陰キャだけどアイドルはじめてGBN〈惑星〉を救う話。   作:神宮寺Re ⑦

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七夕陽那〈ハルナ・ゼナム・ローレライ〉が地球にやってきたばかりの過去編です。


第十五章 -【あなたがくれた世界】-

 

──半年前。

 

「……あいたたたたたっ、ってかここどこ?」

 

故郷である惑星〈ローレル〉の救いようのない惨状から名も知れない機動兵器に逃げるように飛び乗って、いま私は颯爽と緑が生い茂る山の麓近くにある森林の中にいた。

 

地面に墜落した強い衝撃で頭の中がぐわんぐわんするほどの脳震盪(のうしんとう)を起こしてもおかしくない状況で眼を見開いた私。

 

「ここまで乗せてくれてありがと、えっと……なんて名前だっけこの兵器?」

 

(ってか目がぼんやりしててまともに見えない)

 

胸部にある刻印を目を細めながら確認する私。

そこには"GNW-100A”と彫られた形式番号とおぼしき羅列を見つけた。

 

「……えっと、さきぶれ?でいいのかな?」

 

(まぁいいや……とりあえず見つかると危ないから隠しておかないと……)

 

とは言え、こんな大きな巨人をどうやって隠そう……

そういえばマニュアル(取り扱い説明書)かなんかがコックピットにあったような……?

それを見れば方法を見つけられるかもしれないし。

 

操縦席を見渡して私はこの兵器を視認させないようにするやり方が書かれた文章を見つけ出す。

 

「……なになに?生体認証とリンクさせれば私以外は使えないってことになるの?」

 

……これに従えば見つからないってことでいいんだよね?

マニュアルに書いてある通りに私は指紋認証と顔認証を即座に済ませて、ここから早く別のところに行くために急いでその場所をあとにする。

 

紅色のドレスの正装でここに来たから、いまさら戻ることなんてできないし……というか今更戻りたくなんてないし……あんな生きた心地さえしない場所なんて。

 

そうして私はこの惑星で居場所を探すために山を恐るおそる駆け降りた。

 

◇◇◇

 

この世界の街を目指して私は〈ローレル〉とは違う景色に目を泳がせながら、ふらふらとしどろもどろにながらも歩き続ける。

 

「……なにあの子?コスプレでもしてるの?クリスマスだから?」

「あのおねえちゃんなんでキツネ耳なの〜?」

「こら!人に指をさしちゃだめだろ!」

 

私のことを見てか通行人がぼそぼそと小声でなにかを話しているのを気にしつつも、「早くここで生きていけるようにしなきゃ」と奮い立たせて舗装された路面を裸足で踏みつけていく。

 

もうどのくらい歩いたかわからないくらい長い距離を歩いていた私は、疲労で倒れそうになりながらも休める場所がないか目を配らせているものの……堕ちた場所が悪かったのか先ほどの家族たちと離れてから人の気配がまったくなくなっていた。

 

「あの……建物は……?」

 

家らしき建造物が見えはじめたのも束の間、私の意識が混濁に覆い尽くされようとしていた。

 

太陽が沈みはじめ、だんだんと暗くなってきた視界に怯えつつもこれからどうしたらいいか考える余裕さえも無くなるほどいつ力が尽きるかも知れない恐怖でいっぱいの中で光を見つけようと精一杯、おぼつかない脚をなんとかして伸ばしていく。

 

「……やばいんだけどこれ」

 

引きちぎられたドレスの裾を掴んで紅くなっている足をずるずると無理やりにでも動かすも限界のときが迫っていた。

 

「私の人生こんなところで終わっちゃうの……」

 

ブレーカーの電源が強制的に落ちるようにその場に倒れ込む私。

視界が一気に暗くなったことさえ感じられないまま……意識がプツリと途切れる。

 

「……ちょっと!ちょっと大丈夫なの?返事して!」

「だれか!だれか!人を呼んで!」

「はやくしないと風邪引いちゃうって!」

 

◇◇◇

 

「……ここは?」

 

真上に浮かぶ豪華なシャンデリアの眩い明るさによって私は目を覚ました。

隣には白と黒の衣装を着た大人の女性二人が私を気にしながら様子を見つめている。

 

「ようやく起きたのね!よかったわ!一時はどうなるかと思って心配で……心配で!」

「婦長に知らせてきます!」

「お願いね寧々さん」

「わかりました!七実!」

 

