スキル【10匹の熊】 作:switch2当選しました
24/ マジックアイテム【握った相手とスキルを共有するバトン】
アサヒのスキルが付与された壺が購入者に引き渡され、僅か三日後の出来事だった。
モクゾウからイロハへ連絡があった。
「聞いて驚け。
あのジュリエット・ジャガーから顔つなぎの依頼があったぞ。
できるだけ早く面会したいとな」
すぐさまギルド『10匹の熊』のグループラインに共有された。
三人は快諾し、最優先で駆けつけると返答。
面会場所の選定はジュリエット・ジャガーに委ねた。
第三者には絶対に秘密の漏れない場所で会いたかったし、三人があれこれ頭を悩ませるよりも、ジュリエット・ジャガーの権力と資産に頼った方が良い場所になると思われた。
「ここが俺たちの正念場だな」
立ち上げたグループ通話で、アサヒは自分に言い聞かせるように言った。
「まず出来上がったアイテムが、思い通りに効果を発揮するかですが……」
「性能自体に間違いはないんだ、後は信じるしかない」
出来上がったアイテムを受け取り次第、三人は早々にその性能を試していた。
イロハのスキルが付与されたアイテムは【握った相手とスキルを共有するバトン】。
バトンを握った逆の手でサイコロを振れば、【幸運の星】は期待通りの結果を出したし。
【転生】の効果や詳細は一色イロハ、上野ウサギの脳裏にも浮かび上がった。
後は【10倍】が効果を発揮するだけだ。
25/ とあるホテルのスイートルームにて
長身痩躯の老女が優雅に座り、ティーカップを傾けていた。
銀色の長髪をうなじで一本に括った彼女こそが、世界最高の冒険者ジュリエット・ジャガー。
彼女が用意したこの場所には、ジュリエットの他にはギルド『10匹の熊』の三人のみが居た。
ジュリエットが入国時に引き連れた、何人かの侍従はこの場に居なかった。
考えてみれば当然の話で、何百年と生きているだろうジュリエットと、その侍従らは同じ時間を百年も共有していない。
ジュリエットがアサヒら三人から得たい情報とは、彼女の弱みにも繋がるものなのだから。
「ええと……初めまして、ジュリエット・ジャガーさん。
すみませんが俺たちは日本語しか話せません」
「ああ、構わんよ。
日本語はある程度解るもんでね」
言葉とは裏腹に、かなり流暢な日本語だった。
「それは良かった。
俺たちはギルド『10匹の熊』。
右が主宰の一色イロハ、左が上野ウサギ、俺は朝倉アサヒといいます」
「はい、ありがとうよ。
妾はジュリエット・ジャガー」
「はい、存じてます」
ジュリエット・ジャガーの聞き慣れない一人称に驚きつつ、アサヒは答えた。
彼女であれば、何百年か前に習得した日本語を使い続けていてもおかしくない。
「早速じゃが、妾がお主たちに頼みたい事は一つ。
例のマジックアイテムの付与元であるスキルを教えてくれんか。
報酬は幾らでも用意しよう」
来た。
アサヒは唾を飲み込んだ。
「スキルを教えることは勿論。
俺たちもそのつもりで来ました」
アサヒは二人の顔を見た。
二人は頷いた。
「お金は要りません。
報酬は別のものでお願いします」
イロハは鞄から銀色のバトンを取り出した。
26/ 願い事が10個に増えたら
「説明します」
アサヒが改めて口火を切った。
「件のアイテムに付与されたのは、俺のスキル【転生】です。
このスキルは死後に発動するスキルで、俺は前世の記憶と能力を引き継いでいます」
「……そりゃあ凄いねぇ。
それが言葉通りってんなら、妾の期待に完璧に応えておるのじゃ」
「信じがたいのも解りますが、この場で証明できます。
イロハ」
「はい、このバトンが証明します」
「イロハが持っているのは彼女のスキル【共有】を付与したマジックアイテム。
これは【握った相手とスキルを共有するバトン】です。
俺とあなたで両端を握れば、握っている間、あなたにも俺のスキルが付与されます」
「握っている間は、自分のスキルと同じように共有したスキルを把握できます」
ジュリエットは眼の前に差し出されたバトンを、この世ならざる物を見るような目で見た。
「それならば……妾が死ぬ瞬間に、お主とバトンを握っておれば、妾は【転生】の恩恵を受けられるということかの?」
「そうだと思います。
ですが、それよりもっと良い方法があるんです」
その前にスキルの証明はしておこうと、アサヒはバトンの片側を握り、ジュリエットの前に差し出した。
ジュリエットはバトンの逆側を握り、そしてすぐさまスキル【転生】の存在を信じた。
「俺たちが望む報酬はこうです。
あなたのスキルをイロハに【共有】させてください。
その後、【転生】を共有しましょう」
27/ 新鋭の産声
アサヒの目論見は完全に成功した。
イロハとジュリエットがバトンを握った時、
イロハのスキル【共有】の重たすぎる制限であった、「一人の相手とスキルを共有し続ける」効果は、「十人の相手とスキルを共有し続ける」ものとなった。
その場ですぐさまアイテムではなく大元のスキル【共有】でイロハは【10倍】を共有し直し、その制限は永続的に取り払われた。
そしてギルド『10匹の熊』は、その構成員全員が、【転生】【共有】【幸運の星】【10倍】【カンテラ】の五つのスキルを同時に持つ、世界でも例のないスキルホルダーとなった。
アサヒは己が最強になったことを確信した。