ハルウララのトレーナーはメカニック   作:瑠璃ぃぃぃ

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ウオッカの可愛さは刺さりますねぇ…


第5話「バイクの音に惹かれて」

――速さに、理由なんていらねぇ。

ただ、感じたんだ。背中で。音で。空気で。

あの人が、私の走りを変えてくれるって。

 

それだけで、脳みそが――“ぶっ壊れた”。

 

 

---

 

「ウオッカはどうだい? トレーナー、もう決まった?」

 

放課後のトレセン学園、談話室。

声をかけたのは、先輩のヒシアマゾンだった。

 

「うーん……まーだピンと来ねぇんっすよねぇ。みんな“スピードが売り”とか“瞬発力が武器”とか言ってくれるけどよ、俺が欲しいのはもっとこう……グッと来るヤツっつーか?」

 

腕を組みながら、ソファに深く沈むウオッカ。

その額には薄く汗。今日のトレーニングも全力だったらしい。

 

「贅沢な悩みだねぇ。今のあんたならどのチームも欲しがるってのに」

 

「わかってんっすけど、でもさ……なんか違うんだよなぁ…」

 

言葉を濁しながら、窓の外を見やる。

空はもう夕焼けに染まりかけている。

 

(ガチで勝ちたいんだ。だから、誰でもいいってわけにゃいかねぇ)

 

ウオッカの心にあったのは、ダイワスカーレットの存在だった。

幼いころから何かにつけて張り合い、ぶつかってきた“永遠のライバル”。

そのスカーレットは、すでにトレーナーを得て、本格的にレースへ向けての調整を始めている。

 

しかもそのトレーナーは――

 

「……ジャック・アトラス、か」

 

ウオッカは静かに呟いた。

聞いた時は衝撃だった。トレーナー界でも異色の存在。

だが彼の存在感は圧倒的だったと評判だった。

 

(アイツらしいっちゃアイツらしいが……なんかムカつくな)

 

そのとき、学園の中庭の方から、低く唸るような“エンジン音”が聞こえてきた。

トレセン学園に許可されている限られたバイク用試験区域。

整備士や一部の職員が使用しているスペースだ。

 

「……あれ?」

 

なぜか、その音に惹かれてウオッカの身体が動く。

 

「ちょっと、行ってくるわ!」

 

「は? どこに――ウオッカ!?」

 

 

---

 

夕陽に染まる整備区画――そこに、ひとりの男がいた。

 

静かにバイクのマフラーを締め直し、オイルの量を確認しながら、

整備用バンドに工具を差し込んでいく。無駄のない、流れるような手つき。

 

その背中は、無言で語っていた。

 

「速さ」は、手で作り上げるものだと。

そして、「速さ」は、技術と信念に支えられていると。

 

(……誰だ、あの人)

 

しばし見惚れたあと、ウオッカは咳払いをして近づいた。

 

「よっ、お疲れさん。そこのメカニックの兄ちゃん?」

 

その男は工具を止め、ゆっくりと顔を上げる。

 

 

「……何か用か?」

 

淡々とした声。だがその目は、鋭く、何よりも“まっすぐ”だった。

 

「なんか、すげー手慣れてんな。ここで整備してるってことは、アンタ……」

 

「メカニックだ。トレセン学園の設備整備。バイクの管理と機材の調整も担当している」

 

「へー、そりゃまた器用な」

 

遊星はウオッカを一瞥し、その名前が胸元にあるのを確認する。

 

「――ウオッカか。お前、脚のバランス、少し崩れてるな。左足の踏み込みにズレがある」

 

「……は?」

 

思わず聞き返した。

 

「見てたのか、俺の走り?」

 

「足音でわかる。地面の掴み方にムラがある。バイクのローンチと同じだ」

 

その分析は冷静で、けれどどこか“熱”を孕んでいた。

 

(なんだ……この人、ヤベぇ)

 

一瞬にして、身体の奥が“グラッ”と揺れる。

 

「な、なあアンタ――名前は?」

 

「不動遊星。……ただのメカニックだ」

 

その名を聞いたとたん、頭に稲妻が走った。

 

(“不動遊星”――聞いたことがある。いや、あの伝説の……!)

