便利屋の話。   作:テムテムLvMAX

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二話

 口裂け女の話は俺がまだ小さい子供だった頃に、もう僅かな人が噂するだけだった。

 

 赤い服、大きな帽子、もしくは真っ白なワンピースなど……人とと所が違うとその姿形も変わっていたはず、地方差という感じだな。

 

 その口裂け女の主な話は、夜道に現れ「私、綺麗?」と問うこと、回答次第でマスクを取り去り「これでも?」とその名前の由来でもある大きく裂けた口を見せつけたり、その人間を殺して食ったり……ホラーの存在として語られていた。

 

 所が、弊社に在籍する口裂け女は都市伝説とは“ズレ”ていた。

 

 

「サトウさん……お茶を……どうぞ……」

 

「あぁ……ありがとうございます……ズズッ」

 

「おいしい……ですか?」

 

「そうですね」

 

「……ぽ」

 

 

 優しい、思いやり、純朴、褒め言葉が溢れてくるような彼女の振る舞いはとても怪異のソレとは思えない、口裂け女らしくない口裂け女だ。

 

 彼女、口裂け女さんは正式に雇うことにした、それは昨日の話だが、それには続きがある。

 

 口裂け女さんを従業員として雇う形で俺の所へ来てもらった、それが彼女の“依頼”になっていたからだな、だが問題が一つ二つ……怪異、都市伝説、お化け……どう言い繕っても住所がなく、身分証明書がない、戸籍もない、これでは働かせられない、他人に見える存在なので働いてもらうには身分がいる。

 

 そこで……これが適当なのか判断付かないが、出生届の出されていない子供として育ってきたカバーストーリーを作り申請して戸籍を作ってきた、そしてそれは今は亡き親父が引き取ったとして俺の姓であるサトウを与え、名前をカナとした。

 

 と言うことで、口裂け女さんはサトウカナとなった訳だ。

 

 本人は結婚出来なる事に嘆いていたが、もう家族だから良いだろうと説得した、赤の他人として申請しても良かったが信ぴょう性という部分が担保出来なかったので断念した経緯がある。

 そうして戸籍と住所と名前を得た口裂け女さん改めカナは、今日から出勤してくれている。

 

 先ほど言ったようにお茶を淹れてくれるので助かる、俺はお茶をいることが出来ないので、本当に助かる、やはりなんというか、茶葉から出した方が美味い。

 怪異だからどうなんだと思っていた部分は何も人と変わらない、接してみれば少しだけ不思議な考えを持つ、タダの人間だった。この分だと一緒に依頼を受けに行けそうだなと一人で喜んだ、人手が欲しい仕事もあるからな。

 

 

「カナさんも依頼があれば現場へ連れて行こうと思うんだが、人前に出ることに問題はあるかな?」

 

「その……マスクが……欲しいです……」

 

 

 マスク……口裂け女の話では、ある意味必須級のアイテム、良いマスクが欲しいとか、そういうことだろうか。

 

 

「市販のお高いやつで良いかな?」

 

「いえ……あの……プロレスラーみたいな……」

 

 

 完全に顔を覆うタイプのマスクかぁ、仕事先にガールプロレスラー連れて行ってらなんて言われるかな……宣伝としてはありか……ないわ。

 

 

「あの……私……まだ、顔に自信がなくて……人に見せられなくて……」

 

「そう……ですね、口裂け女って分かったら皆びっくりしますよね」

 

「以前、人前に出た時……ポマードと叫びながら……逃げられて……あの人が……落としたハンカチ……まだ返せてないんです……だから……顔全体を……覆うマスクが……いいです……」

 

 

 なるほど確かに……ポマードと叫ばれながら逃げられたら、顔に自信を無くすだろう、いや、待て、それが存在意義なのでは? だけど、カナさんはそう所を気にする人だったな。

 

 

「あの……サトウさんになら……いくらでも……見て欲しい……ぽ……褒めて……ほしい……ぽ……」

 

 

 カナさん、なんで俺のことそんなに気に入ったのか分からない、好意を感じるし、いちいち言葉にしてくれるから余計に伝わるんだが……きっかけが何だったのか、イマイチ分かってない。

 その思いにいつか応えるのだろうか、それとも平行線のまま行くのだろうか、今後の俺に注目していこう。

 

 その話は置いておこう、それよりマスクの話は解決できそうだ。

 

 

「また、後でね。それでマスクことなんだけど……」

 

「はい」

 

「メイクでどうにか出来るかもしれない、その口をこう……目立たなくする方向で、どうかな?」

 

「え……そう言うの、出来るんですか……!?」

 

「出来ると思う、君のことを受け入れて、なおかつ興味を持ってくれそうな人が一人心当たりあるんだ」

 

「是非……お願いします……! 私……サトウさんみたいに……笑いたい……!」

 

 

 俺みたいに? 俺、そんなにニコニコしていただろうか、営業スマイルのことなら口角ちょっぴり上げるだけで出来るので、後でコツを教えてあげよう、しかし笑いたいと言うからには笑えない理由があるだろうか、こう言うと変だが口裂け女は笑顔のイメージがあった、笑顔が怖いと言うべきか、創作の中でそう言う場面を刷り込まれているからだろうか。

