ようこそ"反"実力至上主義の教室へ   作:宗谷

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「真実を知りたいなら、動き出すことだ」――アリストテレス


真実を知りたいなら、動き出すことだ

翌日日曜、朝。

俺は私服に着替えて、来客を待っていた。

 

数分前、携帯にメールが届いた。

「これから向かう。櫛田さんも一緒」という平田の短いメッセージ。

文面に乱れはなかったが、その短さが彼の焦りを物語っていた。。

 

 

「九条君!」

「来たか、二人とも」

 

数分後、インターホンが鳴った。

ドアを開けると、私服姿の平田と櫛田がいた。

 

 

「立ち話もなんだ、入ってくれ。

椅子はひとつしかないが、ベッドでも壁でも好きに使ってくれ」

 

「お邪魔しまーす!」

「ありがとう」

 

二人を中に招き入れる。

部屋に入ったのを確認して、ドアに鍵をかける。

セキュリティ以上に、今は情報の確認と漏洩防止が第一だ。

 

 

 

「それで、九条君。まずは聞かせてくれ。

『過去問が手に入った』というのは、本当なのかい?」

「ああ、これだ。確認してくれ」

 

そういって、俺は封筒を渡す。

昨夜、堀北会長名義で部屋の郵便受けに投函されていた封筒だ。

二人は封筒を開け、中身に目を通す。

 

「……確かに。毎年同じ内容だね」

「でも、範囲が全然違うよ?」

 

五教科4年分。

流し読みを終えた二人が、そうつぶやいた。

 

念のため、と並べてあった出題範囲まとめと内容を、交互に比べている。

 

 

「……まずは、聞かせてほしい。『どう思う』?」

 

二人が落ち着いたところで、そう問いかける。

自分の中では仮説ができている。

あとは、二人がどう思うか、だ。

 

「……これは、意図的なものだと思う。」

「私も。毎年同じ内容なんて、いくら何でも不自然だよ」

「ああ、俺もそう思った」

 

偶然ではなく、確信的に同じ問題を出している。

その一方で、明らかに違う範囲は何だ?

 

 

 

 

「でも……仮にこの過去問が『本物』だとしたら、問題はもう一つあるよね?」

 

そう口を開いたのは、平田だった。

 

「もし、本当にこれと同じ問題が出るとしたら……

僕たちが今やってる勉強は、今やっている勉強は、まるごと空振りってことになる」

 

そう。

テスト直前まで全く違う範囲を勉強していたのであれば、何時間勉強しようが結果なんて出ない。

山登りの準備をしていたのに、実際はダイビングをする羽目になるようなものだ。

 

一方で、比較的たどり着きやすい『過去問』という手段。

真面目に勉強するのが当たり前、という生徒なら、復習用の教材替わりで過去問を先生に要求することは、珍しくないはず。

 

 

「出題範囲を信じて勉強している生徒は、結果を出せない。

 一方で、過去問を持つ生徒は、本当の出題範囲どころか、『正解』まで手に入る。。

……これは、試験の公平性を根本から壊す行為だ」

 

仮に、この試験範囲の間違いが意図的であるなら。

『普段から過去問の使用による復習が日常的である、勉学に真面目な生徒』のみを選別するふるいになる。

 

 

「意図的に“ズレ”を作って、そこに罠を仕掛けた……ってこと?」

「この後試験までに修正される可能性、というのもある」

「えっ?」

 

 

 

「まだ断定はできないけど、過去問のほうを真実とするなら、どこかで『帳尻合わせ』をする必要がある。

 例えば、『試験の出題範囲が変更になった』って感じで。

これなら、公平性を保ったまま、過去問の入手をした生徒がより有利になる

 問題は、それが『仕掛け』なのか、『ただの不備』なのか……ってことだ」

 

「つまり、“罠”か“事故”か……

ってことだよね?」

 

櫛田がぽつりとつぶやいた。

 

――問題は、これが意図的か、否か。

 

『意図的に違う範囲を公開した』のか、『間違った範囲を公開してしまった』のか。

 

とくに前者である場合、最も被害を受けるのは勉強が苦手、あるいはあまり勉強をしない生徒。

 それでも、『退学』という縄が首にかかってる以上、危機感を覚えて必死になるやつもいる。

 

しかしその努力は、『間違った範囲の勉強』という形で無駄になり、最終的に退学になる。

 

真面目に勉強をしようが、怠けていようが関係ない。

 

『本番で点数をとれるか』という実力主義の結果主義。

 

 

 

……あまりに歪んだやり方に、二人から見えない位置で拳を握りしめていた。

 

このズレが“事故”なら、誰かが単にミスをしたというだけの話だ。

だが“罠”なら、その裏には意思がある。

つまり、この学園のどこかに、生徒の“選別”を望む存在がいるということになる。

 

 

 

「……とにかく、いつまでも考え事で終わらせるわけにはいかない」

 

感情を抑え、あくまで冷静に話を進める。

必要なのは、これからどう動くか、だ。

 

例え罠だとしても、それに気づいた今、動かなければ意味がない。

みすみすどこかの誰かに、自分の命綱を渡すような真似はしない。

 

 

「まずは、事実を確認しよう。出題範囲が、他クラスでも同じだったのか。それとも、僕たちDクラスだけが違っていたのか」

 

平田が今後の方針の第一歩目を提案する。

 

 

「……そうだね。もし、私たちだけが違っていたなら、もう偶然なんかじゃないもん」

 

「ああ。月曜になったら、誰かが職員室に行って、出題範囲について『もう一度』確認する必要がある」

 

目下最優先事項は、『範囲変更の可能性』の確定。

確実にやるなら、職員室に聞きに行くのが一番いい。

問題は、『誰が行くか』。

 

少なくとも俺が言ったら、必要以上に警戒される可能性は捨てきれない。

下手をしたら、本当に試験範囲が例年と狂う可能性まで出てくる。

 

 

「それなら、私が行こうか?」

櫛田が、自然な笑顔を浮かべて言った。

 

「私なら、自然に聞けると思うよ。

『中学時代に、先生が試験範囲を間違えて伝えちゃったことがある』って言えば、そこまで怪しまれないんじゃないかな?」

 

「助かる。頼んだ」

 

「僕は、これからノートとかを準備してくるよ。午後にもう一度集まって、九条君の問題集を修正しないか?九条君はこれまで大きく動いてくれた。今度は僕たちがやるよ」

 

 

少しずつだが、歯車が動き始めている。

俺たち三人は、まだ“チーム”じゃない。

だが、それでも今は――前に進める気がしていた。




余談ですが、物語の裏(九条の関与、影響がない部分)は原作、およびアニメ準拠です。

つまり、堀北サイドの勉強会は失敗しています。(ただし、問題集のおかげで原作ほどっ崩壊していない可能性はある)
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