騒々しさが一段落を告げつつある、ソードフレーク。だが、止まらない風は新たな災厄を町に運ぶ。東に砂塵が巻き起こっていた。メキシコ風の大きな帽子をかぶった騎手がいた。何とポニーに乗っている。ラビリオバート・サンシュタットは小柄なため、その程度の馬で良かったのだが、いざ強盗などの災厄から逃げ出すには不都合と言えた。
ロックが旅立ち二年。ラビリィはこの時十六才。思春期真っ盛りだが、顔付きというか全体的な雰囲気というか、何となく幼さが抜けきらない。彼女には生まれつきそんな一面が有り、両親などは秘かに心配していたものである。ただ、当の本人はそれを自覚しており、自覚出来るという事は、普通に成長しているという事であろう。そもそも何故彼女がフロンティアを旅しているのか。理由を知りたかったのか、後方から、ポニーの何倍かのスピードで追いすがる者達がいた。
赤毛の女に逃げられた指名手配の女は、魔術による眠気を振り払おうとしていた。誰かに見られるのもお構いなく、散歩を決行したのだ。軽く欠伸をした時。その耳に銃声が聞こえた。覚悟していたにも関わらず、慌てて草むらに飛び込むジュディア。
(どこ!?)
慌てて周囲を警戒する彼女に、今度は馬蹄の音が聞こえる。
三人の強盗達は、何故か銃を使わない。相手が小柄なのを侮り、馬の接近だけで威圧しようとしていた。なぶり殺すつもりなのかも知れなかった。一頭の馬が、ポニーの前に出た。通せんぼのつもりだったろう。だが、ポニーの乗り手は三十センチ程の棒を取り出すと、勢いよく前方の相手に振った。鋭い音と共に棒が伸び、先端が馬の鼻っ柱を直撃する。不意を突かれた相手は、驚き棒立ちになった馬から落ちる。更に逃走スピードを早めた乗り手に、強盗達は本気になった。銃を抜いて、標的の後ろ姿を狙う。銃弾がポニーの足を撃ち抜き、馬の力が抜けた。乗り手は素早く地面に飛び降りたが、着地に失敗する。危機的状況で、風を切った矢が強盗を貫いた。次の一人には飛んできたナイフが突き立つ。近場で起こった事件である上に、自分の追跡では無い、と理解したジュディアが救援に駆け付けたのだ。最後の一人と相対し、ジュディアは手を尻の後ろに隠した。そのまま、気迫満点の目で相手を睨む。強盗は舌打ちした。銃か新たなナイフを隠していると思ったのだろう。そのまま逃げ出していった。若い英国女は、何も持っていない手を後ろから戻す。確かに、後ろのベルトにはナイフが差し込んであったが、対決形式でそれを投じて命中させる自信が無かった。先に投げた一本も、偶然必中の呪文を刻んでおいたために刺さったのである。ロンドンで修行していた時、こういう喧嘩式のハッタリも覚えていた。
新手が周囲にいないか確認し、ジュディアは地面に転がっている乗り手に駆け寄った。道化師よろしく帽子が前にずれ、胸の辺りまで隠れてしまっている。男物のジーンズを無理に足の長さに合わせて断ち切っていた。
「しっかり。ほら」
抱き起こされた人物の顔を見て眉を歪める。汚れにまみれているが、女だった。
「うーん‥‥。きゃあっ!!」
ジュディアを強盗と勘違いしたのか、その娘は逃げだそうとした。
「馬は死んじゃってるわよ。町まで走るつもり?」
力無く息絶えている愛馬を見て、娘の足は急停止した。その後ろへ、ジュディアが落ちていた杖を持って近寄る。
「落とし物よ」
まだ震えている相手に杖を渡し、軽く手を広げてやる。
「もう誰も虐めないから。私は味方よ」
