スキル【10匹の熊】 作:switch2当選しました
62/ 間に合う?
ダンジョン省、省舎の一室にて。
「先ほど武泰市の支部から情報が上がってきました。
日本二位の郷原ゴンゾが違法な計画を企てているとのことです」
景色ケイコは上司に口頭で伝えた。
続けて資料も回す。
「全国各地に十箇所、随分広大な計画だねぇ。
十箇所のダンジョンで同時に人為的なスタンピードを企図、か」
「はい、しかしその先がお粗末でして……。
起こしたスタンピードを、郷原ゴンゾが順にダンジョンを回って解決する、というものであります」
「こういうのは困るねぇ。
放っておいても郷原ゴンゾが解決するにしてもだよ。
そんなにのんびりされちゃあどれだけ被害がでることやら」
「狙いのダンジョンはどれも、事が起これば対処できる冒険者が限られる難易度であります。
こういう所は妙に賢しいですね」
「首謀の郷原ゴンゾを数えるのは癪だけども、彼を一箇所として。
他は倶楽部クレアが一箇所。
三位から五位を集中させて一箇所。
我が省で二箇所は抑えられるか?
後は大急ぎで他国のトップ冒険者を派遣してもらうしかない」
「本官は当案件、未然に防ぐことが必須と考えます」
「そうだねぇ。
とりあえず、実行役の名前が全て判っているのは不幸中の幸いだ。
判明と同時に人員を向かわせているんだろ?
彼らから確保の報告が来るのを……」
その言葉を遮るように、部屋に職員が駆け込んできた。
「報告です!
全国十箇所で同時にダンジョンスタンピードが発生!」
間に合わなかった。
63/ いつまで座っているの?
武泰市第二ダンジョン受付前にて。
ギルド『10匹の熊』は車座に座っていた。
受付の中は慌ただしい。
職員らが走り回り、ひっきりなしに電話を繋いでいる。
その中から一人、恰幅の良い男性がこちらに向かってきた。
第二ダンジョンの支部長だ。
「倶楽部クレアさん!
緊急事態です、国内十箇所でダンジョンスタンピードが発生しました!」
言われた八人は、大きな反応を示さない。
立ち上がることもない。
「つきましては、至急最も近い都成市ダンジョンへ向かって頂きたいのですが……」
八人は顔を見合わせた。
「まだ……ですよね?」
オズが口火を切った。
「そうだね、まだかも」
ウサギが同意した。
その場にいる八人全員が、同じ直感を共有していた。
今は待つ時だ。
この場に佇むことで、間もなく特別な切っ掛けが訪れる。
「ああ、もう少し……いや」
アサヒが全員の顔を見渡して、言った。
「来た」
受付の目の前に突然、トンネルの出口が現れた。
「本官は景色ケイコ、ダンジョン省の専任冒険者であります!」
トンネルの奥から現れた女は、そう言って省バッジを見せた。
「倶楽部クレアさんですね!
スタンピードの話はもう伺っていますか?
本官のスキルは【トンネル】、会ったことのある人、行ったことのある場所と現在地を縦横三メートルのトンネルで繋ぐスキルです。
都成市ダンジョンの受付とここを繋ぎますので、至急対処に向かって頂きたい!」
64/ 九匹目の怪獣、景色ケイコ:スキル名【トンネル】
「あなたが想像する倶楽部クレアより十倍強い冒険者が、ここに八人いる。
だからちょっと時間をくれないか?」
アサヒが景色ケイコにそう提案する。
「今の言葉は僕が保証するよ」
クレアが付け加える。
「全国十箇所だろう?
発端の情報提供者を確保したのが俺たちだから知っているんだが」
「ええ、その通りでありますが……」
「あなたが頷いてくれれば、一撃で解決できる」
アサヒは一度仲間たちを見まわした。
全員がそうした方が良いと感じていた。
「俺たちのギルドに入らないか?」
イロハが主導して説明を終え、その場で【共有】が成された。
景色ケイコは雪崩れ込んできた情報を処理するのに時間を置いた。
「渋谷ならカナエは行ったことあるわ」
「僕は他に四箇所いけるから連れてくよ」
「あとは都成市ならワイくんも……」
「名張ダンジョンは誰が行くでありますか?
恐らく郷原ゴンゾとバッティングするのですが」
景色ケイコが問う。
アサヒはウサギの様子を見て、言った。
「それなら、これから……」
この場の誰の物でもない【トンネル】が繋がっていた。
麻の服に石の耳飾り。
身長は百センチに満たない。
金髪を編みこんで、耳が異様に長い。
まるでファンタジー世界のエルフのよう。
しかしその幼女は見知った【カンテラ】を掲げ、そのトンネルの先からやってきた。
かつて世界中の誰もが知っていた事を、今はこの場にいる十人しか知らない。
この幼女こそが、世界で一番【10倍】を上手く使えるという事を。
千年の研鑽が牙を剥く。