……ぼやけていた世界が徐々に綺麗になって状況が飲み込めるようになった私。

そばにいたのは二人とも黒髪ショートのお姉さんである寧々(ネネ)七実(ナナミ)の二人が倒れていた私のことを看病をしてくれていたらしい。

 

「……私ここから出ます!」

 

一気に立ち上がってその場から離れるように歩こうとしたそのとき七実さんが止めるように両手で私の体を抑えこむ。

 

「ダメよ?いまは安静にしてなきゃ……」

「で、でも!こんなところにいるわけには!」

「そうは言うけどあなた行く当てはあるの?」

「そ、それは……でも!」

 

行く当てもなにもこの場所に来たこと自体はじめてなんだから、そもそも選択肢なんてものがひとつもない。

 

「そうは言ったって怪我だってしてるんだし、もう夜中の二時よ?なに考えてるの?冬なのよ?死にたいわけ?」

「……で、ですけど!」

「それにあなた"ここ(地球)"の人間じゃないわよね?細かいことは聞かないけど、その格好じゃ目立つから落ち着いたらこの制服を着なさいね?わかった?」

 

差し出された黒と白の正装を貰い受ける私。

 

「は、はい……ってかこれって?というかここはどこなんですか七実さん?」

「それはシスター服、あとここは教会〈パラオ〉というところね?戦争によって親や友人を亡くして行き場のない子どもたちと暮らす場所よ」

「戦争……?」

「〈世紀戦争(アナザー・ロスト)〉って知らないの?この地球に突然巨体が現れてきて五〇年周期で地平線を焦土で焼き尽くす厄災のことなのに?終わりの見えない戦いよ?」

「なんなんですか……それ……」

 

ごめんほんとになんの話してるの?

 

「あなた見たところ一五くらいの背丈だけれど、本当になにも知らないの?どれだけの人が悲哀と憎悪に苦しみられてきたか……いまだにその〈円環(メビウス)(ループ)〉から抜け出せないでいるっていうのにね」

 

いきなり言われたその〈世紀戦争〉のことについてなにもわからない私は思わず口を閉じてしまう。

 

「とりあえずあなたはここで落ち着くまでの間ここで生活しなさい」

「……わ、わかりました」

「それとなにもしない訳にはいかないから子供たちの世話とあと学校にも行けるようにしておくわ」

「が、がっこう?」

「同い年くらいの子と授業を受けて人と人とが助け合って生きていく力をつけるところ」

「は、はぁ……」

 

こうして私は教会〈パラオ〉でシスターとして生活していくこととなった。

踏み出した新しいこの世界で過ごしていくために。

 

***

 

あれから数日後、都立星羅高等学校の二年生として学生をすることになった私はそこへ行くために七実と一緒に向かっていた。

 

「緊張してるの?」

「……ま、まぁ」

「そんなの誰でも一緒だから、深呼吸よ」

「ありがとうございます七実さん」

「呼び方は七実でいいわよ、あなたの保護者というか親代わりみたいなもんなんだから」

「わかったよ七実」

 

降り積もった白い雪が道端にまとめられ、整備された歩道を進んでいく私たち。

そこでひとりの男の子と出逢った。

 

「おはようございます、寒いですね今日も」

「そうね、寒くない陽那?」

「……え?あの私の名前が違っ……」

「ごめんなさいちょっと用事があるからまたねお兄さん?」

「お忙しい中でしたか、それは失礼しました」

 

◇◇◇

 

見ず知らずの彼と別れた私は七実さんと木陰に隠れて話をしだす。

 

「あなたの名前じゃこの惑星の人じゃないかもって邪推されちゃうでしょ……!」

「でも、私の名前は……〈ハルナ・ゼナム・ローレライ〉で……」

 

ほんとはもっと長いけど……いまこの話は別にいいか。

 

「いま!今日!この日からあなたは七夕陽那!わかったわよね?」

「……そんな怒らないでもいいじゃないですか七実さん」

「もしバレたらなにされるかわかんないのよ?収容所にでも入れられて実験されるかもしれないのに……怖いんだからねこの世の中は……」

 

顰めっ面で七実さんは私をそう促すように至近距離で顔が影で見えなくなるほどの迫力で悟るように話しだした。

 

「わ、わかりましたから……はなれてください!近いです!」

「せいぜいがんばるのよハルナさん」

「行く前にも聞きましたよそれ」

「……話聞いてなかったでしょうよ上の空で」

「なにもわからないんですから当たり前です」

「すこしはシャキッとしなさい!シャキッと!」

 