 

 

-

 

 

 

ウオッカの脳裏に、かすかに残る“学園の噂話”が蘇る。

 

――数年前、URAの古い体制が崩壊するきっかけとなった一連の事件。

そこに関わった四人の新人トレーナーがいた。

後に“チーム・サティスファクション”と呼ばれた彼ら。

 

“マルゼンスキーのクラシック出走”を巡って起きた騒動。

鬼柳京介の過激な行動、不正を暴いた不動遊星、

世間へ告発を行ったジャック・アトラスとクロウ・ホーガン。

 

その名は、今も一部の関係者の間で“伝説”として語られている。

 

(まさか、生で会えるとはな……!)

 

「な、なぁ遊星……さん。アンタ、トレーナーじゃねえのか?」

 

「昔は目指していた。だが今は違う。俺は……後方支援に回っただけだ」

 

その言葉には、淡々とした響きと、どこか“痛み”があった。

 

「URAとの一件で、トレーナー資格の更新は無期限凍結された。だが、それでいい。俺は、この手で走りを支える道を選んだ」

 

ウオッカは、遊星の眼差しに圧倒されていた。

 

どこまでも真っ直ぐで、静かに燃えている。

 

“速さ”とは何か――その問いに、生涯を懸けて向き合っている男。

 

そして、自分の足元を見ている男。

 

「な、なあ。俺さ、まだトレーナーが決まってなくてさ。何人かにはスカウトされてるけど、正直ピンと来なくて」

 

「……そうか」

 

「でも、今アンタと話して、感じたんだ」

 

心臓が跳ねるように鼓動を打つ。

 

「アンタみたいな人に見てもらえるなら――もっと速くなれる気がする!」

 

ウオッカの瞳がまっすぐに遊星を捉えた。

 

だが、遊星は静かに首を振る。

 

「すまない。俺はトレーナーではない。お前の希望には応えられない」

 

「そ、そんな……!」

 

「……だが、整備士としてなら手を貸せる。お前の走りに必要な道具、バランス、メニュー。全て揃えてやる」

 

その言葉に、なぜか心が揺れた。

拒絶されたはずなのに、何かが“満たされた”ような気がした。

 

「……そっか。そうだよな。アンタはトレーナーじゃねえもんな」

 

それでも、まだ諦めきれずに言った。

 

「でもよ――俺、アンタのとこに通っていいか? 整備とか、相談とか」

 

遊星は工具を片づけながら、わずかに頷いた。

 

「好きにしろ。だがその代わり、妥協は許さない。どんなに小さな違和感でも潰す。勝ちたいならな」

 

その瞬間、ウオッカの胸の中で何かが“爆発”した。

 

(やっぱ、ヤバいぜコイツ……!)

 

トレーナーでも整備士でも関係ない。

この人の元でなら――絶対に、勝てる。走れる。戦える。

 

(ダメだ……完全に“ツボ”だ。俺のストライクゾーン、ど真ん中……!)

 

理性よりも先に、ウオッカの心が“惚れた”。

 

 

---

ウオッカが去った後、ガレージには再び静けさが戻っていた。

遊星は整備台の前にしゃがみ込み、工具の手入れを始める。

 

だが、その指先はほんのわずかに止まる。

 

(トレーナーではない――そう言い切ったのは、嘘ではない。だが……)

 

あのまっすぐな瞳。まるで、あの時の――

 

「……マルゼンスキーを、思い出すな」

 

そう呟いた瞬間、かつての記憶が脳裏に蘇る。

 

 

---

 

あれは数年前。

 

URAの上層部は、あからさまに“賭け事”と“人気商売”を優先していた。

 

“外国産ウマ娘”として扱われたマルゼンスキーは、

クラシック三冠への出走権すら与えられなかった。

 

それを聞いた鬼柳京介は激昂し、学園の中央廊下でトレーナーに詰め寄り、

「マルゼンスキーの出走を認めろ!」と叫びながら、

教室のガラスを拳で叩き割った。

 

「やめろ鬼柳ッ!」

「こいつらは……“本物”じゃない……!」

 

止めに入った遊星も、その後URAのサーバーから

不正運営に関するデータを引き出して告発。

 

ジャックとクロウが各報道局へ駆け込み、

「ウマ娘の未来を守れ」と記者会見を開いた。

 

結果、旧体制は崩れ落ち、

“トレーナー志望”だった4人は、処分こそ受けたものの――

 

彼らが作った道筋は、

今の「ウマ娘に寄り添う」URAという組織に繋がっている。

 

 

---

 

 

 

 

「……お前も、走りたいと思ったのか。ウオッカ」

 

無意識に呟いた声は、どこか優しかった。

 

それは、ウララやスペシャルウィークと接した時と同じ、

遊星が心から誰かに“走ってほしい”と思った時の声。

 

