陰キャだけどアイドルはじめてGBN〈惑星〉を救う話。   作:神宮寺Re ⑦

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エリカたち三人はガンプラを広めるために活動を開始します。


第八章 -【布教活動です!】-

 

金型製作工房T3(ティースリー)

橘輝夜(タチバナ・カグヤ)が跡取りとして引き継がれる予定の代々つづくこの工房は、都内に会社を設立してから五〇年の老舗である。

 

自身の通っている高校から帰ってきたカグヤは、父親から金型製作および調整などの修繕作業の仕事を学ぶために学業の合間をぬって作業場で鉄と油が染み込んだこの場所で日々鍛錬(たんれん)を重ねていた。

 

この工房の二代目であり父親の真守(マモル)から、学校での役割と板挟みになっているのにも関わらずいつも叱責(しっせき)を受けていた。

 

「どうしていつもこんなに雑な仕事をするんだ!カグヤおまえ仕事をなんだと思ってんだ!」

 

形が歪になった金型を見て真守は怒っていた。

これではまともに継続して使用できなくなるためだ。

 

「……そう言われたっておれはまだこの仕事のことわかってないだよ!父さん!」

 

カグヤにとっては、そもそもこの仕事が何の意味を持つのかさえ理解していなかった。

 

たかだかフィギュアの金型だと思っているカグヤにとっては、こんなことをしている暇があるのなら勉学に励んでいたほうがマシだと思っていた。

 

「跡取り息子なんだから仕事くらい覚えてもらわないと困るんだよ!お客さんとの信頼を裏切るわけにはいかないのがわかないのか!」

 

そんなことを言われてもカグヤにとっては、無理やり仕事をやらされているに等しい状況に不満が沸々と募るばかりだった。

 

「……そんなのおれにわかるわけないだろ!父さんこそいつまでこんなのに縋ってんだよ!」

「こんなのとはなんだ!こんなのとは!甘ったれるのもいい加減にしろ!」

 

平手打ちをされたカグヤ。

紅く染まる左頬の痛みを抑えながら、バーナーでの加工作業に向き合っていた。

 

(……いってぇよ!ったく!おれはいったい何のために頑張ってるんだよ)

 

自身の決められたレールの上で迷子になっていたカグヤは、本当にこれでいいのかと思い悩んでいた。

 

(……こんなのやってたってなにも楽しくない)

 

自身の境遇を羨む者は学校でたくさんいた。

それに加えて生徒会長ということもあり、不用意に悩みを打ち明けられるような余裕さえもなかった。

 

できることならここから逃げたかったと言えるわけもなく、ただ流されるままにやっているだけだと。

 

そんな窮屈な毎日がすでに三年間も続いていた。

 

☆☆☆

 

いつものようにカグヤが学校に向かっていると、一人の女子に突然話しかけられる。

 

「……あれ?カグヤ生徒会長?」

「ハ、ハルナくんじゃないか?どうしたんだこんなところで」

 

学校へと向かう通学路で転校生である七夕陽那(タナダ・ハルナ)とばったり会ったカグヤ。

 

「顔色悪いですけど……?風邪でも引きました?」

「こ、これかい?別に徹夜で勉強してただけだよ?」

「そ、そうですか?ほんとうに?」

 

カグヤのことを心配そうに見つめるハルナ。

 

「ほんとだよ、君には関係ないだろう」

 

学校では生徒会長ということもあり、常に神経質になっていたカグヤはそれ以外の場所で顔を見られるのはいささか格好が悪いと思っていた。

 

「それよりハルナくんは学校にはもう慣れたのかい?」

「ええ、まぁ……エリカとアカネがいますからね、いつも騒がしいですけど」

「なら良かった、そうだ模型部のことだが」

 

カグヤはハルナにこの前に話した模型部の再興としてはじめることとして、ガンプラ体験会のことを報告する。

 

「どうなったんですか?やっぱりダメでした?」

「……先生たちと掛け合った結果、承諾されることになったよ」

「おおぉ〜!幸先いい報告ありがとうございます!エリカとアカネにも知らせなきゃですね!」

 

取り出したスマホでエリカとアカネにチャットを送るハルナ。

 