白雪さんは背中を平手で勢いよく叩き、転がりそうになる。

 

「……力加減どうなってんですか!」

「これくらいじゃないと子供たちの相手してられないのよ!」

「もう……」

 

他愛もないそんな会話の中でも私はほっとするように小さく息を吐いた。

 

***

 

私が転校して数ヶ月後、紆余曲折の末にとある男の子とカップルになった。

 

とは言っても、もともとそんなつもりじゃなかったんだけど……べつに彼と付き合うのことに悪い気はしなかったし。

 

そもそもの話、彼に誘惑して一線を超えた(ラブホテルに行った)のは事実なんだし……てかこれ側から見たらビッ……やめやめ!考えるのはやめ!いまはデートの時間なんだから!変なこと思うのやめよ私!

 

「どうかしたか?ハルナ」

「あぁ……ごめんカグヤ……つい」

 

彼とは二度目のデート。

GBNをプレイし終えて季節は桜が咲く春目前の三月、週末の土日にショッピングモール〈ロンド・ベル〉の〈ムーン・ムーン〉でデザートを注文していた。

 

二人で受け取って、食べ歩きをすることに。

彼はイチゴとチョコが組み合わさったクレープ。

私が頼んだのはレタス?とハムのサラダタイプのものを。

 

「それで足りるのか?」

「……や、その……あんまし私食事が好きじゃないんだよね……」

「じゃあ無理して食べなくてもいいだろ」

「そういうわけにもいかないでしょ、なにかあったら倒れちゃうし」

「……ハルナになにがあったんだよ?まともに話そうとしないじゃんか」

「いまは話したくない」

 

話せるような状態でもないし。

 

「なら無理には聞かないが……」

 

私を心配してかカグヤは口を閉じて黙々とクレープを貪っていく。

すると彼は急いで食べていたため突然咽ぶれるように息を詰めらせる。

……あぁ!もう!そんなに焦らずにかき込まなくても!

咄嗟にペットボトルのジュースを手渡して落ち着こせようとする私。

 

「……とりあえず飲んで!」

「す、すまん……」

「どうかしたの……?悩み事でもあったりするの?」

「進路のことでな、自分がなにをしたいのかまったくわからないんだよ……情けないけど」

「別に今すぐに決めろってわけじゃないんだからさ?それが普通なんじゃない?」

「でも……卒業まで時間がもうないんだよ……どうしろってんだよって話なんだ、三年生なのに」

 

辛気臭く私にそんなことを話し出すカグヤのことを見つめて私は……なにも助言をすることができなかった。

 

「そうは言っても……私にもわかんないよ」

「こんな話したくてデートしてるんじゃないんだが、ごめん」

「……だったらさ!カグヤが私に行かせたいところに連れてってよ!」

「なんだよ薮から棒に」

「なにも見つけられないかもしれないけど、どこかに行ってみようよ!二人で!」

 

そうして私たち二人は一緒に出掛けることに。

私はこの世界のことを知りはじめたのはつい最近のことだったし、いろいろなところを見てみたかったから。

 

◇◇◇

 

電車で数十分、ここは都内の外れにある場所に私とカグヤは駅を降りてから目的のところへと向かっていた。

 

「……えっと、ここはなんなの?」

「前に電波塔を見に行ったろ?そこと同じだけど、少しだけ新しくなった東京スカイツ○ーってところだ」

「なんだか真っ白に見えるけど……?」

「綺麗だよな……ここの銀に輝く鉄塔の枠が重なりあった設計……美しすぎなんだよ……どうやったらこんなの作れるんだ……」

 

なんか見惚れてしまった彼を見て私はちょっと羨ましく思っていた。

そんなの考えたこともなかったから、この光景に彼は無機物の建造物に心を奪われている。

 

「……で、これからどうするのカグヤ?」

 

さすがにちょっとムカつくんだけど。

私とのデートなんだから私を見てよカグヤ?

