ようこそ"反"実力至上主義の教室へ   作:宗谷

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心を教えねば教育とは言えない――アリストテレス(意訳)


心を教えねば教育とは言えない

「失礼します」

「…失礼します」

 

 

放課後、訪れたのは指導室。

授業が終わり即、堀北とともに職員室へと向かったが、帰ってきたのは「茶柱先生は綾小路君と指導室に行ったよ~」という、酒の匂いを隠しきれていない女教師の一言。

踵を返して指導室へ行くと、すでに綾小路はおらず、茶柱先生が椅子に腰かけていた。

 

「堀北と…九条か。ずいぶんと珍しい組み合わせだな」「……まあ、珍しいと思われることは否定しません」

「九条君には、私が同伴を依頼しました」

 

 

「さて、では話を聞こうか」

「率直に伺います。なぜ私がDクラスに配属されたのでしょうか?」

 

堀北らしい、率直な質問。

昼の時から彼女には、成績を絶対視する傾向があった。

 

「先生はHR時、『Aクラスから順に優秀な生徒が割り当てられる』と言いました。

つまり、Dクラスは逆に、学校から最低評価を受けた生徒たちの集まりということですよね?それを理由に『不良品』と呼ばれている」

 

「そうだ。納得できないか?」

 

「できません。

入学試験の問題は殆ど解けたと自負しています。

面接でも大きなミスや失言をした記憶はありません。

少なくともDクラスになるとは思えないんです」

 

堀北ははっきりと、絶対の自信のもとに話を続ける。

確かに堀北の言うことは正論だ。

この学校が実力主義の舞台であれば、彼女のような生徒が上に立つ、というのは自然なのかもしれない。

けれど……この学校は、そんなに単純ではない。

 

 

「確かに堀北は入試で4位と好成績を残している。3位以上とも僅差。十分以上の結果だ。

面接もこれといって問題はない。むしろ高評価だったと思われる。入学前に私も確認した」

 

「ちなみに、3位は九条だ。堀北と比較すると、数・理が低いがそれ以上に文系科目で稼いでいた。

特に記述は、教師陣でも感心するほどの内容だった」

 

「……ありがとうございます」

 

 

これまでの授業やあのノートから見ても、おそらく堀北は優等生だ。

テストの点数はともかく、面接でも模範的な回答をしたと思う。

成績だけを見ればとてもDクラスとは思えない。

『成績だけを見れば』、だが。

ここまでする学校が、生徒の評価は成績一つなんて、ありえない。

 

 

 

「ではなぜ、私がDクラスなのですか?」

「やはり、Dクラスであることは不服か?」

「当たり前でしょう。正当な評価をされていないんですから」

「正当な評価? どうやらお前はずいぶんと自己評価が高いんだな」

 

 

 

「お前の学力が優れているのは事実だ。

だが、学力に優れた生徒が優秀なクラスに入れると誰が決めた?

そんなことは我々は一度も言ってないぞ」

 

「それは……っ、世の中の、常識の話をしているんです」

 

「残念だがお前がDクラスであることは揺るがない事実だ。

お前はDクラスになるべくしてなった。以上だ」

 

――これ以上を聞く気はない。

明確な意思表示ともいえる切り上げ方に、ついに堀北は黙ってしまった。

 

おかしい。

こんな言い切り方をする先生だったか?

まるで、堀北の口を塞ぐタイミングを見計らっていたような。

そんな違和感がある。

 

 

「さて、話は終わりだ。気をつけてかえ――――――」

 

帰れ。

そう言おうとした先生の口が止まる。

 

「ちょうどいい。九条、おまえにも用があったんだ」

 

先日の職員室の時と同じ、何か含みのある笑みを浮かべた。

まただ。この間の職員室でも感じた目線。

この女教師は、最初から舞台を整えている。

 

「俺に、ですか?」

「ああ。その前に――

 

 

 

 

 

 

出てこい、綾小路。今すぐ出てこなければ退学にするぞ」

 

 

「……教師の権利にしても、さすがに強引じゃありませんか?」

 

