――速さに、理由なんていらねぇ。
ただ、感じたんだ。背中で。音で。空気で。
あの人が、私の走りを変えてくれるって。
それだけで、脳みそが――“ぶっ壊れた”。
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「ウオッカはどうだい? トレーナー、もう決まった?」
放課後のトレセン学園、談話室。
声をかけたのは、先輩のヒシアマゾンだった。
「うーん……まーだピンと来ねぇんっすよねぇ。みんな“スピードが売り”とか“瞬発力が武器”とか言ってくれるけどよ、俺が欲しいのはもっとこう……グッと来るヤツっつーか?」
腕を組みながら、ソファに深く沈むウオッカ。
その額には薄く汗。今日のトレーニングも全力だったらしい。
「贅沢な悩みだねぇ。今のあんたならどのチームも欲しがるってのに」
「わかってんっすけど、でもさ……なんか違うんだよなぁ…」
言葉を濁しながら、窓の外を見やる。
空はもう夕焼けに染まりかけている。
(ガチで勝ちたいんだ。だから、誰でもいいってわけにゃいかねぇ)
ウオッカの心にあったのは、ダイワスカーレットの存在だった。
幼いころから何かにつけて張り合い、ぶつかってきた“永遠のライバル”。
そのスカーレットは、すでにトレーナーを得て、本格的にレースへ向けての調整を始めている。
しかもそのトレーナーは――
「……ジャック・アトラス、か」
ウオッカは静かに呟いた。
聞いた時は衝撃だった。トレーナー界でも異色の存在。
だが彼の存在感は圧倒的だったと評判だった。
(アイツらしいっちゃアイツらしいが……なんかムカつくな)
そのとき、学園の中庭の方から、低く唸るような“エンジン音”が聞こえてきた。
トレセン学園に許可されている限られたバイク用試験区域。
整備士や一部の職員が使用しているスペースだ。
「……あれ?」
なぜか、その音に惹かれてウオッカの身体が動く。
「ちょっと、行ってくるわ!」
「は? どこに――ウオッカ!?」
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夕陽に染まる整備区画――そこに、ひとりの男がいた。
静かにバイクのマフラーを締め直し、オイルの量を確認しながら、
整備用バンドに工具を差し込んでいく。無駄のない、流れるような手つき。
その背中は、無言で語っていた。
「速さ」は、手で作り上げるものだと。
そして、「速さ」は、技術と信念に支えられていると。
(……誰だ、あの人)
しばし見惚れたあと、ウオッカは咳払いをして近づいた。
「よっ、お疲れさん。そこのメカニックの兄ちゃん?」
その男は工具を止め、ゆっくりと顔を上げる。
「……何か用か?」
淡々とした声。だがその目は、鋭く、何よりも“まっすぐ”だった。
「なんか、すげー手慣れてんな。ここで整備してるってことは、アンタ……」
「メカニックだ。トレセン学園の設備整備。バイクの管理と機材の調整も担当している」
「へー、そりゃまた器用な」
遊星はウオッカを一瞥し、その名前が胸元にあるのを確認する。
「――ウオッカか。お前、脚のバランス、少し崩れてるな。左足の踏み込みにズレがある」
「……は?」
思わず聞き返した。
「見てたのか、俺の走り?」
「足音でわかる。地面の掴み方にムラがある。バイクのローンチと同じだ」
その分析は冷静で、けれどどこか“熱”を孕んでいた。
(なんだ……この人、ヤベぇ)
一瞬にして、身体の奥が“グラッ”と揺れる。
「な、なあアンタ――名前は?」
「不動遊星。……ただのメカニックだ」
その名を聞いたとたん、頭に稲妻が走った。
(“不動遊星”――聞いたことがある。いや、あの伝説の……!)
-
ウオッカの脳裏に、かすかに残る“学園の噂話”が蘇る。
――数年前、URAの古い体制が崩壊するきっかけとなった一連の事件。
そこに関わった四人の新人トレーナーがいた。
後に“チーム・サティスファクション”と呼ばれた彼ら。
“マルゼンスキーのクラシック出走”を巡って起きた騒動。
鬼柳京介の過激な行動、不正を暴いた不動遊星、
世間へ告発を行ったジャック・アトラスとクロウ・ホーガン。
その名は、今も一部の関係者の間で“伝説”として語られている。
(まさか、生で会えるとはな……!)
