陰キャだけどアイドルはじめてGBN〈惑星〉を救う話。 作:神宮寺Re ⑦
毎年恒例の夏祭りや花火大会の時期へと差し掛かっている八月中旬。
兎にも角にも変わらず、フィギュア製作の最終調整のために学校へとやってきたわたし。
っては言ってもほとんど作業終わってるんだし、別にもうやんなくても良くない?と頭は考えてはいてもカグヤ先輩からどうしても話を聞く必要があるらしくて……あの、ほんと終わりでよくないですか?出力するだけですよ?あと塗装しなきゃだった……うわなにこれ、どちゃくそめんどくさい……
「……今日も暑いな〜、ところでエリカくん?設計データはどうなっている?」
「そのままですよ?なにか問題があるんですか?」
「まさかなにもしないでいいと思ってるのか……?」
はひ……?だってちゃんと保存してるよ?どういう意味です?
「念のために3D設計データをクラウドにバックアップとっておけよって言いにきたんだよおれは」
「……どのみちこの模型部で使うの一回きりなんですし、やんなくても良くないですか?」
「それは君の都合だろう?顧問のセナ先生に怒られたいのか?残しておかないとやったことにならないだろうが」
「ひぇぇぇえ……」
こんな酷暑の中でわざわざ来てるんですから、もうちょっと労わってくれても良くないですかぁ……カグヤ先輩……!
◇◇◇
「やぁ〜!こりゃこりゃ!ほら!辛気臭い顔してないで作業終わらしてさぁ!アイス食べようよアイス〜!」
わたしの義姉ことアカネが両手に物を携えて笑顔で出迎える。
「アカネくんも来てたのか、これから体育祭のことがあるはずじゃないのか?」
「あぁ〜それは……それはですねぇ……先生たちが揉めててぇ……あたしが板挟みになっちゃっててぇ……」
「おれは関わってないから口出しできないぞ?」
「は、はぁ〜い……わ、わかってまぁ〜す……」
っていうかそれよりもアイス食べさせてくださ……
ねぇ!暑いんだから!アイスを!食べさせてよ!溶けるよ!身も!心も!脳内も!……さすがにそれは死ぬな、悪い意味で。
(さて、ここで問題です)
(いまはテスト中じゃねえんだよ!ひっこんでろ!)
(はぁ〜……一日中寝てたい……)
(ところで課題は?提出期限まで残り少ないよ?)
(いまそんな話してないだろうが!黙ってろよ!)
(ちっ!このリア充風情がっ!)
(どいつもこいつも話聞かないやつらばっかりでひやひやするぜっ!)
(なんでちょっと楽しそうなんだよおまえ!?)
どこに向かってるのエリちゃん?
「で、どれ食べるエリカ〜?コンビニで買ってきた棒のソーダアイスとパピコがあるんだけど〜?ねぇ?」
「え?あぁ……うぅ〜ん……」
棒のアイスは食べやすくていいけどパピコは実質二つだし……量的には後者のほうが得になるけど……いやぁ……でも……
「ごめんなさいカグヤ先輩が来てたことしらなくて買い合わせがなくって……」
「おれの分は別にいいけど」
「ところでカグヤ先輩はハルナといまどういう状況なんですか?」
「同棲に向けてアパートを契約したところで──あとは保証人の了承が……」
なにその結婚まっしぐらルートを進めていますなノリ!?
「ってかハルナはどこに行ってるの?」
「なんか用事があるらしくて連絡取れてないんだよな」
「心配じゃないんですか?」
「まぁ気がかりではあるけど、なにもなければいいんだけどね」
考え込んでも仕方ないとはいえ、この二人これからどうなっちゃうんだろう……?
