スキル【10匹の熊】   作:switch2当選しました

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交渉材料

12/ エンチャンター、物部モクゾウ登場

 

翌週の火曜日のこと、三人はイロハの祖父が遺した名刺を頼りに、二つ隣の県まで来ていた。

郊外まで電車とバスを二時間乗り継ぎ、そこからしばらく歩く。

ようやく到着したそこは、広い庭に管理された木々が立ち並ぶ豪邸だった。

 

先頭にイロハが立ってインターホンを鳴らす。

 

「11時からお約束しております、一色イロハと申します」

 

鍵は開いているからそのまま入ってくれという旨の返答があり、三人は屋敷の中に足を踏み入れた。

 

 

「ようこそ、その辺に掛けてくれ」

 

年季の入った応接室に案内された三人は、改めてこの屋敷の主の様子を伺った。

 

歳の頃は四十から五十、白髪の混じった髪は短く切り揃えられ、作業着なのか普段着なのか、紺の作務衣に身を包んだ男だった。

 

「エンチャンターの物部モクゾウだ。

 詳しい話を聞かせてくれ」

 

 

 

13/ 物部モクゾウの言い分

 

「はい、私は一色イロハ、こちらは朝倉アサヒ、上野ウサギです。

 私のスキル【共有】を、物部モクゾウさんにアイテムにしてもらいたい、というのが依頼になります」

 

「儂の仕事は今、最低でも一億二千万からでやっておる。

 それは払えないという話だったな?」

 

「はい。代わりに、併せてこちらの上野ウサギのスキル【幸運の星】もアイテムにしていただきまして。

 そのアイテムの所有権を放棄することで依頼料とさせていただけないか、という相談です」

 

ここまでは電話口で話した内容だった。

こうして面会を取り付けることが叶ったのだから、勝算のある提案なのだろうと三人は考えていた。

 

しかしモクゾウの返答はそうではなかった。

 

「まず結論から伝えると、その条件では仕事はできない」

「……それは、なぜでしょうか。

 スキル【幸運の星】は同系統のスキルの中でも上位なのは間違いないですし、運勢系スキルの付与は需要があると考えたのですが」

 

「それは間違っておらん。

 しかしこれは儂の商売で、そちらは飛び込みの営業なのだ」

 

わかるかね、とモクゾウは続けた。

 

「まず運勢系スキルを付与したアイテムが、需要の高い商品であることは間違いない。

 すると当然、儂にもそのスキルを調達する相手が既におるし、それをブランドとして長年売りに出しておる」

「はい、それは、わかります」

 

「顧客の紹介でやってくる新しい顧客は、紹介元が所有しているアイテムと同じ物を求める。

 この場合は、同じスキルホルダーからエンチャントしたアイテムを求めるということだ」

「つまり……」

 

「そうだ。

 お嬢さん方の【幸運の星】だったか、良いスキルなのだろうが、付与してすぐに売り物にはできん。

 依頼の報酬の代わりとする義理もないしな」

 

 

 

14/ 顔通し

 

「では、それでは……」

「では何故俺たちと会ってくださったのですか?」

イロハが口籠り、アサヒが言葉を引き継いだ。

 

「それは決まっておる。

 あけすけな言い方をすれば、コネ作りだ」

 

「コネ作りですか?」

「ああ」

 

モクゾウは長く息を吐くと、革張りの高級な椅子に深く腰掛けた。

 

「スキル【幸運の星】に魅力があることは間違いない。

 そして儂の仕事も、現在取引しておる運勢系スキルホルダーと店仕舞いまで一蓮托生でもない」

「それは……そうでしょうね」

 

「まあ上野ウサギさんがこのまま活躍し続ければ、いずれは顧客の方からあんたのスキルが付与されたアイテムを欲しがってくる筈だ。

 そのときは是非、よろしく頼むわ」

 

だがそれは今ではないのだろう。

物部モクゾウはそのまま唇を結んだ。

 

 

 

15/ マジックアイテム【中身を来世に持っていける壺】

 

三人は言葉に迷っていた。

物部モクゾウの意志を翻させる何かを探していた。

 

いや、一人、朝倉アサヒには次の矢があった。

 

「改めて物部モクゾウさん。考えて欲しい提案があるんだが」

「なんじゃ」

 

「ウサギのではなく、俺のスキルならどうだろう。

 俺のスキルで出来るアイテムを交換材料にしたい」

 

モクゾウの顔に驚きはない。

想定内の提案だったのだろうか。

 

「あんたの事も知っとるよ。

 神童、朝倉アサヒ君」

 

「だがあんたが冒険者学校に落ちた事も知っとる。

 かつてジュリエット・ジャガーの再来と持て囃されとったが、恐らくそうではない事が判ったんじゃろう」

「ああ。

 俺のスキルはジュリエット・ジャガーとは全くの別物です」

 

アサヒのスキルは少なくとも前例がない、突拍子もないものだ。

この職人であり商人である男を納得させるのは難しいように思えた。

 

だがやらねばならない。

 

「俺のスキルは【転生】。

 生まれた時に、前世の記憶と能力を引き継ぐスキルです」

「それは……」

 

初めてモクゾウの表情に迷いが生まれたようだった。

 

「到底信じがたい」

「ですが、これによって俺は生まれた瞬間から成人男性の思考能力と身体能力を振るっていました」

 

暫し沈黙が場を支配する。

 

「そうして君はその歳になって、アドバンテージのほとんどを失ったというわけか。

 筋は通るように思えるが……」

「はい。

 そしてこの【転生】は死後に効果を発揮するスキルです」

 

アサヒは身を乗り出し、モクゾウをじっと見て続けた。

 

「あなたの顧客はほとんどが富裕層だと予想しています。

 そうしてそのような層にとって」

 

心変わりしろモクゾウ。

 

「現世の財産を死後のアドバンテージに替えられるアイテムは、

 この世の何よりも需要があるのではないですか」

 

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