「な、なぁ遊星……さん。アンタ、トレーナーじゃねえのか?」
「昔は目指していた。だが今は違う。俺は……後方支援に回っただけだ」
その言葉には、淡々とした響きと、どこか“痛み”があった。
「URAとの一件で、トレーナー資格の更新は無期限凍結された。だが、それでいい。俺は、この手で走りを支える道を選んだ」
ウオッカは、遊星の眼差しに圧倒されていた。
どこまでも真っ直ぐで、静かに燃えている。
“速さ”とは何か――その問いに、生涯を懸けて向き合っている男。
そして、自分の足元を見ている男。
「な、なあ。俺さ、まだトレーナーが決まってなくてさ。何人かにはスカウトされてるけど、正直ピンと来なくて」
「……そうか」
「でも、今アンタと話して、感じたんだ」
心臓が跳ねるように鼓動を打つ。
「アンタみたいな人に見てもらえるなら――もっと速くなれる気がする!」
ウオッカの瞳がまっすぐに遊星を捉えた。
だが、遊星は静かに首を振る。
「すまない。俺はトレーナーではない。お前の希望には応えられない」
「そ、そんな……!」
「……だが、整備士としてなら手を貸せる。お前の走りに必要な道具、バランス、メニュー。全て揃えてやる」
その言葉に、なぜか心が揺れた。
拒絶されたはずなのに、何かが“満たされた”ような気がした。
「……そっか。そうだよな。アンタはトレーナーじゃねえもんな」
それでも、まだ諦めきれずに言った。
「でもよ――俺、アンタのとこに通っていいか? 整備とか、相談とか」
遊星は工具を片づけながら、わずかに頷いた。
「好きにしろ。だがその代わり、妥協は許さない。どんなに小さな違和感でも潰す。勝ちたいならな」
その瞬間、ウオッカの胸の中で何かが“爆発”した。
(やっぱ、ヤバいぜコイツ……!)
トレーナーでも整備士でも関係ない。
この人の元でなら――絶対に、勝てる。走れる。戦える。
(ダメだ……完全に“ツボ”だ。俺のストライクゾーン、ど真ん中……!)
理性よりも先に、ウオッカの心が“惚れた”。
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ウオッカが去った後、ガレージには再び静けさが戻っていた。
遊星は整備台の前にしゃがみ込み、工具の手入れを始める。
だが、その指先はほんのわずかに止まる。
(トレーナーではない――そう言い切ったのは、嘘ではない。だが……)
あのまっすぐな瞳。まるで、あの時の――
「……マルゼンスキーを、思い出すな」
そう呟いた瞬間、かつての記憶が脳裏に蘇る。
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あれは数年前。
URAの上層部は、あからさまに“賭け事”と“人気商売”を優先していた。
“外国産ウマ娘”として扱われたマルゼンスキーは、
クラシック三冠への出走権すら与えられなかった。
それを聞いた鬼柳京介は激昂し、学園の中央廊下でトレーナーに詰め寄り、
「マルゼンスキーの出走を認めろ!」と叫びながら、
教室のガラスを拳で叩き割った。
「やめろ鬼柳ッ!」
「こいつらは……“本物”じゃない……!」
止めに入った遊星も、その後URAのサーバーから
不正運営に関するデータを引き出して告発。
ジャックとクロウが各報道局へ駆け込み、
「ウマ娘の未来を守れ」と記者会見を開いた。
結果、旧体制は崩れ落ち、
“トレーナー志望”だった4人は、処分こそ受けたものの――
彼らが作った道筋は、
今の「ウマ娘に寄り添う」URAという組織に繋がっている。
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「……お前も、走りたいと思ったのか。ウオッカ」
無意識に呟いた声は、どこか優しかった。
それは、ウララやスペシャルウィークと接した時と同じ、
遊星が心から誰かに“走ってほしい”と思った時の声。
