スキル【10匹の熊】   作:switch2当選しました

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上野ウサギ登場

04/ ギルド『10匹の熊(旧世代)』

 

「つまり俺にはもう、期待されるだけのポテンシャルが残っていないんだ。

 一般的な強化系スキルが倍率で強化されるのと違って、俺の場合は生まれた時から変わらない数字だった」

 

アサヒは薄々感じつつ、しかし目を背けてひた隠しにしてきた事を初めて口にした。

隠せていたのも過去の話だった。

学校側には見透かされていたし、いずれネットにでも広まるだろう。

 

「俺のスキルは多くの人が成人と共に手に入れる力を先取りするだけだった。

 こんな出涸らしをギルドに入れても役に立たないさ」

 

話すべきことは話したと、アサヒは口を噤んだ。

イロハが失望して立ち去るのを待っていたが、しかし彼女は動かない。

 

「私の祖父も……『10匹の熊』のギルドマスターもそうでした。

 決して強くもないスキルを抱えて、ギルドを主宰し勤め上げたのです」

 

立ち去らないのなら構わない。

話を聞いてやろうという前向きな気持ちではなかった。

未だ立ち上がれないだけだ。

 

「祖父のスキルは【カンテラ】。

 足元を照らす携帯式のランプを召喚するスキルです」

「……召喚系で、しかも道具で代用が効くタイプのスキルか」

「はい。ですが、祖父はそれでも仲間を率いてダンジョンに潜り続けました」

 

そう言ってイロハは手の中にカンテラを喚び出した。

 

「同じスキル?」

「はい。祖父から貰ったものです」

 

アサヒの中から、微かにでも生まれていた興味関心が急速に抜けていった。

 

「言っちゃなんだけど、そのスキルが現代で通用すると思えない」

初対面の相手に無礼な言葉だ。

しかしイロハは黙って続きを促した。

 

「情報化社会以前の一瞬の煌めきだ。

 連装式の銃が発明されて、戦闘向きではないスキルホルダーが限られた低層を歩けるようになったよね」

現代でも勿論、銃を使う低層専門の冒険者は居る。

しかしそういった冒険者も何かしらの有用なスキルを持っている。

アサヒは自分自身の未練や諦めが調べ尽くした内容を続けた。

 

「俺たちの祖父の時代は、同じ街に住む友人や気のあった仲間とギルドを組むことがあったと聞いた。

 相手に期待する能力は銃を使えるかどうかで、スキルが有用ならラッキーくらいで組むこともあったと。

 けれど今は違うだろ?」

 

インターネットの発展によって、人々は自分たちのスキルを比べ始めた。

仲間にする相手は全国からスキルを比較して選ばれた。

選ばれなかった有用ではないスキルの持ち主たちは、冒険者以外の仕事はいくらでもあるのだからとダンジョンから去っていった。

いずれアサヒがそうしなければならないように。

 

「この現代において、使えないスキルを引っさげてギルドを組もうなんて、無謀でしかない」

 

アサヒの乾いた笑いは自分へのものでもあった。

 

「それでも私は『10匹の熊』を復活させたいのです。

 もう一度お尋ねします、ギルドに入りませんか?」

 

 

 

 

05/ 三匹目の怪獣、上野ウサギ:スキル名【幸運の星】

 

「その話面白そう!

 あたしも入れてよ」

 

アサヒとイロハが驚き振り向くと、茶髪の少女が二人に向かい立っていた。

突然現れたようだが、ホームで一車両分先の別のベンチに横になっていた少女であることにアサヒは気付いた。

 

「ギルドを作るんでしょ? あたしも入りたい」

「誰だよ急に」

 

不躾な割り込みにアサヒはそう返したが、改めて少女の風貌を眺めると、全く知らない人物ではなかった。

面識がある訳では無い。

相手が有名人だった。

 

「上野ウサギ……?」

「そうです!

 あたしは上野ウサギ、よろしくね」

 

アサヒ、イロハと同年代の有名人だった。

 

「上野ウサギさんですか?