あちこちを二、三度見回し、警戒する必要が無い、と判断したのか、ジュディアから杖を受け取り、震えつつ号泣した。元気一杯、とは表現がズレているも、また良しである。
「よっぽど怖かったのね。よしよし」
少し苦笑しながら、軽く背中を叩いてやる。
(他人の事を構ってやれる余裕が私にあるのかしら)
そう思いながら。
「この辺を一人旅なんて無茶よ。ソードフレークに用でもあるの?」
娘は涙と汚れで顔をぐちゃぐちゃにしながら、体を離した。何か重要な使命を思い出したらしく、遙か向こうを眺めた。
「そう。ソードフレークに近いの?」
「そっちは方角が逆よ。馬もポニーだったし、旅は初めてなの」
「ううん。十五は町を回ったよ。馬は、あれしか売ってくれなかったの」
娘はポニーから荷物を取りに走っていった。
(不安ね。送ってあげたいけど)
前日に脱獄したばかりに人間が、易々と町に戻るべきではない、とは当然の判断である。
(私はあの時、一度死んだんだから)
心の中で、静かに呟いた。
「お姉さん、ボク、ラビリオバート・サンシュタット」
戻ってきた娘が、そう自己紹介した。スカート姿でも無いが、両手を軽くそれをつまむ様な位置にやり、片足を後ろに下げお辞儀をする。先程まで大泣きだったが、今はカラリと明るい。汚れをぬぐった下の顔は、美人と言えずとも愛らしい。耳元は短く、後ろだけを心持ち長めにした髪は茶混じりの金、瞳はエメラルドだった。
「聞かない名前ね。ヨーロッパから来たの?」
「うーん。とっても遠いとこ、から」
「そうなの」
「お姉さん」
「ジュディアって呼んで」
「じゃあ、ジュディ。この先の町で黒いマントの男の人、見た事ある? 聞いた事でもいーよ」
「ひょっとして、ちょっと暗めの顔をした男の子?」
「もう子供じゃない筈だよ」
「うふふ、そういう意味じゃないのよ。一人心当たりがあるから、連れてってあげる」
「アリガト!」
リアム牧場、だった荒れ地に、貧弱な掘っ建て小屋が出来ていた。雨はしのげそうだが、風は吹き抜けそのまま。柱と屋根しか無い。牛や馬の死肉を肉屋に売りつけ、何とか資金は稼いだが、家の再建には時間がかかりそうだった。牧童も二人いなくなり、寂しさだけが増していく。アリストは帰ってきてから、リアムの酒を奪い取り、一本丸飲みした挙げ句に寝てしまった。アローはただナイフを研いでいるだけ。リアムは残りの現金と酒瓶を数え、頭を悩ませていた。外で廃材を掻き集めているロックが、牧場へやってくる孤影を見つけた。両手をだらりと下げながら、彼は相手を迎え入れる。
「元気そうじゃない、坊や」
相手がジュディアと知り、ロックは複雑な表情をした。一応、彼女は脱獄犯だからだ。しかし、無実だという考えもある。
「私はいいけど、ちょっと会って欲しい人がいるのよ」
彼女より先に、ぴょんと背後から人影が飛び出した。猛ダッシュして、黒衣の青年に上半身から飛びついた。ジャンピング・ショルダータックルの姿勢だ。
「わわっ!!」
不意を突かれ、ロックは後ろへひっくり返った。地面からの鈍い音の後に、二本の足が天を蹴る。退屈しのぎに様子を観察していたリアムが、アローに合図した。ナイフを構え、彼が飛び出す。眉を上げて光景を見つめていたジュディアは、男達に挨拶した。
「どうも。脱獄犯が挨拶に来たわよ」
「騒ぎは勘弁してほしいものだ。今のわしらは、ギリシャ人も腰を抜かして痙攣を起こし泡を吹く悲劇のまっだたなかにいる。宿も貸せん」
「でも、あんな騒ぎに目くじら立ててもね」
