陰キャだけどアイドルはじめてGBN〈惑星〉を救う話。 作:神宮寺Re ⑦
アカネとエリカと別れた私はGBNで待ち合わせをしていた。
小走りで遅れてやってくる一人の姿を見た私は手を振って声をかける。
「……おそいよ私の彼氏!」
「いろいろと迷惑をかけてすまなかった」
「それはいいけど、自分の気持ちくらい素直にならないと疲れちゃうよ?あなたの人生なんだしさ」
「……善処するよ」
って言ってる私だけど、人のことなんて言えたもんじゃないんだけど……
こんな生い立ちじゃなければ、彼とはまた違った出逢いが出来ていたのかな……
二回目に参加したゲリラレイドボスミッションを終えたわたしとカグヤはGBNをログアウトして夜の繁華街でデートをしていた。
「どこいこっかカグヤ?」
「さっきまでのキリキリしたメンタルどこいったんだよ!?」
「だからあれはゲームの中での話であって私はいつもこんなだよ?そんなに変なのかな?」
「……追いつけないんだがおれ」
「ところで夕食なに食べよっか、ここらへんで良い店とか知らないの?」
……時間はすでに夜の二一時を過ぎており、帰路に着く仕事終わりのスーツを着た人たちがわたしたちとすれ違っていく。
「……っていうか家に帰る時間大丈夫なのかハルナ?いつもどこで過ごしてるんだよ?」
「え〜と、それはね……その」
「まさか野宿とかしてるとか言わないよな?ちゃんと帰る家があるんだよな?」
「そ、そうだよ!私のことは気にしなくてもいいから!早くご飯食べよ!」
目の前の視界に入った中華料理店へと向かうことにしたわたしたちはそこで食べることにした。
◇◇◇
中華料理店〈
東京のおおよそ中心部に位置するこの中華料理店は本格的な四川料理をメインとしており、こだわった香辛料が鼻腔をくすぐり、鮮烈な辛さを体感することが出来るため本場の味を愛する嗜好者にこよなく通い詰められている。
「んじゃおれは麻婆豆腐とライスのセットで」
「私は
「ごちゅうもんはそれだけでイイノ?あんたたち学生でしョウ?」
半ばカタコトな日本語を喋る店員さんに不慣れではあるものの、「もっと食べたら?」と催促されているみたい……
そこまでお腹が空いているわけでもないし、食べすぎると吐いちゃうよ……
「じゃあおれはご飯大盛りで、ハルナは?」
「わたしはそのままでいいよ」
「じゃそれでお願いします店員さん」
「わかったヨ〜ちゃんと食べて体力つけナヨ〜!」
注文を受けた店員さんは厨房へと向かって小走りで歩いていった。
それからおよそ一〇分後、頼んでいた料理が到着する。
「こちら麻婆豆腐とライスの大盛りネ〜、あとこっちは酸辣湯麺ネ〜!ゆっくりしてってね〜!」
熱々で届けられ湯気が立ち込め、思わず目の前に白く霧のようなものが立ち込める。
「……こりゃすげえなぁ、めっちゃ辛そうじゃん」
カグヤが頼んだ麻婆豆腐は常連さん向けの辛さレベル10のものらしいけど……食べきれるの?
目の前が赤い湖みたいに真っ赤っかなんだけど?
「食べられるのそれ?」
「へーきへーき!辛くないと麻婆豆腐じゃないだろ!」
「……そ、そうなんだ」
わたしそもそも辛いものとかまず無理なんだけど。
っていうか食べられるものじゃなくない?
そんなの食べて身体壊さないの……?
◇◇◇
惑星〈ローレル〉首都ラビアン郊外。
発展途上国であった〈ラビアン〉はいまだに機械文明が普及しておらず都市部にのみ開発が集中しており、日々人々は貧しい暮らしの中にある幸せを確かめながら生きていた。
「
鳴り止まないサイレンの中で、そこで暮らしていた夫婦の母親であるクヤヤと父親のウクモ、そして子供であるヘクスはベッドに横たわり病にふせっていたために高く鳴り響く音に怯えていた。
三人とも茶色のキツネ種の獣人であり、生まれて六歳になったばかりのヘクスのことをいつも頭の片隅に置いていた。
「どうした!?なにがあった!?」
「なんのおと〜?」
「……こら!部屋に戻ってなヘクス!」
「きになるぅ〜」
「ここは危険ですからシェルターに避難しましょうよ!」
「とはいってもまだ指示は出されてないだろ?」
「外に出て確認してみます!」
「ヘクスはここに居るんだぞ!父さんと母さんは様子を見てくるから!」
「いかないでよ〜こわいよ……!」
すぐさま家を飛び出たクヤヤとウクモは鍵を閉めて空を見上げていく。
「あれは何者なんです!?」
「見たことないぞ!敵なのか!?」
◇◇◇
(ここはいったい……?どこなんだ!?)