「トレーナー資格停止か……懐かしいなぁ、遊星」

 

ふいに、背後から聞き覚えのある声。

 

振り返ると、バイクに跨ったクロウ・ホーガンが手を振っていた。

 

「久しぶりに来たぜ、遊星。整備、頼めるか?」

 

「……当然だ」

 

クロウはバイクから降り、エンジンに耳を澄ませる遊星を見て笑った。

 

「お前、結局“前線”に戻ってきてんじゃねぇか。あのスペシャルウィークといい、今のウオッカといいさ」

 

「……どういう意味だ」

 

「ハッ、気付いてねえのか? お前、もう一度チーム作ってんだよ」

 

ガツン、と胸を小突かれるような感覚。

 

クロウは悪戯っぽく笑うと、続けた。

 

「トレーナーじゃねえって言いながら、“支える”とか“準備する”とか言い訳して、結局は誰かの背を押してんだ。俺には分かるよ。あの頃のお前と同じ目をしてた」

 

「…………」

 

遊星は返せなかった。図星だった。

 

「それにさ、あの“無期限停止”ってやつ――もうお前以外は既に更新してるぞ?」

 

「……だが」

 

「いやいや、今のURAはあの頃とは違う。理事長だって、お前に感謝してるだろうしな。何時までも責任感じずにそろそろ“復活劇”を見せてくれよ、遊星」

 

そう言って、クロウは再びバイクに跨る。

 

「また来るぜ。次は……ウチのツインターボがぶっ壊してくるかもな!」

 

「予告してから壊す奴があるか……」

 

思わず漏れた笑いに、クロウも応じて笑った。

 

エンジン音と共に去っていく背中を見ながら、遊星は整備台に目を戻す。

 

(支えるだけ、で終われるのか――俺は)

 

 

---

 

ウオッカはというと、その日以降、毎日のように遊星の元に通い始めた。

 

「俺の脚のバランス、ちょっと見てくれ!」

「なぁ遊星、これってどう思う? 鉄の味がするんだけど」

「……違う? そっか、俺の気のせいか……あーくそ、悔しいな!」

 

とにかく騒がしい。

だが、彼女の求める姿勢は真剣そのもので――

 

遊星もまた、無言で彼女の癖や特徴を“整えていく”。

 

ウオッカは、知らぬ間に“整備士のトレーニング”という名の、

極めて密な個別指導を受け始めていたのだった。

 

 

---

 

「ねぇ、ちょっとアンタ……何してんのよ!」

 

その声がガレージに響いた瞬間、

ウオッカは工具箱の中に顔を突っ込んだまま固まった。

 

ゆっくりと顔を出し、視線を上げると――

そこに立っていたのは、燃えるような赤いツインテールのウマ娘。

 

ダイワスカーレット。

 

その表情は、まさに“火山の噴火寸前”だった。

 

「スカーレット……?」

 

「“様”を付けなさいよ、ウオッカ。“無冠の問題児”が整備士の庇護の下で何してんのよ?」

 

「……チッ、なんだよ。ジャックの女騎士かよ。そんなに気に食わねえなら、見なきゃいいだろ」

 

「見たくなくても目に入るのよ! アンタみたいな自由人が、遊星に懐いてるのがっ!」

 

バチバチと火花が散るような視線のぶつかり合い。

まるで火と雷がぶつかるように、二人の間に緊張が走る。

 

遊星は黙って見ていた。

 

「別にいいじゃねえか。俺は俺で、自分の“走り”を磨いてるだけだ。お前が何しようと、俺は――」

 

「“俺は、俺の走りを見つけたい”。ふーん、カッコつけてるけど……」

 

スカーレットが一歩詰め寄る。

 

「アンタ、本当にレースに出たいわけ?」

 

「――ああ」

 

即答だった。

 

スカーレットが、一瞬目を見開く。

 

「遊星の“その背中”を追いたいから、俺は走りたい」

 

ウオッカの声は、確かに届いていた。

 

「……っ!」

 

ダイワスカーレットは、怒りとも動揺ともつかない顔をし――

遊星に向き直った。

 

「遊星。確認させて。ウオッカ……この子、アンタが育てるつもりなの?」

 

「……育てているつもりはない。だが、彼女は“走ろう”としている。なら、俺は――整備士として、支えるだけだ」

 

スカーレットの表情に複雑な影が差す。

 

「ふ、ふーん……そう、なら別に、文句は言わないけど……!」

 

そう言って背を向け、去ろうとする。

 

