陰キャだけどアイドルはじめてGBN〈惑星〉を救う話。 作:神宮寺Re ⑦
七夕陽那が地球にやってくるまでの過去編です
※この話に主人公は登場しません。
およそ一年半前──。
私はここ惑星〈ローレル〉首都ラビアンで皇女としての執務に追われていた。
山積みの資料には国防のための兵器生産の承認、またそれに関する調印書など猫の手も借りたいほどの仕事量を抱えている。
「ドレス似合っておりますよハルナ様」
「ありがとうミハエル……ところでこの同盟国からによる援助金はいつから?」
「それは幾度となく飛来する未知の脅威に対して我々が要請したもので、もとより先の戦争においての人口減および社会インフラの維持に際し、貴方のお母様であるシーア様から直々にもたらされたものでして……」
と、付き人であったミハエルから事情を知ることとなった私。
ミハエル・マハディ。
私こと〈ハルナ・ゼナム・ローレライ〉の警護人および皇女育成のために配属された年齢は五〇歳の若き男の従者だ。
「……私が生まれてその戦争のことなんて聞いたことがないのだけど」
「そうはおっしゃってもですねハルナ様?いつまた現れるかわからないのです、だからこそ必要なことであることを御理解ください」
資料の記述には隣国で同盟を結んでいるベアドリアから提供された旨が文書によって事細かく書き込まれていた。
「……もうそろそろお昼食よハルナ?」
「シーア様、度重なる外交お疲れ様です」
「余のことは気にしなくてもいいわミハエル、それにハルナにはいつも手間をかけるわね」
「これも仕事ですから」
「熱心なのは良いことだけれど、あまりそればかり固執すると良いことないわよ?」
「御忠告感謝します」
……いつまでこの退屈でどこにも行けない閉じ込められたお城という塀の中から解放されるのですか?
変えれようのないこの世界から心身を疲弊しきっていた私はこの日めでたく誕生日を迎えていた。
◇◇◇
一室の三分の一を占めるほどの白い大きなテーブルと椅子にたくさん並べられる豪華な料理たち。
肉料理にお酒、彩られた野菜を混ぜ込んだサラダや穀物を砕いて作ったスープ、また果実類が私を迎える。
「一五歳のお誕生日おめでとうございますハルナ様」
「えぇ、ありがとうミハエル……」
結局ひとりでいただく食事にはまったく味もなにも感じられない。
ただ生きる為に食べているだけで、生きた心地がこれといっていいほどなかった。
「……シーアお母様は?」
「これからベアドリアで今後の対策への会合が行われるとのことで視察へと向かわれたようですハルナ様、お電話をお繋ぎいたしますか?」
「そうですか……わかりました……いえ、しなくていいわ」
せっかくの誕生日だっていうのに、誰も私のことを祝ってもくれない。
お父上は生まれた時からいないし、お母様はなにも言おうとしてこない。
他国の人との子供として生まれたらしいけれど、そんなこと私にはなにも知らせてもくれなかったのに。
◇◇◇
惑星〈ローレル〉ベアドリア。
シーアらが住む首都ラビアンの隣国であるこの国は異界から繋がった技術供与によって、軍事的および経済的にも繁栄することとなった大国のひとつ。
そこで余は幾度となく祖国を破壊する脅威に対して、これに抗うため首相との会談が行われていた。
「……お招きいただきありがたく存じ上げますベアドリア首相」
「こちらこそ度重なる外交の中で訪れていただき御多忙でしょうシーア殿下?」
「それで、これから我々が直面している危機については御理解されているとは思いますが……」
「重々承知しているよ、だからこそ手を組もうとしているだろう?」
