ex04/ 誘拐
悲鳴の方向へ走り出す六人は、十倍の身体能力で木々の狭間を縫っていた。
そんな中で十倍の聴力が、「かどわかしだ!」「追え!」等という叫びを捉える。
「エルフって希少なんですか?」
「ううむ、村の外ではそうじゃ。しかしこの村はエルフしか住んどらんからの。
外から何か来たか」
アサヒの疑問にジャガーがそう答えた。
エルフは浚われやすい、という異世界一辺倒のイメージも、そう間違ってはいないらしい。
「あーっ、あれ見て、大変!」
その時ウサギが全くの別方向を指して言った。
並々と茂った濃い緑の中から、煙が上がっていた。
黒い煙だ。どんどんと太くなっている。
耳を凝らせば、ぱちぱちと何かが焼ける音も聞こえる。
「オズ、キリカはこのまま妾と悲鳴の場所へ!
アサヒ、イロハ、ウサギはあの煙を止めよ!」
悲鳴の原因が想像通りなら、耳が尖っているジャガーなしでそちらに向かっても疑われるだけだ。
ジャガーの声に反論は上がらなかった。一行は無言で三人ずつに分かれる。
煙は火事だろう。誘拐と同時に起こっている。
ex05/ 火事
アサヒたちが煙の元にたどり着くと、火元はまた別の屋台であった。
ジュリエットが借りてきた屋台と瓜二つ。この村の作り方がそうなのか、あるいは同じ相手から借りているのだろうか。
四本の骨は見事に四方に倒れ、全てに火がついている。
「あーっ燃えてるね。原因はこれみたい」
ウサギが指で指して言う。
煙をくゆらせながら体積を減らしていく萱の脇、倒れた釜と飛び散った薪がある。
地面に刺して釜を薪の上に浮かせていたのだろう、屋台のそれよりも細い木製の棒もいくつか散らばっていた。
そして屋台主だろうか、少女が一人座り込んでいた。
「大変でしたね。でも大丈夫です。私たちが助けます」
「さあ立って、危ないよ!」
イロハが少女の手を引き、ウサギが両手を構える。
【四十大魔法】にはいくらでも引き出しがある。
ex06/ ジュリエットちゃんなら大丈夫!
「ジュリエットちゃん行っちゃったー」
「行っちゃったね」
「戻ってくるかな?」
「戻ってくるよ!」
「子どもだけで屋台って、すごいよね!」
「凄いよねー」
「甘い氷を売るんだって!」
「食べたいなー」
「楽しみ!」
「男の子の方は何するのかな?」
「何するんだろ。火の準備してたよ」
「子どもだけで火を使っていいのかな?」
「わかんない」
「でもジュリエットちゃんがいるし………」
「あっ、そうだ。ミリアちゃんも屋台やってるよ」
「そっかぁ!」
「ミリアちゃんも子ども一人だ!」
「でもミリアちゃんは」
「うん」
「お父さんもお母さんも樹になっちゃったから」
ex07/ 約束
ウサギの操る【水魔法】が燻っていた火種を鎮めた。
イロハの操る【植物魔法】が焼け落ちた萱を再生させ、屋台の状態を復元した。
アサヒが構えた【時魔法】に出番はない。
一瞬の出来事で、全てが無かった事のようだった。
「ケガはない? 大丈夫だよ!」
「安心してください、もう全部元通りですよ」
屋台の主と思しき少女は、座り込んだまま立ち上がらない。
無理もないな、力が抜けてしまったのだろう、とアサヒが近づいたその時だった。
少女が掌で顔を覆い、泣き出したのだ。
「怖かったよね、でも大丈夫、大丈夫だよ。
ほら見て、元に戻ったでしょ?」
ウサギの言葉に辺りを見回し、屋台が復元されているのを認めた様子だった。
しかし、嗚咽は止まらず、その表情には絶望があった。
嫌な臭いがする。
轟々と焚き上げる炎は既にない。
火事が鎮火して、辺りは木々の清かなざわめきを取り戻している。
悪い音がなくなった筈のその場所で、少女の喉から絞り出されたのは悲嘆だった。
「約束だったのに!
火事を起こさないって、約束だったのに!」
少女が上げる悲痛な声を聞きながら、アサヒだけは彼女が泣き止まぬ訳に気づいていた。
彼女が失ったものを知っていた。
信用だ。
黄色バーになってますがオブ・ザ・キングドラは激オモロSSなのでぜひどうぞ
でも合わん人は合わんかも