彼女が視線で示した先には、娘に乗っかられた青年の姿が見えた。
「アハハハハハ!!!」
「ラビリィ。どいてくれ。重いよ」
「もう!! やな事言わないで!!」
胸をドンと突かれ、苦笑いの青年。相手をようやく退けると、頭に手を当てながら起き上がる。
「どうしてここにいるんだ?」
「ボク、増援に志願したんだ。ロックお兄ちゃんの役に立ちたくて」
彼は怪訝そうな顔をしたが、その場では何も言わず、仲間に紹介するため立ち上がった。
「ラビリィはロックの従姉妹なのか」
「うん。お兄ちゃんがあっちこっちで有名になっちゃったから、様子を見るためのお使い」
「しかし女の子に無茶な旅をさせる親だな」
「お父さんもお母さんも厳しいんだ。こんな事位出来なくちゃ、いつまでも独り立ち出来ないって」
ロックはある事無い事まくしたてるラビリィに、内心舌を巻いていた。従姉妹というのは完全な嘘だが、彼女の両親は、政治にまで関わる貴族だけに、身内には厳しかった。ラビリィに愛情を抱いていない、とまで言われていた。「闇」属性を持つ友人の存在を知った時も、激しく娘を叱責していた。ラビリィ自身も、その頑固さをどこか引き継いでいる。
「まあ、大変じゃったろう。無事に着いて良かったな」
リアムも、さすがに酒は薦めなかった。妙に機嫌良く、笑みを浮かべてラビリィと話している。アローは黙りを決め込み、アリストはまだイビキをかいている。
「ロクデナシが、いつまでふてくされておる」
リアムは手元の廃材を掴み、ラビリィの頭越しに投げた。見事命中し、飛び起きた青年は娘の肩越しに怒鳴った。
「誰だ、俺の傷心をなぶる奴は」
漂った臭いに、娘が顔をしかめた。
「酒臭ぁ!」
「当たり前だ小僧。傷心の酒は苦く、香り高いものだ」
ラビリィの耳がぴくりと動き、アリストの首を脇の下で素早く締め上げた。
「誰が小僧だよっ!!」
「いだ、やめ、やめろ。やっぱ男だ。女がこんな事するわけねぇもの」
「お前だって軟弱だぁ!」
「ぐぐっ、胸も無ぇ」
「言ったなぁ!!」
皆が笑う中、抱えられた青年の頭に拳骨が飛ぶ。
「男って、馬鹿ばっかりね」
誰かが、しらっと呟いた。
仮初めの「従兄弟」は掘っ建て小屋の外で、相変わらず廃材を探していた。かき分けていく途中、溶けたガラスの瓶を見つけた。ラビリィは、小さい頃透明感のある物が好きだった。彼女のために、旅先で天然のクリスタルを取ってきた事がある。それを年上の子に割られて、ロックは初めてラビリィが大泣きする姿を見た。
(あの後は大騒ぎだったな)
親友のバルハーンを連れて、年上グループ相手に大立ち回りを演じた。奇襲、各個撃破、ゲリラ戦法。力、数、共に上の相手に勝利したのだ。懐かしさを噛みしめている彼の隣に、ジュディアがしゃがみ込んだ。
「いい娘ね。だらしない男達の顔が、パーッと明るくなったわ」
「ああ。そばにいるのが誇らしくなるね」
「あの娘、好きな人がいるみたいね」
「?」
「でも、女って鈍い男にいつまでも構ってられないのよ?」
「何を言ってるんだ? ラビリィから何を聞いた?」
クスっとジュディアは笑った。
「馬鹿」
二人の背中に、アローが声をかけた。
「おい。町へ行くぞ」
「何で?」
「お前の従姉妹の宿を探すんだと。リアムが言い出した」
結局ラビリィを保護する目的で、全員(ジュディアは服装を変え、顔をスカーフで隠していた)が同じ宿に乗り込んだ。部屋の数の問題で、一人部屋に二人入る事になった。喧嘩の成り行きからロックはリアムと同部屋になった。床にどっちが寝るか、と意地っ張りな譲り合いが続いている内、ノックが聞こえた。返事も聞かずにドアが開く。
