ハルウララのトレーナーはメカニック   作:瑠璃ぃぃぃ

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スペちゃんってやっぱ凄いし、可愛いよね…

ウマ娘の顔って感じがするし…

因みに世界観や色々なキャラ設定はちょいといじったりしています。


第4話「夢の背中に、君の名を」

 

夏が近づき、トレセン学園にも少しずつ汗ばむ空気が流れ始めていた。

 

「やっぱり壊れてるな……冷却ファンごと交換だ」

 

トレーニングルームの隅で、しゃがみ込んだまま作業していた不動遊星は、手袋越しに熱を帯びた配線を確認すると小さく頷いた。冷房の不調。室温が上がると、ウマ娘たちの練習効率も落ちてしまう。機材の整備だけでなく、こうしたインフラ周りまで気を配るのが、今の彼の仕事だった。

 

「さすがだな、不動さん」

 

後ろから声をかけたのは、ベテランのトレーナーだった。軽い汗をぬぐいながら、周囲に目を配る。

 

「いやぁ、助かるよ。最近は新人も増えて、機材トラブルが多くてさ。おかげでウチの子も集中できる」

 

「……それなら何よりです」

 

工具を片付けながら、遊星はちらりと周囲を見渡す。ちょうど、トレーニングを終えた数人のトレーナーたちが立ち話をしていた。

 

「なあ、聞いたか? 北海道から来たってウマ娘……スペシャルウィークって言ったっけ」

 

「ああ、聞いた聞いた。親御さんからの夢を託されて日本一のウマ娘を目指してるってやつ。でもあれ……悪いけど、素人だろ? 走る姿は一生懸命なんだけどなあ」

 

「可愛いし、まっすぐだし、応援したくなるんだけど……担当したいってのはちょっと」

 

「わかるわ。なんというか、“華”はあるけど“勝負”は厳しい、みたいな?」

 

軽口を交わす声に、遊星は無言で工具箱を閉じると、何事もなかったかのように立ち上がった。

 

(“夢を託されたウマ娘”……か)

 

その言葉に、彼の中の記憶がふと揺れた。かつてのチーム。マルゼンスキーのクラシック挑戦。URAの不正、そして仲間たちの怒り。夢を託された者は、時に“期待”という名の鎖に縛られ、潰れる。それでも走りたいと願うのなら――支えなければならない。

 

遊星は、トレーニング場の奥にある非公式のサブトラックへと足を運んだ。

 

 

 

トレセン学園の裏手にある緩やかな丘のコース。公式戦用のトラックではないが、静かに走り込みを続けたいウマ娘たちの間では密かに人気の場所だった。

 

そのコースの中ほどに、ひとり――風を切って走る少女の姿があった。

 

「……!」

 

遊星は、その走りを見て思わず立ち止まった。

 

軽やかなフォーム。まだ完成されていないが、走ることそのものを純粋に楽しんでいるのが伝わってくる。けれど同時に、どこか無理をしているような、焦るような、それでいて何かを追い求めるような走り――。

 

(“何か”ではないな。あれは、“誰か”の背中を追っている走りだ)

 

その直感が、遊星の中の何かを刺激した。

 

やがて、彼女――スペシャルウィークはゴール地点に到達すると、その場に膝をついた。呼吸は荒く、頬に汗が流れる。だが、目の奥にはまだ走り足りないと言わんばかりの光が残っていた。

 

「……っ、まだ、全然……お母ちゃんに、届かない……」

 

その呟きを聞いたとき、遊星は確信した。

 

(この子は、“走らされている”んじゃない。自分で選んで、走っている)

 

そう思った瞬間、懐からタオルを取り出し、彼女に差し出していた。

 

「……!」

 

スペシャルウィークが顔を上げる。初めて見る顔――寡黙で、無表情に見えるが、どこか優しさを湛えた青年。彼女は戸惑いながらも、タオルを受け取った。

 

「あ、ありがとう……ございます!」

 

「無理な走り方だ。膝を壊すぞ」

 

「えっ……あっ、ご、ごめんなさいっ」

 

慌てて立ち上がるスペシャルウィークに、遊星はゆっくりと首を振る。

 

「謝ることじゃない。“勝ちたい”なら、それでいい。“誰かに追いつきたい”なら、それも悪くない。ただ、――膝を壊してしまったら、走れなくなる。それだけは忘れるな」

 

その言葉は、まるで昔の誰かに向けられたような響きだった。

 

スペシャルウィークは、彼の言葉を胸の奥で反芻する。そして、ぽつりと呟いた。

 

「……お母ちゃんも、同じこと言ってたなあ……。ちゃんと、走るんだよって」

 

「お前の走りは、まっすぐだ。……だが、まっすぐ過ぎる。今のままでは、いずれ壁にぶつかる」

 

「それでも……走りたいんです。お母ちゃんが……夢を託してくれたから!」

 

胸を張ってそう言い切ったスペシャルウィークに、遊星は少しだけ目を細めた。

 

(夢を、託された――か)

 

「名前は?」

 

「スペシャルウィークです! 北海道から来ました!」

 

「……不動遊星。学園のメカニックだ」

 

「メカニック……えっ、トレーナーじゃないんですか?」

 

「今はな。だが――トレーナーに戻る気も、ないわけじゃない」

 

その意味を、スペシャルウィークはまだ理解していなかった。ただ、何かを予感させる言葉に、彼女の胸が高鳴った。

 

 

「なあ、スペシャルウィーク」

 

歩きながら遊星が静かに口を開いた。

 

「お前は、誰の背中を追ってる?」

 

「……!」

 

その問いに、スペシャルウィークは立ち止まった。そして、遠く空を見上げるように答えた。

 