指導室の脇、給湯室の影。

そこから、ゆっくりと出た、人影。

 

綾小路清隆が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盗み聞きとは、考えられない。

綾小路がいたのは、先生の後ろの給湯室。

退出すらしていない、ということになる。

 

それなら、残った可能性は一つ。

『茶柱先生が、意図的に隠していた』しかない。

 

「まあいい。

実は入試結果を参考に、個別の指導方法を模索していたんだが、お前達のテスト結果を見て興味深いことに気づいたんだ。

 

綾小路、九条。お前たちは本当に面白い生徒だな」

 

 

「まず綾小路。入試の結果は50点。それも、全教科において全く同じ50点。

先日の小テストも、これまた50点。これは何を意味するんだろうな?」

「偶然って怖いですね」

「偶然なわけがないだろう。お前は意図的にやったのだろう?」

 

すべて50点。偶然にしてはあまりにも綺麗すぎる。

仮に意図的なら、それは『点数配分まで完全に読み切った』上でしか不可能なこと。

 

 

「偶然ですよ。証拠はありません。そもそもテストの点数の操作なんてことをして、俺に何の得があるんですか?」

 

すべてはただの偶然。

淡々とそう答えた綾小路に、先生は深くため息をついた。

 

 

「憎たらしい生徒だなお前は……。九条、お前の意見を聞こうか」

 

全員の視線がこちらを向く。

軽く目を閉じて、思案する。

綾小路の点数。これには何の意味があるのか。

 

「答える前に、一つ確認させてください」と前置きし、「この点数に、意図はないと本人が言っています。では先生は、これをどう判断したのですか?」

 

「理由はわからん。私が考えたのは、綾小路は本来高い能力を持ち、しかしそれを公にしたくない事情があるのではないか、ということだけだ」

「偶然ですよ。どんなに低い確率でも、ゼロではないなら存在する。それと同じです」

 

あくまで偶然、と言い切る綾小路。

まとめ終わった考えを、口に出す。

 

 

 

「……『偶然』と言い切るには、あまりにも奇跡に近いものです。一方で、『意図的』というには、あまりにも完成されすぎています。

仮に意図的にやったなら、それは配点や採点傾向を完全に読み切る必要があります。

これを実力とするなら、それは『試験そのものを分析、操作する視点を持っている』ということです。

合理的な一方で……言い方が悪いかもしれませんが、『心がない』とも言えるかもしれません」

 

『あまりにも機械的』。

それが、俺が出した結論だった。

 

 

 

「……そうか。ありがとう。綾小路の件はこれで終わりだ。

 

さて、次は九条だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は入試において一問、創設時から同じ問題を出題している。内容も、文章も、一言一句変化したことはない」

 

「この問題は特殊でな、採点者によって点数は上下するが、誰もが減点された。綾小路も、堀北も。高円寺や生徒会長も例外ではない」

 

「だが九条。お前は歴代でただ一人、この問題で満点を獲得した。職員たちの間でも大騒ぎになったよ。『この回答に何点与えるか』とな」

 

「最終的に『満点』という結果になったが、おまえは異端だ。綾小路のような異常性ではない。だが、同じくらいに異常な生徒だよ」

 

その笑みの向こうは、期待か、興味か、それとも打算か。

茶柱先生の瞳がより強く光ったような気がした。

 

 




※特記事項










親族なし。調査の結果、全員逝去と判明。
少年院に1年間の送致経歴あり。
調査の結果、事件に至るまでの背後関係は確認済み。
 その動機については“自分にとって譲れないことだったから”と語る。
後悔や反省の色は皆無。逆に“それで良かった”という強い自己肯定が目立つ。
 将来的に重犯罪や秩序破壊につながる可能性を否定できない。優秀ではあるが、制御不能の危険性あり。
 不安定要素が多く、Dクラス配属が妥当と判断する。

また、対象生徒の資産などに関しては、本人の卒業、退学まで学園側で運用、管理、保持を行うものとする」


担任メモ:

「ルールの枠組みの中で信念を活かすように指導したいと思います」
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