スキル【10匹の熊】 作:switch2当選しました
35/ ワイくんって?
「それでは、このバトンを握ってもらえませんか?」
目標の階層も決まらぬまま、第二ダンジョンのエントランスで四人は立っていた。
大阪オズの前に差し出された、一色イロハが持つバトン。
言われるがままにオズがバトンを握ると、アサヒが口を開いた。
「どうだ?
十倍になってるか?」
アサヒからイロハに問いかけたものだったが、オズも同時に自身のスキルについて意識を向けていた。
威力〇.五倍のデメリットが、十を掛けて威力五倍のメリットになっている。
イロハが返答する前に、オズが動いていた。
「お願いします!
このマジックアイテムを売って下さい!」
もとより小さな体を精一杯丸めて、床に膝と手のひらをついた、見事な土下座だった。
「お金は頑張って用意します、何年だって頑張ります!
このバトンがあれば、クソ雑魚のワイくんでも最強になれるんです!」
「ワイくん?」
ウサギが言った。
「あっ、ちが、えっと、私です、私……」
アサヒは武士の情けで聞かなかったフリをした。
「ええと、五倍になってますよ。
期待通りです。
あと魔法も四大ではなく四十大になってますね」
「えっなにそれ。
何があるの?」
「雷、氷、あと溶岩なんてのもありましたね」
「溶岩って火より強い?」
「さあ?」
五倍なら期待通りだ。
三人は合意した。
「とりあえず立って下さい、もっと良い話があるんですよ。
俺たちのギルドに入りませんか?」
アサヒはオズの手を引いて立ち上がらせた。
このまま受付に戻れば、ダンジョンのスタッフからは、大学生が子供のギルドに土下座して加入を頼み込んだように見えるだろうか。
その日のダンジョンアタックは成功に終わった。
三人はドロップアイテムの売値を見て、こんな物なのかな、と思ったが、一人オズだけは大はしゃぎだった。
36/ 開拓と労働
ギルド『10匹の熊』には漠然とした二つの目標が存在する。
一つはギルドメンバーを十人集める事。
もう一つは、ギルドの名を揚げる事だ。
前者については先達の知恵を借りようと、ジュリエット・ジャガーに連絡を取った。
彼女はソロの冒険者として何百年も最強の座に居続けているが、パーティーを組まない訳ではない。
彼女の長い長いダンジョンアタック歴の中で、どんなスキルホルダーを連れていたかは参考になるだろう。
返信には少し時間がかかるという。
数百年を思い返して、より有効に機能したパーティーを比較するのは途方もない作業だ。
また、自分が持つならという視点でも変わってくる筈だ。
そして何より、四十大魔法で遊ぶ事に忙しいようだった。
アサヒたち三人は、ギルドの名を揚げるにはどうするか、に取り掛かる事にした。
37/ オズだより
専業冒険者の中でも、大きく二つの枠組みが存在する。
高難易度のダンジョンに果敢に潜り、開拓者として名声を求める者たち。
彼らはあらゆる局面に対応するため、臨時パーティーをメインとする。
それぞれ単独で高名なソロ冒険者たちが何人も集まって、狙ったダンジョンにアタックするのだ。
そして保有スキルと相性の良い、そこそこのダンジョンに潜り、生計をたてる者たち。
彼らは攻略法が確立された場所で、固定パーティーを組む。ギルドという更に固い枠組みも、こちらと相性が良い。
こうして纏めた結果を受けて、アサヒたち三人は唸り声をあげた。
「ギルドって仕組み自体が、有名になりづらいのか」
「そうですね。
メンバーを固めてしまう事で、どうしても単独では進めない階層が出てきます」
「ギルド合同アタックみたいなのあるじゃん。
あれは?」
「あれも良く考えてみれば、片方のギルドのたった一人のスキルが必要だったんだろうな。
謂わば傭兵雇いみたいなものか」
「でもあたしたちはさ!」
ウサギが一際明るく言った。
「オズさんの【四十大魔法】があるじゃん。
わりとどんな場面でも何とかなるんじゃない?」
確かにそのように思われた。
「となると単純に、このギルドでどんどんダンジョンを開拓していくのが、名声への近道かな」
「はい、そう思います」
「なら一先ずは、オズさんにガンガン潜ってもらって。
一流冒険者になってもらおう」
そういうことになった。
38/ 大阪オズ一流冒険者への道、失敗
ソロ冒険者としてオズの名を売る目論見は、かなり早い段階で潰えた。
元来魔法系スキルホルダーとして、後衛職として振る舞っていた彼女は前衛のセンスを持ち得ておらず、【10倍】があっても直接戦闘力には不安があった。
パンチの仕方がわからない。
しかし一方で、今持っている物だけでも十分の筈だった。
通常の五倍の威力の魔法を撃ち込めば、多くのモンスターは一撃で吹き飛んだ。
稀に耐える敵、避ける敵がいても、十倍の逃げ足で距離を取れば良い。
そうして何度でもチャレンジできた。
オズの栄達への道は拓けていると思われた。
しかしその道を他でもないオズ自身が遮った。
「あの、どうしても、こう。
咄嗟の時にビビっちゃうといいますか、そのですね……」
「オズさん敬語はいりませんよ」
「アッ、はい、すみません」
オズがその二十年の人生の中で体得した経験則、あるいは悪癖が悪さをしていた。
その悪癖とは「咄嗟の瞬間に、自分の直感と逆を選ぶ」こと。
「私はスキルもイマイチだし、家も貧乏だし、奨学金は返さなきゃダメなのも最近知ったし、背も小さくて見た目もこんなだし……。
なんていうか、私みたいなヤツがイキっても上手く行かない筈なんですよ、普通」
直感の逆を選ぶ。
そう複雑な経験則ではない。
直感に逆らって成功すれば、やはり自分の直感は間違っていたと管を巻く。
逆らって失敗すれば、従っておけば良かったと愚痴をこぼし酒を飲んで忘れる。
直感なんて本来はその程度のものだ。
どちらでも良いのならば。
自分を信じて裏切られるくらいなら、最初から疑っていた方が良い。
オズはそうして、習慣的に自分の直感と逆の選択肢を取って生きてきた。
本来ならそれで良かった筈だ。
直感なんて不確かなものなのだから。
しかし、今となっては。
運勢系最高峰のスキル【幸運の星】を突然手に入れてしまった大阪オズにとっては。
直感と逆の選択肢とは、必ず不正解の選択肢なのだ。
「すみません、ワイくんがアホのビビリなせいで……。
なんとかします、なんとかしますんで」
いっそ可哀想なくらい、オズは追い詰められていた。
一人称を取り繕う余裕も無いほどに。
「俺たちは別に、できない事を無理にやれとは言いませんよ」
アサヒはオズを慮って言った。
「ですけど、そうだな。
これからはオズさんも直感を信じて貰わないと美味くない。
オズさんってダンジョン配信とか見ます?」
「……はい?
当然見ますが? 推しもいますが?」
「なら丁度いい。
ダンジョン配信で指示厨してくださいよ」
オズには早急に、【幸運の星】の力を実感して貰わねばならない。
switch2が届いたのでロックマンX4をします