「なればこそ、そちらで保有している軍事兵器の輸出をさらに増やしていただくことを願いたく」
「それは構わないが対価は?こちらとてこの惑星〈ローレル〉の全体人口はすでに一〇億を下回っているのはご存知か?」
隕石の落下からはじまった大気汚染、また日照不足による作物の生育不良、それに加えて多くの戦死者を生んでいたこの世界は成す術もなく絶滅へと向かう足音が近づいている。
このままでは、種族として次世代へと紡ぐことが出来ない事が明白であり対抗策を講じるほかにないのだから。
「……わかっていますよ、生産拠点の拡充として我が国の一部をそちらに提供いたします」
これはあくまで交渉としての手筈であることは変わりない。
「これはこれは、こちらとしてはありがたいがそれでいいのかね?」
「構いません、それほどまでに追い詰められているとわかっていることでしょう?」
「……どのみち変わらないだろう、頑張ってもらいたいものだな人々には」
まるで働きアリを制御させる女王アリのようにお高く止まっているこの首相の態度には、女である余にはいささか鬱憤が溜まりかねる……
会談が行われてから数十分後、国境警備隊からの緊急事態を告げる警報音が鳴り響く。
「ベアドリア首相!上空より飛来する未確認機体が!」
「なんだと!?シーア殿下!今すぐに避難を!」
「しかし……!まだこの国には守備部隊がいるはずでは?」
「宇宙での合同作戦のために出航しているんだぞ!」
「なにをやっていらっしゃるのですか!民を見殺しにするつもりですかあなたは!」
「こちらにも事情がある!勝手に知ったような口を聞いてもらっては困るぞシーア殿下!」
◇◇◇
なにも味のしなかった誕生日のお祝いの食事を済ませた私は、城内から街中を見渡していた。
そこには日常を営んでいる私と同じ獣人たちが楽しく和気藹々と歩いている。
「……いいなぁ」
「姫様!今すぐに避難を!敵がきます!」
ミハエルが顔色を変えて急いで駆けてきたのか、冷や汗をかいて私を連れ出そうとしていた。
「……でもシーアお母様はまだ」
「そんなこと言っていられません!地下シェルターへ参りますよ!」
「……ちょっ、ちょっとミハエル!離してよ!」
力づくで紅いドレス姿の私を引っ張りあげるミハエル。
なにが起こっているのかわからない私は廊下から見通した風景に攻撃が行われていることが目に留まった。
「なんなんです!?あれはっ!」
「……いまだに未確認の兵器がこちらに戦争を仕掛けているのですハルナ様!これが直面している現実であることをわかってください!」
「なんなのよ!それ……!」
「いいから行きますよ!」
私はこの世界で起こっていることを知らない。
城に閉じ込められて育てられたのだから知る由もない。
母君はどこでなにをしているのかさえもわからないのに。
だから私は──。
「姫様!?なにをするのですか!シェルターに避難しなければ貴方の命は!」
「……離してよミハエル!私は知らないといけないことがあるんだから!」
私はミハエルの忠告を無視して、城下町へと飛び出していった。
◇◇◇
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか……
疲れ果ててもおかしくないほど、走って走って走り込んだ私。
上空へと見上げるとその未確認機体を排除するための兵器が三機、排除作戦を行っているのが見えた。
『……聞いてないぞ!なんであんなに動けるんだよ!』
『こちとら休暇中だってのに!考えてほしいもんだぜっ!』
『各機警戒体制を維持!三人で仕留めるぞ!』
『『了解っ!』』
(なんなのこれ……?)
(私は一体なにを見てるの……?)