(地面……?重力の感覚がある?……なぜだ!?)
(なにが起こっているのか理解できないんだが!応答してくれ!GBN運営!なぁ!おい!)
巨人を操っている三人はその名も知れぬ大地を踏み出していることに感情が追いつかないでいた。
『応えてくれ!GBN運営!ここはサーバーのどこのディメンションなんだよ!』
フォースリーダーを務める〈紅蓮のブラスト〉ことカナデは状況を飲み込むので精一杯だ。
『……カナデ!下を見てください!』
『そうだよ!下だよ!下!』
残りのフォースメンバーであるヒグロとタイモが必死に訴えかける。
するとそこにあったのは──。
◇◇◇
「いますぐここから出ていけ!魔神どもが!」
「消えろ!ここはお前たちの居ていい場所じゃねえんだ!」
「そうだ!そうだ!」
獣人たちは手元の石ころをフォース〈
『……違う!我々は敵じゃない!』
『……絶対に帰るんです!GBNに!』
『こんなとこに居る場合じゃないんだよ!」
焦りながらもカナデたちはこの星から地球のあるGBNへと帰還するために戦う決意をしなければならない中にいた。
◇◇◇
一時間ほどかけてそれらを平らげたわたしたちは、これからどうするか店を出て話し合っていた。
「……うーん、やっぱりもっと食べればよかったか?」
「ってかお金いつも払ってくれるけど、大丈夫なの?」
「空いてる時間は工房手伝ってるし、そのときのバイト代からやってるから気にすんなよ?好きでやってることだから」
「それはありがたいけど、あとちゃんと親父さんと話したら?これからのこととか」
「わかったよ、そうする」
「ってあれ?カグヤさんじゃないですか?」
「生徒会長!ひさしぶりですね!」
向かいで二人で話していたカグヤに彼の元側近であったカオリさんとユイさんが駆け寄ってくる。
カオリさんとユイさんは双方ともに茶髪で、カオリさんが銀色の眼をユイさんはグレーの眼の色をしていた。
この二人に会うのはエキシビジョンマッチ以来になるのかな?
「……ずっと会いたかったんですよ!」
「これからカラオケとか行きませんか?」
「提案は嬉しいんだけど……すまないね、いまは彼女がいるから」
(わたしのカグヤにベタベタ触んなって言ってんだよ、湧いてでてくる小蝿どもが)
「……ごめんなさい〜!いまは私が優先なんで〜!」
(こいつらなんかいざとなったらわたしのやつで踏み潰してあげるんだから)
(せっかくのデートのときにしゃしゃり出てくんな)
「それは残念〜また会いましょうカグヤさん!」
「……先約つきは面倒ですけど、たまには私達とも遊んでくださいね?」
「あ、あぁもちろんだよカオリくんユイくん」
私があなたの彼女なの忘れてないよね?
っていうかいちいち邪魔してくる女ども嫌いなんだけど。
「……あっほっぺになんかついてるよカグヤ?」
「ん?あぁ拭きとるのわすれ──」
すかさず自分のものだと証明させるためにわたしは彼の唇を奪いとる。
ついさっき彼が食べた麻婆豆腐の辛い感触が下に残りつつも軽く蹂躙して嬲るように口内を撫でまわした。
「……ちょっとおまえ!いきなりなにすんだよ!?」
「なにって、恋人同士がやるキスじゃん?なにも問題ないでしょ?」
「どう見てもディープのほうだったよな……?」
「別に一緒でしょ」
「キマリすぎてんだろハルナ!」
「それで感想は?」
「なにもわかんなかった」
「……それはさすがにないよね?」
「んなこと言ったってそこまでやるのは話が違うだろうがよ!女豹みたいじゃねえかよ!」
「仕方ないなぁ、んじゃもう一回してあげるから──」
「ちょっと待てだから!おれの話をき」
少し黙っててよ、これで晴れて恋人になれたんだからさ?味わってればいいじゃない私のことを。
「……どう?これでわかった?」
「──ハルナ!おれは!おれはだな!おれは!」
「っ!?」
急に両手がわたしの肩を掴んで目を見つめ合うわたしたち。
「おれと結婚してくれないか!」
「……えっとごめん、キスされて情に流されてもしたの?」
「先にやってきたのはハルナのほうだろ!責任取らせろよ!」
「もうしょうがないなぁ……それじゃよろしくお願いします」
「しゃあああああい!」
「そこまで喜ぶことなの?」
「一世一代の漢の勝負なんだから当たり前だろ!?馬鹿にすんなよ!」
「……それじゃこれからがんばってね?わたしの彼氏さん?」
「言われなくても──!」
熱い恋人のひとときを過ごしあったわたしたちは夜道で手を繋いで近くのホテルへと歩き出していった。
◇◇◇
