借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~   作:わんた

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(誠視点)渋谷ダンジョン緊急閉鎖

 渋谷ダンジョンでドラゴンに襲われたと、探索者ギルドへ報告したが、本気では信じてもらえなかった。しかし虚言とまでは断定されず、4級探索者の数名が調査隊として派遣され……数日待っても戻ることはなかった。

 

 調査隊の生還を待っている間にも、未帰還の探索者が多数発生して、ドラゴンの目撃証言も増えていく。

 

 ここまで来てようやく、ギルド上層部も俺の言葉が真実だと理解してくれたようだ。

 

 失われた命は数十名にも到達し、5級の駆け出しだけでなく3級のベテランまでも死亡している。

 

 責任の押し付け合いになった探索者ギルドは、被害拡大を防止するため、渋谷ダンジョンへの立ち入りは禁止にした。

 

 今までに一度もなかった例外的な対応である。

 

 それほど、ドラゴンというのは恐るべき魔物なのだ。

 

 後は探索者ギルドが、1級の探索者を中心に討伐部隊を編成するのを待つだけ。そう思っていたのだが、第一発見者であり、数少ない生存者の俺に強制依頼が舞い込んでしまった。

 

「ドラゴンを見つけてほしいだって?」

「討伐隊を派遣する前に、位置情報を把握する必要があると判断されたようです」

 

 探索者ギルドの受付は、申し訳なさそうな顔をしながらも譲らないといった態度をとっている。

 

 断れば免許の剥奪になるだろう。

 

「だとさ。どうする?」

 

 仲間の顔を見る。特大でかつ厄介な依頼となるので、意見を聞きたかったのだ。

 

「私は受けた方がいいと思うわ」

「僕もだ。強制依頼は断れないよ」

 

 常識的な発言をしたのは圭子と光輝だ。

 

 一方の信也は難しい顔をして黙っていた。前回のブレスで下半身が吹き飛び、死にかけたのだから無理もない。一人だけ降りると言ってもおかしくはないと思う。

 

「この前の回復ポーションが使えるなら参加する。誠、その辺はどうなんだ?」

「依頼を受けた後、買いに行って補充する予定だ」

「なら受ける」

 

 エリクサーとも呼べる回復ポーションがあれば、即死さえしなければ生き残れる。

 

 信也は分の悪い賭けじゃないと判断してくれたようだ。

 

「話はまとまったようですね。ドラゴンを見つけたら、この発信器を付けて下さい」

 

 探索者ギルドの受付から渡されたのは、小指の爪ぐらいの小さな黒い機械だった。対象に付着させるとごく微量の魔力を吸い取って、電波らしきものを発するようになるらしい。

 

 対になる機械もあって、レーダーのようにおおよその位置が表示される。

 

 これらは錬金術と鍛冶スキルの両方を使った高度な物で、非常に高価らしい。

 

「使い方は?」

「対象が発する魔力によって自動で吸い付いて位置情報を発信するので、ドラゴンの鱗に付けて下さい。それ以外のことは不要です」

「実に簡単で分かり易い。接近の難易度を考えなければ、素晴らしい機械だな」

 

 軽く嫌みを言ってみたが、探索者ギルドの受付の態度は変わらない。

 

 この程度じゃ動じないか。よく訓練されている。

 

 機械を受け取って受付に背を向ける。

 

「ご武運を祈っております」

 

 一応は本気で思ってくれているだろう、言葉を受け取り、外へ出る。

 

 食料品の買い出しを仲間に任せて、俺は裕真から回復ポーション10個と対冷気ポーション4個を購入した。

 

 前回買った分を合わせれば、ドラゴンと対峙しても全員は生き残れるだろう。

 

 

 

 必要な道具は手に入ったので、仲間と合流して渋谷ダンジョンに入った。

 

 普段は人の多い入り口に誰もいない。不気味な静けさが支配している。

 

 不安に思ったのか圭子が俺の腕を掴んだが、誰も茶化すようなことはしない。気持ちは似たり寄ったりってことなんだろう。

 

「先行は信也だ。今回は10メートルほど距離を取って光輝、圭子、俺の順で進む。異論はあるか?」

 

 いつもと違う隊列だったが、誰も否定しなかった。

 

 危険な役目を担う信也に、買ったばかりの対冷気ポーションを1本渡す。

 

「先ずは地下10階まで行って調査する。ドラゴンを見つけたら躊躇(ちゅうちょ)せず飲め。ブレスを防げるはずだ」

「対冷気ポーションにそんな効果あったか?」

「あの回復ポーションを作った錬金術師から買った。そのぐらいは期待できる」

「この世で最も頼りになるお守りだな」

 

 さきほどよりも緊張感が薄れているように見えた。

 

 少しは安心してくれたのだろう。

 

 他の仲間にも各種ポーションを配って、俺たちは出発した。

 