「ロック、ちょっと話がある」
アローが部屋に入ってきた。日頃から真面目一徹の男だが、この時は増して表情が鋭い。
「わしゃ、バッツと話してくる」
老人が気を利かして出ていくと、アローは壁にもたれ掛かった。
「今夜、ヘクターの所へ忍び込む」
「連れて行ってほしいが、多分無理なんだろうな」
「そうだ。お前はその事を報告するだけさ」
「正直、君の手助けが欲しい。屋敷の内情には、君の方が詳しい筈だ」
「断る」
「今はいち早くあれを壊すか、封じるかしなくちゃいけないんだ。君は使命そのものの重大性を無視するつもりか」
「ふん、感情に流される戦士如きが何を言う」
歯を食いしばり、ロックは立ち上がった。だが、思い直した様に座り直し、頭を抱える。そんな相手をやや軽蔑して見ていたアローだが、視線を逸らした。
「言えよ。あの女の子の事か」
体の中から、貴重な言葉を絞り出す様にロックは述べだした。
「ラビリィは増援に志願し、試練をくぐり抜けてこちらへ来た、と言った。多分嘘だ。もし向こう側の人々が、僕の失敗を予想して新たな増援を送ったとしよう。それは僕らを越える力を持った、強力な戦士で無くてはならない。魔力はともかく、ラビリィには武力が無い。彼女の荷物を見る限り、武器らしい物は魔除けの自在杖だけだった。相手をひどく傷つけなくていい武器を選んだんだ。仮面と戦う使命の者に、そんな武器を持たせる筈がない」
「リアムに言った嘘が、半分本当だったのか」
「あの娘を守りながら、仮面破壊の任務を続行は出来ない。勝負しなくちゃいけないんだよ」
「ふん。言ったからには、必ず来いよ」
「敵は何人だ」
「部下の数は把握できない。出入りが激しくてな。しかし、ヘクターの周りにいるのは、一人しかいない。後ろに立つ者、と呼ばれている仮面を着けた男だ」
星が不気味なまでに綺麗な夜だった。二人の男は、夜に紛れて出陣した。馬は使わず、走りだった。ヘクター邸は、かつてのキャリー邸から更に奥、離れた所に建っている。周囲を土壁で囲み、門も厳重な鉄ごしらえだった。それでも、二人の影の者にとって潜入は極めて容易だった。見張りが全くいないのも幸いであった。
彼等は裏の勝手口から忍び込んだ。料理番もメイドも、既に居ない。アローは、頭の中に地図を暗記していた。彼が買収や潜入で作り上げた物だった。
(仮面の有る可能性の部屋は、いずれもヘクターに関わる場所だ)
アローは確信していた。特に、ヘクターと一部の者以外出入りを禁じられている部屋が一階にあるという。コレクションルームとの噂だった。二人は、足音一つ立てずに進んでいく。丈夫だが軋みやすい木で作られた昔の建物。静かに歩くのは、考える以上の修練が必要である。
上には上がいる、という格言通り、上から声が響いた。二人が長い廊下の中途に差し掛かった時だ。
「ヘクター様の言う通りであったわ」
「主無き場所にも盗賊有りとな」
「わしらの退屈な時も癒される」
「闇夜の技とて輝くわい」
ロックとアローは背中合わせに立った。天井に張り付いていた影が床に降り立ち、静かに立ち上がる。全く同じ顔と体型をした双子で、髭のそり込みまで同じだった。ターバンを頭に巻き、それだけが、窓からの月明かりに映える。二人とも刃渡り六十センチ程の曲刀を取り出した。
「東の国の戦士にて、我チャンドラ、弟はアーキと申す」