 

 

「俺みたいに、笑いたいんですか? 俺みたいで良いんですか?」

 

「はい……笑顔……作れないんです、こんな口……だから……恥ずかしくて……極力開きたくないし……こんな口じゃなければ……もっとハキハキ……喋られる……と、思います……」

 

 

 彼女は耳の辺りまで伸びた口をなぞりなが言っていた、なるほど今合点がいったよ、ぼそぼそ話すのはそもそも口を動かしたくなかったからだ。

 

 

「その……口裂け女なのに、口がコンプレックスなんだね?」

 

「はい、口裂け女なのに……です、生まれた時……と、言うか……人々の噂話から……私が生まれたんですけど……八尺様の……噂と混じって……口裂け女らしくない……怪異になっちゃってたんです……結局どっちにもなれなくて……せめて人間みたいに……生きようとしたら……この口が……怖がらせる……なくなってしまえばいいのに……」

 

「分かった、分かったからそれ以上話さなくていいよ……ほら、涙拭いて」

 

 

 彼女はずっと生きづらいまま悩んで、自分でどうにも出来なくて、それで口にコンプレックスが出来たんだな、悩み多き人生を過ごした訳じゃないが俺にもその苦労は伝わる、苦しかっただろうとも思う、彼女の頬を伝う涙を見ればなおさら。

 

 しかし八尺様と混ざってたんだ、そもそも噂があったから生まれたという成り立ちも驚いたけど、怪異も人間と同じでハーフみたいなことあるんだな。

 

 

「ありがとうございます……ずびび……」

 

「お茶淹れようか? 俺のは苦いかもしれないけど」

 

「お願いします……ずびび……」

 

 

 急須に茶葉を入れ、ポットからお湯を注ぐ、ちょっと急須を回して、色と香りが出たら湯飲みに注ぐ。

 

 このやり方は親父から教わったんだが、イマイチ美味くない、けど、なんかなんとも言えない親しみのある味になる、俺だけがそう感じるだけかも。

 

 そっと目の前に差し出すと彼女はおずおずと受け取り、少しずつ飲み始めた。

 

 

「うッ……」

 

「苦いよねぇ」

 

「下手、です」

 

「うん、下手なんだ。だからカナさんが来てくれてよかったよ」

 

「こんな私でも……お茶は……美味しく淹れられるので……いっぱい……練習……しました……」

 

 

 なんだか泣きたい、無性に泣きたい、俺は他人の苦労に弱いのかもしれない。

 雇って正解だった、俺に出来ることはしてあげたい、出来ることの全てをしてあげたい、だって可哀想じゃないか。

 

 

「サトウさん……あの……涙が……ででますよ?」

 

「あっ……え……これは、アレです、目にゴミが入っただけです、お構いなく……お構いなく……」

 

「そうですね、ありがとうございます……ぽ……」

 

 

 なんとなく好感度が上がった気がする、ゲームのように通知音なんて無いはずなのになぁ、おかしいなぁ。

 

 

「で、電話するよ……早く予定入れておかないと、いつ時間取れるか分からない人だからね……」

 

 

 涙をごまかすように、電話を取り、慣れた番号を打ち込んでじっと待つ。

 

 

 

 __ぷるるるる……ぷるる

 

 

「はいもしもし! 姉です! どうしたぁ弟! なんかあったかぁ!」

 

「うっ……姉さん……」

 

「……泣いてる? なんで? 借金こさえて首吊るのか? 棺桶は杉がいいか?」

 

「いや違う、おかげで涙が引っ込んだ……そんなことはいいんだ。メイクして欲しい人がいるんだ、頼めるかな?」

 

「ほーんウチに頼むってか……美容じゃなくて特殊メイクなんだが分かって頼んでんだろ? いいよ、やってやるよ、何時に何処に行けばいい?」

 

「あぁいやこっちから出向くよ、姉さん今映画撮影に忙しいだろうし」

 

「そうしてくれるなら助かるよ、んじゃあ試写会に合わせて来るといい、丁度そのタイミングで暇ができる、ついでにコネで見れるようにしてやっからさ! そのお相手さんも一緒にな!」

 

「本当に? じゃあそれでお願いするよ」

 

「おうよ! 日時は__って感じだ、じゃあ切るぞ、またな」

 

 

 __ぶつ

 

 

 姉さん、元気だったな、いつにもまして気合い十分って感じで、それだけ現場が忙しいんだろうか、試写会、楽しみだな。

 

 

「あの……さっきの……女性は……?」

 

 

 カナさんに詰め寄られた、姉とは教えてないから真顔で詰め寄られている、圧が凄い、怪異みたいだ、怪異だった。

 

 

「俺の姉さんだよ、トウホーシネマの“特殊メイク”担当、サトウ……サチ」

 

「お姉さん……挨拶……ぽ……」

 

 

 まぁそうなるか、読めてた。

 姉さんの所へは、2週間後行くことになった。

 

 口裂け女改めてカナさんも俺の姉さんとあって楽しみにしていた、良かった、敵対心燃やされるかと思った。

 所で姉さんの今関わってる映画、都市伝説が題材のホラー映画だったけど、大丈夫かな……カナさん。

 

 

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