ソードフレークに有る物二つ、のどかな昼下がりと血生臭い酒宴。いつからか、そんな風説乱れ飛ぶ大通り。アリスト、クァン、そしてロックは町へ買い出しに来ていた。
「ココ、普段はとても静かな町アルね、ロック」
「そうだね」
「悪いコトばかりじゃないアルね。ほら」
道の向こう側から、すみれ色の服を着た娘が走ってくる。
「ベティー。アリストの彼女、ネ。キャリー一家のストレイトも、あの娘スキ。しょっちゅうそれでモメてるね」
「モメる原因の多い連中だ」
黒衣の青年は苦笑した。血の繋がっているが故に、越えようの無い相性の悪さがキャリー家にはあるのだろう。アリストといちゃつくベティーを見て、ふとロックは思い出した。赤毛の女。今の場所にいる自分を作り出したともいえる、心中の女を。視線を思いのまま彷徨わせていく内に、一瞬、目の中に何かが蘇った。
蘇ったのではない。見えた。
「!!」
ロックは、手に持っていた荷物を捨てた。そのまま、連れの二人が何事か問うのを無視し、突っ走った。カリーナの筈も無い。確認すらしないのに、身体だけは動いた。赤毛の女は一足早く、店の陰にある裏通りへ入ってしまった。その後を追い、角を曲がった時である。
姿欠片も見当たらず、だった。誕生日のケーキに燃え上がった火が、突然他人の吐息で吹き消された様な気持ちで、ロックは立ちすくんだ。目に軽く手を当てて、彼は少し落ち着こうとした。自分でも、愚かな行動だと自覚していた。二年前に届かない所へ消えた相手が、都合良く現れるわけもない。
「あら坊や。どうしたの」
左脇で煙を上げている鍛冶屋の軒先から、ジュディアが声をかけた。現実世界に戻り、ロックは少し慌てる。
「何でもないよ。うん、何でもない」
くるりと身を翻し去っていく。ジュディアは少し顎に手を当てて考え込んでいたが、ふと、左の方に視線をやった。赤い髪、灰色のマントが目に入った様な気がしたが、すぐに消えてしまった。
酒と陽気な事が大好き、なリアム爺さんは、無論新顔入場の祝いをせずにはおられない。堂々と悪酔い出来るから。クラークは酒場を畳んで行方をくらましてしまったが、リアムの馴染みの店はもう一軒有る。
「愛してるよぉベティィィ!!」}
「やめてよ!!」
「おぉぉれぇぇぇはぁぁぁ、かぁぁぁうううぼぉぉぉいぃぃぃ!!」
「是全世界的怪酔元¢@★◎●¢£」
「おらぁ、バーッツゥゥ!! もう一本だぁ! 客待たせんじゃねぇぞぉ」
「うるせぇぞ酔っ払い!! 貸し切りじゃねぇ!!」
普通、ここまで馬鹿騒がしい客は嫌われるものだが、陰気さが紛れるのか、ソードフレークの人達は妙にロクデナシ共を甘やかす。ベティーの様な年頃の娘など、まだまだ女が保守的なこの時代、夜の酒宴に参加するものでもないが、遠慮の色を見せつつもアローの酌をし、自分もして貰っている。ロックは飲むふりをしながら、さりげなく隣の杯に移したり、杯そのものを取り替えたりと忙しい。一、二杯で真っ赤になってしまっている。
「アローは何で来ないんだ?」
彼が隣のチャッピーに尋ねると、彼はつまみの干し肉を噛みながら教えた。
「ひどい下戸だし、飲むと泣いて暴れるんだ。本人が恥じて来たがらない。可哀想だ」
「そうか」
「ほら、お前も奴のために飲め」
少し仲間のインディオに同情した彼は、誤魔化さずに杯を干した。
「あら、楽しそうね。私も混ぜて」
いつの間に酒場へ入ってきたのか、ジュディアが一同の後ろに立っていた。
「おうおう、ジュディア!! ヨーロッパ最強の伊達男と呼ばれたわしを、こんなはした酒で負かせるかぁ? バッツ、もう一本だぁ!!」
イギリス娘は、リアム牧場の面子と仲がよいらしい。