「いざ勝負!」
アローは格闘ナイフで斬りかかったが、ロックはいきなり銃を抜いた。右の一丁だけだったが、チャンドラは剣で弾丸を逸らした。
「俺はインドで弓矢、獣を相手に修練を積んだのだ。今は銃弾とて防げる」
「かっこいいな」
容赦なく左の銃も抜かれ、二発が同時に襲った。常識以上のスピードでチャンドラはもう一本剣を取り出し、弾丸を防ぐ。乱射の嵐が続いたが、それも全て人間の及ばないスピードで動いた剣に弾かれていた。
十二発が切れた。同時に、チャンドラは斬りかかった。ロックも長剣を抜き応ずる。アローはもっと苦戦をしていた。アーキは一刀のみだったが、ナイフで対抗出来る相手でも無い。アローも常識外れな動きでかわしていたが、突然、アーキの口が膨らんだ。微かな光が飛び、アローの左目に痛みが走る。
ニヤリと笑うアーキ。彼は含み針を得意としていた。口の中に入れる物だけに毒は無いが、勝負の最中には大きい一撃だ。にわかに独眼となったアローは、ふと一計を案じた。図らずも相手の攻撃から、である。彼は静かに靴を脱ぎ、裸足となった。取り出した投げナイフを口にくわえる。後ろに飛び、間合いを取った。アーキが幻惑する様に剣を振り回し、右上段から斬りかかった。ナイフでそれを受け止めようとするアロー。両者の得物が合わさったが、アーキのそれは威力が落ちていた。
ナイフが肘に突き刺さっていた。アローの口にくわえられていた物だ。彼はそれを落とし、足の指で受け止め、投げたのだ。世界でも、足の指による手裏剣などの投擲、格闘は伝説として残っている。この異端のインディオ青年は、どこかでその技を習い覚えたのだ。焦ったアーキは一気に大上段から振りかぶった。アローは落ち着いて床に横倒しになり、今度は手でナイフを投げた。平常心を失った相手に防ぎの技は使えず、刃は片目を貫いた。飛びかかったアローは、すれ違いざま心臓を貫いた。
ロックもチャンドラの双剣に苦戦していた。が、遂に右の剣の胴払いを受けてしまった。斬りつけられた瞬間、彼の姿はマントを残して消えた。
「無駄だ!」
左の剣が逆手背後に突き出され、手応えが有った。
「弾丸を見切る男に通ずると思ったか」
振り向いた彼は、刺さっていた帽子を見、すぐ隣で薄く笑った相手を見た。長剣が咽喉に押し当てられ、容赦無く切り裂く。倒された双子戦士の死体を足下に、二人はしばらく休息しようと座り込んだ。その時、風を切る音が聞こえた。天井から、新たな影が音を立てて落ちる。
「三つ子だったみたいね」
クロスボウを構えたジュディアだった。
「宿の廊下で会ったリアムがね。貴方達が『お話』をしていると教えてくれたの」
「ふん、飲んでなくても酔っ払いだったとはな」
「私の標的は、ここに逃げ込んでいる筈のローゼアインことミセス・キャリーだけよ。事が成就するまで、同行させてもらうわ」
「お好きに」
コレクションルームを三人は探したが、仮面は全く見つからなかった。その後屋敷内も探索したが、三つ子の戦士達以外に人間はいなかった。
「引き払った後か」
「ふん。ならば追い続けるまで」
ジュディアはヘクターの寝室に行き、ベッドに短剣を突き立てた。そのまま呪文を唱えていくと、ベッドの上が不自然に波打つ。
「ヘクターの身体の燃えかすを集めて、追跡魔術を試みるわ」
彼女が短剣を投げると、それは空中でカラスに変化した。鳥は一声鳴いて、アローが開けた窓から出ていく。
朝が来た。