四つ目に光るセンサーを持つ識別不能機が対処にあたっている機体を捉えていた。
空を引き裂く粒子の塊が雲を撃ち抜いていく。
だが四つ目の未確認機体はそれを受け止め、腰部から取り出したものを投擲する。
『こんなのがっ!あってたまるかよぉぉー!』
『フレズ少尉!』
『貴様ぁぁぁあああああ!』
無機質に反撃を続ける四つ目の兵器。
その右手に持つ銃口から発せられた粒子が街中を襲っていた。
何度も何度も撃ち込まれ、建物は簡単に崩れ去っていく。
「……た、助けに行かないとっ!」
身を挺した私は被害を受けた建物へと向かった。
◇◇◇
朽ち果てたその建物へとやってきた私は──。
それまでたくさんここで暮らしていたであろう人々が簡単に亡き者にされているのを目撃してしまう。
「……なにこれ、なんなのよこれ……どうしてこんなことを……!どうして!」
救助すら間に合うこともなく、目前として広がるのは血まみれのそれまで同じ人だったものが無造作にめちゃくちゃに積み重なっていた。
「……なにっ!?」
突然おちてきたなにかが私の肩のそばを落ちていく。
「いやぁぁぁぁぁぁ……!」
腕が、人だったものの腕だった。
都度周りを見渡すと、悲惨な現状を目の当たりになっていく。
それまで生きていた彼らだった肉塊がそこら中に広がっている。
「……き、気持ち悪いっ」
吐き気を催すほどの腐敗臭を嗅いだことで、ついさっきまで食べていたものを吐き出してしまった私は、まるでこの現実を受け止めきれずにいた。
「こ、こんなところにいちゃいけない!はやく遠くへ!」
その場を離れて私はがむしゃらに走り続けた。
◇◇◇
変わらぬつづく戦闘の最中。
二機に減った守備部隊は窮地に達していた。
識別不能機が機体を紅く染め上げて、一網打尽にしようとしているのが私の視界を遮る。
『俺たちで!抑え込むぞ!ベル!』
『あぁ!こんなところで負けてられないよな!クララ!』
飛行形態から人型へと変形した二機がこの場から退けようと四つ目の機体へと掴みかかった。
だが、それに怯むことなく識別不能機は取り出した粒子の剣先で中央部を無情にも貫いていく。
『……クソったれがぁぁ!』
『ここまでかよ!』
(……こんなのおかしいよ!)
墜落していく二機。
二対に光る赤い剣先が私を見下ろしていた。
《モクヒョウノセンメツヲ──カクニン、キトウスル》
紅く光る粒子を放出するその識別不能機は、一瞬で消えるように立ち去っていった。
◇◇◇
もうどうすることも出来ない私はひたすらに歩き続けて足がおぼつかなくなっている。
それでもここから早く逃げ出さないといつ死ぬかわからない。
すると一つの馬小屋へと辿り着く。
そこには襲来した敵と同じような動力炉を持つ兵器が私を誘っていた。
すぐさまに乗り込んだ私は意を決して、これを動かそうと操縦桿を握る。
「……こ、これに乗れば!いますぐここから知らない世界に行きたい!ここじゃない!どこかに!どこでもいい!どこだっていい!こんな救いようのない世界から私を連れていって!」
(いいからはやく!……はやく!)
起動した兵器は飛び上がり、歪んだ空間から生み出したその入り口から吸い込まれるように旅に出た。
***
惑星〈ローレル〉ベアドリア
シーアたちが住むラビアンの隣国であり、軍事生産拠点となっている大国。
ここでシーアは首相との会談で、兵器輸出とその生産についての交渉を行っていた。
***
ベアドリア国境警備隊
ゼータプラス
型式番号:MSZ-006A1
武装:ビームライフル
ビームサーベル
シールド
ビルドダイバーズ二次設定
惑星〈ローレル〉ベアドリアにて警備部隊に配属されている主力機。原典と同様ではあるが出力が落とされており、兵士から不満の声が上がっている。
四つ目の識別不能機に対して迎撃を行ったが、性能差によって三機とも撃墜されてしまう。
***
謎の識別不能機
惑星〈ローレル〉ベアドリアまたラビアン周辺にて目撃された未確認機体。
四つ目のカメラを示しており、機体には特殊なシステムが組み込まれ紅く発光することがある。
ベアドリアの警備隊が対処に当たったがそれを撃破している。