「あら、あたしイギリス女だけど、リアム爺様の御武名なんて、とんとお耳には♪」
「爺様ではない、せめておじちゃんと呼べ」
「うふ、可愛いお年寄り♪」
アローが寂しいだろう、とクァンが早々に帰り、チャッピーは酔いつぶれて大イビキ。ベティーとアリストは飽きずに談笑。リアムとジュディアは延々飲み比べをしていた。他の客も帰り、ロックだけが静かにピアノへ向かっていた。故郷の世界にいた頃から、特に音楽は得意でなかったが、アメリカを旅している内に自然と身に付いた習慣である。後の世でブルースやジャズと呼ばれる曲調に似ていた。彼独自の曲であり、一度ならず作曲家達と譜面を作ろうとした。だが、常にアクシデントが付きまとい、一度も実現していない。下手をすれば、「呪いの曲」などとジンクスをが湧き起こりそうだった。
凶事が歩み寄ってきた。酒場の自在扉が開き、誰かが入り口でつまずいた。バッツがカウンター越しに覗き込み、素っ頓狂な声を上げた。
「おっ!? クァン!!」
クァンは顔の横から血を流していた。ロックはピアノから離れ、駆け寄る。左耳が無くなっていた。抱き起こした時、胸と腹に一発ずつ、肩にも命中しているのが解った。手が血で真っ赤になる。すぐさま宴会の連中も駆け寄ってきた。
「医者だ!!」
「遅、アルね」
クァンは悟りきって放言した。既に呼吸も苦しそうだ。
「き、キ‥‥ウゥン」
分かり易いキーワードを残し、中国人は息絶えた。
「ちっくしょう、医者より石屋が必要になっちまった」
両膝を突いてアリストは悔しがった。リアムは低く祈りの言葉を唱えだし、ベティーは気持ち悪がって吐き散らし、ジュディアはその介抱をしていた。
日が地平線の向こうから顔を出した時、リアムは二日酔いを押さえ込みながら馬車に飛び乗った。今度はアローも同行し、リアム牧場は総動員で出陣した。走りながら、全員が銃の点検をする。ロックもカバーを開いて弾倉を回しながら、アリストに言った。
「キャリーの所へ殴り込むのかい」
「まあな。ただいきなり殺し合いはパスだ。マーカスと交渉して、犯人を引き出させる」
「だったら保安官にも知らせないと」
「ここの保安官はクズだ。キャリーに買収されている。俺が殴られている時、誰も助けに来なかったろう」
「人徳の結果だと思ってた」
「ほざいてろ。頼りになるのは、自警団と連邦保安官」
「それと自分自身」
「そういう事。ああ、、頭にきやがるな、色々」
キャリー一家の住む家は、町の北西に構えられている。この付近は、裕福な階層の人々が住んでいたのだが、キャリー一家、その背後にいるスペイン人、ベラルータ・リ・ヘクターの一派が住み着いたため、殆どが逃げ出してしまった。ロック達がこの区域に現れると、あちこちのゴロツキ達が顔をしかめて逃げ出した。全員が銃を抜いていたからだ。
三階建ての堂々としたキャリー邸の前に立ち、リアムは拳銃の台尻にライフルと同じストックを着けた。ライフルは重く使いにくい、という事で取り付けた代物だ。銃が唸り、人影の無い部屋の窓が砕け散った。
間もなく、入り口からマーカス、ブルータス、エミリアス、ストレイト、部下達がぞろぞろと出てきた。更に、一人だけ、女がいる。
ロックの動きが一瞬止まった。まだ彼も若い。相手の強烈なフェロモン(?)にめまいすら覚えそうだった。格好は普通の婦人だが、服の上から十二分に漂う迫力、色気が香り、ウェーブのきつい金髪も、赤みがかった黄玉の瞳も、印象強烈だった。それだけに、ロックは軽い魔除けの言葉を唱えた位だ。不思議と心が落ち着いた(この呪文は、あくまで解呪や抵抗に使う物。異性の誘惑には何ら効果は無い)。
