スキル【10匹の熊】 作:switch2当選しました
08/ スキル【幸運の星】がしてくれない事
「ウサギが何かしらの嗅覚で、このギルドを選んだのは分かったよ」
「そうだね、なんか良さそうって思ったの」
「イロハは学校でメンバー集めをするつもりだって言ってたけど、冒険者学校には入らない?」
「高校は地元にしたよ」
このギルド『10匹の熊』には、恐らく成功の、正解の道のりがある。
【幸運の星】の判断を信じるなら、イロハは校内でメンバー集めをしないのだろう。
アサヒとイロハの組み合わせで十分なのだろうか。
あるいは別のルートからメンバーが加入するのだろうか。
「この後何かしたいとかある? 直感的に行きたい場所とか」
アサヒの質問はウサギのスキルに期待したものだ。
ウサギは少し考えてこう言った。
「うーん、特にないかなぁ。
それよりせっかく知り合ったんだから、連絡先交換しよう!」
この時アサヒに確信はなかったが、スキル【幸運の星】はこの出会いの後、次の一手が見つかるまでのわずかな間沈黙した。
発足時のメンバーという地位を確保した後は、二人とウサギが親しくなるまで、何でもない時間が続く方がウサギにとってメリットが大きかったからだ。
スキル【幸運の星】はその様に判断していた。
09/ イロハの動機、イロハの祖父の後悔
「改めて自己紹介しますね。
主宰の一色イロハ、スキルは【共有】です」
イロハが立ち上がって言った。
「【共有】? 【カンテラ】ではなく?」
「はい。【カンテラ】は祖父のスキルですので」
イロハの表情をアサヒは上手く名付けられなかったが、僅かに寂しさが含まれていると感じだ。
「スキル【共有】は……選んだ相手とお互いにスキルを共有し続けるスキルです」
「それでお祖父さんとスキルを共有しているってことか」
「はい」
「なら相手は【共有】が使えるようになるわけだ」
「いいえ」
「これは対象が一人のスキルで、祖父との間でスキルが発動した後は、それ以上相手を増やすことは出来ませんでした。
そして対象をリセットする事もできません」
「例え相手が亡くなったとしてもです」
アサヒは次の言葉を探して逡巡した。
過去に例の無い素晴らしいスキルかと思われたが、それは既に駄目になってしまっていた。
「ならやっぱりイロハのスキルは【カンテラ】なのか。
……後悔している?」
「いいえ。
ですが祖父は、その事をずっと悔やみながら逝きました」
さもありなん。
アサヒが祖父の立場なら同じ様に悔やみ続けただろう。
あるいはイロハの立場でも。
10/ 願い事を10個に増やしてくれ
「残念だね! それって最初にジュリエット・ジャガーと共有してたら凄かったのに」
ジュリエット・ジャガー、世界一の有名人だ。
そしてスキル【10倍】の持ち主。
「それは、アリなのか?」
「最初に【10倍】を共有していれば、10人と共有できるのではないか、ということですか?」
ウサギの疑問は不躾だったが、少しだけこの場の空気を明るくした。
「できそうな気はしますが……。
ジュリエット・ジャガーなんて一目見ることも難しいですよ」
相手は一国の首相ですら簡単には会えない相手だ。
仮にこの国で最高の冒険者になったとしても、五百年以上世界最強のジュリエット・ジャガーは格が違う。
「まあ【10倍】と言わずとも……。
いま日本の倍加系スキルホルダーは【3.5倍】だよな?
それを共有できれば面白かったかもな」
「感覚ですが、相手が整数の倍数でなければ上手く機能しないと思います」
「まあ例え話だよ。
イロハのスキルはもう枠が埋まっているんだろう」
あくまでもしもの話と思われた。
しかしイロハは何か思いついたのだろうか。
少し戸惑ったように、しかし声音に希望を覗かせて言った。
「祖父が生前集めた情報の中に、他人のスキルをアイテムに付与するスキルホルダーが居るというものがありました。
それで私の【共有】を付与できれば、もしかしたら……」
アイテムで【10倍】を【共有】して、改めて10倍の状態で大元の【共有】を使えば。
アサヒの脳裏に、激しく降る滝のように将来への願望が広がっていった。
想像の中でアサヒは、スキル【10倍】の恩恵を思うがままに振るっていた。
上野ウサギが【幸運の星】に連れて来られた事も。
一色イロハが一縷の望みをかけてこの駅に引き返してきた事も。
朝倉アサヒが何時間も座り込んでいた事でさえ。
全てに意味があるように感じられた。
11/ スキル【魔導具作成】のエントランス
「情報があったって言い方は、まだ作っていないってことだよな?」
「はい」
なぜすぐにでも作らなかったのか。
アサヒは自身が逸っている自覚を持ちつつも、直ぐにでも実行に移せない苛立ちを感じていた。
「どうして」
「はい、依頼料が工面できませんでした」
「ああ……」
アサヒは目の前が真っ暗になった。
作成系か付与系か解らないが、相当珍しいスキルだ。
アサヒも初めて聞くし、世界に何人と居ないのだろう。
そしてその成果はコネや資金によって独占されている筈だ。
「具体的な金額は……」
「最低でも億からと聞いています」
アサヒの前世の感覚が、【幸運の星】に宝くじでも引かせればと目論むが、この世界にそういった運勢系スキルが単純に勝つ仕組みはない。
「ねえそれってさ、あたしのスキルでもう一個作ってもらってさ。
現物払いじゃだめかなぁ」
しばらくアサヒ、イロハの話を黙って聞いていたウサギが口を挟む。
彼女は変わらず楽しげだし、その提案には希望があるように思えた。
「いけるんじゃないか……? イロハはどう思う」
運勢系スキルが付与されたアイテムなんて、いくらでも需要があるに決まっている。
「いけるかもしれません。依頼を出してみましょう」