 私も存じ上げています。カードゲームがとてもお強い方ですよね?」

 

世界的な人気を誇るカードゲームの世界大会で敵無しの人物だ。

十二歳以下の部を二連覇、十五歳以下の部を三連覇。

今日に至るまで五年間無敗、それが上野ウサギという少女だった。

 

「あ、知ってる? そうです。

 カードゲームがめっちゃ強い上野ウサギです。

 スキルは【幸運の星】、よろしくね」

 

カードゲーム大会というのは殊更特殊な環境である。

【未来視】や【危険予知】等の占術系スキル、

【戦術】や【神算鬼謀】等の計算系スキル、

そして【幸運の星】のような運勢系スキルが鎬を削る巣窟だ。

 

そんな場所で五年連続一位というのは過去にも例がない。

上野ウサギは間違いなく世代最強の運勢系スキルホルダーなのだ。

 

「何にでもなれるだろうけど、冒険者を選んでも間違いなく大成するスキルの持ち主だよな。

 話を聞いていたのか? あまり未来のある話じゃないぞ」

 

アサヒは顔を顰めつつ言い放った。

将来に何の曇りもないだろう少女に対する僅かな不快感もあった。

 

「実は結構聞こえてたんだよね。

 あなたが朝倉アサヒ、そっちは一色イロハ。

 二人で『10匹の熊』ってギルドを作るんだよね」

思いの外聞こえている。

 

「なら俺たちのスキルが有望じゃないことも聞こえていたよな?」

「それも聞いてたけど」

 

ウサギは楽しげに続けた。

 

「あたしも入りたいって思ったんだ」

 

 

 

06/ スキル【幸運の星】の目論見

 

アサヒは暫し無言で考えていた。

運勢系スキルの持ち主の、こういった理屈のなさに直面するのは初めてだった。

 

「そもそも何でこんな場所で昼寝なんかしていたんだ。

 昼寝するなら家か、百歩譲って公園にしとけよ」

その場を繋ぐための中身の無い質問だ。

 

「えーっと、うーん……なんとなくっていうか……。

 本当はもっと先の駅で降りる予定だったんだ」

ウサギはアサヒの隣に腰掛けて続けた。

 

「今年の大会に、ウェブじゃなくて事務局まで行ってエントリーしようと思ったの。

 今日が締切日だったから書類忘れたりしないようにしっかり確認して、電車に乗って、そしたら印鑑忘れてきちゃった」

「……は? マジで?

 急いで取りに戻れよ」

「やーなんか別にいいかなって」

 

良いわけがない。

前述した系統のスキルホルダーにとって、その大会は自分の力を公にアピールする場、進路や就職といった将来に直に影響する場の筈だ。

 

「ていうかさっき事務局から、エントリーがまだですがって電話来たんだけど出ませんって断っちゃった。

 ここで昼寝してたほうが気持ちよさそうだったから」

「無茶苦茶だ……。

 つーか今年から全年齢の部の筈だろ。

 そこで結果を出さないと、年代別連覇の肩書だけじゃ就職先の格も下がるぞ」

「いや就職はもう要らないじゃん。

 だからギルドにあたしも入れてってば」

 

ウサギの発言は金塊を捨てて石ころを拾うようなものだ。

アサヒは次の言葉が見つからなかった。

 

「私は、歓迎します。とても嬉しい。

 上野ウサギさん、これから宜しくお願いします」

「やったーありがとう!

 ウサギって呼んでよ」

 

 

 

07/ 二匹目の怪獣、一色イロハ:スキル【カンテラ】改めスキル名【共有】

 

あたかもウサギが自身で選んだかのように述べていたが、アサヒにはスキルがそうさせたとしか思えなかった。

しかしそんな価値がこのギルドにあるのだろうか。

 

「いや、逆にか?

 あるからこそ上野ウサギが来た?」

アサヒは言葉を口の中で噛み潰した。

 

上野ウサギがこの世代で最高の運勢系であることに疑いはない。

そのスキルが彼女を出世の王道から弾き、この最早負け犬にしか成り得ないギルドを選ぼうとしている。

 

ウサギの【幸運の星】が、その身の置き所として『10匹の熊』を選んだのだ。

しかしなぜ、このタイミングで。

「発足時のメンバーになるため……?」

 

アサヒは無意識のうちに前のめりになっていた。

何か先が開ける音が脳裏に響いていた。

 

もしアサヒの考えが十全に当たっていたのなら。

このギルドは上野ウサギ程の人間でさえ、いずれは参入できない程のランクに駆け上がる。

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