「おい大丈夫か? どいつもこいつも、あの女にはメロメロ」
「え?」
「三番目のマーカス・キャリーの妻にして、我が義理の母上エイドリアンだ」
憎々しげなアリストの目から、彼と家族の不和は義母に原因があると誰にでも解った。
「よし、周囲を固めろ」
正面にはロックが立ち、アリストとチャッピーは両脇と背後を警戒。リアムの格好も、サマになっている。
「昨日は、家のクァンが世話になったな」
マーカスも負けてはいない。帽子もかぶらず、腰のベルトに銃を挟んでいるだけだ。
「とんだご挨拶だな。棺桶に片足突っ込んでいる身でよくやるぜ!」
「何を、年寄りはお互い様だ!」
「そうかよ老いぼれ!!」
「貴様程、はらわたを腐らせとらんわい!!」
「肝臓はわしの方が健康じゃあ!!」
飛んできた一本の矢が、リアムの馬車に突き刺さった。全員の視線が一転、射手に集まる。ハンチング姿が一つ、ポコポコと老馬に乗ってやってきた。手に古いクロスボウを持っている。
「男って馬鹿ね。年甲斐の無い生き物だわ」
ジュディアはもう一度弓を引き、矢を装填した。
「キャリー一家の皆さん。私は貴方達の身内に借りがあってね。その件でも、少々リアムさんに活躍して欲しいの」
「こっちは証人一人だ。ツーペア成立だな」
クロスボウを無造作に構えつつ、ジュディアも馬車の守りに加わった。彼女もまた、視線をエイドリアンへ釘付けにしたが、それは僅かの間であり、冷たい眼差しだった。数秒、無言の睨み合いが続いた。マーカスは静かに銃を引き抜くと、手下の二人を突然撃った。三発ずつ、死体が痙攣するまで撃って喚いた。
「ケジメは付けさせて貰ったぜ。全て終わりだ」
彼はそのまま、家に引っ込んでしまった。子分達、子供らも、皆不満げな顔で引き上げる。唯一、エイドリアンだけがゴミの様に死体を軽くつま先で突き、消えた。殺された男は、北の崖の生き残り、それと早撃ちのマックであった。
「このロクデナシ共がぁぁ!! 俺に黙って何をしでかしやがった!?」
マーカスは家に入るなり、花瓶やテーブルをひっくり返して暴れ出した。さっさと自室に引っ込んでしまったエイドリアンを除き、誰もが怒りを押さえるか、震え上がっていた。
「俺は、英国女を黙らせろとは言った。だがな、リアムを刺激すんなとは言った筈だぞ。なんだ、お前ら耳も脳もちゃんと動いてねぇのか。ぶち割って中身を見てやろうか」
マーカスは元々怒りっぽい。何かにつけ怒鳴り、銃を撃ち、物を破壊する。二番目の妻が死に、アリストと仲違いして、エイドリアンを迎えてからはより一層凶暴になった。父の激しさを認め、やり方にも慣れきっていたブルータスだったが、さすがに今度は反抗心が芽生えた。
「親父。俺が命令したわけじゃねぇけどよ。リアムやアリスト如きに何の遠慮がいるってんだ。ネズミをいつまでチョコチョコさせてんだよ」
「黙っとれ」
「数で俺達は上なんだぞ。保安官も付いてる。ヘクターの旦那だっているじゃねぇか。連邦保安官も敵になるもんか」
「そうだ、父ちゃん臆病はいけねぇ。みんな暴れられないから、段々気分が滅入ってんだぜぇ」
巨漢のエミリアスも、上手く回らない舌で主張した。手下を束ねているビムも同調する。
「旦那。ここんとこまるっきり若い衆が集まらないんですぜ。家の評判が大して高く無いせいです。金もいい加減ヤバいんじゃないですか」
マーカスは血走った目で一同を睨み付けると、二階へ上がって行ってしまった。エイドリアンの部屋がある所だ。ブルータスは唾を吐き捨てた。
「情けない親父だ。俺達だけでやるか!!」
「襲撃は深夜にしましょう」
「よっし。馬と武器を用意させようぜ」