「エリカどっちたべるの?」
「……こ、こっち!パピコ!」
「あたしと分けたいってこと?」
「それだとアカネのが得じゃん!わたしの分が少ないじゃん!」
「冗談だよ冗談〜!どぞ〜!」
「ひゃっいっ!?」
思わずの出来事に頭からつま先まで身体を伝うように鳥肌が立つわたし。
手に渡すではなく、わたしの頬にアイスを直接当ててきたアカネが悪戯みたいに微笑む。
「ちょっ!?冷たいってば!?」
「少しは力抜けたかなぁ〜って?」
「やりすぎだって!びっくりしたじゃん!」
「これくらいいつも家でやってるでしょ〜?」
「それとこれとは別問題だよ!?」
「仲良くて微笑ましいな君たちは」
「……ま、まぁそれなりに」
それから数時間後、キオ・アスノの造形の最終調整を終えたわたし。
いよいよ出力していくってなったときに……
「……ちょっとカグヤ先輩!?どこに行くんですか?」
そそくさとバックをまとめてカグヤ先輩は帰ろうとしていた。
「おれにもやらなきゃいけない用事はあるんだよ」
「せめてチェックしてからでも〜……」
「どのみち夏休み明けに見ることになるんだからそのときまで済ませておいてくれ」
「……信頼してるんだかしてないんだかわからないですよカグヤ先輩」
「それじゃあな」
そう言ってカグヤ先輩は部室から立ち去っていった。
あまりにも急に飛び出していくもんだからなにかあったのだろうかと思ってしまうほどに。
◇◇◇
八月一六日。
この日におれはいささか不本意ではあるお見合いをするために、都内にある老舗料亭〈
天候は雲ひとつなく快晴だった。
母親である
そもそも現状のおれ自身には
「……本日は明るい日差しのよき日にお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ多忙の中で御足労いただきまして、どうぞそちらに座ってください」
最初のお見合い相手である
彼女はターコイズの着物を着て、学校のときとは違う身振り素振りでおれを出迎えた。
「知っているとは思うが
「お世話になっております三宅 佳織です、今日もなんだか暑いですね?」
「……はじめたばかりでなんだがもう少し肩の力を抜いて話さないか?」
「ははははっ……慣れませんよねこういうのお互いに」
三宅 佳織。
元生徒会書記。
もともと生徒会長であったおれの側近であり、気楽に話せていた女友達のひとりだった。
ただの女友達で終わっていたのならこうはなっていないはずなのだが……
「とりあえずお茶でも飲みますかカグヤさん?」
「学校のときと同じく呼び捨てでいいよカオリくん」
「カグヤさんに名前で呼ばれたのなんだか前と違う感じがしてこそばゆいですね……」
「話が進まないんだが、カオリくんはこのお見合いをどう思っている?」
「もともと〈クジョウグループ〉傘下である〈ミヤケ運送〉の跡取り娘でありますし、まぁこうなるのも必然であるかとは思いますけど」
「君の立場の話をしたいんじゃなくてだな……」
「先輩こそどう思ってるんですか?このお見合い自体を」
そもそもの話になるが、七夕陽那と交際を進めているのに半ば強引に横槍を入れられた気分でどこもいい気持ちをしていない。
カオリくんにも事情があるのだろうが、嫌なら断れば済む話なのになぜ受けようと思ったんだ……?
どこにも互いにメリットがないじゃないか……
「本音を言えばこの話そのものを無くしたいと思っているけど、話の筋が見えない以上体裁上はやっておくしかないと思ってやってきた」
「話を変えます、カグヤさんはどうしたいんですか?」
「それは君も同じだろうカオリくん?」
「我々の親族からすればこの先後継者不足に悩むのは百も承知です、だからこそ子孫を欲しがっているとは思いませんか?」
「それは互いの政治的な話だろう?本人の意思を無視しているのが問題で……」
「じゃあここから嘘偽りなく言います」
おいおいおい……急にどうしたんだよ?ここは冷静に事を収めておけばまた学校でいつも通りの日常に戻れるんだぞ……?
「ずっと前からカグヤさんのことが好きでした、それにはじめての恋人になるのはうちが良かった」
……まて、いろいろと感情が追いつかないから待ってくれ!?
そんなのいままで一度も言ってこなかったじゃないか!?
なんでこんな時にかぎって言うんだよ……
「おれにそんなこと言われても……」
「もともとうちにとってはこのお見合いは賭けなんですよ、選ばれなければ叶わなかった初恋として終わらせられるし、もし選ばれたのならうちはカグヤさんを支えたいと思っています」
「カオリくんの気持ちはわかった、だがおれにはハルナというお付き合いしている女の子がいるのはわかっているよな?」
「恋愛で隣にいたい人に恋人がいたら不戦勝するのが正義だとでも言いたいんですか?」
「……カオリくんは思ったより強情なんだな」
「どうなんですカグヤ!?」
急に呼び捨てにされるとビビるからやめようかっ!?
まるで浮気したやつみたいな扱いになるのおかしいよ!?