「トレーナー資格停止か……懐かしいなぁ、遊星」
ふいに、背後から聞き覚えのある声。
振り返ると、バイクに跨ったクロウ・ホーガンが手を振っていた。
「久しぶりに来たぜ、遊星。整備、頼めるか?」
「……当然だ」
クロウはバイクから降り、エンジンに耳を澄ませる遊星を見て笑った。
「お前、結局“前線”に戻ってきてんじゃねぇか。あのスペシャルウィークといい、今のウオッカといいさ」
「……どういう意味だ」
「ハッ、気付いてねえのか? お前、もう一度チーム作ってんだよ」
ガツン、と胸を小突かれるような感覚。
クロウは悪戯っぽく笑うと、続けた。
「トレーナーじゃねえって言いながら、“支える”とか“準備する”とか言い訳して、結局は誰かの背を押してんだ。俺には分かるよ。あの頃のお前と同じ目をしてた」
「…………」
遊星は返せなかった。図星だった。
「それにさ、あの“無期限停止”ってやつ――もうお前以外は既に更新してるぞ?」
「……だが」
「いやいや、今のURAはあの頃とは違う。理事長だって、お前に感謝してるだろうしな。何時までも責任感じずにそろそろ“復活劇”を見せてくれよ、遊星」
そう言って、クロウは再びバイクに跨る。
「また来るぜ。次は……ウチのツインターボがぶっ壊してくるかもな!」
「予告してから壊す奴があるか……」
思わず漏れた笑いに、クロウも応じて笑った。
エンジン音と共に去っていく背中を見ながら、遊星は整備台に目を戻す。
(支えるだけ、で終われるのか――俺は)
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ウオッカはというと、その日以降、毎日のように遊星の元に通い始めた。
「俺の脚のバランス、ちょっと見てくれ!」
「なぁ遊星、これってどう思う? 鉄の味がするんだけど」
「……違う? そっか、俺の気のせいか……あーくそ、悔しいな!」
とにかく騒がしい。
だが、彼女の求める姿勢は真剣そのもので――
遊星もまた、無言で彼女の癖や特徴を“整えていく”。
ウオッカは、知らぬ間に“整備士のトレーニング”という名の、
極めて密な個別指導を受け始めていたのだった。
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「ねぇ、ちょっとアンタ……何してんのよ!」
その声がガレージに響いた瞬間、
ウオッカは工具箱の中に顔を突っ込んだまま固まった。
ゆっくりと顔を出し、視線を上げると――
そこに立っていたのは、燃えるような赤いツインテールのウマ娘。
ダイワスカーレット。
その表情は、まさに“火山の噴火寸前”だった。
「スカーレット……?」
「“様”を付けなさいよ、ウオッカ。“無冠の問題児”が整備士の庇護の下で何してんのよ?」
「……チッ、なんだよ。ジャックの女騎士かよ。そんなに気に食わねえなら、見なきゃいいだろ」
「見たくなくても目に入るのよ! アンタみたいな自由人が、遊星に懐いてるのがっ!」
バチバチと火花が散るような視線のぶつかり合い。
まるで火と雷がぶつかるように、二人の間に緊張が走る。
遊星は黙って見ていた。
「別にいいじゃねえか。俺は俺で、自分の“走り”を磨いてるだけだ。お前が何しようと、俺は――」
「“俺は、俺の走りを見つけたい”。ふーん、カッコつけてるけど……」
スカーレットが一歩詰め寄る。
「アンタ、本当にレースに出たいわけ?」
「――ああ」
即答だった。
スカーレットが、一瞬目を見開く。
「遊星の“その背中”を追いたいから、俺は走りたい」
ウオッカの声は、確かに届いていた。
「……っ!」
ダイワスカーレットは、怒りとも動揺ともつかない顔をし――
遊星に向き直った。
「遊星。確認させて。ウオッカ……この子、アンタが育てるつもりなの?」
「……育てているつもりはない。だが、彼女は“走ろう”としている。なら、俺は――整備士として、支えるだけだ」
スカーレットの表情に複雑な影が差す。