一人だけ、返事をしないで、手元のダートをいじっている男がいた。
「ストレイト。お前も来るんたろうな」
末弟は、鋭い刃先にギリギリまで指を近づけ、過敏に引き離す、という事を繰り返している。
「ストレイト!!」
指がダートに刺さり、哀れな泣き声を上げる。
「ひぇぇぇ!! 奴らはま、まだ力を残してるんじゃないかな。ぼ、僕が死んだらベティーは」
「この腰抜けの出来損ないがぁぁ!」
ブルータスはライフルをビムの手から取り上げ、乱射した。ストレイトは泣きながら二階へ走り去っていく。
マーカス達への復讐を成し遂げられなかったリアム達は、後日の再起を誓い帰宅。クァンのために新たな酒宴(!)を始め、泥酔して就寝した。神様は、いつも被害者や弱者(誤解だろうか?)の味方では無い。この日は、ブルータスの血気と決断を支持した。
夜。町は物騒な雰囲気に脅えた。ブルータス以下、キャリー一家五名が松明を輝かせ、リアム牧場を襲撃したのだ。夜に赤い炎が鮮やかに舞った。何本もの松明が次々と点火され、厩舎、物置、便所、次々と燃えていく。誰かが入り口に、慌てて姿を現した。すかさず狙い撃ちにされる。チャッピーだった。空きっぱなしになったドアの近くに、四つの人影が現れた。緊急時だったため、寝間着のままの者もいる。一人を除いて。
「荷物を頼む」
それだけを言い残し、ロックはひらりと闇夜に躍り出た。すかさず、狙撃手達の容赦ない射撃が集中する。黒衣の青年は前のめりに倒れた。
「何だ。ただの馬鹿か」
拍子抜けした様に、ブルータスは独語した。一番手強い男は倒してしまった。後は、火と協力して掃討するだけだった。
彼等が一度でも振り向かなかった事を、誰も責められないだろう。この世界に、その技を知る者は数少ない。系統立てて、となれば尚更だ。一本だけぽつんと立っている広葉樹の影。その一部が盛り上がり、人の形になった。顔色や服の色が戻り、青年ロックとなったのである。異世界でも「闇」の者のみが使える、影から影へ移動する術である。それに、マントを使用した変わり身の術は、武術を応用した物。彼はただのガンファイターではない。「魔」が生きる故郷の世界で鍛え、試練をくぐり抜けた魔戦士だった。
唯一、薄青い下のシャツが星と炎の光に映える。腰の二丁を引き抜き、くるりと回転させると突進を開始した。背中には長剣が背負われている。背後から飛んできた弾丸の嵐に反応したのは、むしろ馬だった。混乱した馬は、乗り手よりも自分の身を優先させようと暴れる。ビムは三発背中に銃弾を浴び即死した。タウンズも頭部を撃ち抜かれた。エパはどこかへ走っていく馬に身体を引きずられて行った(西部で最も多い死亡率を記録したのは、馬のあぶみに引っかかって引きずられる事だった)。弾が切れた銃を捨て、ロックは鞘ごと剣を外した。馬から強引に降り、近くの杭を引き抜いたエミリアスの足を狙った。スネを斬りつけ、相手に付け入り喉を切り裂く。半ば首を落とされたエミリアスが倒れる後ろから、ブルータスが怒りのライフルを撃とうとするのがロックには見えた。剣を変わり身に、大型ナイフを投げつけようとした時。相手の首筋に、投げナイフが突き刺さった。戦況を見ていたアローが駆け付けたのだ。ブルータスは倒れる最後、夜空に無念の弾丸を高く撃ち上げた。
リアム牧場にブルータス達が到着した頃。キャリー邸にも訪問者がいた。
その人物は、夜間建物の裏側から、二階までよじ登り侵入した。頭にはハンチング帽ではなく、バンダナ風に巻いた黒布。服も身体にフィットしつつ、肌を露出させない様にきっちり覆っている。靴は黒ブーツだった。足音一つ立てずに二階を探索して回る影。一階へと三階への階段がある、階の端へ来た時だった。階下から争う声が聞こえる。