「すいません取り乱しました……」
「わかったから一旦深呼吸しよう……!」
互いに一呼吸おき、本題に戻ることに。
お手元には茶菓子があるがまるで味がしない。
コンクリートでも食べているみたいだ。
「どのみちこのあとユイともお見合いするんですよね?」
「決まっていることだからな……」
「うちはカグヤがここまで頑張ってきたことは知ってます、だから選ぶならぜひ……うちことカオリを」
真剣な眼差しでカオリくんはおれに訴えかけていた。
◇◇◇
お見合い二日目。
つづく八月一七日。
この日は台風が来ていた影響で小雨混じりの曇天の空。
「本日はお招きいただきありがとうございます
「……お見合いの話を受けて下さいましてありがとう、足を休めてくれ」
「では、お構いなく……なにも変わってませんねカグヤさん?」
おれの提案によって正座で楽になるユイくん。
「ユイくんもだろう?」
「かもしれないですね……」
枢木唯。
元生徒会会計。
三宅 佳織と同様に生徒会ではおれの側近として活躍していた。
着物はクリームイエローの明るいものを着こなしている。
またこちらも同様に女友達としか思っていないひとりだ。
「……カグヤさんも続けてお見合いとなるとお疲れでしょう?」
「それはまぁ……心労が重なるかな?それでどうだい調子は?」
「なんだか他人事みたいですねカグヤさん」
「ユイくんだってお見合いそのものには興味なかったんだろう?」
「正直言えば自分はそんなことどうでもいいと思ってるんですが……」
「いつも真面目に生徒会していた君の言いそうな言葉じゃないね?」
「少しくらいははっちゃけたいことだってありますよ女の子なんだし」
前々から思っていたことだがしっかり者の君らしくないんだが?なにがあったんだ?
「どうしてそこまで投げやりになっている?」
「自分だけがお見合いすると思ったのにカオリまで出てくると考えてなかったからですよ……せっかくのチャンスなのに」
チャンス……?えっとその、その文言でいくと──。
「失礼を承知で聞くがユイくんはおれが好きなのか?」
「バレました?……どのみち伝えるつもりでしたしいい機会ですね」
おおぅ……まさかとは思ったがこちらもか……
「自分はお菓子製造の老舗〈ましゅま〉の一人娘ですし、おそらく婿探しが目的なんでしょう」
「……それは理解できるが、なぜおれにそこまでの好意を?いつから?」
「遡るとかなり前になりますかね〜自分が二年生の最後に生徒会に入ったときにカグヤさんに助けてもらった事があったから、そのときからですね」
「……どのときだ?」
「そらそうですよね、やってくれた人間は忘れてしまうものですし」
「ごめん覚えていなくて」
「いいんです、自分の大事な思い出ですから」
ユイくんは軽く微笑みながらおれのことを見つめていた。
「そういえばここに出されている茶菓子、自分のところのやつですね〜このどら焼きロングセラーなんですって」
「よく売られているのを知っているよ、売り上げ一位なんだろこのどら焼き?」
「結局挑戦ばかりにこだわった奇抜な味よりも何年も続いている安心できる味のが良いのかもしれませんね」
「でも変わり種もいいと思わないか?面白いだろ?」
「たまになら良いですけど、歳とってけばわかるんじゃないですか?やっぱりこれだな〜って」
「急におばあちゃんみたいな言い草だな……」
「時間の流れなんて早いもんなんですから、迷ってるとなにも取れなくなっちゃいますよカグヤ」
「……そんなのわかってるよ」
わかってるよそんなことは……でもおれにだってどうしようもないことだって山ほどあるのに……
「自分が言えることは反面教師なんですけど、自分に嘘はつかないでくださいね?」
自分を選んでほしいと言わんばかりにユイくんはおれを見つめている。
カオリくんと同じく、彼女にもこれからがある。
「今日はありがとうございました、また学校で逢いましょうカグヤ?」
ユイくんは言いたいことはすべて言ったと誇らしげに、立ち上がりすたすたと畳を摺り足で部屋をあとにした。
「おれはこれからどうすればいいんだ……」
***
老舗料亭〈龍飛〉
橘輝夜および三宅 佳織と枢木唯が訪れたお見合い場所のひとつ。ここでは議員などの重要人が政治的に使用しているところでもある。
◇◇◇
〈ミヤケ運送〉
三宅 佳織が跡取り娘となっている運送会社。後述の〈ましゅま〉の商品のほか、物資機材など取り扱うものは多岐に渡る。
◇◇◇
株式会社〈ましゅま〉
枢木唯が生まれた菓子メーカーのひとつ。幅広い商品があるがどら焼きがロングセラーである。