スキル【10匹の熊】 作:switch2当選しました
16/ 前世の物があったりなかったりした
「その言葉が本当なら、依頼料として十分どころか釣りが出る」
傍目にもモクゾウの心が動いているのが解った。
「しかし、余りにも前例のないスキルだな。
とんと聞き覚えもない」
「試しにやってもらうわけにはいきませんか?」
イロハがモクゾウの顔色を伺いつつ加えた。
「儂はスキル【魔道具作成】で作った物の効果を把握できる。
だが、一つ作るのに最低でも一ヶ月必要だ」
「思ったよりかかるな……」
「そうじゃろう。
あんたらの依頼を受けたら、儂は商売に二ヶ月の穴を空けるってことじゃ」
「踏ん切りが付かないのもわかるが……わかりますが」
「まあそうじゃな。
だが本当ならば凄まじい商いになるのも確か。
儂は迷っておる」
「俺にあるのは、前世の記憶と身体能力だけです。
証明になるような物は……」
アサヒはそこで言葉を区切った。
「あーっと、その、前世は、似ている所もあれば違う所もある、ですが同じ日本という国で生まれ死にました。
例えば本とか映画は、前世と今世であったりなかったりしますね」
アサヒは椅子から立ち上がった。
モクゾウを説得するために。
当然のように羞恥はあったが、ここで決め切らなければ未来はない。
「歌でも歌ってみせましょうか」
モクゾウは腕を組み頷いた。
イロハは居住まいを正した。
ウサギはインスタに動画を上げるためにスマホを構えた。
17/ 川の流れ
アサヒは前世の歌を歌った。
昭和の歌姫の遺作。
川の流れに人生を重ねて歌った曲。
この世界では生まれなかった曲だ。
作詞家が余りにも時代の流れに敏感な人だから。
きっとこの少し違う社会では、全く別のことをしているのだろう。
アサヒが歌い終わると、暫くの間、誰も言葉を発さなかった。
応接室にはウサギのスマホの通知音のみが響いていた。
「……良い歌だ、本当に」
なんとか絞り出した、といった体でモクゾウが口を開いた。
「あんたが何か、自分で適当に作った曲を歌ったりするんじゃないかと、考えもした。
だがこれは、この曲を書くには、あんたは若すぎる」
勿論名曲ではあるのだ。
一色イロハと上野ウサギも感動はしていた。
しかし物部モクゾウに最も刺さった。
「そしてこんな曲を思いついて、発表せずに居られる筈がない。
一度発表されたとして、無名のまま消えるとも思えん……」
「信じてくれますか」
「……ああ、そうしよう」
18/ アサヒのもう一つの狙い
「そうとなれば早速予定を組もう」
モクゾウは手帳を取り出して言った。
「儂のスキルは対象のスキルホルダーの血を使う。
今日から取り掛かるなら今日一度抜いて、半月後にもう一回。
二回分の血を使って取り掛かり、作業にもう半月。
最後にもう一回血を抜いて仕上げに使う」
最短で一ヶ月ということだ。
献血も成分次第でそのくらいの間隔だし、妥当な所だろうとアサヒは思った。
「俺はそれで構いません。今日からやってください」
アサヒはそう言って、イロハに顔を向けた。
「私も構いません。
血を抜く作業は同時にやっても良いですか?」
「ああ、それなら一月半で二つ作成できる。
勿論今進めている依頼は中断せねばならんが、それだけの価値はあるだろう」
モクゾウの前向きな様子を認めてから、アサヒは叶うならばともう一つ条件を付け加えた。
「アイテムが出来上がれば効果が把握できるという話でしたよね。
俺のスキルのアイテムが出来上がってからで構いませんが、了承して欲しい条件があります」
「なんじゃ」
「出来上がったアイテムの売り方に注文をつけさせて下さい」
アサヒは続けて言った。
「広く購入者を募って欲しい。
あなたが持っているリストの範囲で構わない。
ですが、少しでも話題になるような売り方をして欲しい」
モクゾウは悩んでいるようだった。
「オークション形式も経験がない訳では無いが……。
追加の注文があったら受ける気はあるのかね?」
「それはありません。
ですが、お願いしたい」
「しんどい商いになるな、それは。
出来上がった物が凄まじければ凄まじい程、儂は付き合いのある顧客の次を求める声を断り続けなければならん」
「それは売るときに一品物だと強く言ってもらうしかないですね」
「まあ……そうなんじゃがな」
モクゾウは諦めたようにため息を一つついた。
19/ 誰だって欲しい
ギルド『10匹の熊』が【共有】を付与されたアイテムを手に入れた時、その先の最高の未来を目指すために、超えなければならない高すぎるハードルがあった。
それはジュリエット・ジャガーと渡りをつける事。
会おうと思って会える相手ではない。
何しろ相手は世界最高に何百年と君臨し続ける冒険者だ。
面会を希望する者、期待する者は世界中に掃いて捨てるほど居たし、その予定は遥か先まで埋まっているものと思われた。
しかし、当のジュリエット・ジャガーに会いたいと思わせればどうだろう。
彼女が自分から予定を決めたのなら、逆に言えば遮ることの出来るコネも地位もこの世に無いはずだ。
「この狭い日本の中であれ、僅かでも俺のスキルが話題になってくれれば、それで良いんです」
ジュリエット・ジャガーは生まれながらに人より長すぎる生を持っている。
それは間違いなく常人の十倍。
だが、五百年以上前から活躍し続ける彼女は、一説には西暦1200年頃から活躍しているとも言われる彼女は。
その長すぎる生の先にある終わりを感じているだろう。
寿命という避け得ない死の足音を聞いているだろう。
恐らく本人が最も鮮明に。
ジュリエット・ジャガーは気づく。
物部モクゾウの顧客リストの範囲で、そのマジックアイテムが短い期間に購入者を募っただけだったとしても。
その最高の名声と権力で。
死後に干渉するスキルの存在に、間違いなく。
気づく。