影は、運良く引っかけの外れているドアから、中の様子を見た。
「お前と結婚したのは、俺を裏切らないと信じたからだ。俺の周りには、どうしてこうも裏切り者や無能しか集まらねぇんだ」
「貴方の仰る意味が解らないわ」
怒っているのはマーカス。全くそれに付き合う様子すら見せない、エイドリアン。影の視線が殺気を帯びた。
「黙れ売女が! 俺は見たぞ。最近、調子が悪いとベッドを別にするが、お前は夜中、三階の物置まで忍んでいくだろう。そこでお前は!」
「貴方は勘違いをしているわ。私は高い所の夜風が好きなのよ」
「そこでお前は、あいつと犬みてぇに交わってやがった!! 犬だお前は。俺に見られてるの知ってて、笑いながら、よりによって、あいつと!!」
エイドリアンの目が細くなった。彼女の服の左肩が、突然引き裂けた。めくれた服の下から見える蠱惑的な乳房よりも、その上に新しく生えた、甲殻類や蜘蛛の様な「腕」はひどく印象的だった。マーカスが失禁しながら獣の様に絶叫した。彼の胸を、新しい腕に二本だけ付いている爪が貫いたのだ。
「あら良かったわね。貴方も犬みたいに悶えてるじゃない」
「ストレィトオォォ!!」
血の泡を吹きながら、マーカスは最後の力で息子を呼んだ。影は用心したが、幸い、末弟は部屋に有ったもう一つのドアから現れた。脅えながら、必死にダートを投げつける。数本は命中したが、肌に突き刺さって何の反応も無い。
エイドリアンは軽く息を吹き出す。その息は中で黒色に変わり、何かを形作っていく。やがて出来た即製のコウモリを、ストレイトに投げつけた。逃げようとした彼の喉元に、それは実体となって食いついた。覗き見していた影も、思わず胃のぶり返しを飲み込んだ。
コウモリは消え、喉元を散々食いちぎられた死体が残った。影は落ち着いて息を吸い込むと、その手にクロスボウを用意した。矢を装填した時である。
突然、鈍い音が響いた。
「あら、ヘクター。それに……まだいたの?」
整えられた口髭、冷たい光の瞳、印象的なかぎ鼻。ベラルータ・リ・ヘクター。その背後に、顔の上半分だけを覆う白色の仮面の男が立っている。髪の毛は金髪だ。
「君は冷たいな。そのくせ、愛の熱さは砂漠にも勝る。そう、君は砂だ。どれだけ愛そうとも、どんどん吸い取って、最後には殺す」
「ふふふ。なら貴方は大雨ね。際限なく降り続いて、恵みの果てに溺れさせる」
「溺れそうになってる人魚は?」
倒れた後頭部を掴み、切なく気を失った顔を覗き込む。仮面男は、屈み込んでクロスボウを調べていた。
「魔力が込められた品だ。君も不意を突かれれば危険だったぞ。君の過去からの怨念が、姿を現したのではないか、ローゼアイン」
仮面は、女を別名で呼んだ。
「人前で顔を隠して生きる貴方に言われたくなくてよ、バックスタンド」
エイドリアンは、ゴミの様にマーカスの死体を蹴り飛ばした。ヘクターは、悪戯を窘める様に笑う。
「マーカスには使い道があったのに、短気を起こしたな」
「開拓地の男がどんな物かと思えば、セックスと暴力にしか興味の無いただのケダモノだったわ」
「まあ、これで町を出る区切りも付いたわけだ」
「そっちはいいかも知れないけど、私はまだリアム達と色々あるわよ」
バックスタンドは、仮面の下から見える口元を歪めた。
「味方は呼んである」
「頼りになるかしら? 黒装束の坊や、色々やりそうよ。私の趣味じゃないけど」
「………任せるんだな」
「ヘクターとは許し合った仲だけど、その腰巾着にはね。私は、私なりに口説かせて貰うわ」
続く