陰キャだけどアイドルはじめてGBN〈惑星〉を救う話。   作:神宮寺Re ⑦

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※この話に主人公は登場しません。

都立星羅高等学校で模型部の顧問となった美濃 瀬那の過去編です。


第六章 -【何十光年と離れていても】-

 

──今から八年前。

 

北海道に生まれ育ったアタシは、なに不自由なく生活していた。

母親がガンプラを作り誌面に掲載するライターの仕事をしていたこともあり、家の中はプラモデルと塗料などによるシンナーの匂いでいつも溢れていた。

そんな中で生きてきたアタシがガンプラに興味を持ちはじめるのは必然的な出来事だった。

 

「……ガンプラやりたいのセナ?」

 

そのとき高校二年生だったアタシはなにか好きになれるものをいつも探していた。

目の前にただプラモデルがあったこと、それによってアタシの人生は変わりはじめることになる。

 

「女子なのにやっていいのかな?」

「べつに趣味のことに男も女も関係ないのよセナ」

「そ、そうなんだね……?」

 

母親の美濃 由衣夏(ミノウ・ユイカ)がそうアタシに背中を押してきた。

父親は出張先で浮気したことがバレたことによって、離婚している。

そのため、ひとり親であるユイカにとって育てられてきた。

 

……ガンプラの作り方は母さんに聞けばいいし、やってみようかな?

そう、一歩踏み出した瞬間からなにかが変わるのをアタシは高揚感でいっぱいになっていた。

 

◇◇◇

 

その日の夜。

母親が家事を済ますと家の二階にあるいつもの仕事部屋へと連れられる。

 

そこにはこれまでに誌面の掲載に向けて製作したであろう作品がショーケースにいくつも飾られていた。

作品を見ていくなかでひときわ際立つガンプラをアタシは見つける。

 

「……これってなに?」

「それ?えっとね、母さんが憧れの人に近づきたくて作ったガンプラよ」

 

ユイカの製作したガンプラはMG(マスターグレードモデル)1/100スケールガンダムデュナメスだ。

カラーリングはロールアウトカラーである白色とグレーに塗装されていた。

 

GN-002 ガンダムデュナメス。

機動戦士ガンダム00 1stシーズンに登場。

ガンダムマイスターであるロックオン・ストラトスによって武力介入に使用された濃緑色に彩られた狙撃型(スナイパー)のガンダムである。

戦いの中でロックオンはテロによって家族を失い、その復讐のためにソレスタルビーイングに参加。

 

戦いの最終決戦で復讐の仇のガンダムスローネツヴァイを操るアリー・アル・サーショスと邂逅する。

激戦ののちにサーシェスを討ったロックオンは地球に指先をかざして「……なぁおまえら、こんな世界で満足か?オレは嫌だね」と遺言を残して宇宙に散った。

 

「どんな人だったの?」

 

母さんが憧れた人のことをアタシは気になったので聞いてみることにした。

 

「その人は男の人でね〜、なにかと喧嘩ぱやくて不器用な人だったんだけど私の初恋だったわね……娘の前で言うのもなんだけど」

「それでそれで?」

 

恋バナと聞いてアタシは居ても立っても居られず、詳しく知りたかった。

 

「もちろん初恋なんだから上手くいかないと思ったよ?」

 

初恋は実らないってよく聞いたことはある。

けど、そんなのはあくまで迷信みたいなものだと思ってた。

 

「……たよ?どういうこと?」

「なんか告白もしないうちに付き合うことになっちゃって」

「えぇ〜!なにそれ!奇跡みたいじゃん!」

 

まるで神様からのギフトのように初恋が実ったことをアタシはなんか嬉しくなった。

 

「……なんだけど、それをきっかけに良くないことが起こってね」

「あぁ〜なんとなぁ〜く、わかるようなわからないような……気がする」

 

母親の声のトーンが急激に下がり、神妙な面持ちで落ち着いて話しだした。

 

「その人のことを先に好きだったクラスメイトがいてね?私に敵意を向けてきたわけなのよね……まぁよくあることだけれど」

「……そうはなるよね、恋敵ができたなら」

 

恋愛のいざこざって感じがする。

で、そのあとは?

 

「傷害事件にまで発展しちゃったんだけど……そのあと警察が間に入ってくれて解決はしたの」

 

なんか急に重い話になってきちゃったけど……

 

「怪我はしたけど、お互いに謝ってなんとか事は収まったって感じ」

「よかったねちゃんと謝罪してくれて」

「そりゃ当たり前でしょう?相手を傷つけたのに謝りもしないなんて人として最低の行為よ?謝ろうとしないそんなやつとはお友達になるべきなんかじゃないわ」

 

ところで、その初恋のひとって誰なの母さん?