 

「展望台までひとっ飛びでいくぞ!」

「634mもあるんだけど……?」

「数分で行けるんだよ、超はやいエレベーターがあるからな!」

「えれ……なんて?」

「説明するより乗った方がわかるぜ!」

「う、うん……?」

 

カグヤに招かれるように手を引っ張られる私は、ワクワクしながらあとについて行った。

 

◇◇◇

 

エレベーターというものに乗り込んだ私たち二人。

すると係員さんのアナウンスとともに、急上昇していく大勢の人を乗せた箱に驚きを隠せなかった。

 

「……あの!ちょっと!これ!大丈夫なやつですか!?」

「落ち着けよハルナ、死んだりなんかしないから」

「ほんとうに!?ほんとだよね?」

「安全じゃないならそもそも乗せてくれないだろ」

「それは……そうだけど……」

 

わずか三分ほどで展望ラウンジに到着し、目の前に広がる街中のビル群に興奮してしまう。

 

「……こんな高いところに来たんだね!」

「少しは気が紛れたか?」

「私のことを気遣って……?」

「ここに来たかったのは本当だよ、ただ見て欲しかったんだハルナにこの世界はすごく広くて知りたいことがたくさんあるってことを」

 

すかさずスマホを取り出して私は彼との記念写真を撮ることにした。

 

「いきなりなんだよ!?」

「思い出の写真だよ!撮らなきゃもったいないでしょ!」

「強引なんだよ……いつもハルナは」

「え?めっちゃ褒められた!?」

「褒めてない」

「そんなことを言うくせに恥ずかしそうにしてるじゃん〜」

「慣れてないだけだから……」

「ってなわけでピース!」

「そこはハイ、チーズ!じゃないのか?」

「ここの世界の文化のこと私わからないもん」

「じゃあ二人でハートでも作って撮るか?」

「そうしよ!そうしよ!」

 

私の右手のスマホから撮るように左手を差し出し、彼は右手で形作った輪っかに合わせてハートを生み出す。

 

「イェーイ〜!」

 

……なんだかカグヤはぎこちなかったけど、なんかこんな何気ない日常が私はたまらなく心地が良かった。

 

撮った写真を見て私は不意にやったのが功を奏したのか否か、彼の顔が変になっていることで思わず笑ってしまう。

 

「……なにこれ〜!おかしな顔〜!」

「急に撮るからだよ、びっくりしちゃっただろ」

「あれ?なんか頬にキス……してない?」

「事故だから!ノーカン!ノーカンだ!」

「じゃあここで本気のキス──して?」

「はぁぁぁぁ!?こんな人がたくさんいる前で出来るわけねぇだろ!?」

「ちきん……!」

「マックナゲット?」

「よくわかんないけど、私のことばかにしてる?」

「違うちがう!緊張をほぐそうと思っただけだからな!」

「きすは……?」

「しねぇよ!ほら!もう一段高いところにいくぞ!」

「ええぇ〜!意気地なし〜!」

 

でも、それでも、こんな些細なひとときが私にとってはこれまでのお人形にされていたあの時よりも解放感でいっぱいになっていた。

 

こんな日々がいつまでも続いてくれれば──いいのにって思い続けるのはいけないことなのかな?

 

そんな不安になりながらも彼との楽しいデートは私の数少ないメモリにずっと刻んでいたいって。

 

だってあなたの彼女になってからずっと楽しかったから。

 

***

 

そして今──。

 

いま私が対峙しているのは、まごうことなき彼氏であるカグヤだ。

 

恋人になったあの日から私の日常は一気に変わりはじめた。

今の私には彼がどんな気持ちでやってきたかなんてわからない。

何千何万何億といる人々の中で選んだ彼のことを好きになってよかったってそう思えるように。

 

けど……!それでも……!私はいまの彼のことを嫌いになんかなれない!

私の選択がなにも間違いなんかじゃないってことを証明する──!

 

いまの私がいるのはカグヤのおかげだ。

あのとき、私のことを受け入れてくれなかったらたぶんこの宇宙を呪っていたんだと思う。

 

役割に縛られ続けていた私を救ってくれたのはあなたなんだよ?

 

私がここに来てカグヤと出逢ってから、雁字搦めだった日々を変えてくれたのはあなただったから!それに応えられるようになりたい!

だから──!なにがあっても彼のことは裏切りたくない!

 

私をあなたが恋人(アイドル)にしてくれたから!もうこれ以上!自分を責めなくていいんだよカグヤ!

これまでの私の気持ちをわからせないといけないのなら!

私は!カグヤを!こてんぱんに倒す!

 

覚悟してよねカグヤ?私……さすがに制御が効かなくなるかもしれないけど!カグヤが悪いんだよ?

絶対に!私のほうが大好きだってことを思い知らせてあげるから!

 

***

 

 





〈世紀戦争〉:エリカたちが幼少期に災禍となった戦争のこと。人々はアナザー・ロストと呼ぶ。

〈円環の鎖〉:上記の幾度となく訪れる戦争が五〇年周期でくるために、後世に伝える意味合いでメビウスのループと呼称する。
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