ex28/ なんかそういうやつ
「消火って水でいいんだっけ?」
「バケツリレーとかありますし、消防車も水を撒いているんじゃないですか?」
「俺は何かしらの特殊な粉のイメージ」
「消火器って粉ですよね。ワイくんも使ったことあります」
「【火魔法】使いは講習があるのだったな。接は布をかぶせろと教わったが……」
「妾が若いころは土を被せておったぞ」
車座になって話し合うメンバーたち。ミリアもちょこんと座って大人しく聞いている。
新しいミリアの屋台に、防火アイテムを備えようという話だった。
「この村でも主流は土じゃな。土の魔法を使える者が居れば尚良い。
水の魔法は、一人二人では消しきれんことがあるからの」
エルフはスキルを持たないが、得手不得手はあれどファンタジーらしい魔法を使うという。
ジャガーが結論付けた。ミリアも頷いている。
「ですけど、屋台に土を被せたらしばらく営業停止ですよね」
「そうだよね。それはちょっと……」
「とりあえず、道具の形は消火器でいいんじゃないですか?
使いやすいし一人でもいけますし」
オズが積極的に意見を出す。些か珍しい光景。
「気になる点としては、中身の補充に現世の力が必要になることですね。
アサヒさんの言う何か特殊な粉です」
「あれは粉式だけではなく泡式の物もあるぞ。いずれにせよ必要だろうが……」
「それって魔法で出せないの?」
イロハ、キリカが交わした意見にウサギが疑問を乗せた。
「マジックアイテムってことか?」
アサヒの脳裏にエンチャンターの顔が過った。
「いや……。それは、駄目だ。
一点物になってしまう」
消火機能がエンチャントされたマジックアイテムを調達できれば、火事の際に十分な力を発揮するだろう。
しかしその状態が良いとはアサヒには思えなかった。
「『なんだか良く解らない、特別なマジックアイテムを持っている』
エルフの大人たちはそう受け取るだろう」
アサヒが長尺で話し始めた。
リーダーのイロハが日頃からアサヒを立てるからだろうか。この状態になると自然と全員が傾聴し始める。
「実際に対策ができていたとしても、その状態で信用を取り返せるとは思えない。
偉いやつ何人かの前で実演すれば屋台再開の許可は出るだろうけど。
でもそれじゃ駄目だ」
アサヒがミリアの目を見て続ける。
「その何人かがミリアを信じてくれたとしても。
他の大人たちは変わらずミリアを"火事の子"として扱うだろう。
それでは変わらないよ」
そのときジャガーがふと手元の端末に目線を落とした。
彼女がその力と年季とコネで、何の説明もなく平然と携行しているスマホが光っている。
「あっちの世界で、ドロベルを電池にしたマジックアイテムの開発に成功したようじゃ。
量産品がいくらでも入ってくるぞ」
「あっ、じゃあ、消火器作らせてください。
なんか中身の補充が要らなくてドロベルの交換だけで済むやつ」
現地通貨ドロベルは、魔石と同じ性質を持つ。
まだミリアには良く解らないだろう。
財布から硬貨を出して差し込めば動く、夢のマジックアイテム。
それがエルフの村の目と鼻の先まで来ている。
ex29/ もう一回だけ
「屋台をやらせてください」
仕立ての良いワンピースを着て、鮮明な赤の鞄を背負って。
ミリアが村の長老に向けて言った。
「やっぱり見た目って信用にかかわるよね」
「ワイくんのこと言ってます?」
ウサギとオズの小声のやり取り。
幸い長老の長い耳にも届かなかったらしい。
「しかしのうミリアよ、お前さんの事情は重々知っておるが。
前のように畑の手伝いで暮らす訳にはいかんのか?
一度火事を起こしてしまった事実は消えんぞ」
「そう言わなや長老。新しい屋台を用意した。
ミリアの話を聞いてやるがよい」
「う、うむ。ジャガーか。
お前さんがそういうなら……」
このロリエルフは村でどういう扱いなんだろうか。
五人は思った。
「ありがとうございます!
あの、まずこの看板を見てください。これはえっと、燃えにくい素材でできていて……」
消火器の説明に差し掛かり、訝し気だった長老がやがて興奮し始めた。
大声に集まった大人たちが、我先にと財布からドロベルを出して試し始める。
祭の直前、唐突に沸き上がった異なる世界の文明の熱が、小さな孤児の失敗を吹き飛ばす。
ex30/ 自動販売機?あるよ
「クレープ! ミリアちゃんのおいしいクレープです。
一人前で八ドロベル! 甘くておいしいよ!」
日が落ちて祭の本番となる。村の中央では篝火が炊かれ、漂う空気も浮かれている。
「おいひい!」
「あまいねー」
「これだいすき」
「ジュリエットちゃんも食べて!」
「ええい、妾のかき氷をもっと召すのじゃ」
「えーおいしいけど」
「なんかお腹いたくなる」
「頭いたくなった!」
「ミリアちゃんのほうがいいー」
ジャガーのかき氷は初速こそ良かったものの、徐々に失速した。
この村は日本の夏のように、夜になっても蒸し暑い。
鳴り物入りで歓迎された冷たい甘味だったが、売上げはどうも伸びきらない。
「なあ、これは何だ?」
「ツイストポテトです。芋を揚げたものですよ」
「美味しいよ!」
「揚げた? 焼いた野菜ってことか。じゃあ要らないよ。
エルフは焼いた野菜を食わないんだ」
アサヒの屋台は需要を読み違えて爆死。
「クレープは大当たりのようだぞ。先ほどから列が途切れん」
「こーれはミリアちゃんが屋台王ですね。ワイくんも手伝ってこようかな」
ギルド『10匹の熊』は、過半数となる六名もの人員を投入し、現地の幼女に敗北した。
少しずつ、楽器を持ったエルフが篝火の周囲に集まり出す。
屋台をめぐる食事の時間は一区切り。次はあの篝火を囲んで、踊りでもするのだろう。
売れ残ったツイストポテトを口にして、アサヒはそれをぼんやりと眺めていた。
「アサヒさんはお祭りで踊ったりします?」
「盆踊りとか? やったことないな」
「ではやりませんか?」
イロハがそっとアサヒの手を握った。
やってみても良いだろう。
篝火の傍で、エルフの長老が声を張り上げる。
「それでは発表する。
今年の屋台王は――」
外伝1 ファンタジー屋台王 了
1桁でナンバリングしているのに10までかかるようなクソダサいことをこの俺様が!?
後でミリアのWikiくらい書くかも
そしてオブ・ザ・キングドラという激オモロSSも同時に完結しましたよ