その瞬間、ウオッカが言葉を投げた。

 

「なぁ、スカーレット」

 

「……何よ」

 

「お前もさ、最初はジャックの“バイク”に惹かれたんだろ?」

 

ピタリ、とスカーレットの足が止まった。

 

「その後で、トレーナーとしてのあいつを見て、惚れた。そうじゃねぇの?」

 

「……うるさいっ!」

 

彼女はそのまま、全力で走り去っていった。

 

 

---

 

静まり返ったガレージ。

その中で、ウオッカが照れ臭そうに頭をかく。

 

「……ま、ああは言ったけどさ」

 

「ん?」

 

「俺も……ちょっとだけ、分かる気がするんだよな」

 

「何がだ?」

 

「惹かれるってのが、さ。バイクの音か、走りの姿か、それとも……」

 

言いかけて、ウオッカは小さく息をついた。

 

「いや、やっぱなんでもねぇ。忘れてくれ。じゃあ、今日も頼むぜ遊星!」

 

「……ああ」

 

遊星の声は、今日もいつも通り淡々としていたが――

その胸の奥には、確かな炎が灯っていた。

 

 

---

 

学園内・URAレース準備室。

 

ジャック・アトラスは、タブレット端末の映像を見つめていた。

 

そこには、ウオッカとダイワスカーレットの一瞬の対峙が映っている。

 

「おもしろい……。遊星、お前は“また”世界を動かすのか……」

 

その口元に浮かぶのは、確信にも似た笑みだった。

 

 

 

 

 

トレセン学園の夕方。ガレージに微かなオイルの匂いと、工具の音が響く。

整備台の上、ウオッカのスパイクを遊星が微調整している。

 

「……っと。これで、踏み込み時の反発が少し和らぐはずだ」

 

「マジか。つか、なんでそんな細けぇ調整が一発で分かんだよ……」

 

「音で分かる。あと、足跡の深さと角度」

 

「マジでどんな脳ミソしてんだよ……」

 

呆れとも賞賛ともつかない表情でウオッカが笑う。

 

そのとき――ガレージのシャッターが、バンッ!と勢いよく開いた。

 

「ちょっとウオッカ――遊星と何してんのよ!?」

 

ツインテールが揺れ、強い視線がウオッカを射抜く。

声の主はもちろん、ダイワスカーレット。

 

ウオッカは「うわ、また来た……」とでも言いたげな顔で溜息をついた。

 

「今度は何だよ、スカーレット。遊星と整備してただけだろ?」

 

「整備? ああそう、すっごく“仲良く”見えたわよ!」

 

「はあ!? 見た目で決めつけんなよ!」

 

二人の間にまた火花が散る。

 

「アンタさ、ほんっっっとに自由気ままよね!

ジャックがどれだけアンタに手を焼いたか、知ってんの!?」

 

「知るかよ。あいつのスカウト、全部断ったし」

 

「……何で?」

 

スカーレットがほんの一瞬、素の顔になる。

 

「なんか、ピンと来なかった。それだけだよ」

 

「じゃあ、遊星には“ピンと来た”ってわけ?」

 

その問いにウオッカは無言で肩をすくめ、照れ臭そうに笑う。

 

「……クッ」

 

スカーレットが眉をひそめ、叫ぶように言った。

 

「アンタなんかに……負けないんだから!!」

 

そう叫ぶと、そのまま走り去るスカーレット。

 

ウオッカはその背中を見送りながら、ぽつりとつぶやいた。

 

「……なんか、あいつも焦ってんのかな」

 

遊星は、再び工具に手を伸ばしながら答える。

 

「焦りは走りを鈍らせる。だが、“追いかける相手”ができたなら、別だ」

 

「フッ……そいつは面白ぇな」

 

 

---

 

その日の夜、学園のバルコニーにて――。

 

ウオッカは夜風に吹かれながら、ひとり空を見上げていた。

その隣に、遊星がバイクのヘルメットを持って立つ。

 

「走るか?」

 

「マジか。いいのかよ?」

 

「ああ。今夜は、月が良く見える」

 

――シュウウウウ。

 

遊星がキーを回し、バイクが静かに火を吹く。

 

ウオッカはその音に、また心を奪われる。

 

「やっぱ、いい音だな……この音を聞いてると、俺も“走りたい”って思うんだ」

 

「なら、走ればいい。音の向こうに、答えがある」

 

「……なぁ、遊星」

 

「ん?」

 

「俺、あんたに会えて良かったよ」

 

その言葉に、遊星は静かにヘルメットを差し出す。

 