「……楽しそうだね」

「だってこういうの私のいた惑星では無かったですからね!……というか私の場合はそもそもこんな遊びしたことなかったですし」

「どういうことだい?」

「そのままの意味ですけど……?おかしいですか?」

「い、いや、そんなことあるのかと思っただけで」

「他の人と境遇が違うかもしれないことだって、相手と話してみないとわからないじゃないですか」

「それはそうかもしれないが……」

 

いつも一人で学校に向かっていたカグヤにとって、すこしだけこんな他愛もない時間が心地いいとさえ感じていた。

 

「ところでいつもベールをつけているけど、なにか意味があるのかい?」

「あぁ〜これですか?私、ここに来たときに修道院に保護してもらったんですけど……本当の姿を見せると驚かされてしまうから隠しておけって言われてて……そんな感じで」

 

ハルナがそういうと、ベールを外そうとする。

 

「別にここで取らなくてもいいだろ……」

「まぁこんなところだったら誰にも見られないですし、生徒会長になら良いですよ?悪い人じゃなさそうだし」

 

道端にある路地裏の電柱の近くに身を潜めた二人。

そういうと、ハルナがベールを外して本当の姿を晒し出す。

 

「……こりゃまたこんなことがあり得るなんてね、はははは」

「どうして笑うんですか!失礼ですね!」

「すまないすまない……ちょっとおかしくて……はははは……」

「もう!生徒会長にしかまだ見せたことないんですからね!」

 

怒った表情を見せるハルナに、口を塞ぎながら笑いを堪えるカグヤ。

ハルナの本来の姿見はキツネ耳がある姿だったのだ。

おかしいと思わないほうがおかしいことである。

それも当然だ、コスチュームくらいでしか見る機会なんてないんだから。

 

「……いつも(キツネ耳を)隠してるのにはこの理由があったんだね、納得したよ?こんなの人に見せるものじゃないね良い意味でも悪い意味でも」

「だからあんまり見せたくないんですよぉ……もう」

 

カグヤのことをチラチラ見つつも恥ずかしそうに頬を染めるハルナ。

 

「お〜!カップルかい!仲良いね〜!」

 

そこに自転車でゆっくりと通りがかった男性が冗談めかしてそんなことを言い立ち去っていく。

 

「「違いますから!」」

 

二人は反論するも、その男性は間に受けてはくれず……

 

「仲良くやるんだぞ〜!若いもんはいいなぉ〜!」

 

「は、はぁ……」

「まあまぁいいじゃないか、学校に遅刻してしまいそうだし急いで行くよハルナくん」

「私のことはハルナでいいですよ!じゃあまた学校で!」

「あぁ、学校でね」

 

走っていくハルナを見つめながらカグヤは、つづくように学校に歩いて行った。

 

☆☆☆

 

修道院〈パラオ〉。

七夕陽那がこの惑星(地球)に来てから、生きていく場所を探していた最中に目に留まった施設である。

 

そこには多くの同じような境遇で親を亡くしたことで住む場所がなくなった女性たちや子供たちが住んでおり、日々共同生活を営んでいた。

 

「……いま帰りました〜」

 

ハルナが修道院の扉を開けて、建物の中に入っていくと……

 

「おかえりなさいハルナさん」

「ただいまです〜ナナミさん」

 

帰宅したハルナを迎える子供たち。

 

「ハルナおねえちゃん!おかえり!」

「おねえちゃんが帰ってきた!」

 

子どもたちが嬉しそうにハルナを迎える。

 

「こらこら!静かに!ハルナおねえちゃんは疲れてるんだからあんまり驚かさないの!」

「えぇ〜!だって〜!だっこ〜!」

 

修道院の別のシスターであるネネが、子どもたちに注意を促す。

 

「そういえばおねえちゃんがもってるこれなに?」

 

ひとりの子どもがハルナの持っているものに興味を示した。

 

「……あ〜これ?これはガンプラって言うんだって、おねえちゃん初めて作ったんだよ〜すごいでしょ」

 

手にしたガンプラであるガンダムポータントを子供たちに見せるハルナ。

 

「すごいかっこいいね!ぼくたちも作ってみたいな!」

「わたしも!わたしも!」

「これってむずかしいの?」

 

「そんなにむずかしくないよ〜!おねえちゃんこれがはじめてだったけど楽しかったよ!……ごめんね、これ以外に持ってないから私あげること出来ないの」

「じゃあじゃあ〜お願いしてもいい〜?」

 

ひとりの男の子がお願いごとをハルナに伝えようとする。

 