朝食の席。ラビリィは疲れていたのか、遅い。ジュディアが呼びに行った。ロックは、アリストとリアムに告げた。アローは無言で目を閉じている。
「何だ、改まっちゃって? 別れるって、俺達は仲間だけど義兄弟ってわけでもないだろ」
「それだけじゃなく、ラビリィのことを頼みたいんだ」
インディオは、若干見直した目でロックを見た。
「あんた達を信頼する。どうか頼む」
リアムは髭を撫でながら告げた。
「出会って間のないわしらだ。信頼も信用も愚の骨頂じゃ。ましてや、あの娘を預けるとはな」
「僕は色々な事を同時にやれる程、器用じゃないんだ。頼むよ」
物事を頼む時は、ただひたすら頼む。情の通じた相手なら尚更だった。
「良かろう」
「この頃シケた別れ話ばっかで嫌んなる。でも、平和が来るかもな」
馬を揃えたロックとアロー、そしてジュディアが加わった。ラビリィには、適当な言い訳で納得させてある、という。例のナイフを変化させ、空へ飛び立たせた。
「あの子が飛ぶ先へ行けばいいわ」
「ふん。方角からすると、レッグミートの町か」
「よし、行こう」
何故かロックは、ラビリィが初めて泣いた時の事をまた思い出していた。今度は、その声がやけに重苦しかった。
その頃、町を出ていたヘクター達の元へ、四人の奇怪な者達が合流していた。バックスタンドは、自らが手配した者達と説明する。背が高く、顔も長い男がラリー。背が低く、横太りなニコ。無口そうなボルト。石灰色の髪を持ち長衣を着た女、リリーザ。いずれも銃や武器の類は身に着けていない。
「友よ。頼りになりそうな者達だな」
ヘクターは皮肉で言ったのかどうか。彼は、予め選んでおいた傭兵達に合図した。八人の男達が襲いかかる。現在、ヘクターは十六人の部下を抱えていたが、その半数をわざわざ使ったわけである。ならず者達はそれぞれの銃を引き抜くと、四人に向けた。ラリーが他の三人をかばう様に仁王立ちとなる。銃が火蓋を切り、二十発近い弾丸が集中した。
銃声が止んだ後、ラリーは顔面にかざしていた両手を下げる。彼の衣服はボロボロだが、当人は傷一つ無い。突然、宙を四つの物体が飛んだ、それらはならず者達の中へ突っ込む。一つは、無口なボルト。彼の両手は翼となり、両足は鳥の物へ変化していた。コンドル並みの怪力で二人の人間を掴むと、突風を巻き起こしつつ大空へ舞い上がっていく。もう二つの物体は、蛇だった。回転しながら人間の喉元や足へ巻き付き、そのまま噛みつき、体内まで食い破っていく。最後の一つは。赤い色の縄に見えた。それに首を絞められた者は、馬から引きずり下ろされ、そのまま絶息する。弾丸を身に受けて平気なラリーも、今や群衆の真っ直中にいた。彼の手がメキメキと音を立てて膨らんでいき、親指とそれ以外の指が、ハサミと同じ形状へ変わる。突き、折り、叩き付け、散々暴れる彼だが、一発だけ、弾丸が顔をかすめた。その時、初めて彼は血を流したのである。
ならず者達が全滅した。無論、この光景は、他の配下には見せていない。ローゼアインが彼等を連れ、別の場所で待機している。顔を負傷したラリーを、リリーザが気遣った。彼女の足下には、先刻の蛇がにじり寄り、ローブの裾から何処かへ入り込んでいく。ボルトは鮮やかに降り立ち、人間に戻った。ニコはズルズルと赤い縄を戻している。よく見れば、彼の内蔵、即ち大腸だと解ったかも知れない。
バックスタンドは、微笑みつつ主人に尋ねた。
「如何かな」
ヘクターも満足そうだった。
「素晴らしい。処分した連中よりも価値はある」
続く?