行ログを映し、フォーム補正率のグラフを確認する。
右足の内転は9%改善。呼吸乱れは平均15秒遅延。ラップタイムは、従来より1.3秒短縮。
だが――
「このままでは、ビギナーズ戦突破が限界だろうな」
遊星の声が低くなる。現状のウララは、“走り方を学んだ”だけ。スタミナとスピードの絶対値には限界がある。
特に、URA公式戦に出るには――最低限、基準タイムをクリアしなければならない。
その“壁”を越えるには、何かが足りない。
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夕刻。施設裏のパドック。
遊星は端末を片手に、整備ログを確認していた。すると――風を切る音とともに、誰かの影が降り立った。
「よォ。相変わらず孤独、な“裏方”してるじゃねぇか、遊星」
その声に、遊星の目がわずかに細められる。
「……クロウ」
そこに立っていたのは、赤茶の髪にゴーグルをかけた、どこかやんちゃな雰囲気の男――クロウ・ホーガンだった。
かつて、共に旧URAと戦った仲間。今は地方支部でウマ娘たちのコーチ兼メカ整備の補佐をしている。
「お前が何か仕掛けたって噂を聞いてな。『ハルウララに専用ギアを?』って、誰も信じてなかったぜ?」
「信じなくていい。だが、彼女は変わり始めている」
「お前が“再起動”する日を待ってたやつも、いたのかもな」
クロウは、ふっと笑ってコーヒーの缶を放る。
「ところで、見たぜ。ウララのラップログ。よくあんなギア作れたな。回復特化に振って、しかもフォーム補正付き。あれ、誰の技術ベースだ?」
「……ミスターシービーの機構を応用した。“重心ズレの補正”は、彼の走法と似ているからな」
「なるほどな……それなら、ウララの“あの足”でもいけるって判断か」
クロウは缶を空け、ぐっと一口飲んだあと、少しだけ声を落とした。
「……でも、遊星。気づいてるんだろ? あの子の“根っこ”がまだ完全には戻ってない」
「……ああ」
一度だけ“変われる”と信じた彼女。
だがその信念が、自分自身ではなく“ギア”や“道具”への依存に変わったとき――それは簡単に崩れる。
「道具は補助だ。本質を支えるものであって、すべてじゃない」
「だから、どうする?」
クロウが遊星の目をまっすぐ見た。
「また“チーム”を作る気があるなら、俺は戻るぜ」
沈黙が流れる。だがその中で、確かに――何かが動いた。
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その翌日。
ハルウララは、ギアを装着せずにトラックへ立っていた。
「……今日はギア、なしで走ります!」
「なぜだ?」
「わたし……本当に“変わった”か、知りたいんです。ギアに助けられたウララじゃなくて、“ウララ自身”がちゃんと走れるのか」
遊星は一瞬だけ、口元を緩めた。
(……クロウ。君の言葉が、彼女に届いたようだな)
「なら、構わない。だが無理はするな」
「うんっ!」
ウララは深呼吸し――走った。
最初のカーブ。ややフォームが崩れかけたが、姿勢を修正して加速。ギアの補正なしでも、筋肉が“正しい位置”を覚えていた。
ラストスパート。
全員に抜かれたわけではない。2人、3人を交わし、最後の直線で踏み込む。
「うっ……うっららぁぁぁぁっ!!」
――ゴール。
結果は、全体の9着。
ビギナー戦としては、誇れる順位ではない。
だが、彼女の顔には……かつての、あの“屈託のない”笑顔が戻っていた。
「遊星さぁぁぁんっ! わたし、走れました〜〜っ!! うっららぁ〜〜〜っ!!」
芝の上を転がりながら、声を上げて笑うハルウララ。
その姿に、整備棟の職員も、通りかかったトレーナーも、自然と笑顔になった。
遊星は静かに、ログ記録を保存しながら呟いた。
「……これが、君の“Re:Acceleration(再加速)”だ」
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その夜、遊星の机には新たな設計図が広げられていた。
ギアデータ、トレーニングプラン、栄養管理。そして、ウマ娘の個体適性リスト。
机の隅には、古びた黒のバッジ――“チーム満足”時代の記章が置かれていた。
クロウの連絡は既に来ていた。
「セイウンスカイとツインターボ、それに――サイレンススズカ」
彼が育成中の3人は、既にトレセンの外で自主トレ中だという。
一方、ジャック・アトラスの名前も、次回の学園会議の出席者名簿に載っていた。おそらく――“ダイワスカーレット”を連れてくるつもりだ。
遊星は、黒バッジを手に取り、再び胸ポケットに収めた。
「“チーム”を動かす時が来た……まずは、彼女からだ」
端末を開き、新たなチーム登録申請を始める。
チーム名:スターライトロード
メンバー候補:ハルウララ、ウオッカ、スペシャルウィーク
その名は、まだ何者でもない少女たちの“可能性”を導くための光。
そしてその夜、ハルウララのベッドサイドには、一通のメッセージが届いていた。
> 『明日の午後、再調整に入る。フォームは維持できている。
次は、“勝ち方”を学ぶステージだ』
―不動遊星
それを読んだウララは、毛布にくるまりながら、ふふっと笑った。
「うっらら〜〜♪……次は、勝つウララになるもん!」
その声は、かつての彼女――心からレースを楽しみ、全力で笑っていた“ハルウララ”そのものだった。
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次回予告:第3話「ウララ・ターン」
クロウの育成する“逃げの策略家”セイウンスカイ、爆走娘ツインターボ、そしてかつての伝説・サイレンススズカが登場。遊星のチーム計画が本格的に動き出す。
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