 

「んで初恋の人とはどうなったの?」

「別れた父さんよ?それがどうかしたの?」

「……ちょっとまって!?だって浮気されたから別れたって言ってたよね?」

「あ〜小さい頃はあなたにそう言ってたね」

「別の理由があるってこと?」

「あの人ね〜嘘が下手でね〜すぐ顔に出ちゃうくせに、私のことを悪者にしたくないのか浮気したから別れようなんて言い出すもんだから……なんで?って聞いたの」

「で、どうだったの?」

「夢ができたから一緒にいるわけにはいかない──だって」

 

夢……?父さんが?

寡黙でまともにアタシと話そうとしなかったのに?

 

「トオルさんね、プラモデルの塗料開発に関わりたいって言ってたかな?やりたいことが見つかったからって」

「……それでいまどこにいるの?」

「たしか静岡県だった気がするかな」

「じゃあなんで会いにいかないの?本当に浮気されたワケじゃないんでしょ?」

「会ってどうしたらいいかわかんないのよ、なんで私を置いていっちゃったのかそれだけ聞きそびれて」

「追いかければよかったんじゃない?」

「そうは言うけどねセナ?あなたがまだ小学生になる前の話なのよ?行きたいのは当然だけどいろいろと大変だったでしょう?仕事しながら育てるのに精一杯なのに」

 

ひとり親ってこともあって家事と育児と仕事の掛け持ちで大変だってことはなんとなく感じてはいたけど……

 

「それはそうだけどさ?初恋の人で結婚までしたのに会いたくはないの?」

「そりゃ会いたいに決まってるじゃない!初めてちゃんと好きになった人なんだから……けどいずれまた逢えるって信じてるから」

「根拠も何もないじゃん!そんなの!」

「……そうだけど想い続けていれば相手に伝わることだってあるじゃない?だから私の恋はこれで最初で最後にしたかったの」

「父さんのこと大好きすぎじゃない?」

「恥ずかしいからやめてよぉ〜思い出しただけでつい気が緩んじゃうんだから〜もぅ!」

 

母さんは顔を紅く染めて手でそれを隠しながら返事をした。

その姿はまるで乙女のように可愛らしさでいっぱいだった。

アタシにも人生を変えてしまうくらいの恋がしてみたいな……

 

◇◇◇

 

そして──。

 

GP・デュエル全日本大会決勝戦。

 

初めて東京にやってきたアタシは、街中の喧騒になかなか慣れずにいたものの母親に教えられながら製作したガンダムヴァーチェとともに、バトル会場のゲームセンター〈STAR LIGHT(スターライト)〉にいた。

 

彼女と出逢ったのは、それからすぐのことだった。

 

「……美濃 瀬那です!よ、よろしくお願いします!」

「あなたが対戦相手のセナさん?よろしくお願いね」

 

夜刀神 鞠愛(ヤトガミ・マリア)

アタシと決勝戦で対戦することになった同い年の高校生だ。

アタシの白髪ショートとは違い、紫がかった黒髪のロングの髪型をしていてモデルのような佇まいで凛としていた。

 

☆☆☆

 

対戦後、アタシは負けてしまったけれど。

彼女はすぐに駆け寄ってきた。

どうやら製作したガンプラのことを聞きたいらしい。

 

「1/144スケールで装甲の脱着機能までやるなんて初めて見たよ!すごいねあなた!」

「……そ、そう……ですかね?」

「なかなかできることじゃないよ?誰かにガンプラ教わったの?」

「母親がプラモデルを作るライターしてて……それで」

「サラブレッドってのはこのことを言うんだね!」

「そ、そう……ですね」

 

顔を近づけてきたため距離感が掴めないでいるアタシをまじまじと見つめられるとさすがに挙動不審になってしまう。

明らかにパリピのノリで話しかけてくるもんだから、ちょっとだけ苦手意識があった。

っていうか突然距離を詰めてくるとか!なんの目的!?もしかして身体を要求してくるの!?負けたからには言うこと聞いてもらうわよ!?的な……?ないないないない!そんなことは絶対にない!

 

「ぜひわたしと友達になってくれない?」

「い、いいですけど……」

「ついでにホテルに一緒に泊まらない?」

「アタシたち未成年だけど!?」

「友達っていえば済む話……よね?」

「アタシはまだマリアのことなんも知らないけど!?」

 

お互いのスマホの連絡先を交換したアタシたち。

そこでアタシたちは近くのカフェで休憩することになった。

ここでなし崩し的にホテルに連れ込まれたらアタシどうなっちゃうのぉ〜!