「じゃあ、その気持ちを――走りで証明してみせろ」

 

ウオッカは、それを受け取った。

 

「……ああ。絶対、あんたに“俺の走り”見せてやる」

 

バイクが夜を裂き、月明かりの下へと走り出す。

 

それはウオッカが“走る理由”を見つけた夜。

そして、ダイワスカーレットとの本当の競争が始まる――前夜だった。

 

 

---

 

 

「ねぇ、ちょっと遊星!」

 

放課後の裏庭に、ヒールの音とともに怒気を孕んだ声が響く。赤いツインテールが風を切り、目を剥いた少女が駆け込んできた。

 

ダイワスカーレット。

 

ジャック・アトラスの担当ウマ娘であり、レースでも、学園内でも常に注目を浴びる存在。

 

「……アンタ、まさかウオッカをスカウトとか言い出すんじゃないでしょうね?」

 

スカーレットはウオッカを一瞥し、そのまま遊星に詰め寄った。

 

「おいおい、なんだよその言い方。俺のことは無視かよ、スカーレット?」

 

ウオッカが肩をすくめながら口を挟む。

 

「無視してないわよ。ただし、アンタが誰の担当になろうと、あたしのライバルであることは変わらない――それだけは忘れないで」

 

「ハッ、上等だね。それにしても、お前がジャックのとこに入ったってのは聞いてたけど、実際に見ると納得って感じだな」

 

ウオッカは口元をニッと吊り上げ、スカーレットに向き直る。

 

「で、見にきたのか? 遊星と俺の“デート”をよ」

 

「デ、デ、デ――!?」

 

スカーレットの顔が一瞬で茹だったように赤く染まる。

 

「な、な、なに言ってるのよ!ち、ちがっ……!」

 

「だよなあ。だってこれ、スカウトだもん」

 

ウオッカがしたり顔でウィンクを飛ばす。遊星は二人のやりとりに微かに眉を上げると、ポツリと呟いた。

 

「……お前が誰をライバル視しようと、俺には関係ない。だが、ウオッカ――お前は、まだこの学園のどこにも属していない。違うか?」

 

ウオッカが目を細める。

 

「……まぁな。今まで何人ものトレーナーから声はかかったけど、正直、ピンと来なかった。『もっと勝てる走り方を』だの、『フォームを矯正すれば』だの、どいつもこいつも型にはめようとしやがって――」

 

吐き捨てるように言うその目に、かつての孤独が滲む。

 

「だけど、お前は……違った。バイクでぶっちぎったあの瞬間――俺の心臓が跳ねた」

 

その目は、獲物を見据える猛獣のようだった。

 

「だからよ、遊星。俺を、お前のチームに入れてくれ。俺は、勝ちてぇ。お前と一緒に、URAファイナルズに――」

 

「……チーム・サティスファクション。今の俺に、それを名乗る資格はない」

 

遊星の言葉に、空気が張り詰めた。

 

「過去、俺たちはやりすぎた。だが、それでも――俺はこの学園で、もう一度“走る意味”を見つけたいと思ってる」

 

遊星の視線が、スカーレット、そしてウオッカへと移る。

 

「お前がその意思を持っているなら、共に来い。だが、ただ速さを求めるだけの奴なら、いらない」

 

「俺は、“俺の走り”を極める。その先に、勝利があると思ってる。――それじゃ、足りねぇか?」

 

「……上等だ。ついて来い、ウオッカ。整備室は少し狭いが、話すには十分だ」

 

「……へへっ、よろしくな。不動遊星」

 

ウオッカの拳と、遊星の拳が静かにぶつかり合う。

 

その光景を、スカーレットはじっと見つめていた。複雑な、どこか悔しげな瞳で。

 

「……勝手にしなさい。でも、次のレース、アンタが勝てるなんて思わないことね」

 

そう言い残し、彼女は踵を返した。

 

その背中を見送りながら、ウオッカがニヤリと笑う。

 

「――燃えてきたぜ。遊星、次のトレーニング、ブチかましてくれよ!」

 

「まずは基礎だ。逃げられると思うなよ」

「俺が逃げるわけねーだろ? “逃げ”はアイツの十八番なんだからな!」

 

遊星の口元に、久々の“笑み”が浮かんだ。

 

 

---

 

余談だが、スカーレットの手前、カッコつけてデートと言っていたが後で思い出して鼻血を出し、気絶したのは御愛嬌。

 




遊戯王5Dsの再放送か楽しいなぁ…
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