スキル【10匹の熊】   作:switch2当選しました

21 / 24
ダンジョン暴走を解決するゴリラ先輩カッコいいぜ!

58/ コンビニの前に不良がいない街

 

ここ二年ほど武泰市では、誰も気づくことのない、目に見えぬ治安の向上が進んでいた。

市政が治安改善に注力したわけではない。

市民が組織だって活動したわけでもない。

 

二年前の四月、他県から冒険者学校に入学してきたたった一人の少女が原因だった。

 

毎夜市内を巡回し続ける彼女の名は切手キリカ。

冒険者学校冒険科三年A組所属、風紀委員長。

 

 

その日の深夜、切手キリカはいつものように、市内のコンビニを回っていた。

 

その目的はシンプルで、コンビニを巡り、店の前に集まり騒いでいる集団がいれば頼んで解散してもらう。

たったそれだけ。

 

しかしその活動が目に見えぬ効果を生んでいた。

 

深夜に営業するコンビニには、実のところ地域への防犯効果がある。

夜がその暗さで犯罪を誘発するのに対し、コンビニは明るい。

夜道に不安を感じた歩行者が駆け込むこともある。

 

しかしそんな店の前で屯する集団がいると効果は目減りする。

大げさに例えれば、交番の前にヤクザが団体で立っているようなものだ。

警官もそちらに気を取られるし、掻き分けて駆け込むには抵抗がある。

 

そうして今日もキリカは、人知れず街を回っていた。

その活動は二年間で一定の成果を挙げていたのだが。

 

「おや? 珍しい。

 最近はとんと目にすることもなくなったが……」

 

目の前の状況にそうキリカは零した。

コンビニの前で屯する三人組がいる。

キリカの活動により、武泰市においては稀になった光景だ。

 

「失礼、お時間をいただきます。

 拙からそなたらに頼みがあるのですが」

 

「なんだコイツ」

「誰か知り合いか?」

 

「冒険者学校三年、風紀委員長の切手キリカと申します。

 こちらで屯するのを辞めていただきたい」

 

ここで引いてくれる者もいれば、そうでない者もいる。

キリカは後者の可能性を考え、背負った竹刀袋に手を伸ばした。

 

「なんで俺らが散らなきゃなんねえんだ」

 

やはりか、とスキルの発動を視野に入れる。

このスキルを受けたものは二度と市内で不良行為を働かなくなる。

 

そうして不良そのものが減っていった結果が今の治安に繋がっていた。

 

 

キリカの誤算は目の前の不良たちが、とある目的のもと他県から武泰市に来ていたこと。

そして彼らが本物の非合法組織の構成員だったことだ。

 

「……ああ、ゴンゾさん。

 夜分にすいません、倶楽部クレア対策チームの深谷です。

 今現地入りしてまして、ちょっと面白いスキルの女と戦闘になったんですが」

 

相手の男が携帯電話でどこかと連絡を取る声を最後に、キリカの意識は途絶えた。

 

 

 

59/ 廃倉庫へ

 

「拙はこれ以上の事情を知りません。

 そして拙が受けた命令は、人質と共に倶楽部クレアを指定の場所に連れて来る事。

 この目的が完了するまで、拙はそれを達するための行動を強いられ続けます」

 

キリカが大柄な事もあり、同じく手足の長いダイアナによって四肢を抑え続けられたまま、彼女はそう説明した。

 

「拙を下した男は、武術系のスキルホルダーと察せます。

 持っていた傘で拙の刀を弾いておりましたので、長物の何かかと」

 

「僕は行くよ。

 どんな用事なのか気になるし」

 

「カナエも関わっちゃったし、行ってあげて良いわよ」

 

当事者の二人が手を挙げた。

 

「クレアとカナエが行くなら、命令は完了すると思うが」

 

「全員で行っても良いのではないでしょうか?」

イロハの言葉に反対する者は居ない。

 

二人で行っても十分だろう。

しかし全員で行かない理由もなかった。

 

 

 

60/ 全国十箇所のダンジョンで同時にスタンピードが発生

 

アサヒたちは指定の廃倉庫に突入した後、リーダー格の深谷フウタを含め十人を拘束した。

 

そして彼らに、

所属と構成員を詳らかにさせ、

組織の目的を話させ、

倶楽部クレアの拘束に成功したと嘘の連絡をさせ、

ギルド『10匹の熊』の情報を秘匿するよう頼み、

今後善良な人間として生きていくと誓わせ、

親類に今までの迷惑を謝罪する電話をかけさせ、

ティックトックで流行りのダンスを踊らせ、

初恋の人の名前を叫ばせ、

三日以内に京極夏彦か西尾維新の本を一冊読むよう言い、

ダンジョン省に出頭して計画を暴露するよう命じた。

 

ギルド『10匹の熊』に切手キリカが加入した。

 

 

 

61/ ゴリラは賢い

 

手下から連絡を受けた日本二位の冒険者、【3.5倍】のスキルホルダーである郷原ゴンゾは、計画の実行を決断した。

 

この計画が成功すれば彼の名声は不動のものとなるだろう。

何もせず手に入ると思われた日本一位の称号は、忌々しいことに元の場所に戻っていた。

郷原ゴンゾはそれを、理不尽に奪われたと感じていた。

取り戻さねばならない。

 

彼には切り札があった。

付き合いのある企業から供出させた、ダンジョンのモンスターを凶暴化させ、出現数を増加させるアイテム。

 

アイテムの理屈は単純だ。

魔石やドロップという形で、歴代の冒険者たちが必死に削ってきたダンジョンの力の源を、固めて元のダンジョンにぶち込むだけ。

そうすれば、急激に力を取り戻したダンジョンが一気に活発化すると予想された。

 

日本中が混乱に陥るだろう。

そして喫緊の状況で、最も頼りになる冒険者が誰か知ることになるのだ。

 

部屋中に郷原ゴンゾの高笑いが響いていた。




騎士道先輩のニンジャ騎士道を見よ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。