「どうしたの?」

「ぼくたちもおねえちゃんと同じようにガンプラを作ってみたい!」

「じゃあ御天道様にお願いしにいかないとね〜!一緒にいこっか!」

「うん!いく!」

 

そうするとハルナは子どもたちを連れて修道院の中にある神殿へと向かった。

 

☆☆☆

 

週末となった放課後、ここは模型部(いつもの)の部室。

そこでわたしとアカネとハルナは届けれた大量の箱(ダンボール)に四苦八苦していた。

 

「なんなのこのバカみたいな量……どんだけあるのこれ……」

 

部屋いっぱいに置かれた箱を見てわたしは途方に暮れていた。

 

「そもそもこれなに?わたしたちの荷物じゃないよね?」

 

とりあえず箱を開けてみないとわからないや……

 

「やぁ、やっと届いたようだね」

「カグヤ生徒会長じゃないですか〜これなんなんですか?」

「君たちが布教活動をしたいと言ってただろう?それから問い合わせたらバ○ダイから送られてきてね、ぜひこれをと──」

 

っていうことは……つまり?

 

「わぁ〜!箱いっぱいにガンプラが入ってるよ〜!」

 

箱を開けたハルナが目を輝かせながらそう言った。

 

「……これって簡易的なエントリーモデル(体験会用)のガンダムじゃないですか!それがえっと……いくつあるアカネ?」

「んん〜と二〇箱くらい?一個に何個入ってるんだっけ?」

「たしか二十四個……だったような気がする」

 

わたしが入っているガンプラの量を計算すると、……全部で四八〇個!?多くない!?これ捌けるやつなの!?

 

「本校の全生徒数は一五〇〇人だから、それくらいはないと最低限行き渡らないからね」

「そんな大事なことになってるんですか!?あたしそんなに量が来るとは思ってもみなかったんですけど!?」

「まぁまぁ、落ち着いて君たち?一度で全部やろうとは元々想定していないからね?」

「それはそうなんでしょうけど……」

 

いや、あの、ほんとこれ無くなる量なの!?間違えるわけじゃないよね!?

 

「そのほかの準備についてはおれに任せてくれてもらっていいよ、それ以外の仕事を君たちに任せるわけにはいかないからね?それじゃああとは頼んだよ」

 

カグヤ生徒会長が手で合図をしながら去っていくのを見るわたしたち三人。

 

「なんだか大変なことになっちゃったね……?」

「そ、そ、そ、そうだね……ハルナ」

「まぁどうにでもなるでしょ!ほら!箱を移動させるよ!」

 

アカネが箱を持ちながら、空いている倉庫にガンプラが詰まったそれを移動させていく。

 

こんな量がくるなんて考えてなかったよぉ〜!てっきり大きい箱一個くらいだと思ってたのに〜!どうしてこうなっちゃったんだよぉ〜!……ってわたしが言いはじめたことか、なにが起こるかわかんないやもう!

 

「ほら!二人とも立ち尽くしてないで運ぶ!ハルナ!エリカ!」

「「はぁぁぁぁぁ〜い」」

 

そうしてこの日の放課後は大箱を倉庫にしまうだけで模型部としての活動はあまり進めることができなかった。

 

「……あぁぁぁ〜!もう!GBNやりたぁ〜いよぉ!」

 

そういえばあれ以来、GBNをプレイしていないことに気づいたわたし。

 

アイドル活動もなにも、まったく出来てないじゃん!

タイトル詐欺もいいとこだよ!こんな体たらくで話進められてないじゃん!どうなってんだよ!

 

……って言ったところでなにも変わらないんですけど。

 

(まあまぁ今日は出来なくてもGBNやれる日はあるし)

(これからどうする?どっか遊びに行く?)

(疲れたから寝たいんだけど……だめ?)

(ラーメン食べたいラーメン!)

(作りかけのザク(ポケ戦の)がまだ完成してないじゃん!)

 

こんなときにばかり出てくるな!イマジナリーフレンドエリちゃんたち!すこしは静かにしてよ!……ってわたしのことですね、毎度すみませんうるさくて。

 

***

 





金型製作工房T3
橘輝夜が跡取りになっている都内にあるフィギュア制作会社。
創業五〇年を超えており、たくさんのユーザーに愛されている。

***

修道院〈パラオ〉
ハルナが地球にきた時に保護してもらった施設。身寄りのない子供達や女性が住んでいる。
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