 地下1階は変化がない。出現する魔物もいつも通りだ。信也は盾を振り回しながら道を作っていく。

 

 出会ったときは地下10階だった。浅い階層には上ってきてないのだろう。というか、階層を移動する魔物なんていないというのが通説だったので、そうあるべきなのだ。

 

 慎重に進みながら、俺たちは地下10階まで到達した。

 

 肌がピリピリするほどの魔力を感じる。通路を歩いても魔物の姿はない。目に見える変化があり、誰もがドラゴンはいると確信する。

 

「各自、お守りのポーションをすぐに使えるよう準備しておけ。魔力が濃い方へ行くぞ」

 

 気持ちを引き締め直し、ダンジョンの奥へ歩いて行く。

 

 どうやらドラゴンは出会ったときと同じ場所にいるらしく、休憩所へ向かっている。

 

 魔物は殺されたのか、それとも逃げ出したのかわからないが、途中で出会うことがないのは運が良かった。

 

 一時間ほどで目的地に到着する。

 

 先行している信也が片手を挙げたので、俺たちは立ち止まった。

 

 このサインはドラゴンを発見したという合図だ。

 

 信也が戻ってくれば発見されていないことになるのだが、対冷気ポーションの瓶を取り出して飲んだということは、見つかってしまったのだろう。

 

「ブレスが来る!」

 

 大盾を床に付けて【鉄壁】のスキルが発動するのと同時に、下半身を吹き飛ばしたブレスが信也を襲った。

 

 お守りは役目を果たしてくれたようで、体どころか大盾も凍りついていない。無事だ。俺が狙っていたとおり、これもまた上級以上の効果であったのだ。

 

 これなら【鉄壁】のスキルなしでも防ぎ切れただろう。

 

「光輝、行くぞ!」

 

 俺も対冷気ポーションを飲み干すと、走り出して信也を追い越し、休憩所の中に入る。

 

 ブレスを吐き終わったドラゴンがいた。口を開いていて動きは止まっている。

 

 隙だらけだ。今なら一発は入れられるぞ。

 

 ここで俺は探索者として、やり返してやりたいと思ってしまった。くだらないプライドではあるが、大事にしていることでもある。きっと光輝も同じ気持ちだろう。

 

 俺は【破拳】のスキルを発動させる。肘まで伸びている白い手甲が光った。

 

 ドラゴンの間抜けな横っ面を思いっきり殴ると、鱗が砕けて横に飛ぶ。さらに光輝がバトルアックスを振り下ろして、刃を肉に叩きつけた。

 

「グォォォォォォオオ――――ッ!!」

 

 ドラゴンでも痛みは感じるようだ。叫びながら憎しみの籠もった目で俺を睨みつけている。

 

 また口を開いてブレスを吐こうとしているが、横から信也が飛び出してスパイクの付いた大盾を叩きつける。

 

 鱗は破壊できなかったが、俺が砕いた部分の肉はグチャグチャになっている。

 

「ざまーみろ!」

 

 中指を立てて叫んだ光輝に、ドラゴンの爪が当たった。右腕が吹き飛んで、体も半ばまで切り裂かれた。

 

「私が回復させるわ!」

 

 裕真の回復ポーションがあれば、あれも軽傷のうちに入る。

 

 仲間に気を取られている隙にブレスを吐かれた。視界が真っ白になるが冷たくはない。ブレスの勢いすら感じないのは、対冷気ポーションのおかげだろう。

 

 うん。おかしい。

 

 対冷気ポーションのレベルを超えている。冷気無効といった名前の方が相応しいだろう。

 

 錬成したポーションの品質について、裕真本人は気づいていないだろう。

 

 他の探索者に知られたくないため宣伝はしないが、機会があれば友人として軽く助言はしておくか。

 

 ブレスの中を優雅に歩きながら首元に発信器を取り付けて、さらに【破拳】スキルで殴りつける。ブレスが強制的に止められて、ドラゴンが咳き込んだ。

 

「任務完了! 撤退だ!」

 

 十分やり返した。探索者としてのプライドは満足している。

 

 砕けた鱗の一部を拾ってから、ドラゴンが本気を出す前に俺たちは脱兎のごとく逃げる。

 

 その中に光輝の姿もあった。回復ポーションのおかげで体は元に戻っている。

 

「回復ポーションすげーーーーっ!」

 

 テンションが上がっているようで、光輝が笑いながら叫んでいた。

 

「本当ね。意味わからないわ!」

「対冷気ポーションだっておかしいぜ!」

 

 圭子も信也も笑っている。俺もつられて口角が上がった。

 

 単体のパーティーであれば全滅するしかないドラゴン相手に、二度も遭遇してリベンジまで果たしたのだ。

 

 気分は最高である。

 

 俺たちは無事に渋谷ダンジョンを脱出して、探索者ギルドに胸を張って任務完了の報告ができた。

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