「お母ちゃんの背中……かな。私は、本当の親じゃないって、育てのお母ちゃんが言ってた。でも、私には“お母ちゃん”はひとりだけ。すっごく優しくて、でも厳しくて、ずっと応援してくれた……」

 

「その母親が、夢を託した」

 

「はい……。だから、私が叶えたいんです。母ちゃんの分も、走って、勝って、日本一のウマ娘に――!」

 

その目は、まっすぐで、揺るぎなかった。

ただの“夢見がち”な少女ではない。自分の存在を証明するような、切実な願いが込められていた。

 

遊星は、ポケットから小さなメモ用紙を取り出すと、それに何かを書きつけて渡した。

 

「え……これ……?」

 

「スケジュール表だ。次の公式戦……出る気があるなら、ここで準備を整えておけ。無理はするな。俺は……その日、整備の当番じゃないが、走りを見に行く」

 

「えっ、えぇ!? そ、それって……!」

 

「別に、スカウトじゃない。ただのメカニックだ。だが、見たいと思った。お前の走りを、もう一度」

 

その言葉に、スペシャルウィークは目を丸くし、やがてふわりと笑った。

 

「……わかりましたっ!」

 

彼女は深く頭を下げ、力強く頷いた。

 

「不動さんに、見てほしいです! 私、全力で走りますから!」

 

遊星は何も言わず、彼女の背に視線を送る。少し頼りなく、けれど真っ直ぐで、熱い炎を胸に宿した背中。

 

――あの頃の仲間たちが信じた、走ることの意味。

――夢を託され、夢を繋いでいく意思。

 

彼女の背には、それがある。

 

(なら、今度は俺が……導く番だ)

 

 

---

 

日が変わり、公式戦の当日。

 

観客席の隅に、不動遊星の姿があった。トレーナー席ではない。ただの整備員として、立っている。

 

出走ウマ娘の名が読み上げられ、スペシャルウィークの名が響く。

 

「スペシャルウィーク、出走ゲート入りましたー!」

 

スタートの合図。――風を切るように、彼女は飛び出した。

 

フォームはまだ粗い。だが、遊星は気づいていた。

 

(昨日より、力の抜き方を覚えた)

 

後半、持ち味である持久と爆発力を活かして、彼女は順位をぐんと上げた。

 

そしてゴール――結果は、三着。

勝利ではなかったが、観客席がどよめいた。

 

「……やるな」

 

遊星の口元が、ほんの僅かにほころぶ。

 

 

---

 

レースが終わり、控え室に戻ってきたスペシャルウィークは、汗と泥でぐちゃぐちゃの顔のまま、遊星の姿を探していた。

 

――いた。

 

その背中は静かに、控え室の奥の壁にもたれかかっていた。

 

「不動さんッ!」

 

スペシャルウィークは駆け寄ると、両手をぐっと握りしめた。

 

「三着でしたけど……どうでした!? 私の走り!」

 

遊星は短く頷いた。

 

「前傾のフォーム、直していたな。踏み込みのタイミングも変えたか?」

 

「はいっ! 昨日言われたこと、ちゃんと考えてみて……ちょっとだけ、うまくできた気がします!」

 

「……そうか」

 

遊星の声は淡々としているが、その目は、確かに彼女の走りを見ていたことを証明していた。

 

「不動さん……! もし、もし、できるなら……!」

 

スペシャルウィークは、少しだけ言葉に詰まり、それでも真っ直ぐに言った。

 

「私、もっともっと、強くなりたいです。不動さんの言葉、全部覚えておきたい。……だから、もしよかったら……私の、トレーナーになってください!」

 

その言葉に、遊星はしばし無言で彼女を見つめた。

 

目の前にいる少女は、かつての誰かと重なって見えた。自分の限界を知らず、夢の中に全力で飛び込んでいく、まっすぐな光――。

 

(ジャック、お前なら、こう言うだろうな。「迷う必要などない」と)

 

(クロウなら、「まず一緒に走ってみろ!」と笑うだろう)

 

(鬼柳は……たぶん、ぶっきらぼうに背中を押してくる)

 

遊星は静かに息を吐いた。

 

「俺は……“導く”だけだ。走るのは、お前自身だ」

 

「……!」

 

「それでも良ければ――俺が、スペシャルウィークの夢に付き合おう」

 

それは、彼が初めて“トレーナー”としての意思を明確に示した瞬間だった。

 

スペシャルウィークの目に涙が浮かぶ。けれど、笑顔は晴れやかだった。

 

「よろしくお願いしますっ、不動トレーナー!」

 

「……ああ」

 

彼女の差し出した手を、遊星はしっかりと握り返した。

 

 

---

 

その数日後。

 

学園のメカニックルームにて。

 

遊星が備品のチェックをしていると、背後から元気な声が響く。

 

「ねーねー不動トレーナー! ウララの機材直してくれたんだってねー!」

 

「……ああ。調整しておいた。稼働限界を上げすぎてたな」

 

「ありがとーっ! じゃあ今日も、うっらら~!って走ってくるねっ!」

そう言って笑顔で駆けていくハルウララ。

 

その横を、スペシャルウィークが並走する。

 

「ウララちゃん、今日も元気だね!」

 

「うんっ! 不動トレーナーがついてるんだもん、安心して全力出せるよ~!」

 

ふたりの笑顔を見送りながら、遊星はぼそりと呟いた。

 

「……“安心して全力を出せる”か。なるほど、悪くない」

 

 

しかし内心では、「まぁ、まだトレーナーに復帰したわけじゃないが…」

と一人呟いていた

 

---

 

【To Be Continued…】

 

次回:第5話「バイクの音に惹かれて」

――不動遊星の愛機が、ウオッカの心を撃ち抜く!

 

 

---

 

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