ようこそ"反"実力至上主義の教室へ   作:宗谷

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「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む」
──孫子『孫子兵法 形篇』


勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む

GWも明けて、5月7日。

あの後、赤点や退学救済の話は平田と櫛田に連絡して共有した。

ついでに最終目標も伝えておいた。

 

クラスの平均の半分未満で赤点なら、一番平均点が高い時の赤点を考えればいい。

全員が満点を取れば平均は100、赤点ラインはその半分の50点。

さすがに全員満点とまではいかないとしても、目標45点前後が目安。

 

もちろん、最終的には全員が50点以上を取れるのが理想だ。

目に見える目標と指針。

少なくともこれで一人か二人は確実に赤点候補が減るはず。

 

 

一方で、それだけじゃまだ足りない。

『諦めないで勉強すれば赤点にはならない』。

そんな理屈が通じるなら、誰も苦労なんてしない。

だから、理屈じゃなくて『仕組み』を作ることにした。

 

それが、今手元にあるノート数冊。

あの日、帰りにまとめて購入したものだ。

GWの期間を使って問題集、兼解説集に加工した。

 

 

朝。

俺は作成した問題集ノートを鞄に追加して登校した。

朝のHRが終わったタイミングで、平田が声をかけてくる。

 

「九条君、ちょっといいかな」

「平田、どうしたんだ?」

 

「実は、中間テストに備えて勉強会を開きたいと思うんだ。

もちろん、強制はしない。

でも、あのテストで満点をとれたのは君だけなんだ。

参加してくれないかな?」

 

予想通りの展開だった。いや、むしろ――願っていた流れかもしれない。

 

「其れならちょうどいい。これを渡そうと思ってたんだ」

 

平田にノートを渡す。例の問題集だ。

可能な限り範囲ごとに分け、解き方、考え方を中心にした解説付きのもの。

GW中に作成したものだ。

 

「まだ全科目じゃないけど、出そうなところだけまとめてみた。

基本的にはこの問題集に沿って進めればいいと思う。

ただ、緊急事ならともかく、今答えだけ写しても意味がない。

今後に備えて、『なぜそうなるか』を理解するほうが重要だと思う」

 

今後どうなるかわからない以上、今の段階で基礎部分を固めておくのが一番いい。

 

極論退学になっても、外部で十分以上にやっていけるように。

 

 

「助かるよ。勉強会には櫛田さんからも参加をお願いしてもらってるんだ。

来られる人だけでもいいし、強制じゃないからさ」

「わかった。俺は状況次第だけど、必要なら顔は出す」

「ありがとう、九条くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。図書室の一角。

本来はカフェで行う予定だったらしいが、PP(プライベートポイント)の関係で却下されたという。

 

 

「今日は、来てくれてありがとう」

 

主催者の一人である平田が、集まったメンバーに笑顔で声をかける。

隣には、明るい笑顔で調整役を担う櫛田。

他の参加者は、軽井沢や佐藤、博士というあだ名の男子他数人。

軽井沢は確か、最近平田と付き合い始めたという噂がある。

佐藤はおそらく軽井沢とセットで来た、といった感じだ。

 

今回は平田のほうが影響が大きいが、今後は櫛田のほうが影響するだろう。

 

現時点ですでに櫛田はクラスの中心。

池や山内も、「櫛田に誘われたから」という理由なら参加する可能性がある。

……まあ、今日の誘いは断られたらしいが。

 

俺はその近くの椅子に腰かけていた。

理由は二つ。

一つは、平田の勉強会の参加者であること。

必要なら教師役として参加してほしいといわれている。

 

もう一つは、例の問題集の使用感を実際に確かめることだ。

 

 

 

「……ねえ、これって」

 

 

 

そんなつぶやきがあったのは、始まってそう間もない時間だった。

 

「何これ……問題だけじゃなくて、どう解けばいいかまで書いてあるじゃん」

「ほんとだ。あたしにも見せて~」

 

と佐藤が割り込んでくる。

反応は悪くない。

何より『ちゃんと解き方や考え方の参考になっているか』が重要だ。 

 

「九条君が要点をまとめてくれたんだ。ありがたく使わせてもらおう」

 

その言葉を皮切りに、視線が一斉にこちらに集まる。

……だが、気にしないふりを貫いた。

そもそも賞賛欲しさでやったわけじゃない。

 

 

「解説の意味がわからなかったら、質問してくれれば答える」

 

そう言って、俺は残りの問題作成、兼自主学習を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よくできてるな」

 

そんな声がかかったのは、勉強会時間も終盤に差し掛かったあたり。

 

「綾小路か」

「少し、見せてもらっていいか?」

 

何も問題はない。

そのままノートを渡す。

綾小路はそれをしばらく流し読んで一言。

 

「これ、少し借りてもいいか?」

 

とだけ聞いてきた。  

 

 

 

綾小路が話してくれた内容は、要するにこういうことだった。

 

今日の昼、綾小路と堀北は、池、山内、須藤の下位グループ(この言い方は好みではない)三人に集中して勉強会を開こうとしたらしい。

 

だが今回、池と山内は拒否。須藤には掴みかかられたという。

だが、その程度で勉強会を中止する気もないらしい。

 

「後で櫛田に頼んで、池と山内を誘ってもらう。

須藤のほうは何とか説得してみるつもりだ。

 

問題は、あいつらの理解力だ。この問題集なら、解法の考え方まで載っている。あいつらの勉強会の際の教材にしたい」

 

なるほど。

理路整然。一切の矛盾がない。

まあ、そもそも『貸さない』なんて選択肢はない。

 

 

「ああ、遠慮なく持って行ってくれ」

「すまない」

 

そういって、綾小路は問題集一冊を持って行った。

 

綾小路。

現状では、彼が何を考えているかまではわからない。

ただ、必要なものを見極め、手に取るという合理的な行動原理は一貫している。

 

その程度の印象が、少しだけ残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後の昼休み。

 

 

「――九条凪斗、だな?

 

 

 

 

 

 

 

放課後、生徒会室へ来い」

 

 

俺は、生徒会長直々に呼び出しを受けた。

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