GBNの仕事を終え、真夜中の二三時を過ぎたくらいの時間にくたびれながら家に帰ってきたアタシ。
「ただいま〜……ってもう寝てるよね……」
アタシには結婚している彼と十五になるひとり息子がいた。
「遅いぞ
「……そうだよ、だからこんな時間になるまで仕事してたんじゃん」
「上司に相談したらどうなんだ?仕事させすぎだって」
「そんなこと言ったってワタシは好きでこの仕事してるんだからいいでしょハヤト」
「そうは言ってもだな……」
彼の名前は
勤めている仕事先は塗料関連の下請け会社らしいけど。
大学時代に仲良くなってからそのあと結婚したワタシのはじめての恋人であり現在の夫である。
体型は中肉中背でワタシよりも背が十センチ近く高く髪型は黒、眼の色はルビーに輝いていた。
アタシはGBNで「メイリン」という名前を使って仕事を日々こなしていた。
なにを考えているのかさっぱりわからない上司の顔色をいつも伺いながら、彼女の提案した計画のサポートを任されていた。
「夕飯なら子供ともう食べてしまったが?」
「いいよ、アタシはコンビニで買ってきた弁当食べるから」
「そんなので栄養がつくのか?それもう続けて三日目になるだろマフユ?そんなの食べてたらいつ倒れてもおかしくないぞ?」
「アタシのことはいいって、子供が起きちゃうでしょハヤト?少しは声を静かにしなよ」
「……マフユのこと心配して言ってんだがな」
「心配?だったら将来のこと考えてくれてるの?」
「そんなのわからないじゃないか、いくら金があっても未来がどうなるかなんて誰にも知り得ないことだろ」
「だからその為に資金を貯金してるんでしょうよ、少しはワタシの身にもなってよあなた一人でやってるわけじゃないの」
「んなこと言ったって帰りの遅いおまえがなにか子供達にしてあげたことあったのかよ!?なぁ!?」
夫であるハヤトにいつも子供たちのことを見てもらっているワタシにとってその発言はあまりいいものではない。
「こっちは毎日毎日頭下げて仕事して、疲れ切ってる中でやってるんだからそのくらいわかってよ!」
「俺だって子供の世話しながら仕事やってんだよ!自分だけが不幸ぶればいいと思ってんのかよ!」
いつもワタシたちは夫婦の共同生活の中で、事あるごとに喧嘩が絶えなかった。
今日もこんなことをするために生きているんじゃない、そう頭の中で思っていてもつい口が滑ってしまったことに嫌気がさしていた。
「……だったら!だったらさ!アタシのことくらい労ってよ!」
「それはお互い様だろ!なんでいつもそうなんだよ!少しは冷静になれよ!」
「冷静……?冷静だよアタシは!」
帰りにコンビニで買ったビールを片手にワタシは彼に反論をする。
テーブルに五本の乱暴に散らばったビール缶。
「いつも酒ばっか飲んでるやつに言われたくねえよ!」
「いいでしょこれくらい!こうでもしないとやってけないんだよ」
「こんな生活ばっかしてたらおまえほんとに倒れるぞ……?」
「大丈夫だって、ほら!ピンピンしてるよ!」
彼と目を合わせながらワタシはおもむろに腕を捲し上げる。
「……いまにも折れそうなくらい細い腕だな」
「へへへ……褒められちゃった〜!ふひひひひ〜」
「どこも褒めてない、っていうかいい加減酒飲むのやめろよ」
「じゃあ布団に連れてって〜寝かせて〜!あっ……それともいっちょこの勢いのままワタシのこと抱いとく?あなたの大好きな胸で受けとめてあげるよ〜?ほれほれ〜!」
「酒飲んでるやつとヤれるわけねえだろ!まったく手間のかかる妻だ……なんでそうなるんだよ頭おかしくなったのか?あんまり調子こくと痛い目に遭うぞ?」
「この世界のほうがどう見てもおかしいんでぇ〜す……ふへへへへへへへ……」
「あぁ〜もう!めんどくさいなぁ!」
「でぃたたたたたたた……」
ワタシは彼に引きずられながら息子のいる部屋の隣の寝室へと運ばれていった。
***
中華料理店〈八卦〉
都内にある店で麻婆豆腐などが有名なサラリーマンの常連客が集う店。そこでカグヤはよく麻婆豆腐の10辛を食べている。
フォース〈SLEEVE ENGEGE〉:GBNで起こった事象に飲み込まれて惑星〈ローレル〉に転移してしまったフォース。
■新規キャラクター
クヤヤ:惑星〈ローレル〉に住む獣人種のひとり。ウクモの妻。
ウクモ:上に同じ、クヤヤの夫。
ヘクス:上に同じくウクモとクヤヤの子供。
◇◇◇
遠野隼人:真冬の夫。プラモデル系塗料の下請け会社に勤めている。
遠野真冬:隼人の妻。GBNで「メイリン」としてデュランダルを補佐する仕事をしている。十五歳の息子がいる。