「ふ、ふーん……そう、なら別に、文句は言わないけど……!」
そう言って背を向け、去ろうとする。
その瞬間、ウオッカが言葉を投げた。
「なぁ、スカーレット」
「……何よ」
「お前もさ、最初はジャックの“バイク”に惹かれたんだろ?」
ピタリ、とスカーレットの足が止まった。
「その後で、トレーナーとしてのあいつを見て、惚れた。そうじゃねぇの?」
「……うるさいっ!」
彼女はそのまま、全力で走り去っていった。
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静まり返ったガレージ。
その中で、ウオッカが照れ臭そうに頭をかく。
「……ま、ああは言ったけどさ」
「ん?」
「俺も……ちょっとだけ、分かる気がするんだよな」
「何がだ?」
「惹かれるってのが、さ。バイクの音か、走りの姿か、それとも……」
言いかけて、ウオッカは小さく息をついた。
「いや、やっぱなんでもねぇ。忘れてくれ。じゃあ、今日も頼むぜ遊星!」
「……ああ」
遊星の声は、今日もいつも通り淡々としていたが――
その胸の奥には、確かな炎が灯っていた。
---
学園内・URAレース準備室。
ジャック・アトラスは、タブレット端末の映像を見つめていた。
そこには、ウオッカとダイワスカーレットの一瞬の対峙が映っている。
「おもしろい……。遊星、お前は“また”世界を動かすのか……」
その口元に浮かぶのは、確信にも似た笑みだった。
トレセン学園の夕方。ガレージに微かなオイルの匂いと、工具の音が響く。
整備台の上、ウオッカのスパイクを遊星が微調整している。
「……っと。これで、踏み込み時の反発が少し和らぐはずだ」
「マジか。つか、なんでそんな細けぇ調整が一発で分かんだよ……」
「音で分かる。あと、足跡の深さと角度」
「マジでどんな脳ミソしてんだよ……」
呆れとも賞賛ともつかない表情でウオッカが笑う。
そのとき――ガレージのシャッターが、バンッ!と勢いよく開いた。
「ちょっとウオッカ――遊星と何してんのよ!?」
ツインテールが揺れ、強い視線がウオッカを射抜く。
声の主はもちろん、ダイワスカーレット。
ウオッカは「うわ、また来た……」とでも言いたげな顔で溜息をついた。
「今度は何だよ、スカーレット。遊星と整備してただけだろ?」
「整備? ああそう、すっごく“仲良く”見えたわよ!」
「はあ!? 見た目で決めつけんなよ!」
二人の間にまた火花が散る。
「アンタさ、ほんっっっとに自由気ままよね!
ジャックがどれだけアンタに手を焼いたか、知ってんの!?」
「知るかよ。あいつのスカウト、全部断ったし」
「……何で?」
スカーレットがほんの一瞬、素の顔になる。
「なんか、ピンと来なかった。それだけだよ」
「じゃあ、遊星には“ピンと来た”ってわけ?」
その問いにウオッカは無言で肩をすくめ、照れ臭そうに笑う。
「……クッ」
スカーレットが眉をひそめ、叫ぶように言った。
「アンタなんかに……負けないんだから!!」
そう叫ぶと、そのまま走り去るスカーレット。
ウオッカはその背中を見送りながら、ぽつりとつぶやいた。
「……なんか、あいつも焦ってんのかな」
遊星は、再び工具に手を伸ばしながら答える。
「焦りは走りを鈍らせる。だが、“追いかける相手”ができたなら、別だ」
「フッ……そいつは面白ぇな」
---
その日の夜、学園のバルコニーにて――。
ウオッカは夜風に吹かれながら、ひとり空を見上げていた。
その隣に、遊星がバイクのヘルメットを持って立つ。
「走るか?」
「マジか。いいのかよ?」
「ああ。今夜は、月が良く見える」
――シュウウウウ。
遊星がキーを回し、バイクが静かに火を吹く。
ウオッカはその音に、また心を奪われる。
「やっぱ、いい音だな……この音を聞いてると、俺も“走りたい”って思うんだ」
「なら、走ればいい。音の向こうに、答えがある」
「……なぁ、遊星」
「ん?」
「俺、あんたに会えて良かったよ」
