ようこそ"反"実力至上主義の教室へ   作:宗谷

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「我々は生まれながらにして自由であり、しかも至るところで鎖につながれている」──ジャン=ジャック・ルソー


我々は生まれながらにして自由であり、しかも至るところで鎖につながれている

入学式が終わり、クラスへ移動する。

 

掲示板によれば、自分はDクラスだった。

クラス内はすでにいくつかグループができているようだ。

 

 

自分の名前がある席に座って。考える。

気になったのは、4人。

 

1人目は、朝のバスで優先席に座り、譲らなかった男子。今は暢気に爪の手入れをしている。

 

2人目は、同じくバスの中。席を譲ってあげてほしいと言っていた女子。今はほかの女子とおしゃべり中。

 

3人目と4人目は 後ろのほうで隣同士になっている男女。男子のほうは淡々としているが、女子のほうは一切他者に興味がないかのような印象だ。

 

個性的にしても振れ幅が大きいクラスだと思った。

 

思考の片隅から浮かんでくるのは、先ほどの入学式。

その中でも、生徒会長の言葉を思い出す。

 

『この学校は、徹底した実力主義である――』

 

 

 徹底した実力主義。

その言葉に、希望を見る者もいるだろう。努力が報われる世界、だと。

公正な競争の場である、と。

そうであるならきっと、いい学校だろう。

 

だが、言葉の言い回しが気になった。

実力主義という点ではない。

その前に『徹底した』という一言がついていたことに、だ。

 

 

 徹底とは、何を意味する?

足切り? 評価? 支配? それとも別の何か?

――あるいは、結果があるなら手段は問わない、ということか?

 いずれにしても、この学校はそれを『当然』とするということ。

 

 

 

 

「皆、少しいいかな?」

 

 

 やや大きめな声が出された。

必然として、意識はそっちに向く。

声の主は、如何にも好青年といった雰囲気の生徒だ。

 

 

「今から自発的に自己紹介を行って、一日も早くみんなが友達になれたらと思うんだ。どうかな?」

 

その意見に、何人かの女子が賛成する。

情報欲しさの誘導には見えない。本心からのものであると、すぐに分かった。

 

 

「僕は平田洋介。気軽に『洋介』って呼んでくれると嬉しいかな。趣味はスポーツ全般だけど、その中でもサッカーが好きで、この学校でも、サッカー部に入部する予定だ。よろしく」

 

彼は平田というらしい。

明るく真面目な優等生。多くの人から好印象になるような内容だ。

 

 

「じゃあ、次は私。

櫛田桔梗といいます。ここにいるみんなと仲良くなることが目標です。

たくさん思い出を作りたいので、どんどんさそってください!」

 

優先席の件で注意していた彼女。

……表だけを見れば、好人物。だが、「みんなと仲良く」なんて言葉は、どうにも耳障りが良すぎる気がした。

 

 

 

 

それから、一人ひとり自己紹介が進んでいく。

「彼女が欲しい」という池や明らかに話を盛っている山内。逆にほとんど情報のない綾小路などがいた。

……他の誰よりも印象が薄いのに、妙に引っかかる。

わざと“平均”を演じてるのか?それとも、本当に何もないのか――。

 

 

そして、自分の番。

 

 

「九条凪斗です。特技も趣味も、これから見つけます。

でも、自分に恥じない生き方はしたい、と思っています。

……以上です。よろしく」

 

面白くもなければ、印象に残るようなパフォーマンスもない。

好意もないが、反感もない。

それでいい。今はまだ、“敵”を作るには早すぎる。

 

 

「ありがとう。じゃあ次の人──」

 

 

 

促すように次の生徒に視線を送る平田だが、その生徒は強烈な睨みを平田に向けた。髪の毛を真っ赤に染め上げた、如何にも不良というような感じの生徒。

 

 

 

「俺らはガキかよ。 自己紹介なんて、やりたい奴だけで――」

 

 

 

 

「お前達、席に就け」

 

 

たった一言。

それだけでクラスの時が止まった。

 

新たに入ってきたのは、一人の女性。

手には資料を抱えている。

 

 

「Dクラスの担任となった、茶柱佐枝だ。

この学校にクラス替えはない。卒業まで私がお前たちの担当になる」

 

 クラス替えのない学校というのは、珍しいと思う。

大体は年度一回で入れ替えを行うものだ。

昔は自分も、クラス替えで一喜一憂していたような気がする。

 

 

「本校には独自のルールが存在する。まず全寮制で、在学中に敷地内から出ること、外部と連絡することは制限される。

だが安心しろ。生活に必要なものはすべて敷地内で手に入る。娯楽も含めてな。」

 

 

 ……怪しい。学校という世界が、わざわざ生徒を閉じ込める必要があるのか?

教育とは本来、社会と接続することで初めて意味を持つはず。

特に高校なら、職場体験や大学見学みたいなイベントがあるはずだ。

 知識だけを詰め込まれた人間なんて、人型の本や機械でしかない。

 教育機関というより、管理施設だ。信用されていない、とも言える。

 生徒を人間ではなく、『何かの実験動物』としてみるような。

そんな違和感があった。

 

「買い物には学生証端末に保有されているポイントを使用して行う。

この学校では、あらゆるものをポイントで買うことができる。このポイントは毎月1日に振り込まれ、1ポイントは一円の価値を持つ。

すでにお前達には、今月分の10万ポイントが支給されている。」

 

10万という額に、一瞬クラスが湧き立つ。

 

10万という大金。何でも手に入る環境。

異常な自由。異常な額。

……試されている。

 

 

 自由と金。人間の本性を手っ取り早くあぶり出すための手段として最適に近い、と歴史が証明している。

時の権力者があっという間に堕落したなんて話は、10や20では済まない。

 

 本当に教育をしたいなら、指針や目標を与えるはずだ。金なんかじゃない。

 

 

ふと、天井の隅に目をやる。

小さな黒い球体。監視カメラだ。

 

やはり、“徹底”とは、そういう意味か。

 

「この学校は、実力で生徒を測る。入学を果たしたお前達には、それだけの価値はある、ということだ」

 

 

 

 先の生徒会長の話と重なる。

徹底した実力主義……つまり、『勝った者だけが正義』ということか?あのカメラは、それを判定する手段?

 その『勝利』が偶然や運、あるいは誰かに『仕組まれた』ものだったら?

それは本当に『実力主義』といえるのか?

 

 

それでも“お前に価値はない”と断じるのがこの学校なら。

努力も、思いやりも、誰かの支えも、全部「実力がないから」で切り捨てられる世界なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

間違ってる。




以下、九条のプロフィールです。

主人公名 九条 凪斗(くじょう なぎと)

年齢:15歳(新1年)
誕生日:2月29日(うるう年)


評価

学力:A  
知性:A- 
判断力:B+  
身体能力:B
協調性:C- 


所属:Dクラス

筆記試験結果コメント:

「どの科目も正確かつ論理的で、特に国語・現代社会においては「人間の心理や行動原理を言語化する力」が際立つ。ただし、数学や理科では設問の意図を読みすぎて逆に遠回りな解答を出す傾向あり。
 論理的というより“状況思考的”な処理をしている節があり、型にはまらない危うさを感じさせる」


面接官からのコメント:

「こちらの問いに対して論理的かつ端的に返答。詰問的な質問にも動揺なし。逆にこちらの意図を読み取って牽制する場面も見られた。対人観察能力、洞察力などに特筆点あり。


※特記事項あり。Dクラスへの配属が妥当と判断する。

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