 

☆☆☆

 

カフェ〈BEYOND THE TIME(ビヨンド・ザ・タイム)〉。

都内から少し西に外れた場所にあるこのカフェは、近くに空港があるために観光に来た多くの外国人客と地元に住む人たちの憩いの場所である。

 

アタシたちはそこで軽食としてサンドウィッチを頼み、会話を弾ませていた。

 

「……ところでマリアさんは九州に住んでる?わけだけどこれからどうするの?」

「一度帰るけど世界大会のことがあるから家族に話さないといけないかなぁって〜」

「ほんとに出るつもりなの?」

「何度あるかわからないチャンスなんだよ?やるしかないじゃない」

 

彼女の心意気は真剣そのものだった。

世界にいけばもっと強いデューラーに会えるというのは魅力的な話なわけだし。

そうなるのも当然ではある。

 

「……ガンプラはそれだけで大丈夫なの?」

「これ?まだ別のやつ作ってあるからもし壊れても、バトルには参戦できるよ」

「もう別なの作ってあるの……?」

「たとえばこれとか──」

 

マリアが鞄から対戦したときとは違うガンプラをケースの中から持ち出す。

 

「……あれ?またデスティニーガンダム?」

「何度だって作るよわたしは、だって大好きなんだから」

 

茶褐色に彩れたそのガンプラに目を奪われるアタシ。

同じガンプラを作るなんて考えてもいなかった。

 

「作品名は?」

「デスティニーガンダム・フォディーナ、ラテン語で鉱山だね」

「へ、へぇ……」

 

思わず見惚れてじっとガンプラをガン見してしまうアタシは、ついさっきの彼女の行動と同じことをしていることに気づいた。

 

「……あぁ!ごめん!つい!」

「気にしなくてもいいよ、なかなかこんな地味な色に塗装する人いないしね」

「宇宙世紀ならよく見るけどアナザーもといオルタナティブ作品でこの色をやる人はなかなか……」

 

デザートカラーに彩られたガンプラにアタシはそんなことを小声で零す。

だけど、その作品を見てアタシはいつのまにか一目惚れしていたのも事実だった。

彼女の作品に惹かれていたのも対戦したときから感じてた。

たぶん、アタシにとっての初恋ってこれのことなんだと思う。

 

「……アタシ、あなたのことが好きになったのかもしれない」

「えぇ〜?いきなり告白〜?このあとホテルにでも連れ込まれちゃうのかなぁ〜?純潔が奪われちゃう〜!たすけておまわりさぁーん!」

「ちょ、ちょっと!声が大きい!からかわないでよ、本気なんだから」

 

……さすがに自分でも何言ってるのって感じだけど、この気持ちは誰にも渡したくない。

そのあと、用事があるといって彼女はアタシと別れていった。

返事すらまともに言わずに。

ただ、ずっと想い続けていいのかなって不安になっていた。

 

一年後アタシはGP・デュエル世界大会に出場できたもののマリアとはあの日以降、連絡さえも繋がることもなくあれから一度も逢えることは叶わなかった。

 

***

 

そして今──。

 

アタシは高校の先生をやっている。

なにかの巡り合わせか彼女の通っていたこの都立星羅高等学校に赴任することになったのは運命と言っていいものなのかと疑った。

 

でも、ここで彼女になにが起きていたのかはなにも知らないし知る由もない。

 

模型部の部室で彼女の製作したガンプラを見たときは驚いた。

彼女の写真を見たとき、その笑顔の奥になにを考えていたのかをアタシはずっと探し続けている。

 

(あなたはいま、どこでなにをしてるの……?)

(アタシの消えないこの気持ちはどうすればいいの?)

(もう一度逢いたいよ……マリア……)

 

部室の窓を開けて空を見上げるアタシはそんなことを想い続けながら、学校生活を送っていた。

 

 

***

 





美濃 由衣夏:美濃 瀬那の母親。模型ライター。初恋の人と結婚してその父親が浮気してひとり親になったが、本来は父親がやりたいことができたから別れることとなった。その父親は現在模型塗料開発で働いている。高校時代に同級生との間にできた傷害事件が起きていた。

美濃 瀬那:模型ライターの娘。GP・デュエル全日本大会決勝戦で夜刀神 鞠愛に敗れたがそのあとデートをしたりしていた。鞠愛の作品に惚れて以来、告白の返事をはぐらかされており関係が有耶無耶のまま疎遠になっている。大人になってもいまだに想いを募っている。
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