その言葉に、遊星は静かにヘルメットを差し出す。
「じゃあ、その気持ちを――走りで証明してみせろ」
ウオッカは、それを受け取った。
「……ああ。絶対、あんたに“俺の走り”見せてやる」
バイクが夜を裂き、月明かりの下へと走り出す。
それはウオッカが“走る理由”を見つけた夜。
そして、ダイワスカーレットとの本当の競争が始まる――前夜だった。
---
「ねぇ、ちょっと遊星!」
放課後の裏庭に、ヒールの音とともに怒気を孕んだ声が響く。赤いツインテールが風を切り、目を剥いた少女が駆け込んできた。
ダイワスカーレット。
ジャック・アトラスの担当ウマ娘であり、レースでも、学園内でも常に注目を浴びる存在。
「……アンタ、まさかウオッカをスカウトとか言い出すんじゃないでしょうね?」
スカーレットはウオッカを一瞥し、そのまま遊星に詰め寄った。
「おいおい、なんだよその言い方。俺のことは無視かよ、スカーレット?」
ウオッカが肩をすくめながら口を挟む。
「無視してないわよ。ただし、アンタが誰の担当になろうと、あたしのライバルであることは変わらない――それだけは忘れないで」
「ハッ、上等だね。それにしても、お前がジャックのとこに入ったってのは聞いてたけど、実際に見ると納得って感じだな」
ウオッカは口元をニッと吊り上げ、スカーレットに向き直る。
「で、見にきたのか? 遊星と俺の“デート”をよ」
「デ、デ、デ――!?」
スカーレットの顔が一瞬で茹だったように赤く染まる。
「な、な、なに言ってるのよ!ち、ちがっ……!」
「だよなあ。だってこれ、スカウトだもん」
ウオッカがしたり顔でウィンクを飛ばす。遊星は二人のやりとりに微かに眉を上げると、ポツリと呟いた。
「……お前が誰をライバル視しようと、俺には関係ない。だが、ウオッカ――お前は、まだこの学園のどこにも属していない。違うか?」
ウオッカが目を細める。
「……まぁな。今まで何人ものトレーナーから声はかかったけど、正直、ピンと来なかった。『もっと勝てる走り方を』だの、『フォームを矯正すれば』だの、どいつもこいつも型にはめようとしやがって――」
吐き捨てるように言うその目に、かつての孤独が滲む。
「だけど、お前は……違った。バイクでぶっちぎったあの瞬間――俺の心臓が跳ねた」
その目は、獲物を見据える猛獣のようだった。
「だからよ、遊星。俺を、お前のチームに入れてくれ。俺は、勝ちてぇ。お前と一緒に、URAファイナルズに――」
「……チーム・サティスファクション。今の俺に、それを名乗る資格はない」
遊星の言葉に、空気が張り詰めた。
「過去、俺たちはやりすぎた。だが、それでも――俺はこの学園で、もう一度“走る意味”を見つけたいと思ってる」
遊星の視線が、スカーレット、そしてウオッカへと移る。
「お前がその意思を持っているなら、共に来い。だが、ただ速さを求めるだけの奴なら、いらない」
「俺は、“俺の走り”を極める。その先に、勝利があると思ってる。――それじゃ、足りねぇか?」
「……上等だ。ついて来い、ウオッカ。整備室は少し狭いが、話すには十分だ」
「……へへっ、よろしくな。不動遊星」
ウオッカの拳と、遊星の拳が静かにぶつかり合う。
その光景を、スカーレットはじっと見つめていた。複雑な、どこか悔しげな瞳で。
「……勝手にしなさい。でも、次のレース、アンタが勝てるなんて思わないことね」
そう言い残し、彼女は踵を返した。
その背中を見送りながら、ウオッカがニヤリと笑う。
「――燃えてきたぜ。遊星、次のトレーニング、ブチかましてくれよ!」
「まずは基礎だ。逃げられると思うなよ」
「俺が逃げるわけねーだろ? “逃げ”はアイツの十八番なんだからな!」
遊星の口元に、久々の“笑み”が浮かんだ。
---
余談だが、スカーレットの手前、カッコつけてデートと言っていたが後で思い出して鼻血を出し、気絶したのは御愛嬌。
遊戯王5Dsの再放送か楽しいなぁ…