借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~   作:わんた

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ノンデリカシーな男

「いつ出発するの?」

「明日の8時だ」

「急だね。何かあったのかな」

「原因は不明だが急に動き出して、地下10階から上がってきているんだ。今は地下2階にいる」

 

 階層を移動する魔物がいるってのですらイレギュラーなのに、ドラゴンは地上へ向かっているのか。

 

 人間を狙っている?

 

 だったら、さっさと地上に出なかったのはおかしい。別の狙いがあるのかな。

 

 情報が足りない中で考えても答えは出ないし、俺の仕事じゃない。

 

 原因の調査は頭のいい人たちに任せよう。

 

「それで急に予定が決まって、明日になったんだね。すぐに準備をするよ」

「後方支援部隊に参加する錬金術師は裕真しかいないから、遅れるなよ」

「え? 他にいないの?」

 

 探索者ギルドに恩を売るチャンスだから、こぞって参加すると思ったんだけど。俺の予想は外れていたみたい。仕事で忙しいのかな。

 

「ドラゴン討伐の成功率は高くない。危険な仕事に参加したがる錬金術師なんて裕真ぐらいだ。他のヤツらは生け贄になってくれてありがとう、なんて言ってたぞ」

 

 不満そうにしているユミを落ち着かせようとして肩に手を乗せ、大丈夫だよとアイコンタクトを送った。

 

 他人に何を言われようが、俺は気にしないからね。

 

 ただユミは違うので、一言ぐらいは反撃しておくか。

 

「その人たちには、金稼ぎのチャンスを譲ってくれてありがとうとでも言っておいて」

「ふはははっ! 確かにな! 間違いなく伝えておいてやる!」

 

 これでユミの不満は少しぐらい解消されたことだろう。

 

「それじゃこっちも準備は忙しいから、詳細は当日な! ポーションを忘れるなよ!」

「うん。またね」

 

 通話終了ボタンをタップして、スマホをユミに返した。

 

「ということで、ばーちゃん出かけてくる」

「気をつけるんだよ」

「はーい」

 

 ドラゴン討伐に参加するとは思えないほど、別れの挨拶は簡単だった。

 

 俺とユミはバスに乗るため家を出て歩く。

 

 ん?

 

 後ろに気配を感じたので振り返ると、ばーちゃんがいた。

 

「見送りはいらないよ?」

「何を言っているんだ。わしも付いていく」

「ええ!?」

 

 俺の師匠になった時から、家を出ることはなかった。

 

 錬金術ギルドから講師の要望があっても無視したぐらいの出不精だったのに、どうして今回は渋谷へ行く気になったんだろう。

 

「もしかしてダンジョンの中にも行くつもり?」

「あと20歳若ければしただろうが、わしが行っても足手まといになるだけじゃ。知晴の小僧を見に行くよ」

 

 よかった。ドラゴン討伐まで見学すると言われたら、困っていたところだ。

 

 話しているとタクシーが俺たちの前に止まった。

 

 ばーちゃんは何も言わずに乗ったので、配車したんだろう。

 

「マスター、どうします?」

「一緒に乗るしかないよね」

 

 俺がダメといっても、ばーちゃんは一人で行ってしまうはずだ。

 

 だったら無駄なことはせず、タクシーに乗って楽をさせてもらおう。代金は、ばーちゃん持ちだから節約もできるしね。

 

 * * *

 

 タクシーに乗って渋谷の家に着くと、ばーちゃんと一緒に一晩を過ごして、翌日に探索者ギルド前へ移動した。

 

 中に入ると1階の受付付近に数十名の探索者が集まっている。知り合いを探してみると、端の方に誠の姿を発見した。

 

 人をかき分けて近寄ると声をかける。

 

「やあ、誠も参加するの?」

「後方支援部隊の護衛としてな」

 

 話を聞いてみると、発信器を取り付けた功績があるから討伐への直接的な参加は逃れたらしい。

 

 ただ探索者ギルドは、生還者を遊ばせることはしたくなかったみたいで、護衛という仕事を振られたとのこと。

 

 現場にいれば戦闘に参加するだろうと見込んで、依頼を出したんじゃないかな。

 

「3度も対峙しなくて良かったね」

「本当はダンジョンにすら入りたくはないんだが、さすがにその要望は通らなかった」

 

 俺がギルドの人間でも同じ判断をするよ。

 

 大金を払ってでも強制的に参加させる。

 

 個人の意思が無視されるなんて、嫌な世の中だね。

 

「裕真も後方支援できたのか?」

「うん。死にかけの探索者に、回復ポーションを売りつける仕事をするために来たよ」

 

 目の前にいる誠が焦った顔をして、周囲の探索者が殺気立った。

 

 手持ちの回復ポーションも使い切って死にそうになった時、俺の出番になる話なのは間違いないのに、どうしてみんなの雰囲気が変わったんだろう。

 

 俺、何かやっちゃった?

 

「マスター、そういった発言は誰もいないところで……」

「そうなの? でも事実じゃん」

「ええ、まあ、そうなんですけど」

 

 歯切れの悪いユミは、ちらちらと周囲を見ている。

 

 突き刺さるような探索者の視線は俺に集まったままだ。ドラゴン討伐前だというのに雰囲気が悪いなぁ。

 

 ジョークの一つでも飛ばして、空気を変えてみよう。

 

「マスター、何を考えているか分かりませんが、余計なことはしないでください」

「え? うん。わかったよ」

 

 何かを言う前に止められてしまったので、俺は黙ることにした。

 

 探索者の視線を無視していると、大柄な男が近づいてくる。顔には切り傷があって、デカいハンマーを肩に乗せている。堅気には見えない風貌だ。

 

「お前、不吉なことを言いやがって。俺たちを舐めてるのか?」

「そんなことないよ」

 

 まさか探索者は縁起を気にするなんて、思ってもみなかった。

 

 悪意なんて無かったので否定したんだけど、目の前の男は納得していないみたいだ。

 

「だったらさっきの発言は取り消してくれないか。俺たちは全員、無傷で生還するッ」

 

 縁起を気にしていると思っていたら、俺の勘違いだったらしい。

 

 どうやら目の前にいる探索者は現実を知らないみたいだ。

 

 気概は買うけど、無傷ってのは現実的じゃないよ。

 

 今回の依頼を甘く見ている。

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