5月2日。
堀北同伴の指導室の一件から、一夜が明けた。
Dクラスの雰囲気は、大きく変わった。
ただし、『見てくれ』だけ。
軽井沢達は私語をやめたし、須藤も若干居眠りなどが減った。
朝に平田や櫛田から聞いた話だと、『生活態度だけでも改めよう』という話になったらしい。
中間まで残り3週間。
自分はどうするか。どうしたいのか。
――考え自体は、もう決まってる。
赤点者を出したくない。
退学者を出したくない。
何より、『何もかも諦めて出ていくクラスメイト』なんていてほしくない。
――じゃあ、どうする?
真っ先に思い付いたのは『学習支援』。
つまり、誰かの勉強を見ること。
だが、平田や櫛田も同じ考えをするだろう。
なら、自分はその支援に回ったほうがいい。
一番確実なのは『過去問の使用』。
内容はまだわからないけど、少なくとも似たような問題くらいはあるはず。
それをまとめて、問題集か何かに加工してしまえばいい。
――だが、待てよ?
そこまで考えて、止まる。
Dクラスのポイント減点は、生活態度を起因としたもの。
これは茶柱先生の発言からほぼ確定。
一方で、『どの行動が、何点分の減点になったか』は一切明かされなかった。
人事考課、というそれっぽい言い逃れで。
改善や更生を学校が望むなら、逆に『この行動がいけなかった』と説明するべきだ。
『理由は言えませんがとにかくダメです』なんて、独裁者の論理だ。
つまり、『真面目に授業を受けるのは当然。評価の価値すらない』ともとれる。
テスト勉強も同じなのでは?
『試験に備えて真面目に勉強することは当然』とされるのではないか?
あの小テストも同じだ。
赤点=退学であるなら、人数ではなく基準点を話したほうがいい。
『最低でもこの点数は取れ』という警告すらないのはおかしい。
つまり、『赤点にも何か裏がある』。
学校は、定期テストという制度で、生徒をふるいにかけようとしている。
――まずは、そのふるいの目の大きさを知らなければいけない。
「失礼します。茶柱先生はいらっしゃいますか?」
放課後。
俺はまっすぐに職員室に向かった。
「九条か。何の用だ」
「はい、それは――」
「あれ、サエちゃん?と君は……噂の九条君ね?」
突如、別の先生に声をかけられた。
親しそうに茶柱先生の名前を呼んでいることから、友達なのかもしれない。
「知恵。横槍を入れるな」
「ええ~いいじゃない。例の『満点回答』だって見たんだし。
あ、九条君とは初めましてだね。
Bクラスの担任、星乃宮知恵っていうの。サエちゃんとは高校からの親友でね。サエちゃん、チエちゃんって呼び合う仲なんだ〜。」
硬派な印象の茶柱先生に対し、やや軟派な印象の星乃宮先生。
「まったく……。
それで、何の用だ?九条」
「では率直に。
昨日発表されたあの小テスト、赤点は何点以下、もしくは未満ですか?
Bクラスの担任の先生もいらっしゃるようなので、せっかくなのでBクラスの赤点も教えてください。」
星乃宮先生は目を丸くし、茶柱先生は眉をひそめた。
「……やはり、おまえは異常だ」
「たった一日でたどり着いちゃうのね……」
「まあいい。答えよう
赤点の基準は毎回変動する。クラス内の平均点の半分未満が赤点になる。
小数点以下になった場合は四捨五入で整数にする」
「Bクラスの平均点は75.2点。だから赤点ラインは38点未満よ」
「……そうですか。ありがとうございます」
「……ああ、気を付けて帰れ」
出口に向かおうとして、足が止まる。
もう一つ、聞かなければならないことがあった。
「ああ、忘れてました。もう一つ質問があります。
万が一退学者が出た場合、その退学取り消しには何ポイント必要ですか?」
「……2000万ポイントだ」
『この学校では、あらゆるものをポイントで買うことができる』。
非常口は、早めに見つけておいたほうがいい。
救う神にはなれないけれど、落ちる穴に網を張ることはできる。
問題文と回答の一部公開。
「科目:社会
問:
実力、結果、出自、努力などの観点から、“平等”についてあなたの考えを論じなさい。
なお、問いに対しては自らの体験や信条を含めて構いません。」
九条回答一部抜粋
「真に平等であるとは、「誰もが倒れていい」ということではない。
「もし倒れても、もう一度立つことができる」ということだ。」
イメージとして一巻冒頭の綾小路の「人は、平等であるか」を実際に問題にしたようなイメージです。
なお、九条の回答はさすがに難しかったので、AIを使用してキャラ分析、回答作成を行いました。